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赤い駿馬に跨った偉丈夫が春の野を駆ける。 風になびく見事な美髯に見覚えのある者なら、この漢の名も知っていただろう。 関雲長――三義兄弟の次兄にして、軍神と称された稀代の武人。 曹操の元を去り、赤兎を駆る関羽の心は晴れやかだった。 離れ離れだった義兄弟にようやく会える、それだけで長い旅路の労苦も吹き飛ぶ思いだった。 やがて約束の地点に人影が見えた。 義弟の張翼徳、そして――
「雲長!!」
懐かしい声が関羽の字を呼ぶ。 まぎれもない義姉――劉玄徳であった。 穏やかな風貌に匂う気品、優しい眼差しに潜む凛とした光。 半年振りに見る姿は別れる以前と少しも変わらなかった。 普段は男のなりをして戦場に立ち、人前では兄者と呼ばれてこそいるが 徳の将軍・劉備が本当は女だという事は、初めて会った時からの三人だけの秘密だった。 関羽は赤兎から降り、跪いて臣下の礼をとった。
「遅くなり申した、姉者」 「よく……帰って来た」 「姉者も……翼徳、心配をかけたな」 「それは姉者に言ってやってくれよ!袁紹の所じゃ毎日泣き暮らしてたらしいぜ」 「翼徳!私はそんな軟弱者ではないぞ!」 「寂しい思いをさせて済みませぬ、姉者」 「もう!!雲長まで……」
大真面目に謝る関羽に膨れる義姉を見て、張飛は堪えきれず吹き出した。 それが二人にも移り、再会の喜びと共に三人は笑いあった。 やがて義弟に促され、劉備達は張飛が根城とする城ヘ向かった。 こうして再び三義兄弟は集結した。
月が昇る。 冴え冴えと白い光に照らされ、劉備は牀から体を起こした。 どうやら酒宴で酔って寝室に運び込まれたようだ……とまだ火照った頬に手を当てて思い出す。 あまり酒に強くない体質は厄介だな、と溜息をついた。 傍の水差しで喉を潤し、乱れた髪を直そうと手をやる。 戸口の所でみし、と足音がして振り向くと、義弟の大きな影があった。
「雲長、お前が寝かせてくれたのか……」 「起きてしまいましたか。済みませぬ」 「雲長は寝ないのか? もう遅いし酒宴もお開きだろう」 「何故か今宵に限って眠れませぬ。今だ気が高揚しているのでしょうな」
関羽の心境は曹操軍にいた時のそれとは明らかに異なっていた。 曹操の元で降将として過ごしていた時は、敵将を討ち取っても厚遇を受けても 心が浮き立つような事はなく、空しく日々を送っていた。 軍神と讃えられようとも、仕えるべき主を失くした自分はあまりにも無力だと思った。 自分の半身たる義姉弟に再び会える日だけを心待ちに生きていたのだ。 今は違う。後から後から力が湧いてきて、どんな事でも出来そうな気がする。 長い旅路を終えたばかりというのに、全身に漲る気力を持て余しとても眠れそうにない程だった。 雲長は元気だな、と義姉は笑い、出し抜けにぽつりと口にした。
「おまえが帰ってきてくれて……本当に良かった」
耳の前に垂らした髪が夜風にふわりと揺れた。 平服の袂から覗く首筋に一瞬目を奪われ、気付かれなかったろうか、と関羽は懸念した。
「実はな、曹操に降ったと知った時、雲長は私を見限ったのではないかと思ったのだ」 「姉者!拙者はそのような事は――」 「分かっている。私のために我を曲げてそうしたのだろう? ……ただ、こんな私などよりは曹操に仕えた方が余程幸せだろうと…… そう思って、一瞬でもお前の心を疑ってしまった……済まない……」
俯いた劉備の膝に雫が落ちる。 義弟を見捨て、曹操軍から逃げる事しか出来なかった無念を思い出し 劉備は細い肩を震わせて泣いていた。 戦に負けた事は何度もあるが、これほどまでに手痛い敗北は初めてだった。 傷を負い、城や土地を取られるならまだしも、命と同じ位に大切な義弟を失いかけたのだ。 あの二人が滅多な事で死ぬわけがない――そうも思っていたが、 関羽の方は自害か刺し違えるかという極限の状況にまで置かれていたのだ。 張遼の説得によって曹操に降り、他の将と変わらず厚遇されたと聞いて そのまま関羽が戻らなかったらと思うと、劉備は恐ろしくて情けなくて仕方がなかった。 人一倍信義に篤い関羽がそんな事をするはずがないと、分かっていたというのに。 武に長じず、知略に疎い自分にはただ義弟を信じる事しか出来ないというのに――
「姉者」
あまりに頼りなげな様子に、関羽はつい義姉の手を取っていた。 広い胸に抱き寄せられ、その温かさに劉備の目に一層涙が滲む。
「もう、そのような事は申して下さるな……拙者は確かに、曹操殿より厚恩を受け申したが 姉者と翼徳に再会できた事に比べれば、何でもありませぬ」 「雲長……」 「これからも、この関雲長を信頼して頂けるか? 姉者」
劉備は頷き、私は馬鹿だな、と泣き笑いの表情で言った。
「お前も、翼徳も……こんなに頼もしい義弟がいるのに、一人ぼっちだと思い込んでいた。 その上これほどの忠義者に恩賞一つやらないなど、罰が当たるな」
涙に濡れ、吸い込まれそうに黒々と光る瞳に見上げられる。 半年振りの再会と、腕の中の温もりが関羽の中の何かを呼び起こした。 生涯明かすまいと秘めた想いを口にしてしまうほどに。 関羽は劉備から体を離し、牀の傍の床に膝をついた。
「……では姉者、恩賞の代わりに一度だけ拙者の我侭を聞いて下さるか?」 「何だ? 私に出来る事なら何でも……」 「一夜だけ……一夜だけ、姉者、いや玄徳殿を……所望致したい」
一夜だけで良かった。それ以上の事を望むつもりなど毛頭なかった。 劉備の仁徳は民や臣下を広く愛するもの。 誰か一人にのみ寵愛を注ぎ色恋に溺れるようでは、それはもう自分が慕う義姉ではない。 いささか身勝手だと思ったが、もう止められなかった。 劉備は義弟の言葉に首を傾げたが、やがて言わんとする事を理解し頬が染まる。
「それはつまり、私と……お前が、」 「左様、身の程知らずな願いでござるが」 「ほ、他の美女とかそういうのではないのか?」 「姉者が良いのです」 「どうして……私なのだ?」 「拙者にとって――お慕いする姉者は金銀や美女や名誉よりもなお勝るもの。 どうか、姉者を恩賞として拙者に下され」
義弟の真剣そのものの眼差しに射すくめられ、劉備はたじろいだ。 もし断ればその場で自刃しかねないとさえ思った。 第一このような恩賞など聞いた事もないし、しかも義姉弟の間柄で…… しかし一方、欲しいと乞われて満更でもない気分になっているのに気付いた。 自分をずっと支え、思い続けてくれた男。 それが、あらゆるものと引き換えにしても自分を求めてくれている。 義姉や主君ではなく、一人の女としての心情を振り切るように劉備は牀から立ち上がった。
「止せ。自惚れてしまう」
関羽の前に屈んでその手を取り、顔を上げてくれ、と言う。 夜目にも分かるほど紅潮した恥じらいの表情は、寝起きで乱れた髪と相まって大層艶かしい。 危なっかしい事に本人はその事をまるで意識していないのだ。 触れている劉備の手は、その細さとは裏腹に熱かった。 将として剣を取る事もあるが、鍛えても繊細な作りの指はやはり女のものだと関羽は思った。
「私は……お前に吊り合うほどの者とは思えないが、それでもいいのか?」 「……では、姉者」 「一夜だけ、だぞ」 「……承知致した」
失礼いたす、と前置きして関羽は劉備を軽々と抱き上げ、牀に下ろした。 その腕の力強さに胸が高鳴る。さっき触れられた時は平気だったのに、不思議だった。 義姉らしく毅然としなくては、と思うがなぜか落ち着かず浮付いた気分だった。
「――明日にはただの夢であったと思い、忘れてくだされ」
劉備は何も答えず、代わりに思いを込めて口付けた。忠臣へのせめてもの感謝の証に。 触れるだけのものだったが、義弟は棗色の頬をますます赤くして硬直していた。 その様子がおかしくて、劉備は思わず笑ってしまった。
「あははは……とてもあんな大胆な事を言った男には見えないな」 「……何を申されますか姉者、お戯れを」 「はは、雲長は可愛い所があるのだな」
こんな髯の偉丈夫を可愛いなどと評する者は、天下広しと言えどもこの義姉くらいだろう。 かないませんな、と関羽は苦笑しながら劉備の夜着に手をかけようとした。 途端、驚いたように劉備が身を引く。
「如何された」 「――ああ、そうか……夜着を脱がすのか」 「……はい」 「お前にされるのは恥ずかしいから……むこうを向いていてくれるか? 自分で脱ぐ……」
関羽は気まずいような面映いような気分で、するすると控えめな衣擦れの音を聞いていた。 もういいぞ、とやや上擦った声に振り向くと、生まれたままの姿の劉備がいた。 月の光に縁取られた肢体に目を奪われる。 腕や脚はほどよく引き締まっているが、胸や腰は思いのほか豊かで成熟した女のそれであった。 そのくせ、長い睫毛を伏せて唇を結んだ恥じらいの表情は十と幾つの乙女のようで 普段男として振舞っているのが信じられないほどだった。 燃えるような眼に見つめられ、耐えられなくなった劉備が眼をつぶると口付けが降って来た。 そのまま抱き寄せられてそっと体重をかけられ、細い背が絹の海に沈む。
男にこうして触れられるのは初めてではなかった。 何も知らなかった劉備の体を開き、艶事を教えたのは曹操だった。 ――私はあの男を愛していたのだろうか?―― 不倶戴天の敵同士となった今、考えても仕方のない事だったが それでも一瞬だけ曹操の面影が頭をよぎり、あわてて打ち消す。 劉備は体の力を抜き、義弟の優しい手に全てを任せた。 首筋に口付けると自慢の長髯が黒い滝のように胸元に落ち、肌をくすぐった。 劉備の指がその一房を捉え、上等の絹のような手触りを楽しむ。
「お前の髯は本当に美しいな。私の髪よりずっと綺麗だ」 「そのような事……」
姉者の方がよほど美しい、と関羽は呟いた。 曹操の元で宮廷の美姫は何人も見たが、その誰よりも男装の義姉は美しいと思う。 花園で愛でられる花ではなく、乱世の荒野に逞しく咲く花。 それに惹かれ、散らさぬために今日まで戦い抜いてきたのだ。 いつもは甲冑と戦袍の下に隠された柔肌に初めて触れ、血潮の熱さを知る。 触れるか触れないかの遠慮がちな唇とは裏腹に、その無骨な手は雄弁で 女体の作りを心得ているように的確な働きをした。 桃の蕾のような先端に触れられ、 たおやかな体を慈しむような口付けと愛撫の動きにつれ、美髯が肌の上を這い、撫で回す。 意識しての事ではないだけに一層感じてしまい、劉備は声を出すのをやっとの事で堪えたが 唇から漏れる熱い吐息は抑えようもなかった。
義姉は恥じらいはしていても、快楽に戸惑っている様子はなかった。 頬を染め、眉を寄せながら心地良さそうに愛撫を受け入れている。 関羽はその反応に生娘ではないと感じたが、詮索するような事ではないと思った。 ふと劉備が自分の胸元を見ると、桃の花弁を思わす口付けの跡は一つも付いてはいなかった。 跡を付けまいとしているのか、と気付く。 (曹操は面白がってたくさん付けてきたのに……) 義姉であり主君である自分に気を使っているのだと分かっていても その慎ましさが何だか愛しく思え、義弟の頭を自分の胸に押し付けるようにして抱きかかえた。 関羽はされるがままに温かな胸に顔を埋め、小さな鼓動を聞いた。
「……苦しいですぞ」 「すまない」
そう言うものの一向にやめる気配はなく、関羽はついに窒息しそうになったので 自由な両手で力任せに劉備の脚を広げた。
「ひゃ……」 「拙者を殺すおつもりか」
露わになった秘処を隠そうと劉備があわてて腕を解いたので 関羽はようやく魅力的な束縛から逃れられた。 やや強引に脚の間に腰を割り込ませ、閉じられないようにする。
「あ、や……そこ、駄目……」
聞こえない振りをして、劉備の最も女らしい箇所を探った。 蜜が溢れるそこを指で割られて思わず体が強張ったが、関羽は決してその事を揶揄したりせず あらゆる部分に触れたいとでも言うような丹念さで襞や蕾を弄る。 灼け付くようなもどかしさに、劉備はもう欲しいと懇願したいほどだったが 義弟にそんな事をせがむのはどうしても出来ず、唇を手で押さえてただ堪えていた。
やがて関羽は体を起こし、準備の整った劉備を自分の膝の上に導いた。 向かい合って抱き合うその仕方は知ってはいたが、お互いの表情が見えてしまうのを 少し恥ずかしく思いながら劉備は関羽の膝を跨いだ。 ちょうど股間を見下ろす形になり、猛ったものをちらちらと見ては目をそらす。 体格に見合った逞しいそれは反り返るほど精気に溢れ、龍を思わせた。
(なんだか、いかにも雲長のって感じがする)
そう思っている間に、切っ先が秘処に押し当てられた。 圧迫感に思わず体が強張ったが、長く息を吐いて力を抜く事に努めた。 交合自体久し振りで受け入れられるか心配だったが、丁寧に慣らされた秘処は思った以上に柔軟で 少しの抵抗と共に一番太い部分を通すと、後は劉備自身の重みで埋め込まれていった。
(あ……入ってしまう……)
自分の奥底が関羽を待っていたように震えているのを感じる。 互いの息遣いや鼓動さえも感じられるほどに、二人はぴったりと体を密着させた。 関羽は義姉の上気した柔肌を、劉備は義弟の引き締まった赤銅の肌だけを感じ 恥ずかしさも忘れて見詰め合う。 軽く上下に揺さぶられ、劉備は息を詰めて広い肩にしがみついた。 ひとつになった箇所から淫らな音が立ち、二人の情動を煽る。
「……ないで」
劉備が弾む息の下で切れ切れに言った。
「もう、どこにも、行かないで」 「姉者」
今にも泣き出しそうな眼差しで関羽を見上げてくる。 その切ない表情に堪らなくなり、華奢な体が壊れるほどに強く抱き締めた。 何度も繰り返し心の中で呼び続けた愛しい字を囁く。
「拙者はここにおります、玄徳殿――」
雲長、と呼ぼうとしたがそれは叶わなかった。 言葉を遮るように激しく突き上げられ、ただの意味のない嬌声になる。 そうかと思えば大きな手に尻を持ち上げられ、ゆっくりと胎内から男根を抜かれる。 雁首で引っ掛かって留まっている状態が物足りなく、劉備は残念そうな表情をした。 官能に酔った瞳も、甘く熟れた唇も、体の中までも今だけは関羽ひとりのものだった。 今だけでも、不安な事など何一つ考えられないほどに溺れさせたかった。 再び其処を突き刺すようにゆっくり挿入すると、男根を引き込むように中が蠢く。 この方も欲しがっているのだと分かり、嬉しかった。 何度も腰を突き込み、温かくぬめった粘膜を味わう。 優しくも容赦のない責めに悶えながら、劉備は必死に自分を抑えようとする。 こんなに浅ましく乱れた様を義弟に見られていると思っただけで、死んでしまいそうだった。 乱れれば乱れるほど、軽蔑されるどころか愛しく思われるとは気付きもせずに。 程無く理性の牙城は崩れ、すぐに何も分からなくなる。 せめてもの抵抗のように、律動の度に逞しい肩や背中に爪を立てた。 ただ全身でお互いの存在を感じ、相手のより深い所に触れたいと願う。
「雲長、わたし……っあぁ……!!」 「玄徳殿……!!」
猛攻に耐え切れず、劉備の方が先に気をやった。 無意識に精を搾ろうと締め付けてくる。 関羽は子種を中に残すつもりはなかった。 放つ寸前でずるり、と胎内から引き抜き、なめらかな下腹に精をぶちまけた。 劉備は絶頂の余韻に震えながらも、肌をつたう雫の命そのもののような温かさを感じていた。
白くなり始めた空を窓から仰ぎ見て、関羽はもう夜明けが近い事を知った。 一睡もしていなかったのに、随分と長い夢を見ていたようだった。 だが、どんなに幸せなものでも夢は夢。忘れなければならない。 夜が明ければ今まで通り、この方のために尽くす義弟に戻るのだ。 そう自分に言い聞かせ、関羽は眠る義姉に囁いた。
「姉者、お慕いしております……」
主君を残し、ひとり寝室を出て行く関羽は知らない。 劉備が眠った振りをして、その言葉を耳にしていた事を関羽は知らない。 二人はこの夜の事を、生涯忘れ得ぬ夢として秘したまま生きる。 いつか天命尽きるその時まで。
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