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「あたしたち、孫策さまと周瑜さまに嫁ぐね!」 「私たちのこと、幸せにしてくださいね」
激闘の末、小覇王と美周郎は江東の花と謳われる二喬を遂に我がものとした。 ここに辿り着くまでに試練と称して兵や虎をけしかけられ、智勇を振るってそれを突破した。 日頃忠実な臣下であるはずの呉将達まで襲ってきたのには驚いたが そこは何かにつけて祭り好きな気性の江東人。 二喬に辿り着くまでの試練も皆が共謀してのことだったと打ち明けられ 打ち身や擦り傷だらけになりながらも四人は空を仰いで笑った。 広大な庭園の真ん中にはすでに祝宴の準備が出来ていた。 孫権や尚香がこちらに手を振っている。 太史慈、周泰、蒋欽、韓当、程普、黄蓋や魯粛に二張といった臣下達の姿もある。
「おお、若殿!よくぞ試練を越えられました!!」 「孫策殿、周瑜殿、皆待っておりますぞー! 早くこちらへ!」 「……めでたい……」 「おめでとうございます兄上、まずは一献!」
臣下達から杯責めにされる二人の前に、牡丹の刺繍も鮮やかな花嫁衣裳を纏った二喬が現れた。 華の二喬の呼び名に相応しい華麗な出で立ちに誰もが目を奪われる。 孫策が近づいて緋色の衣の大喬を抱き上げた。
「きゃあ!」 「これから宜しくな、大喬!!」
恥じらいながらも孫策の眼をまっすぐに見つめ頷く大喬。 桃色の衣の小喬は長い裾を踏みつけそうになりながらも周瑜に駆け寄り、 無邪気な笑みで郎君の手を取った。
「周瑜さま!二人でいっぱいいっぱい幸せになろうね!」 「きっと幸せにしてみせる、私の小喬……」
早くも仲睦まじい様を見せ付ける二組の夫婦の姿にどっと歓声が沸く。
「幸せになー!!」 「孫呉万歳!!」
花吹雪の中、笑顔と共に酌み交わされる祝杯。 賑やかな宴は夜半まで続いた。
*****
大喬は牀の上で小さな胸をどきどきさせていた。 寝室には香が焚かれ、湯浴みした肌は絹の夜着に包まれている。 新婚初夜の準備を整えて愛しい夫を待っているのであった。 なにぶん房事など生まれて初めての事であり、しかも相手は小覇王と呼ばれる漢なのだから 齢十七の乙女にとってはそれはもう一大事だった。 そうこうしているうちに孫策が寝室にやって来た。
「いよぅ大喬、待ったか?」 「い、いえ……全然……」
平服の孫策様もとってもお素敵…と見とれる大喬だったが 孫策が牀の隣に腰掛けるとはっとして体を強張らせた。 房事の事なんて全然分からないし、つまらない娘だって思われたらどうしましょう? もし怖くて途中で泣いてしまって、孫策様を困らせてしまったらどうしましょう? 大喬は不安で不安で仕方なく、何もかもが心配でたまらなかったが やがて覚悟を決め、自分の全てを良人に任せる事にした。
(そうだわ!何を今更躊躇っているの……気を揉んだ所でどうなるものでもないわ……!)
「……その……やさしく、するからよ」 「………………はい」
身の置き所がないほどに恥ずかしかったが、それ以上に愛しい人を受け入れたい想いが勝っていた。 大喬の返事は消え入りそうに小さかったが、孫策の耳には確かに届いていた。 熱い掌に肩を引き寄せられ、心臓の音が聞こえるほどに体が密着する。 髪を撫でられながらだんだんお互いの顔が近くなる。大喬は微かに震えながら瞼を閉じた。 頬と頬が触れ合い、そして唇がゆっくりと重なる。触れては離れるごく軽い口付け。 慣れた者にとっては焦れったいだろうが、男の手も握った事が無いほど純情な大喬には 今にも心臓が爆発しそうに思えた。 でも、もっとこの人の事を知りたい。もっとこの人に触れられていたい。 幼妻の切なげな視線に胸を射られ、孫策は誰にも渡さぬとばかりに大喬を強く抱き締めた。
「大喬……」 「孫策様……」
二人の視線が絡み合い、甘い雰囲気が最高潮に達したその時だった。
ジャーン ジャーン
「敵襲!!敵襲!!」 「数五千、いや六千!!」 「位置に付け!!城内に入らせるな!!」
敵襲を知らせる銅鑼の音が城内に響き渡った。 緊急事態に騒ぐ将兵達の声と慌しい足音。 慕われるのと同じぐらいに恨みも買っている孫策の首を狙う者はごまんといる。 彼の快進撃によって縄張りを蹂躙された勢力の者が夜襲に来たのだろうが、 正直な話心当たりが多すぎて何処の何者か見当もつかなかった。
「悪りい、大喬。ちょっと行ってくらあ!!」 「あ、孫策さま!!」
大喬は止めようとしたが、当主として城を守る義務がある孫策は 新妻を放っぽり出して出て行ってしまった。
「……もう……」
夜明け近くなって賊は撃退されたが、寝室に戻った孫策が見たのは 仲良く一つの牀で眠っている喬姉妹の姿であった。
そして 次の日も
「大喬…」 「孫策様…」
ジャーン ジャーン 「敵襲!!敵襲!!」
その次の日も
「大喬…」 「孫策様…」
ジャーン ジャーン 「敵しゅ 「…… も う ! ! ! 」
三日目の夜、孫策が飛び出して行った後、大喬は嫁入り道具の中から鉄扇を取り出した。 寝室を出ると妹の小喬の姿が見えた。彼女も同じく得物の鉄扇を持っている。
「お姉ちゃんも?」
無言で頷く姉を見て、小喬はにっと笑った。
「お、おい!あれは何だ!?」
交戦中の呉兵と賊達が見上げた先には、城門の上に立つ二つの影。 月を背景に鉄扇を翻し、見得を切る娘の声が凛と響く。
「人の幸せな夜を邪魔する方には、お仕置きです!!」 「江東の二喬の名を知らぬかぁー!この鉄扇の錆にしてくれるぅー!!」
二人は城壁から飛び降り、乱戦のさ中に踊りこんで次々と賊を鉄扇で張り倒していく。 呉将たちは勿論、孫策・周瑜も呆気に取られた様子だったがすぐに気を取り直して得物を構えた。
「大喬、早く来いよ! お前が一緒ならもっと面白え!!」 「ふ、私の小さな猛将には負けていられんな……!」
俄然勢いづく呉将達と、胡蝶が舞うように戦場を駆ける華の二喬。 彼女らが何を思って戦いに臨んだかは、成敗された賊の知る所ではない。
そしてその翌日。 朝陽が降り注ぐ褥の中で睦みあう二人がいた。
「だけどよ……お前があんなにお転婆な真似をやらかすとは思わなかったぜ」
可笑しそうに含み笑いする夫の腕の中、大喬は拗ねたふりをする。
「孫策様が毎晩私のことを放って出て行っちゃうからです」 「そんな可愛い事言ってるとよ、また襲っちまうぜ?」 「いけません。もう朝ですよ?」
昨晩戦の熱気冷めやらぬまま抱き合い、二人はめでたく本当の意味で夫婦になる事が出来たのであった。 賊との小競り合いなど比較にならない程の激戦の末、とうとう大喬は気絶してしまい 先ほど目覚め、昨夜の事を思い出して真っ赤になったりしていた。 全く騒々しい初夜だったが、俺たちらしいと言えばらしいのかもな、と孫策は笑った。
「ん……いけません、孫策さま……あぁ……」
か細い制止の声を無視して、孫策は大喬の柔肌のそこかしこに口付けて花を咲かせる。 大喬は起床を諦めて、愛しい人の愛撫に今しばらく身を任せることにした。 手折られる事無く、愛を知って艶を増した江東の花。 季節は春、花盛りの孫呉に嫁いだ二喬はますます美しく咲き誇る。
<劇終>
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