曹操×女性化劉備 其の一

「このような戦場に花とは、珍しい」

従兄の台詞に傍らの夏侯惇は怪訝な顔をした。
小高い丘の上から眼下に広がる岩山と荒野――
殺風景そのもので、まばらな木にも花など咲いているはずもない。
目を引く彩といえば、近くの砦で義勇軍相手に攻防する黄巾賊の黄色い旗印ぐらいだ。

「……孟徳よ、どこに花など――」

この男が詩作を趣味とするのは知っていたが、時と場合を考えろと言いたくなった。
ただでさえ今は黄色い連中相手に手こずっていると言うのに、大将がこんな調子で
果たして勝ち目があるのだろうか。
曹操は夏侯惇をちらりと振り返り、わざとらしく溜息をついた。

「夏侯惇、将というものは戦場であっても足元の花に目を留める余裕が望まれるものだぞ」

更に、「女がお前に寄り付かない訳が分かった気がする」と余計な事まで呟いた。
どういう意味だ!!と怒鳴る夏侯惇を尻目に、馬の腹を蹴り前線へと駆けて行ってしまう。
よく見ると、義勇軍を率いているのはとても戦に向いているとは思えない優男だった。

「お前から目を離さないだけで、こっちは沢山だ」

後を追う夏侯惇のぼやきは、誰にも聞こえる事はなかった。



虎牢関の手前まで進攻してきた反董卓連合軍に対し、董卓は切り札である呂布を差し向けた。
その鬼神の如き武に多くの将兵が倒れ、形勢は不利に傾きつつあった。
劉備三義兄弟が辛うじて押さえていたが、三人がかりでもまだ分が悪かった。

「雑魚が!!」
「あっ!!」

繰り出される方天画戟を避けようとして劉備が馬から振り落とされた。
関羽と張飛の二人が手を伸ばすも間に合わず、橋下の急流に投げ出される。

「兄者!!」
「どこを見ている!!」

容赦ない一撃を関羽は紙一重でかわした。退こうとすればそれが隙となり致命傷を受けてしまう。
嵐のような猛攻に、関羽と張飛は義兄の身を案じるので精一杯だった。

(兄者……ご無事でいて下され!)



「おかしい……この道で合っておるはずなのだが」

将だというのに供もつけず、曹操は雪に覆われた林の中を一騎で彷徨っていた。
呂布とぶつかるのを避けて山道を迂回したのだが、どうも途中で獣道に入り込んでしまったらしい。
護衛ともはぐれてしまい、雲行きの怪しい天からは次第に雪が舞い散り始めた。
ここで野垂れ死ぬような事があれば夏侯惇に笑われてしまうな、と苦笑して曹操はなおも駒を進める。
やがて獣道を抜けると、目の前に川が流れる開けた所に出た。
川辺に倒れ伏している人影に気付き、曹操は思わず駆け寄った。
兵の死体が流れ着いているのかと思ったが、よく見るとそれは知っている顔だった。

「劉備」

なぜこんな所に一人でいるのだ。二人の義弟は一緒ではないのか。
自分を棚に上げて曹操は思った。
抱き起こすと頭から帽子が落ち、纏めていた髪が広がった。
傷はないようだったが、血の気の引いた頬は雪のように白い。

「これはいかんな」

手近な洞穴を見つけ、そこにずぶ濡れになった劉備を横たえた。
このままでは凍えて死んでしまうだろう、と曹操は水を吸った戦袍に手をかけた。
胸当てを外し襟元を寛げると、細い首と華奢な鎖骨が露わになり
――その下には男には決してありえない二つの膨らみがあった。



劉備は夢を見ていた。
青空、砂塵、翻る旗、砦から上がる煙――
ここは何処だったろうと考えていると、向うから官軍の旗をかざした一軍が来た。
それを馬上で率いているのは、小柄だが威に満ちた男だった。
強い視線に射られ、劉備は見詰め返す事しかできない。
ああ、私はこの人を知っている。あなたの名は――

「……あ……」

そこで夢は途切れ、劉備は目を覚ました。焚き火がはぜる小さな音がする。
夢の中と同じく、自分が何処にいるか分からず少しの間ぼうっとしていたが
体を締め付ける軍装が解かれ、裸になっているのに気付きはっとして頭を起こした。

「気がついたか」
「……曹操、殿……」

初めて出会ったときと変わらない強い眼。
どうしてこの人がここにいるのだろうか、と劉備は思ったが
曹操も自分と同じ格好で一つの外套に包まっている事に気付き、驚いて身を固くした。
慌てて離れようとしたが、背後から自分を抱く腕がそれを許さなかった。
互いの肌が触れ合う感じに劉備は堪らない羞恥を覚え、頬を染めてうつむいた。
その動揺を見透かしたように曹操は笑う。

「凍えて死にかけておったお前をこうして暖めていたのだ。許せ」

呂布との戦闘中に川に落ちた自分を助けてくれたのだ、と気付いた。
義弟たちは大丈夫だろうかと劉備は不安だったが、外はひどく吹雪いており
とても出て行く事など出来そうにない。
北の果て、幽州に生まれた劉備は吹雪と寒さの恐ろしさを身に沁みて理解していた。
ふと見ると二人分の衣服が焚き火で乾かされている。曹操の衣は自分の身体を拭くのに使ったのだろうか。
顔見知りではあるが、公孫讃の客将にすぎない自分にそこまでされて申し訳ない気分になる。

「助けていただいて、かたじけない……」
「女子がそんな武骨な言葉を使うものではないぞ」

曹操はまた笑ったが、劉備はその台詞に顔を強張らせた。

「曹操殿……この事はどうか、誰にも……」
「ほう、この事とは?」
「あ、あの……ですから……」
「お前がこんなに立派な乳を持っているという事か?」

外套の中で曹操の手が胸に伸び、弾力を確かめるように両の乳房を揉んだ。
細く見えるが意外に出る所は出ているな、とからかわれ劉備は悲鳴を上げて曹操を張り倒した。

「はは、それだけ力が出れば安心だな」
「……戯れもいいかげんにして頂きたい!!」

劉備は羞恥と憤りで頬を紅潮させ、曹操の腕を振りほどいて外套から抜け出した。
途端、露出した素肌に寒気が走り盛大にくしゃみが出る。
だから言わない事ではないと苦笑され、憮然とした顔で劉備は外套の中に戻った。

どうして私が男の振りをしている訳を訊かないのだろうか、と劉備は思った。
さっきの戯れも、あえて秘密を深刻なものにしないための気遣いなのかも知れない。
世が荒むにつれ財産や女を略奪する賊が増え、村々にとっては恐怖の対象だった。
楼桑村もまた例外ではなかったため、劉備は物心ついた時から身を守るため男の格好をしていた。
義勇軍として乱世に乗り出していくには、男の振りをする方が都合が良かったので
周りの者にもそのまま男として通していた。
この事を知っているのは二人の義弟だけだったが、今は三人に増えてしまった。
溜息をつく劉備の耳に曹操が小さく囁いてきた。

「誰にも言わん、安心せよ」
「……助かります」
「本当はな、はじめから分かっていた」
「え!?」
「荒野の花は、一際目立つものだ」

曹操の指が、かすかに開いた劉備の唇に触れた。

「冷えているな」

そう言って、ごく当たり前のような仕草で口付けた。まるで自らの唇で温めるように。
突然の不意打ちに劉備は驚いたが、こんな事をされたのは初めてでどうしていいか分からず
ただ貪られるままに身を固くしていた。

「曹操殿……」

自分を見詰めている曹操の眼に今までと違う光が見えた。
優しいものにも思え、恐ろしいものにも思えたが、それが情欲だという事を劉備は知らなかった。
今までこんな眼で見られた事は無く、ただ戸惑うばかりの劉備の手に曹操の手が重ねられる。
鼓動だけがやけに大きく聞こえる中、今度はより深く口付けられた。


「全て儂に任せておけば良い」

劉備は躊躇っていたが、やがてその言葉に小さく頷いた。
思いのほか力強い腕に抱き寄せられ、不安そうに曹操の表情をうかがう。

「あの、曹操殿、私は……まだ……」
「まだ男を知らぬから恐ろしいか」

遠慮の無い一言に劉備は顔を真っ赤にして俯いた。
その初心な仕草をついからかいたくなるが、重ねた手の細さは痛々しいほどで
普段戦場に立つ姿とはかけ離れたか弱さだった。
今まで誰にも散らされなかった事が奇跡の様に思える。
妙な巡り合わせだと思いながらも、もはや曹操には目の前の娘しか見えてはいなかった。
いずれ乱世に咲くであろう大輪の花。誰かに摘まれる前に自分のものにしたかった。

はじめはそれこそ雪のように冷え切っていた幽州生まれの雪白の肌は
曹操の手や唇に触れられるたびに、熱を帯びて淡く紅潮していく。
新雪を盛ったような柔らかな膨らみの頂点は愛らしい色に染まっており、
曹操は吸い寄せられるようにそれに手を伸ばした。
悪戯な指に蕾を嬲られ、劉備は眉を寄せて高く喘ぐ。
その上に首筋にも胸にも口付けられ、柔肌の上に季節外れの桃の花が咲いた。
誰かに触れられてこんなに鮮烈な感覚を覚えたのは初めてだった。
身体が内から燃えているようで、堪えきれず劉備は甘くかすれた声で曹操の名を呼んだ。
熱くて堪らないと訴える劉備の瞳は切なげに潤み、頬は上気して艶かしいばかりだ。
その様子に曹操は薄く笑い、劉備の手を取り自分の局部に導いた。
火にでも触れたように劉備は驚いて手を引っ込めたが、またおずおずと手を伸ばしそっと触れる。

「分かるか、お前を欲しがっておるのが」

初めて触れる男の証は硬く張り詰めていて、手の中で鼓動を伝えてきた。
手に握ったものをどうすれば良いか分からず、劉備は困ったように曹操の顔を見た。
生娘ゆえの要領の悪さも曹操には愛しく、もっと困らせたくなる。
すらりとした脚に手をかけ、左右に広げると白磁のような内腿の奥に艶やかな桃の色が見えた。
劉備は小さく悲鳴を上げたが、その程度の事で曹操がたじろぐはずも無く
器用な手を蛇のように腿に這わせ、誰にも見せた事のない花園に触れた。

「あぁ……!」

ふんわりした恥毛を指で梳き、その下の濡れた雌芯を弄ると身も世もなく嬌声を上げた。
慣らすように指先を浅く埋めると、かすかな痛みと期待に劉備の脚が震える。

「ここで受け入れるのだ」

さすがに知らぬわけではないだろう、と囁かれ劉備は耳まで赤くなった。
自分がとてもいやらしくなってしまったようで、恥ずかしくて仕方なかった。
しなやかな脚を抱え上げ、自身の切っ先を姫門に押し当てた。
劉備はその感触に身体を強張らせたが、力を抜いていろと言われ震えながらその通りにした。

「……あぁっ……やぁ……!!」

裂ける様な痛みと共にゆっくりと劉備の中に雄が沈み込んでいく。
狭い内部を無理に拡げられているのだから当然だが、男を受け入れるのがこんなに苦しいものとは思わず
唇を噛んで悲鳴を必死に堪えた。
長い時間をかけてようやく二人が繋がった頃、劉備は破瓜の苦痛に息も絶え絶えになっていた。

「無理をさせたな」

全くです、と言い返す気力も無く涙が滲んだ眼で曹操を睨む。
少しでも身動きすれば胎内の圧迫感と痛みに泣き出してしまいそうだった。
女になったばかりの劉備を見下ろしながら曹操は思う。
その仁徳で人を引き付けずにはいられない徳の将軍。
もし女として育ち、自らの魅力を利用する術を覚えていたらと考えると空恐ろしくなった。
媚態や化粧で装う事も知らず、柔らかな肢体を戦袍の下に隠していても
その姿を一目見た者は二度と劉備を忘れられなくなるのだ。
女として生きていたなら、あらゆる男を虜にして傾城傾国と謳われていただろう。
自分とて例外ではなく、きっと溺れてしまう。いや、もう既に――
互いの身体が馴染んだ頃合を見計らい、曹操はゆるりと腰を引いた。
男根が中から出て行こうとするのに劉備が小さく声を上げる。

「やっ、曹操殿っ……!」
「辛いか」
「いえ……わ、分かりません……ただ、変な感じで……」

劉備が眉を寄せて堪えているのは痛みではなかった。
清廉な容貌の内で淫蕩な素養が目覚めつつあるようで、曹操はわざとそれを煽った。

「中が絡み付くようだ。生娘とは思えんな」

言葉でも嬲られ、劉備の身体が一層熱くなる。
辱められているのにこんな風になるなんて、自分はどうなってしまったのだろう。

「もっと深く突いても構わんか?」

劉備が小さく頷いたのを確認し、力強く腰を進めた。
この女が何も知らないのを良い事に、全てを奪ってしまいたかった。
奥に突き当たったのを感じ、劉備は体を震わせて切ない声を上げた。
深々と貫かれ揺さぶられる度、無意識に締め付けてくる。
天性の媚態に刺激され、もっと悦ばせてやろうと曹操は良い所を探した。

角度を変えての激しい抽挿に劉備は我を忘れ、いつしか自ら曹操の背に腕を回していた。
情を交わす事はおろか恋さえも知らなかった劉備には、何故曹操がこんな事をするのか分からず
ただされるがままになっていたが、身体だけは浅ましいほどに相手を求めていた。

「はぁっ……あ……もう……」

突かれる度に蜜が身の内から泉のように湧き出し、抽挿をより甘美なものにした。
蜜と肉とが絡む生々しい音に耳を犯され、羞恥と快楽のせめぎ合う中
閉じた瞼の間から官能の涙が溢れ、熱い頬の上を伝い落ちた。

「溶けて……溶けてしまう……」

あまりの心地良さを何に例えれば良いか分からず、うわ言のように口走る。
追い上げられるような感じが次第に高まるにつれ、終わりが近いと劉備は本能的に悟った。
曹操の肩にすがり、震えながら初めての絶頂を迎える。
やがて限界が来た曹操も歯を食い締め、できるだけ奥に放った。
孕むかも知れない、と一瞬危惧したがもう止められなかった。
本人の意思と関係なくそこは迸る精を飲み干していく。
劉備は何が起きたかよく分からないようで、余韻に浸りながらただ息を弾ませていた。
ようやく息を整えて起き上がれるようになるまでしばらく時間がかかった。



「……これは?」

劉備の指先にまとわりつく粘液が透明な糸を引いた。
それが溢れてきた子種と知らず不思議そうに見ている様がおかしく
子を授かるものだと教えてやると、驚いたようで尚の事指先を凝視していた。

「私にも授かるのでしょうか」
「おそらくな」
「どうしましょう……」

考え込む劉備の横顔は可愛らしく、いっそのこと孕むまで何度も愛してやろうかと思ったが
無知に付け込むような真似をするのは流石にはばかられた。

「本当に危なっかしいな、お前は。よく女子だとばれないものだ」
「……放っておいて下さい」
「辛いと思った事はないのか?」
「いいえ、救うべき民の苦しみに比べれば辛いなど……」
「そう言うだろうと思った」

劉備の表情はいつもの凛としたものに戻っていた。
ただ、ほのかに紅い目元と乱れた髪が情事の名残を留めているだけだった。

「乱世を終わらせれば、お前が女として生きられる世が来るのだろうか」
「……私には分かりません」

自分で女にしておいてこの言い草もないと思った。
しかし、劉備の人を虜にする才はは乱世でこそ輝くものだと見抜いてもいた。
今は弱弱しくとも蕾が綻び花が開くように、いずれ自分と肩を並べて天下を争う存在になるだろう。
曹操の直感はそう告げていた。
いつしか外では吹雪が止み、分厚い雲の間から陽の光が差していた。



「ご無事でしたか、姉者!」
「姉者ー!!捜したぜ〜!!」

大きな影が二つ、雪を掻き分けてこちらにやって来る。
捜しに来た二人の義弟だった。

「心配をかけて済まんな、雲長、翼徳」

劉備は振り返り、狼煙の焚き火に雪を掛けて消した。
義弟たちの元に駆け出そうとした時、腰が定まらずその場につまづいてしまった。

「姉者、どこか怪我でも……」
「何でもない、雪に足を取られただけだ」

そう言う劉備の頬は、人前で転んだのを恥じらうにしては些か大袈裟なほど紅潮していた。
吹雪が過ぎ去った後の空はとても眩しく、先程の秘め事も何もかも天に見透かされているようで
それを義弟たちに気付かれないように劉備は先を急いだ。
本陣に帰った時、あの奸雄とどんな顔をして会おうかと悩みながら。

(終)

 

 

 

 

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