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……俺は周泰……字は幼平だ…… 長い事孫呉に仕えているが……不器用でいつも失敗ばかりしている…… ……それでも、俺がへこたれず頑張れるのは……回りの人達と孫権様のおかげだ…… ……あれは俺が蒋欽に連れられて、孫策様に仕官を願いに行った時の事だった…… 俺は正直乗り気ではなかったが……孫策様の背に隠れるようにしてこちらを見ている娘と 目が合った途端、そんな事は考えられなくなっていた…… 柔らかな栗色の巻き毛を揺らし、海の色によく似た青い瞳で俺を見上げている少女は 孫策様のすぐ下の妹君だった……
「私、孫仲謀って言うの。宜しくね、周泰」
……まもなく俺は孫権様の護衛を任される事になった…… しかし、最も無防備で危険な状態になる湯殿の中までは入れなかった……何故だ…… ……そんな折、孫策様の留守中に大勢の山賊が城に攻めて来た…… ……それから後の事はよく覚えていない……気が付くと大怪我を負って寝ていた…… ……真っ先に見たものは、泣きながら縋り付いて来た孫権様の姿だった…… ……嫁入り前の孫権様に傷がないか心配だったが……どうやら無事らしくやっと安心した……
「周泰……ごめんなさい、私のせいで……私の勝手であなたにご褒美をあげる事はできないけど…… 私の物で、周泰が望むならどんなものだってあげる……」
その時俺は……柄にもなく、戯れのつもりで……唇を所望します、と言った…… ……たった一瞬の事だったが……あの温かさは今でも覚えている…… ……あれから何年も経ったが、どれだけ傷を負ってもそれを誇りにできるのは 孫権様が無事でおられる事が……俺にとって、一番の褒美だからだろう……
……孫権様が戻って来られた……今夜はここで仕舞いだ……
〜北斗の権〜
……俺は周泰……字は幼平だ…… 長い事孫呉に仕えているが……不器用でいつも失敗ばかりしている…… ……今夜は俺の体の傷と同じだけある思い出の一つを語ろうと思う…… ……あれは孫権様の護衛の任に着いたばかりの頃だった…… ……孫権様は滅多に物を言わない俺を心配されたらしく、どうしたら俺が 人並みに喋るようになるか考えておられたらしい……勿体無い事だ…… ……ある日、孫権様は俺の頭巾を取り、耳の上を小さな手で押しながらこう言われた……
「ほくと……?何とかっていう指圧法で、こうすると喋れるようになるんだって。 『心の叫びが言葉を誘う』って……。私、周泰ともっといっぱいお話したいな」
……城が山賊に襲われたのは、その晩のことだった…… 俺は無数の賊を斬り払いながら、孫権様を馬に乗せて逃がそうとした……
「嫌!!周泰も私と逃げるの!!私の命令が聞けないっていうの!?」
……孫権様を確実に逃がす為に時間稼ぎは必要だった…… ……俺は遠ざかる孫権様の姿に今生の別れを告げようと、初めて自分から口を開いた……
「権〜〜〜〜〜!!来ちゃだめ〜〜〜〜!!逃げて〜〜〜!!」
……自分でも驚くほどの声が出た……その後どうなったかは昨夜話したとおりだ…… ……後にも先にも、あれほど心からの声が出せたのは一度きりだった…… ……きっと、孫権様の思いが俺から言葉を引き出して下さったのだろう……
……孫権様の自室に呼ばれているので、今夜はこれで仕舞いだ……
〜周幼平がみてる〜
……俺は周泰……字は幼平だ…… 長い事孫呉に仕えているが……不器用でいつも失敗ばかりしている…… ……今から話す事はその中でも最たるものだ…… ……孫権様(14)の護衛になったばかりの俺は、大役を任された事にすっかり緊張していた…… 周りが見えなくなっていたせいであんな事態を引き起こしたのだろう…… ……ある日の夜、孫権様は侍女と湯殿に向かい、俺もそれについて行った…… ……普通ならば湯殿の前で待っている所だが、俺は何を思ったか当然のような顔で 全裸に刀だけ持って自分も湯殿に入ってしまったのだ……今思い出しても死にたくなる…… ……もちろん、俺にはやましい気持ちなど微塵もなく、ただ孫権様を不審者からお守りしたいだけだったが この状況ではどう見ても不審者は俺の方だった……
「……孫権様……」ヒタヒタヒタ 「え、しゅうた……いやあああああぁぁぁぁくぁwせdrftgyふじこlp;@!!!」
……左肩の一番大きな傷と、背中の右から三番目の傷はその時に負ったものだ…… ……孫権様、(色々な意味で)お見事……
「言え!いつから見ていたか言え!!責任を取れこの朴念仁めがッッ!!」
……あれから何年も経つが、俺は今でも責任を取らされ続けている…… ……今夜も責任を取りに行かねばならないので、ここで仕舞いだ……
〜特別でないただの宴会〜
……俺は周泰……字は幼平だ…… 長い事孫呉に仕えているが……不器用でいつも失敗ばかりしている…… ……しかしそんな俺がくじけず頑張れるのは、主君の孫権様のおかげだ…… ……今夜は濡須の戦いの時の事を語ろうと思う…… ……水賊上がりという事で部下が命令を聞かない俺を見かね、ある日孫権様は酒宴を開いて下さった…… ……ありのまま起こった事を話すが、俺の所に孫権様が来たと思ったらいつの間にか服を脱がされていた…… ……何を言っているのか分からないと思うが、俺も何をされたのか分からなかった…… 俺の妄想だとか酒に酔った幻覚では断じてない……頭がどうにかなりそうだった…… ……そうこうしているうちに孫権様は俺の体の傷を一つ一つ指差し、その由来を皆に聞かせ始めた……
「この北斗七星の形の傷は…」
(陸遜「ククク…何本目に死ぬかな?」) (周泰「……ぐぅぅ……」) (孫権「あ…愛します!一生どこへでもついて行きます…!」) (陸遜「フハハハ!聞いたか周泰!女の心変わりは恐ろしいのぉ!!」)
「この腹の傷は…」
(孫権「お願いです、周泰を助けて下さい!一生働かせてでも手術代は返します!」) (華佗「その言葉が聞きたかった」) (孫権「先生…!」)
「この左目の傷は…」
(孫権「バルス!」) (周泰「……目が……目が……」)
……孫権様……俺にはまるで覚えのない事だらけです……何故陸遜が……? ……というか、俺はテンパるともはや孫権様しか見えなくなるので 冷静に物事を見ておられる孫権様がそうおっしゃるならその通りなのだろう……
「す…スゲエ!なんて豪傑だ…」 「ああ…今まで俺たちは周泰殿を侮っていた…」
……朱然も徐盛も本気にしている…… ……これからこいつらと付き合わねばならない事を考えると、蜀の皇后ではないが正直、重い……
「ふふ、全くひどい有様だな周泰、傷のない所などどこにもないわ」
……おっしゃる通りですが、半分くらいは孫権様の手によるものです…… ……心に負った傷は……その倍ではききません……
「だがそれがいい!これこそ生涯をかけて私を守った忠義の傷だ!」
……そ、孫権様……!!……この周泰身に余る光栄……!!
「あれ、この背中の引っ掻き傷は何ですか?ひょっとして虎と戦った時のものですか?」
……それは……昨夜閨で孫権様が虎並みに激しゴブァガバウボァ
「周泰の功績を讃えての杯だ!遠慮するな樽ごとどんどん飲れほらほらほら!!」
……孫権様の頬が赤いのは、酒のせいだけではないだろう…… ……もうぶっ倒れそうなので、今夜はここで仕舞いだ……
〜びっくりラブレター〜
……俺は周泰……字は幼平だ…… 長い事孫呉に仕えているが……不器用でいつも失敗ばかりしている…… ……しかしそんな俺がくじけず頑張れるのは、主君の孫権様のおかげだ…… ……仕官して来たその日から思っていたのだが、孫権様はとてもお可愛らしい…… ……昨日、十万の魏軍に一人で立ち向かう思いでその事を伝えたのだが……
「もうっ!一つしか離れてないくせにそんな事を言うな!私だって立派な大人の女だ!」
……怒られた……なぜだ…… 長江のほとりに座って世の無常を噛み締めていると、小喬殿が来て悩みを聞いてくれた……
「権ちゃn…孫権様は美しいとかいうお世辞は普段聞き飽きてるから、 可愛いって言われてほんとは嬉しかったんじゃあないかな? でも周泰の前では主君として素直になれなかったんだよ!きっとそう!女の勘ってやつ☆ あたしは周瑜様から何度可愛いって言われてもすっごくうれしいけどね♪」
……なるほど……しかし……どうすれば機嫌を直して下さるだろうか……?
「周泰は無口だから、口で謝るより書を贈ったらどうかな? 自分がどれだけ孫権様を好きか思いのたけを書いて贈るの☆周瑜様もあたしによく贈ってくれry」
……小喬殿に勧められた通り、孫権様に書を贈る事にした…… ……夜も寝ないで昼寝して三日三晩推敲し、ついに思いのたけを込めた書が完成した……
拝啓 俺は孫権様が好きだ 拝啓 俺は孫権様が好きだ 拝啓 俺は孫権様が大好きだ 青い眼が好きだ 栗色の髪が好きだ 酒乱な所が好きだ 高い声が好きだ 変な板の付いた冠が好きだ 戦下手な所が好きだ 激しやすい所が好きだ 本当は優しい所が好きだ 荊州で 呉郡で 夏口で 赤壁で 合肥で 南中で 夷陵で 白帝城で この天下に存在するただひとりの孫権様が大好きだ (以下略)
……素晴らしい出来だと思ったが、少し居眠りしていた間に机の上から書が消えていた…… ……半ベソで部屋中捜していたらなぜか頬を赤らめた孫権様に自室に呼ばれた……
「まったくお前ときたら書の文面まで武骨だな、私が教えてやるからそこに座れ」
……朝まで手取り足取り教えていただいて寝不足なので、今夜はここで仕舞いだ……
〜長き夜の〜
……俺は周泰……字は幼平だ…… 長い事孫呉に仕えているが……不器用でいつも失敗ばかりしている…… ……そんな俺だが今度ばかりはどうしても許せん奴がいる…… ……呂蒙殿に代わり四代目大都督となった陸遜とかいう小僧だ…… ……実戦経験もないぽっと出の若僧のくせに、軍を指揮しようとは片腹痛い…… ……孫権様が奴に入れ込んでいるのを妬んで言っているのでは……決してない…… ……昨日奴は俺に『護衛の任務はさぞ大変でしょう』などとほざいて来た…… ……意外と親切な奴なのかと思ったが、俺は油断せず陸遜を睨み返した…… ふと俺の脳裏に、在りし日の周瑜殿の言葉が浮かんだからだ……
「周泰、戦にせよ護衛にせよ自らの分をわきまえ、任を果たすのだ。 お前が消えて喜ぶ者にお前の櫂を任せるな。自分にしか出来ない仕事をやり遂げろ。 小憎らしい孔明に見せ場を奪われた私のようにはなるなよギリギリギリギリ」
……陸遜にとって、孫権様の側で目を光らせている俺はさぞ邪魔だろう…… ……やろうと思えば大都督の裁量で俺を護衛の任から解雇する事もできるはずだ…… ……危機感を覚えた俺は、孫権様と奴を交えて三人でじっくり話をつけようと思ったが…… ……何故か孫権様はほろ酔い状態でやって来て、陸遜にも無理矢理酒を飲ませ出した…… ……これでは埒が開かないので、いつものように峰打ちで気絶させた……お許しを…… ……孫権様を介抱している俺を見て、陸遜は感嘆したようにこう言った……
「周泰殿はほんとうに凄い護衛ですね、孫権様の事を何でも分かっておられる」
……その時やっと分かった…… ……俺は有能な陸遜と不器用な自分を比べて勝手に劣等感を持っていただけなのだと…… ……陸遜を一方的に嫉妬していた自分が恥ずかしかった…… ……周瑜殿の言う通り、俺は俺、陸遜は陸遜にしか出来ない仕事をやり遂げれば良いのだ……
「うむ、周泰とは長い付き合いだからな、私の事なら 何 で も 知っているぞウフフ」
……いつから気が付いておられたのですか、孫権様…… ……仲直りと称してまた三人で飲み直すので、今夜はここで仕舞いだ……
〜真夏の1ページ〜
……俺は周泰……字は幼平だ…… ……終わりが近い夏を惜しみ、俺達呉軍は毎日のように長江で水練に励んでいる…… ……しかし孫権様は水にお入りにならず、いつも砂山ばかり作っておられるようだ…… ……俺はかつて孫策様から聞いた話を思い出していた……
(孫策「ほーれ権、高い高い〜〜 あっ!」) (ツルッ ザッポーン) (孫策「うわああああ!権が河に落ちちまったずぇ―――!」)
……それ以来孫権様は泳ぐどころか水に入る事も恐れるようになられたという…… ……おいたわしい事だ……と思っていたら、なんと孫権様はこんな事をおっしゃった……
「いつまでも苦手なままではいけないと思ってな……元水賊なら泳ぎも達者だろう? 私に教えてくれ」
……この周泰……全身全霊で手取り足取りお教えします……! ……しかし……何故甘寧までいるのだ……同じ元水賊とはいえお前は余計だ……
「殿、バタ足も出来ねぇんですか……こりゃ骨が折れそうだ……」 「ううううるさいぞ甘寧!黙って教えればいいのだ!」 「……では……水の中で眼を開けるのは……」 「そ、そんな高等技術を始めからするのか!?無理を言うな!!」
……先は長くなりそうだ……
「水だと思うから怖いんじゃないっすか?例えばこの河が全部殿の好きな酒だと思えば……」 「酒か……こんな暑い日は冷えた麦酒でも飲みたいな……周泰皆の分も持ってきてくれ」
……何か間違っていると思いながらも、俺は荷車一杯の麦酒を引いて戻って来た…………すると……
「ちょ、張遼だ!張遼が来たぞー!!」
……奇襲か……俺は混乱の中、孫権様の姿を捜した…… ……合肥でさんざん追い回されたのがいまだ堪えているらしく、うずくまって震えておられた…… ……孫権様……向こう岸に泳いで渡ります……早くしないと張遼に追いつかれます……
「し、しかし橋がなくては……」 「橋なんているんですか?殿の志があれば、こんな川泳げるでしょうよ!」 「だ……だめだ……できない!無理だ……」
…………孫権様……着きました……お見事でした……
「……え? ……私、泳いで……? ……泳げる……!泳げるぞ周泰!ほら見ろ!!」
……流石です孫権様……ですが……あまりしがみつかないで下さい……胸が……
「やれやれ、暑くてかなわないっての」 「いやーすいません殿、張遼が来たってありゃウソでしたへへっ」
……こうして2XX年の夏は思い出を残して過ぎて行った…… ……流れ流れていつか消え行くとしても誰にも止められない時の河は続いていく……
〜いとしき歳月〜
……俺は周泰……字は幼平だ…… 長い事孫呉に仕えているが……不器用でいつも失敗ばかりしている…… ……今夜は孫権様にも話した事のない秘密を語ろうと思う…… ……あれは……もう十数年前になるだろうか…… ……兄貴分の蒋欽に拾われ、水賊としてやんちゃしていた頃のことだ…… ……俺は人気のない川べりで、赤毛に青い眼の身なりのいい娘を見つけた…… ……異人の娘は特に高く売れる……早速さらって船に連れ込もうとしたが……
チリンチリーン♪「おっ、べっぴんさん発見!いただきぃ!」 ……同じように娘を狙っていたらしいツンツン頭の同業者が横から割り込んできた…… ……大事な獲物をかすめ取られるわけには行かないので、俺は娘の手を引いて必死に逃げた…… ……船に乗せようとしてもなぜか娘は怖がらなかった……
「……お家、帰りたくない……このままどこかに連れてって……」
……よせばいいのに訊ねてみると……どうやらいたずらをして兄に叱られたらしかった…… ……しかし……兄の事を話しているうちに娘は笑顔になり、俺も話を聞いているうちに 情が移ってしまい……売り飛ばすのは気の毒だと思ってしまった……
「……家に帰れ……」
……後で上玉を取り逃がした事が蒋欽にばれ、頭の形が変わるほど殴られた……
「折角の飯の種を逃がしやがって、このごく潰し!てめえは三日飯抜きだ!」バシ!バシ! 「……おかずは食べていいのか……」 「馬鹿野郎!」バシィ
……こんな事ならあの娘を連れて逃避行しておけば良かったと思ったものだ……
……もちろん孫権様はこの事は覚えておられない…… ……ただ……あの時もし俺が、娘の言う通りにしていたら……と思うと…… ……雨が降って来た……今夜はこれで仕舞いだ……
〜レイニーブルー〜
……俺は周泰……字は幼平だ…… 長い事孫呉に仕えているが……不器用でいつも失敗ばかりしている…… ……昨夜から降り続いている雨はまだ止まない…… ……あれは孫権様……こんな雨の中、傘も差さずに外に出るなど…… ……濡れてはお風邪を召してしまいます……この傘に…… 孫権様……泣いて……おられる……?
「雨は嫌いだ……父上と兄上が、亡くなられた日の事を思い出す……」
……俯いて涙を零す孫権様に、俺は何も言えなかった…… ……慰めの言葉ひとつ言えない不器用な自分が嫌になった……
「周泰……私より先に死ぬなよ、これは命令だ どんなに傷ついても私がいいと言うまで決して死んではならんぞ」 「……御意……」
……濡れないようにと肩を引き寄せると、お前も少しは気が利くようになったなと 孫権様が笑って下さった……良かった……
「そういえばお前、この傘……」
……濡須の戦いの折、孫権様より拝領した青い傘だった…… ……真夏の空のような鮮やかな青は、孫権様の瞳の色によく似ていて…… ……勿体無くて今日まで使えなかった……
「……お体に障ります……お部屋へ……」 「構わん……もう少しこのままでいるのも良かろう」
……たまには雨も悪くないな、とつぶやき微笑む孫権様の瞳の中には どこまでも広がる青空と俺の姿が映っていた……
(劇終) |