夏侯淵の護衛武将・夏侯秋は調練を済ませた後、共同湯殿で汗を流そうと髪を解いていた。
最近銅雀台と共に調練場のそばに建てられた立派な湯殿である。
ここは一兵卒から将軍まで裸の付き合いができる魏軍の憩いの場であった。

「お風呂♪ お風呂♪」

体を動かして汗をかいた後の湯浴みはまた格別だ。
夏侯秋は青い戦袍を籠の中に放り込み、裸になったところで自分の胸を見下ろす。
最近腰回りなどの肉付きが良くなり、ここも以前より膨らんできたのだ。
もっと大きくなったら妙才おじ様喜ぶかな、とほくそ笑みながらさらに下に目をやったが
そこは相変わらず、産毛のような柔らかな毛に僅かに覆われているだけだった。
少しがっかりしたが気を取り直し、湯殿の戸を開けると熱い湯気が顔を撫でた。
今日は空いていて誰もいないようだ。

「やったー、一番風呂! ……ん?」

そう言った後、夏侯秋の目は湯煙の中に別の人影を見つけた。
浴槽の中の先客は水音と共に秋のほうを振り向いた。

「あら失礼、お先にお湯を使わせていただいてます」

その涼しい響きの声に秋は覚えがあった。
上気して薄く色づいた怜悧な美貌、礼儀を心得た優雅な物腰。
夏侯惇の護衛武将・伊珠であった。
お互い同じ護衛の任を帯びる者であり、仕える将軍が従兄弟同士という事もあって
彼女とは調練や戦場で度々顔を合わせていた。

「いいえとんでもない。伊珠殿も調練帰り?」
「ええ、先ほど夏侯惇将軍と手合わせを。あの方も向こうで湯浴みをされています」
「夏侯淵将軍もあっちの湯殿に行かれたから、今ごろお二人でお話してるかも」

夏侯秋はそう言って自分も浴槽に入る。
一見ほっそりして見える伊珠だが、衣服を脱ぐと意外に豊満な体つきをしているのに気付いた。
肌は近くで見ると余計きめ細かく、同じ女ではあるが秋は内心どきりとした。

「伊珠殿はどうやって胸を大きくしたの?」
「え? いえ、別に……大きくするとかそういうのは」
「そう……伊珠殿なら大きくする秘訣を知っているかもって思ったけど……」
「秘訣なんてあるのでしょうか……」
「……ちょっと触ってみてもいい?」
「ええ、お好きに」

あっさり承諾した伊珠の乳房に夏侯秋の小さな手が伸びる。
触れやすいようにと自ら両の乳房を掬って湯面に持ち上げてやると、二つの丸みは益々豊かに見えた。

「わあ、おっきなおっぱい」

目の前でそう口に出されると、やはり少し恥ずかしい伊珠であった。
夏侯秋が乳房にそっと触れると、たっぷりした柔らかな弾力と温かさを掌に感じた。
なんだか母様のみたい、と今は亡き母に思いを馳せながらその先端にも触れてみる。
自分のものより僅かに色の濃いそこからは良くお乳が出そうに思えた。
くすぐったいです、と伊珠が笑い、秋はあわてて手を離した。

「秋さまもきっとそのうち大きくなりますよ
「そうだといいなあ」

何気なく濡れた髪をかき上げた伊珠の首筋に薄紅い点を見つけ、虫に刺されたのかと聞くと
伊珠はのぼせたように顔を赤くして、目立ちますか?と言った。
その恥らうような様子を見て夏侯秋はあっ、と気付いた。
そういえばおじ様に口付けされた後とか、私もあんな跡がついたような……
野暮な事を口にしてしまったと夏侯秋は自分を恥じた。

「ご、ごめんなさい……おかしな事言っちゃって」
「いえ……」

伊珠は内心、無邪気な夏侯秋は男女の事などまだ知らないように思っていたが
紅い跡の意味を悟るぐらいには色恋の知識があるようで驚いていた。
一方、夏侯秋は伊珠に情を通じる誰かがいた事に驚いていた。
美しく優雅な彼女を慕う男は大勢いるだろうが、いつも冷静でそんな素振りなど見せないため
伊珠に恋人がいるなどとは考えもしなかったのだ。
しばらくお互いに黙りこくってもじもじしていたが、やがて夏侯秋の方から口を開いた。

「その……伊珠殿は、好きな男の方とかいるの?」
「……ええ、おりますよ」
「もし良かったら、誰か聞いてもいい?」
「ふふ、秋さまのよく知った方ですわ」
誰だろう? 殿は何人も奥方がおられるけど……まさか妙才おじ様じゃあないだろうし……

「あ、分かった! 張コウ殿でしょう」
「残念、外れです」

夏侯秋は予想が外れてううん、と唸った。伊珠なら張コウの審美眼にも適うと思ったのだが……
首をひねって考え込む夏侯秋の耳元に伊珠が正解を囁く。

「ええ!? 元譲おじ様!?」

内緒ですよ、と微笑む伊珠につられて秋も思わず頷いたが、意外すぎる事実に空いた口が塞がらない。
あの堅そうな伯父が……ということは、この首筋の跡はやはり――
伊珠の紅潮した柔肌を見ているうちに、図らずも情事の場面を想像してしまい
変な気分になりそうで、秋は湯を掬ってざぶざぶと顔を洗った。

「……あのね伊珠殿、私が好きな方の名前も内緒にしてくれる……?」

******

「はぁぁぁぁぁ〜〜〜、やっぱり風呂はいいなあ惇兄」
「全くだな」

そのころ、魏軍が誇る名将・二夏侯もまったり湯に浸かって調練の疲れを癒していた。
天窓から夕陽が湯気を透かしてこぼれ、湯殿はほの明るい光で満たされている。

「時に淵よ、秋のことだが」
「ああ、元気でやってるぜ……って、いつも調練で顔会わせてるんじゃねえの」
「そうではなくてだな、もう抱いたんだろう」

夏侯惇の隻眼は従弟の背中の小さな爪跡を見ていた。
慌てる夏侯淵に一言、幸せにしてやれ、とだけ言う。
ただの戯れで秋を抱いたのではないだろう事は長年の付き合いから察していた。

「と……惇兄こそどうなんだよ、あの別嬪と」
「お前には関係ない」
「ずるい!何で教えてくれねえんだ、秋の事は聞いたくせに」
「秋はお前と俺の姪だから当然の事だ!伊珠とお前は他人だろうが!!」
「んー、そんなら殿に聞くからいいや」
「聞いているのか淵!!」

「そもそもだな、伊珠は女官だったのだが夏侯惇を慕って護衛に自ら志願して」

聞きなれた声が背後で響いた。その主はもちろん――

「げえっ、殿!!」孟徳!!」

振り向いた二人は、湯につかる曹操の姿を見て同時に驚愕の叫びを上げた。
さっきまで湯殿には自分たちしかいなかったはずなのに。
説着曹操、曹操就到(曹操の話をすると、曹操が来る)の言い回しそのままに現れた奸雄は
にやにやしながら馴れ初めの続きが聞きたいか、と夏侯淵に尋ねた。
夏侯惇が鬼の形相で曹操を睨みつける。

「孟徳……それ以上余計な事を言ったら風呂に沈めるぞ」
「聞くのが嫌なら伊珠のいる向こうの湯殿に行ったらどうだ?」

夏侯惇は軽口を叩く従兄の頭を水中に押さえつけようとしたが、曹操は紙一重でその手をかわす。
逃げる曹操をむきになって追いかける惇兄に加勢しようかするまいかと夏侯淵は思案していた。

「父上、叔父上、何をしておられるか」

新しく湯殿に入って来た人影は曹丕だった。
いい年をした男三人が子供のように騒ぐ光景を冷ややかに見ている。

「あれー若も来てたんすか」
「甄が護衛の娘にどうしても会いたいというから、それに付き合わされた」

官渡の地で女護衛の姿を見て以来、甄姫はぜひ一度会いたいと願っていたらしい。
一方的に呼び出したりするのでは、腹を割った話などできないだろうから
最近できたばかりの湯殿で親睦を深めたい――との事だった。
冷酷そうに見えて、これでなかなか妻には甘いらしい。

「という事は、あっちには甄姫殿が?」

秋のやつ失礼をやらかしてなきゃいいんだが、と夏侯淵は懸念したが
その考えははすぐさま的中した。

「 うわーいいなーー! 甄姫殿おっぱい大きいーーー!! 」

突然女湯から聞こえてきた大声に、湯船に入ろうとした曹丕が足を滑らせ頭から湯に突っ込んだ。
驚く間もなく三人も盛大な飛沫を浴びる。
鼻に湯が入ったらしくむせ返る曹丕だったが、すぐにいつもの不機嫌そうな顔に戻った。

「……今の声は」
「……すんません俺の姪です。よく叱っときます……」

強張った表情の夏侯淵の後ろでは曹操が爆笑していた。

「正直で結構なことだ。もう馴染んでいるようだな」
「なにが結構だ!」

馬鹿馬鹿しい、と夏侯惇が湯船から上がろうとした時、また女湯から声が響いた。

「 私まだ小さいから羨ましいです〜 」
「 あら、それを言うなら伊珠の胸もなかなか素敵ではなくって? ほら 」
「 きゃっ! いけません甄姫さま……お戯れを…… 」

艶かしいやり取りと伊珠の甘い声は、夏侯惇の足を止めるには充分だった。

「……………………」
「こやつめ、ハハハ!」

曹操のせせら笑う声を背中に聞きながら、どうとでもなれと夏侯惇は冷水を頭からかぶった。

******

曹丞相の嫡子――曹丕の妻にあたる美姫の事は、官渡の戦の後に聞いてはいたが
まさかこんなに近くで目にかかるとは思ってもみなかった。
慌ててその場に膝をついた伊珠と秋に、そんなにかしこまらないで下さいな――と
甄姫は少し困ったように微笑んだ。
体だけでなく心の衣服も脱ぎ捨てる湯殿という場所のせいか、程無くして打ち解けた三人は
各々の体型や恋の話に花を咲かせていた。

「ふふ、なんだかあっちの方も楽しそうですこと」
「そう言えば曹丞相もおられる様ですね、お声がなさいます」
「甄姫殿、お背中流しますねー 熱くないですか?」
「いいえ、丁度良くてよ」

(それにしても、ほんとにきれいな体してらっしゃるのね……)
陶器のように滑らかな甄姫の背中を流しながら、夏侯秋は溜息をついた。
鞠のようなたわわな乳房といい、形のいい尻といい、女としては正直とても敵わない。
白いうなじに小さくある黒子が何故かひどく扇情的で、そこに触れる時妙に緊張した。
伊珠も同じ成熟した女性ではあるが、美しさの質が違っていた。
彼女がすらりとした水仙ならば、甄姫は大輪の蘭のような艶やかさだ。

「わたくしばかり洗われているのは何ですわね 秋、こちらを向いて下さいな」
「そんな、畏れ多い……それに私、もう体は洗いましたし」
「気になさらないで、楽にしていれば宜しいのよ」

冷たい床に尻をついた格好で足を広げさせられる。
この時点で甄姫の意図に気付くべきだったが、はしたない格好で失礼かなと思いながらも
純朴な夏侯秋は女同士という事もあって完全に油断していた。
いきなり甄姫の細い指先が柔らかく閉じた姫門をなぞり、秋は思わず声を上げた。

「やぁん!!」
「あらあら、可愛いこと」

驚いた秋は身を引こうとしたが、じっとしていらっしゃいと甄姫に注意される。
襞に指をあてがわれ、よく見えるよう左右にそっと広げられた。
あるのか無いのか分からないほど小粒な雌芯さえも甄姫の眼に晒される。

「殿方を迎え入れる大事な所なのですから、綺麗にしなくてはいけませんわ」
「や、止めて下さい、甄姫殿! そんな……」

脚の間に少しずつ湯を掛けながら、爪で傷付けないよう丹念に秋の中心を洗ってやる。
甄姫に目配せされ、伊珠も悪乗りして秋を弄る。

「それでは私はこちらを……育ち易くなるよう、揉み解して差し上げましょう」

秋を背中から抱きすくめ、膨らみかけの胸を掌で包み込むように愛撫する。
二つの可憐な蕾を巧みに苛められ、雌芯を剥かれて弄られる。
同じ女なだけに快い仕方を知り尽くしており、しかも二人がかりで責められては堪らず
秋は身も世も無く甘い声を上げた。
とろとろと滲み出した蜜を指に絡め、甄姫はより奥へと指を進ませた。
内側の粘膜を擦るように蠢かせる度に、一丁前にきゅんと締め付けてくる。
既に男の味を知った秋は指の細さがもどかしく、もじもじと腰を捩った。

「甄姫どのっ、やめ……汚いですから……っ」
「あら、汚いなんて……貴女のここ、とても素直で可愛らしくてよ? ねえ伊珠」
「ええ、夏侯淵将軍にいつもどう可愛がられているか分かるようですね」

女同士で色事の真似をしている奇妙な状況で、甄姫と伊珠も興奮しているのか
調子を合わせて秋を辱めるような事を口にする。
秋はそれにも素直に反応し、伯父にしか許していない所を好きなようにされているのを
意識した途端、恥ずかしくて気持ちよくてどうしようもなくなってしまった。

「あぁ……だめ、だめですっ……みないでっ……!」

愛しい人に操を立てようとする気持ちがかえって興奮を誘ったのか、
二人の艶技によって昂められた幼い体はあっけなく昇り詰めてしまった。
ぐったり脱力した秋を見て、さすがに悪ふざけが過ぎたと二人は顔を見合わせ苦笑した。

******

「………………」
「………………」

三人がいけない悪戯に興じていた頃。
一方の湯殿は沈黙に支配され、物音どころか雫の落ちる音さえもしなかった。
隣接した女湯からは際どい台詞や嬌声が絶えず響き、否応無しに想像力を掻き立てられるものだから
黙りこくる男たちの表情は硬く、別のところはもっと硬くなっていた。
妙な空気に耐え切れず、ついに曹操が口を開いた。

「しかし何だ……秋の奴も一人前に良い声を出すようになったのう? 淵よ」

話を振られた夏侯淵はいたたまれず茹蛸のようになっていた。
いっその事この場から消えてしまいたかったが、勃ち上がった股間を押さえるのに精一杯で
湯船から立ち上がる事さえ困難だった。
女同士での倒錯した艶事の様子は聞いているだけでも刺激的で、もしここに免疫の無い
徐晃あたりが居合わせたら鼻血の雨が降ったことだろう。

「全くうちの女共はけしからん!憩いの場である湯殿を何と心得ている!」

夏侯惇が眉間に皺を寄せ、苦々しげに言った。曹丕もそれに同意する。

「甄の我侭はいつもの事だが、あれはやり過ぎだ……叔父上の言われる通りだ」
「うむ、こんなけしからん真似は許しておけん。放っておけばますます増長するかも知れん」
「確かに、今も隣で房中術がどうのと騒いでいるようだが」
「これは仕舞いまで聞き届け、後で仕置きをしてやるべきだな」
「我らが風呂から上がれなくなった責任を取らせねばなりますまい」
「ああ、責任を取らせねばな!」

口でまともな事を言っている二人が頭の中で何を考えているかは、華佗に切開手術を頼まなくとも
容易に想像がつく事だった。
おかしな方向に盛り上がる二人を生暖かく眺めつつ、隣の嬌声に耳を傾ける魏王であった。

******

秋は甄姫の胸にもたれたまま少しの間朦朧としていた。
ふにゃふにゃの頭を起こすと、気が付きまして?と甄姫が微笑んだ。

「少しやり過ぎてしまいましたわね」

先ほどの痴態を思い出し、真っ赤に染まった秋の頬に伊珠が冷たい手拭を当てる。
ごめんなさいね、と苦笑する伊珠に、秋はよく分からないまま何となく頷いた。
まるで仲の良い姉妹を見ているようで微笑ましく、甄姫の唇にも笑みが浮かぶ。
三人は少し冷えた体を温めるためそのまま湯に浸かることにした。
湯気と一緒に女の肌の甘い匂いがむせ返るほど湯殿に立ち込める。
皆で小唄を歌ったり、色っぽい話をしたりする中、甄姫がぽつりと誘いを口にした。

「ねえ、伊珠、秋、私付きの護衛になっていただけないかしら?」

二人は顔を見合わせて少し考えたが、伊珠はいつも通りの静かな口調で言った。

「……勿体無いお誘いですが……申し訳ありません、お断りします」
「……そう言うと思いましたわ」

秋も伊珠と同じ答えだったが、甄姫をがっかりさせるのが申し訳なく
何と言っていいものか迷っていた。

「ごめんなさい甄姫殿……あの……」
「宜しいのよ、夏侯将軍のお傍にいたいのでしょう?
わたくしだって、子桓さまから離れるのは辛いですもの……」

甄姫は微笑み、妹にするように秋の頭を撫でた。

「でも、甄姫殿が危なくなったらきっとお助けにまいります!」
「私も秋さまと同じ所存です、お怪我をなさった時はお呼び下さい」
「ふふっ、勇ましい事ですわね、頼りにしてますわ」

二人の護衛と一人の姫君の秘めやかな語らいは続く。
彼女たちは隣で聞き耳を立てていた男達が遂にのぼせて倒れたのを知る事はない。

******

おまけ ある日の夫婦の会話


「我が君……わたくし欲しいものがあるのですけど」
「何だ? 何でも言うがいい。金の簪か? それとも銀の笛か?」
「姉と妹が一人ずつ欲しいですわ」
「……………………………………」
「下さいな、我が君」
「……………………………………」

 

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