そこで眠っていたのは神々しいまでに美しい一人の女性だった。  
髪は長く滑らか、白雪のごとき肌には紅色の紋様がはしる。美しい人の姿をした彼女は狼の姿のときと変わらぬ無防備な寝姿で青草の上にしなやかな肢体を横たわらせ、緊張感の無い欠伸をひとつして見せた。  
高天原に姿の見えないアマテラスを探してやってきたウシワカはそれを見て大きくため息を吐いた。  
「あれほど…………人の姿で無防備に寝るのではないと……」  
ウシワカは呟いて、でも起こさぬようにそっと彼女に近付く。  
傍らに跪くと髪と同じ色の睫毛に縁取られた瞼が僅かに震え、桃色の唇が緩んで微笑みを形作った。その美しさにウシワカはふと、嫉妬の念にかられる。  
「ユー、誰を……」  
誰を、想って。  
ウシワカの指が白銀の髪に触れる。その一房に口付けを落とす。  
もう、我慢がならない。  
初めは白い頬、次は額、瞼、鼻すじ、唇。次々と接吻を施していくと止まらなくなった。  
あえかな白い喉、首筋を吸うと仄かに紅く跡が残る。この美しい神に自分の所有の印が残る。それを思うとぞくり、と背筋が快感に震える。  
「ん…………」  
アマテラスが目を覚ましたようだった。とろん、としたまだ定かではない眼差しで、不思議そうにウシワカを見つめている。  
その頬を両手で掴んで、深く口付けをした。驚いてもがくアマテラスを押さえ込み、息をつく間すら与えずに舌を絡ませる。  
「ふっ、……っ…………」  
苦しさにアマテラスが喘ぐ。夢中だったウシワカはやっとそれに気がついて唇を離した。  
げほげほと咽せて、苦しそうに呼吸を再開するアマテラスを見てようやくウシワカは自分がなにをしたのかに気が付いて蒼白になった。  
 
「…………ミーはなんて、ことを……」  
絶望する。この神が自分に少しは抱いてくれていたであろう信頼や親愛の情を、あろうことか自ら台無しにしたのだ。  
涙で視界が曇った。長い孤独で枯れ果てたと思っていた涙。  
そんな涙をアマテラスに見られたくなくて、顔を覆って背を向けた。涙が止まらない。  
その背にようやく呼吸の落ち着いたアマテラスが近付いた。  
傍らに膝をついて、丸めたウシワカの背にそっと手を添える。  
「アマ……テラス君……申し訳ない、本」  
少ししゃくりあげそうになりながらつっかえつっかえの謝罪を口にして、本当に、と続けようとしたウシワカの唇をアマテラスが塞いだ。今度はウシワカの方が驚きに目を見開く。  
「うしわか、すき」  
唇を離すとアマテラスはそう言って無邪気ににっこりとした。  
…………!  
また背筋にぞくりと快感が走る。愛しさが込み上げる。  
ウシワカは突き上げてくる衝動に再び彼女を押し倒した。そうしてから、それでもまだ、不安になって聞く。  
「本当に、いいのかい?こんな……」  
アマテラスは微笑んで頷いた。ウシワカはまだためらいがちに口付けをしたが、もうそこから先は止まらなかった。  
着物をはだけると首筋から下へ唇を這わせていく。そしてその道筋の端々に鬱血の跡を残した。その数は異様なほどに多く、そのひとつひとつをウシワカは何度も何度も、何度でも、ある種偏屈的なまでに吸った。長い長い年月の想いがそうさせる。白い肌に、所有の印を刻ませる。  
柔らかな乳房にも舌が這い、その突起に暖かくぬめったそれが触れるとアマテラスが声をあげた。ウシワカは突起を口に含む。  
「ぁ…………んっ……」  
執拗に舐め回し、軽く歯をたてると悲鳴のような声があがった。ウシワカはその口を塞ぐようにまた口付けをする。深く、深くえぐるような接吻。  
唇を離すと、アマテラスの顔はすっかり上気して仄かに赤く色付いていた。大きく吐いた息も艶かしい。  
ウシワカは足の間にそっと手を伸ばした。割れ目をなぞるとびくり、とアマテラスが震えて不安そうにウシワカを見上げた。  
「大丈夫、恐くない」  
そう囁いて、アマテラスが閉じようとした足を割り、そこに顔を埋めた。舌で割ると濡れているのがわかった。彼女が感じていてくれたことが嬉しくてそこに音を立てて口付けをする。  
 
「気持ち良いかい?」  
顔を埋めたままで聞いてみる。その息がかかったのかアマテラスが喘ぎ、潤んだ瞳でウシワカを見つめた。  
「ん…………やっ……っぁ」  
奥まで舌を挿れ、動かすとその度に声が上がった。  
固くこりこりとした部分を舐め上げると一際高い喘ぎが上がる。ウシワカはそこを強く吸った。  
「……っあ!」  
アマテラスがびくびくと痙攣したように震えてくたりと力を抜いた。ウシワカは口元を拭うと顔を上げさせ、唇を吸う。  
「……いいかい?」  
耳元で問うと微かに頷いたのがわかった。ウシワカは頷き返して自分のそれをそっとアマテラスの秘所にあてがった。  
くっ、と僅かに腰を進める。と同時にアマテラスの顔が歪む。唇を噛んで、細い手指を握りこぶしにしている。  
ウシワカはその手を上から包むように掴んだ。  
「……大きく、息を吸って」  
耳もとで囁くとアマテラスは静かに息を吸い込んだ。  
吐いて、と言ってその速さに合わせてゆっくりと挿入していく。  
「ぅ…………」  
声を漏らしたのはウシワカの方だった。アマテラスの中は狭くて柔らかくて熱くて、そのゆっくりとした初めの挿入だけで果ててしまいそうだった。  
「っ……あぁ…………全部、入ったよ」  
アマテラスの白い額に口づけして、細く震える躯を抱き締めた。  
「少し……動くよ、申し訳ないが我慢が効かない」  
語尾が震えた。返事も待てずに腰を動かし始める。  
「んっ、あ…………ぁぁあっ……んん!」  
「……ん……っ」  
気がつくと夢中で腰を振っていた。ずっ、と差し入れると彼女の中は何度でもひくひくと震えてウシワカを煽る。アマテラスの白い足の間へ自分の赤黒く猛ったそれがちゅるっ、じゅるっと音を立てて呑み込まれていくその光景も彼を高ぶらせる。  
「あっ、ん……んんっ、、」  
アマテラスが不意にウシワカの肩に細い腕を回した。それではっ、と我に帰って彼は慌てて動きを止める。  
「辛かったかい?」  
彼女はふるふると首を振った。  
「……きもち、いい」  
顔を赤く染めてそういうアマテラスに三度血が頭に昇った。  
「あっ……ん!んっ、、っあぁ!」  
ウシワカは再びアマテラスの奥深くに腰を打ち付けて果てた。  
 
 「うしわか」  
幸せやら自己嫌悪やらでアマテラスに背を向けて横になっていたウシワカを彼女が逆さまに覗き込んだ。着物ははだけたままで、肩に掛っているだけだ。白い乳房にくっきり残る赤い痕に思わずまた下半身に血が集まりかける。  
「ユー……お願いだから着物を着てくれ」  
せめて袂を合わせようと手を伸ばしかける彼を制してアマテラスは額に口づけを降らせた。ちゅっ、ちゅっ、と音を立てて顔中に口づけをする。  
「アマテラス君……?」  
「うしわか、すき」  
最後に遠慮がちにアマテラスは唇を合わせた。軽く、触れるだけの。離れようとした彼女の頭を引き寄せてウシワカはもう一度深く口づけ、抱き締めた。  
「ミーも……愛しているよ」  
アマテラスは幸せそうにわん、と甘い声で鳴いた。  
 

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