旅もそろそろ終りみてぇだ。
最後の筆神もそろっちまったし、国中かけめぐってもどうやら大神サマが手伝えることはもうねぇらしい。箱舟は復活しちまったが、たぶん、そっから先は、オイラがついていけるような場所じゃあねぇ。
……。
どけどけどけェ、道を塞いでんじゃねえや、大神様のお通りだィ!
……とか、いつもみてえに気持ちよく言いてェとこだが、肝心のアマ公を見りゃ、賽の芽の下でグウスカ寝てやがる。
朝から一歩も動いてねえ。旅する気あンのかってんだこの毛むくじゃら。
まあ……アマ公が起きたら、もう、まっすぐヤマトに向かうしかねぇンだろうが。
「べ、別にだから起こしたくねェとか思ってるわけじゃねぇぞ!下手にちょっかい出してまた踏み潰されたら困るってだけだィ!」
オイラが叫ぶと今まで響いていた笛の音がとまって、イカサマ野郎が首を振りながら言った。
「やれやれ、ユーに珍しく考え事をしてたと思ったら。いきなり叫ばないでくれよゴムマリ君。アマテラス君が気持ちよく眠れないだろう?」
「けっ。テメェこそ、この期におよんでアマ公に付きまとうのいい加減にしろィ。ほら、今もうなされてんじゃねーか」
「これはアマテラス君のエクスタシーの声さ。ミーのピロウトークの調べに誘われて、天上の夢でも見ているのだろうね」
やたら幸せそうに言いやがるから、言い返すのもやめた。アマ公の口がもごもご動いてるから、夢の中で何か食ってるんだろう。
「ったく、隣に居る変態のこともしらねぇでのんきに寝てらァ。いたずら書きでもしてやろうかィ」
「変態なんて居たらミーが斬ってるよ。ふ、しかしいたずら書きなんてユーらしいチンケなことを思いつくねえ」
「こ、この野郎、誰がチンケだぁ!?見せてやらぁ、一寸さまの筆技をなァ!」
一閃を描くが、どこかの吸血鬼みてぇに無駄の嵐だった。
「少しはできるようになったみたいだけど、それじゃあミーにはノットクリティカルだよ」
「もうなに言ってるのかわかんねェぞ……」
それでもしつこく円を描く。
インチキ野郎が笑いながら避ける。
「あ!テメェ、避けんな!アマ公がうしろに……」
とぼけた寝顔の上に丸を描いちまった。
きらきら光る粒を巻きながら、アマ公が前回りをして人の姿に変化した。
女の子だった。
「あ、アマ公ぉぉぉぉぉ!?」
まだしぶとく寝ているアマ公に近寄ろうとするが、一歩踏み出す前にインチキ野郎に掴み上げられる。
「ゴムマリ君、知っていたのかい。ユーは、つまり、アマテラス君がだね、ボーイではなくガールであるということを」
「落ち着けテメェ!オイラだって知るかィ。オイナ族じゃあるめェし、まさかアマ公が女の子になっちまうなんて……オイラ、オイラァ」
アマ公が寝返りをうつ。襟がぐちゃぐちゃに乱れて、真っ白な肌が深いところまで見える。
だらしなく半分開いた唇は、夢の中の食物を追うように動いた。何か咥えたそうな舌の動きがちらっとのぞいて見えて、透明な唾液をたらした。
「プフフフフ」
「OK、とりあえずゴムマリ君には退場願うよ。GJ。そしてグッバイ永遠に」
「あぶねえ!」
イカサマ野郎に全力で握りつぶされそうになりながら、その手をすり抜けて、オイラはアマ公のそばに降り立った。