男はガタガタと震えていた。  
地下室の壁には蜘蛛の巣の埃がかかり、唯一の光源である蝋燭の灯火がうずくまる大男の影を写していた。  
今も目に焼きついている恐ろしい光景。吹き飛ぶ大地。瘴気を出す洪水。唸り声が風と共に吹き降ろし、タタリ場と化した平原。  
我は我は我は我は我は!灯りの先端が揺らめく度に罪悪感が、己の浅はかさがぶり返す。  
『イザナギの子孫』。そんなものがいかにちっぽけかを示したかった。ただの人間だと。  
蝋燭も段々短くなり、一瞬だけぼおっと燃えたかと思うと、ふっと消えた。  
「!」  
この男、スサノオは暗闇に耐えかね急いで次の蝋燭をバタバタを取り出して火を着けようとする。明かりが無くては弱り細った神経を  
維持する事が出来なかった。それほどまでに暗闇を恐れていた。  
いつまたあのオロチがやってきて、自分を誘惑してくるのか、それだけは避けたかった。  
ぼっ。  
おぼつかない手つきでやっと火を付けて蝋燭に暖かな光が灯り出す。ほっとする男。しかしすぐさま背後に気配を感じ振り返る。  
「!ク…クシナダ…ちゃん!?」  
クシナダと呼ばれたその人は、部屋の隅にぽつねんと立っており首を傾げる。すらっとした体に白と朱色の着物が暗い部屋に一筋の  
彩となり男に安堵を与えた。  
「どうしたのスサノオ?…まぁ、こんなに汗が沢山吹き出て大変じゃない!ちょっと待ってて。今から体を拭いてあげる」  
そう言うとクシナダはいそいそと上に上がり、すぐさま桶と手拭いを抱えて降りてきた。  
「ク、クシナダ殿…。我は」  
「もうっ!いくら練習頑張っているからって体を壊したら元も子もないでしょ、風邪引いちゃうわ」  
いくら好きな女性とは言え体を拭いてもらうのは気が引ける、と言えずじまいだった。だれる体と呆然とした頭でぐったりした。  
背中を拭かれていると細い指の感触がスサノオに伝う。ふと指が手拭いを離れスサノオの胴に回る。  
「もう…どうして無茶するの…。どこにも行かないでよ」  
突然の事で訳が分からない。クシナダがぐりんとスサノオの体を自分のところに向ける。  
「クシナダ殿!?」  
「ねぇ、よく聞いて。あなたは一人では生きていけないのよ。勿論私もそう。」  
「………」  
「ずっと…ずっと苦しかったのでしょう?…そうよね、周りからの期待と重圧、私もわかるわ。  
 私も美味しいお酒を作ることが出来なかったらどうしようってなっちゃうもの…」  
「そんな!クシナダ殿のお酒は美味なるものぞ!この男スサノオ、イザナギの子孫として保障いたしますぞ!!」  
それは心からの言葉だった。彼女と彼女のお酒にどれだけ心安らげたか。  
「ふふふ、そう思ってくれて有難う」  
「いやはや…」  
「ねぇ、もう二人一緒になりましょう…」  
スサノオはびくりと体を起き上がらせる。彼女の言葉に驚いたのもそうだが、その人から白く細い手が己の肩に掛けられ身を寄り添い、  
黒髪が流れる美しい顔が自分の顔に重なる。  
その至近距離に圧倒され、起き上がった体はそのまま後ろの倒れ込む。それは女が男に乗りかかる様な姿でもあった。  
さっきからの触れ合いで少し反応気味だった一物が、丁度彼女の下腹部に当たっている。  
クシナダがスサノオの手をとり自分の胸にそっと宛てた。  
「そのっ…!それは如何様な戯れをっ…」  
「戯れなんかじゃないわ。私にはあなたが必要であなたには私が必要なのよ」  
男の震える掌を着物を中にすっと滑らせ下まで裂く様に動かし、はらりと解ける女の着物が足元を隠す。  
「…ねぇ、スサノオ」  
 
クシナダの小さな手の平とか細い指が、スサノオの硬くなったモノをやさしく取り出しゆっくりと上下させる。  
温かな体温に握られたにモノはすぐに反応し、ぐんぐんと真上に向かって怒張した。その先端を赤い舌先がちろちろをくすぐると、  
よっぽど我慢していたのかぱたぱたっと彼女の顔にかけられる。  
「くうっ!」  
初めての快感にスサノオはすぐに達してしまった。しかしそれでもモノは収まらず、更なる欲望を求めていたのが己にも分かる。  
「…はあぁっ…スサノオのおいしそうー」  
次にクシナダは下の平を使ってべろべろと大きく嘗め回す。舌の動きにあわせてモノもびくんびくんと硬くなっていく。  
「ク…クシナダちゃん、わ、我はもうー」  
「あら、スサノオばっかり気持ちよくなって。そんなのダメよ」  
意識が吹っ飛びかけているせいか、固意地になっていた殿呼びから普段のちゃん付けでいきかける。  
するとクシナダは再びスサノオに乗りかかり、白い腹から透明な液が垂れる腰をゆっくりと降ろし、右手で一物を添えながら  
生々しくも鮮やかな内臓の穴に入れ始めた。  
「な!そんなのっ!」  
そんなの入らないから止めた方がーと言いたくも、襲い来る自分の欲を掻き消せない。初々しい小さな入り口に隆々とした雄の  
上半分入ってクシナダの腰は止まった。  
「すっごい…大きいのね…」  
「……」  
そう言われてスサノオの腰は疼いた。今すぐ押し倒したい。押し倒して愛しい女性を掻き抱きたい。でもそれをしてしまうと  
今までのような関係が無くなってしまうかもしれない。ギリギリのところでせめぎ合っていた。  
「…いいのよ…そのままゆっくりしていて…」  
その部分をクシナダは激しく動かした。離れないように両手をスサノオの体に当ててゆっさゆっさと揺らす。  
くっついた部分からはぬちゃぬちゃといやらしい音が聞こえ、それがより中の動きを加速させる。  
「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」  
「あんっあんっ…ーうぅん…あぁん」  
段々激しくなるにつれクシナダの腰が一気に深く下まで密着した。すると今度はがっちりと食い合い、火照った白い体が  
不摂生で弛んだ体にねっとりとくっつく。滑らかなもち肌が黒々と渦巻く胸毛に絡みつき、それが尚更卑猥に見える。  
動かす隙間も無いと思えるほどに張り詰めた男根を咥え込んだクシナダの腹は、まだ足りぬとばかりに子宮をうねらす。  
がっちゅっがっちゅっがっちゅっがっちゅっ。  
こんな締まりの無い筋肉をクシナダちゃんに見られたくは無かった…。そう後悔しても下腹部に集中した熱が一気に放たれようとする。  
「も、もうダメだ〜!…くっ!!」  
「ああっ…中に出してぇ」  
瞬間、ビクンと大きく腰が動いた。男の精は女の中にありありと注ぎ込まれた。それでも行き場の無い白い液が繋がったところから  
溢れ出てくる。スサノオのモノはいまだ張り続けている。与えられた欲望にとても素直なのが性なのか、まだ肉体を欲している。  
 
「…すまぬ、クシナダ殿…我は…まだ、その…」  
「いいのよ、何度でも、飽きることなく、何時までも、一緒にずっとこうしてましょう」  
何だろう…違和感が…やわらかくも湿り気のある…似た様な生き物を我は知っているー  
「愛しているわ、スサノオ」  
スサノオに接吻をしようと顔を近づけた時、薄い唇から垣間見えた赤い先割れの舌ー!  
「!?お前はオロチか!!」  
刹那、クシナダから飛び起き離れようとするスサノオ。  
しかし体ががっしと動かない。気が付けばクシナダが目の前を含めて八人居るではないか!八人が周りを囲み掴んで離さない。  
「どうしたのスサノオ?」  
「あなたはコレがお好きなんでしょう?」  
「気持ちよかったでしょう?」  
「この女を自分のものにしたいのでしょう?」  
「それなら簡単よ」  
「我と一緒にナレばイインだわ」  
「我トオ前ノ血ガ交ワレバ」  
「廻天乃血盟ハ叶ウノダ!」  
鬼灯の様な目をぐりぐりと回してゆっくりと腰を離れさせると、クシナダの姿をしたモノはその腹の穴から白濁とした汁を垂れ流し、  
穴が裂けて血と内臓がボタボタと落とし引き摺りながらスサノオに近づいてくる。  
スサノオが眼前の凄惨な悪夢に失神した時、オロチは喚起の声を叫んだ。  
 
『愛シテイルノダゾ、イザナギノ子孫ヨ!!』  
 
 
時同じくして神木村。いまだこの村は石化した暗い風景画広がっていた。  
つい先程、謎の唸り声が辺りを木霊していた。  
「ヒイイィ!!何でい!この唸り声は!?オイアマ公。どっか高いところに行って見ようぜ」  
 
彼が真の悪夢から開放されるのはまだ大分先の話だ。  
 

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