袴田豊は今もどよめき続ける体育館の片隅でがっくりと肩を落としていた。  
「はぁ……」  
準決勝での敗戦。  
高校生活最後の個人戦を前にコンディションもこの上ない良好な状態だったが、  
佐鳴高校のポイントゲッターと認知されている豊でさえ、  
『彼』にとっては相手不足だったようだ。  
「くそっ……藤田のヤロー……」  
中量級の優勝候補に挙げられる三工の藤田に善戦したものの、  
集中力と技術の違いを見せつけられた豊は、激しい虚脱感に見舞われていた。  
今回の大会に対する思い入れは相当なものだっただけに、  
悔やんでも悔やみきれないほどの自責の念が彼に伸しかかってくる。  
決勝に進むために、藤田はどうしても超えなければならない壁だった。  
すでにその名を全国区に轟かせている彼が相手であっても、  
豊は自分の力を持ってすれば必ず勝てると信じていたのだ。  
いや、勝たなければならなかった。  
先に決勝進出を決めていたヤツと戦うためにも…。  
 
「豊クンっ!」  
ふいにかけられた弾むような声に、豊は思わず顔を上げた。  
そこには綺麗にまとめられたポニーテールを振りながら、  
男子の個人戦大会にはあまり見かけられない女子生徒が立っていた。  
「さっ、桜子サン!」  
その人こそ、豊がずっと想い続けている海老塚桜子。  
愛らしい容姿に溢れんばかりの元気を持ち合わせた、  
見ていてとても好感の持てる女の子だ。  
「えっと……試合終わったばっかりで疲れてるだろうと思ったんだけど、声かけたくて。  
 見てたよ、さっきの試合」  
「そ、そう……」  
豊は負けた自分を見られていた気恥ずかしさに再び顔を伏せた。  
穴があったらすぐさま跳びこみたい心境だったが、  
桜子に会えたという嬉しい現実がそれを打ち消していく。  
「残念だったね……でも豊クンが決勝進んでたら私が困っちゃってたかも」  
「え?」  
「ほら、そうなってたらウチの巧クンとやることになるじゃない?  
 どっち応援すればいいのか迷っちゃうよね」  
 
そうなのだ。  
決勝へ進めば、彼女のいる浜名湖高校最強の粉川巧と戦えたのだ。  
藤田と謙遜ない実力を持つ彼と戦うという目標こそが、  
ここまで豊のモチベーションを保っていた。  
ましてや、粉川は少なからず因縁のある相手だった。  
彼が桜子と何の関係もないことはすでに理解していたが、  
それでも豊の中では気にかかる存在であり続けていた。  
粉川が同じ階級に上げてきてから、ずっと思い描いていたことが  
今日こそ叶うと信じていたが、それも最後の最後で断たれることとなってしまった。  
「あ、でも巧クンにはウチの応援団がいるからなぁ。  
 私だけこっそり豊クンの応援してもバレなかったよね、きっと」  
始終笑顔で話しかけてくる桜子に、豊もつられて笑みを浮かべている。  
試合で敗れた直後の心情は同じく柔道に身を投じている理解できているのだろう。  
懸命に励まそうとしてくれる彼女の気遣いが、豊にはとても嬉しかった。  
「ねぇ豊クン、ちょっと外に出ない?」  
顔を近づけて伺いを立ててきた桜子に気圧されるように豊が身を反らす。  
そんな豊の返事を待たずに、桜子は彼の手を握った。  
「あ、さっ、桜子サン!」  
「いいから! ちょっと外の風に当たりに行こうよ!」  
桜子の強引な申し出を断り切れず、豊の腰が浮く。  
今だ汗の引かない身体を引きずるように、それでも握られた手の感触に踊る心を  
必死に押さえながら、豊は複雑な気持ちで桜子に続いた。  
 
「中にいるよりは涼しいよね」  
桜子が両手を組んで、まだ高い太陽に向けて伸ばす。  
昼食には遅すぎる時間となった今では、体育館のすぐ横にある公園も人影はまばらだった。  
軽い風が柔道着の隙間から差しこんできて、豊の身体をひんやりと包みこんでいく。  
「負けちゃったのは悔しいだろうけど、豊クンも頑張ってたと思うよ。  
 あの藤田クンといい勝負してたじゃない」  
熱気が引いていく身体と比例するように冷静になっていく気持ちの中、  
豊は黙って桜子の言葉に耳を傾けていた。  
「しょうがないよ、相手は『超高校級』なんだからさ。あのヒトはもう怪物だね、怪物!」  
おどけて言う彼女の姿を目で追いながら、豊は眉を上げた。  
いつもの明るい調子で喋り続ける桜子に、心のモヤモヤも次第に薄れていく。  
「ま、柔道以外じゃ豊クンの圧勝なんだから。  
 1つぐらい勝たせてあげたっていいでしょ、アハハ」  
「えっ?」  
「え?」  
 
豊の驚きの声に、先を歩いていた桜子が振りかえる。  
特に深い意味を込めてそう言ったのではないだろう。  
だが桜子に好意を持っている豊にとって聞き逃せない発言だった。  
きょとんとした表情で見つめてくる彼女を視中に収め、  
頭の中でリフレインを続けるさっきの言葉を反芻する。  
(こ、これってもしかしてチャンスか?)  
人気のない公園に、穏やかなムード。  
恋愛に関しては奥手な豊でも気持ちを伝えられそうな空気が漂っていた。  
それでもこれからの行動を想像してか、豊の周りの空気は次第に緊張味を帯び始める。  
血液が集まり出した顔を変色させながら、豊はぎこちなく口を開いた。  
「さ、桜子しゃん!」  
「な、なに? 豊クン」  
勢いのまま、震え出す手で桜子の肩をぐっと掴むと彼女もさすがに驚いたようで、  
大きな目をさらに見開いて豊を捉える。  
「い、今の言葉に…ふ、深い意味はあるんでしょうか?」  
「え? 今のって?」  
 
「あ、あ、圧勝がどうとかなんとか…」  
挙動不審な豊に怯みながら、桜子が宙に視線をさまよわせて記憶を遡らせる。  
やがて思考が追いついたのか、表情がはっとしたものになった。  
「あ、や、やぁだ豊クン! ありゃ場の勢いってモンで…」  
「さ、桜子サン! お、お、俺は……っ」  
「え? え?」  
桜子の肩を掴む豊の手にぐっと力がこめられた。  
顔を赤らめる彼と伝わってくる緊張に、桜子の身体が強張る。  
「ちょ、ちょっと、豊クン?」  
「き、君が……」  
自分の気持ちを言い伝えないうちに、こらえきれない想いが桜子の身体を抱き寄せた。  
目を白黒させながら、体格のいい豊に抱きしめられた桜子が困惑する。  
「わ、わぁっ!!」  
腕の中にある確かな感触が、溜まった桜子への想いをさらに増幅させていく。  
堪え難い衝動が目を覚まし、公園の中という現実を忘れさせてしまうほどに  
豊の頭の中は桜子で占められていく。  
 
「ゆっ、豊クン!?」  
「いっ……嫌なら言ってくれていい……っ」  
喉から出そうなほどに暴れる心臓を押し止めながら豊は一言そう断り、  
桜子の細い首筋に顔を押し付けた。  
「なっ…!」  
鼻を鳴らしながら懸命に桜子の匂いで鼻腔を満たし、  
豊は恐れ多い気持ちを抱えながらそっとその白い首筋に舌を這わせた。  
「あっ!」  
彼女を抱きしめていた両腕はその力を増し、服越しに伝わってくる鈍い身体の感触に  
満足できなくなってきたためか、豊の片腕が桜子の背筋をなぞり出した。  
「ゆ、豊クンっ!!」  
「……嫌なら突き飛ばしてくれて構わない……」  
治まりを知らない情欲は最早自分自身で制することができないほどに強大なものになっている。  
今の豊を押さえられるのは、その欲望をぶつけられる対象からのシャットアウトしかない。  
桜子が思いきり平手でも見舞ってやれば良かった。  
だがこの状況が、以前から薄々伝わってきていた豊の気持ちに対する返答を  
保留していた結果なのだと思うとそう簡単に手を出せないと考えてしまう。  
豊のことは嫌いではない。  
ここで突き飛ばしてしまえば、それは2人の関係の終焉を意味するだろう。  
「い、嫌とかそういう問題じゃなくって!」  
 
「桜子サン……ずっと好きだったんだ……」  
「豊クン……」  
背を這いまわる豊の手に嫌悪を感じないのは、  
気づかないうちに桜子の中でも彼の存在が他の男とは一線を画していたからだと言えるだろう。  
しかし公共の場で見る者を不快を与えるような行為に及ぶのはさすがに気が引けた。  
「こ、こんなとこじゃさすがにヤバと思います!」  
「え……あ……!」  
真っ赤になりながら告げる桜子に言われて、豊はようやく自分達の状況を思い出した。  
我を忘れて桜子の身体を貪っていた自分を恥じながら、  
しかしそれでも鎮まらない心の疼きを押さえたいという欲求に従って、  
ここへ連れてこられた時とは逆に今度は桜子の手をとり公園の隅に位置していた  
公衆トイレの裏へと足早に向かっていった。  
 
「い、いいのかなぁ……」  
身体を弄られながら桜子はそう自問した。  
いつもの調子できっぱりと物を言えないのは、豊の自分に対する実直な想いが解るからだ。  
人目につかない公衆トイレの裏で先ほどと同じような態勢をとった豊の手が、  
桜子のお尻へと伸びる。  
「あっ……!」  
「ご、ごめん」  
敏感に反応を示した桜子に驚いたように豊の手が引かれた。  
この状況まで強引に引っ張ってきておいて、今だ遠慮を見せる豊に桜子が苦笑いを浮かべる。  
「あ、謝るんなら最初からしないでよ、もう……」  
「え? い、いいかな……」  
「ちょ、ちょっとだけだから……じょっ……常識の範疇でなら、ゆ、許そうではないか」  
顔見知りの異性に身体を触れられるという不思議な感覚に戸惑いながらも、  
桜子ははっきりとした拒絶の態度を見せない。  
調子に乗った豊の手が形を確かめるように桜子の臀部をスカートの上から撫でまわす。  
やや小さく思えるが、尻肉の締まったヒップはきゅっとその双臀を押し上げて存在を示していた。  
桜子のお尻を触っているという信じ難い現実に眩暈すら覚えながらも、  
豊の手は夢中になって尻肉を揉み摩り続けている。  
 
「ゆ、豊クンって意外とエッチなヒトだったんだね…」  
「ダ、ダメかな……」  
「…………ちょっとビックリしただけだよ」  
マッサージをするように這いまわる豊の手に身を委ねていると、  
もう片方の彼の腕が制服の上から胸元に伸びてきた。  
「んっ」  
臀部に触れられた時と同じように桜子の口から困惑の声が漏れたが、  
今度は豊の手は引かれなかった。  
いや、桜子の胸の感触の心地良さに引けなかったのかも知れない。  
制服の上からではあったが、しっかりとした女性特有の柔らかさを伝えてきた  
桜子の胸に豊の欲望が一気に沸点へと辿り着く。  
「こ、これが……」  
「あ、こらっ、そんなに強く揉まないでっ……」  
興奮のためか震えさえ同伴しながら動く豊の手を桜子が嗜める。  
しかしそんな哀願も豊には届かず、ついには彼の両手が桜子の胸を捉えた。  
「うっ……ん……」  
「さっ、桜子サン、く、苦しい?」  
「そっ……そんなことないけどさ、なんかヘンな感じ……」  
 
気分を害していないことが解り、豊の手の動きがさらに激しいものへと変わっていく。  
豊の大きな掌にちょうど納まるぐらいの慎ましやかなものではあったが、  
それでも服越しに伝わる柔らかさは他の何ものにも例えることができないぐらいに  
豊の神経を刺激し続けてくる。  
「あっ……、っ・……」  
「ど、どんな感じがする?」  
「そ……ん、そんなこと言えないって……ぁっ」  
桜子の声に艶が混じっているように聞こえて、豊の動きがエスカレートしていく。  
触れば触るほどに反応を見せる桜子に気分はますます高揚し、  
豊の手は長いスカートを無造作にめくりあげ、彼女の純白のパンティを露わにして見せた。  
「ちょ、ちょっとちょっとちょっとぉ!」  
「ハァ、ハァ……!」  
狙いを定めていたが如く、豊の手が桜子のこんもりとした股間の土手に触れた。  
むわっとするような熱気が掌に伝わり、彼女の気持ちの昂ぶりを思わせてくる。  
「やっ……豊クンっ、そりゃちょっと行き過ぎぃ……!」  
身体を密着させ、桜子の頬を唇で吸ってくる豊はすでに常軌を逸しているようにさえ見える。  
次から次へ脳内を刺激する想い人の甘い声と仕草は、純情な彼の理性を奪うには充分すぎた。  
 
「あっ……、ねぇっ……豊クン、ヤバいよぉ……!!」  
「桜子サンのここ、すごく熱くなってるっ……」  
「はぅっ、んんん!!」  
豊は揃えた指先を引き締まった脚の付根に回し、  
彼女の下着の中にこもる熱気ごと掌で持ち上げた。  
かすかに湿り気を帯びているように感じる下着ごと、  
秘められた部分の感触を確かめるように揉んでみる。  
「いッ……!?」  
他人に大事な部分を触れられるという初めての感覚に、桜子の背筋が伸びた。  
火を噴かんばかりに紅く染まった豊の顔に、とんでもないことをしている自分に改めて気づく。  
震えあがってしまうほどに大きな羞恥が桜子を襲い、同時に恐怖を発生させ始める。  
身体を支配する未知の感覚に本能が警鐘を鳴らし、  
これ以上の刺激は自分にとって危険だと訴えかけてくる。  
「ダ、ダメ豊クン、ちょっとタンマ! タンマ!」  
「ここまで来てもう後には引けないよっ……桜子サン!」  
息を荒げながらそう告げる豊の瞳孔は開き切っていた。  
今の豊に身を任せたらどこまでいくか解ったもんではない。  
普段は勝気で男まさりな桜子も、さすがに『初めて』は良いムードの中で進めたいと  
考えていた。それはおよそ想像のつかない遠い未来のことだったが、  
少なくともこんなレイプまがいな状況の中では、進んで身体を許す気持ちにはならなかった。  
例え相手が豊でも、だ。  
「ダメ、いやっ!!」  
「この邪魔な下着をっ……」  
慎ましやかなパンティを握るように掴み、そのまま剥ぎ取ろうとした豊に桜子の身体が反応した!  
「このっ……! 豊クンッ!!!」  
 
 
コキ――――ン☆☆  
 
 
「おぐっ……!!」  
悲痛な呻きを残して、豊の身体がゆっくりと沈んでいく。  
激痛に泣く股間を押さえ、なんとも形容し難い姿勢のままうずくまる豊に  
桜子は複雑な視線を送っていた。  
「……らしくない! らしくないよ豊クンッ!!」  
憤りとも羞恥とも取れる赤面を見せて、桜子が口を開く。  
「もっと、もっと相手の気持ちも考えて!」  
「さ……桜子……サン……」  
そう言い放つ桜子を悲しげな瞳で見上げながら、  
豊は彼女の強烈な一撃に涙さえ浮かべている。  
「女に優しくない男は最低だよ! そこで頭冷やしなさいっ!!」  
大股で去っていく桜子を追いかけることもできずに、  
豊は股間の痛みをただ歯を食いしばって堪えている。  
彼の頬をつたう涙は、自分の身体から出て行かない鈍痛によるものか。  
彼女の温もりを前に自制できなかった自らのひ弱な精神力を思ってか。  
彼女のことを思って悶々とする日々は終わりそうにない……。  
 
 
                完  
 

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