「ぷっ。あっはっは・・・」  
 
やっぱりデートの後、杉くんの部屋に寄って良かった。  
私の部屋まで帰ってたら間に合わなかったもの。  
お気に入りのテレビ番組を見ながら私はしみじみそう思っていた。  
それにしても、どうして杉くんの部屋はこんなに居心地が良いんだろう。  
最近では自分の部屋よりも落ち着く気がする。  
その上、杉くんの部屋には必ずと言って良いほどお菓子の買い置きがあるのだ。  
別所さんに、  
 
「気に障ったらごめんなさい…。海老塚さん、最近少し太ったんじゃないですか?」  
 
と控えめに言われて以来、部屋に一切お菓子を置かないよう心に決めている私。  
ま、こうやって杉くんの部屋で食べてれば同じなんだけどね…。  
いいもん、明日から少しトレーニングのメニューを増やすから。  
 
TV画面がCMに切り替わった。ベッドに寝ころんだままの体勢で少し辺りを見回す。  
リモコン、リモコン…。身体を起こして探索範囲を広める。  
 
「おい」  
 
背後から声を掛けられる。  
振り返ると部屋の主である杉くんがリモコンを手に私を見ていた。  
 
「あ、それそれ。さっすが杉くん」  
 
しかし、手を差し出した私に与えられたのはリモコンではなく、デコピンだった。  
 
「痛っ…ちょっと!何すんのよっ!」  
 
赤くなっているであろう額をさすりながら私は杉くんを睨み付ける。  
 
「お前が悪い」  
 
杉くんはそう言うとまた、ぷいっと背中を向けてしまった。  
リモコンを持ったまま。  
その背中にははっきりと「不機嫌」と書いてあり、さすがの私も少し不安になった。  
 
(あれ?私、なにかしたっけ…?)  
 
約束の時間に現れない杉くんを置いて1人で映画を観に行っちゃったのは先月だし、  
飲みに行った時、逆隣のおじさんと意気投合して2軒目にも一緒に行こうとしたのは  
そのさらに前の月だ。  
その時は確かにちょっと喧嘩になったけどまさかそんな前のことをまだ怒ってるわけじゃないよ、ねぇ…?  
 
「杉くん?」  
 
返事なし。  
 
「ねえ、杉くんってば」  
 
これまた反応なし。  
私は仕方なくベッドから下りると杉くんの背中ににじり寄った。  
 
「ねぇ、どうしたの?」  
 
身を乗り出してムスッとした顔を覗き込んでみる。  
 
「うわっ!」  
 
と大袈裟に声を上げられた。  
「うわ」とは何よ。可憐な乙女に向かって。  
少しムッとした私の気持ちに気付いているのかいないのか、  
杉くんはすぐにまた「俺は不機嫌だ」光線を発しながら私を睨み付けてくる。  
負けじと私は杉くんの目を睨み返した。  
 
(…こうして間近で見ると杉くんってやっぱり結構格好良いよね。)  
 
好みの差はあれど、造作は整っている方だと思う。  
本来の趣旨を忘れて私はまじまじと杉くんの顔を観察してしまった。  
 
これだけの至近距離で見つめ合うのも初めてだな、と思った途端、何故か少しドキドキしてきてしまった  
うーん、どうやって目を逸らそう。でも逸らしたら「負け」って気がして少し悔しい。  
私がそう思い始めた頃、フッと杉くんの視線が緩んだ。彼が呆れたような口調で  
 
「…男心のわからんやつだな」  
 
と呟く。私は反射的に  
 
「はぁ?何それ」  
 
と言い返していた。  
確かに私は少し鈍い方かもしれないけど、杉くんだってそれほど「女心」を理解しているとは思えない。  
いや、「女心」って何だよ、と聞かれちゃったら私も何て答えて良いか分からないけど…。  
 
まぁ、何はともあれ、とりあえず口を利いてくれたから良し、としよう。  
無視されるのが一番困るもんね。  
時々杉くんはこんな風にいきなり不機嫌になる。  
気にならないわけじゃ勿論ないけど、原因が分からないので私もどうすればよいのか分からない。  
言いたいことがあるなら言ってくれれば良いのにな。  
まぁ、今日もいつものように少しそっとしておくのが良いだろう。  
私はそう結論づけて杉くんの手からリモコンを取り上げる。  
拍子抜けするほどあっさりと奪うことが出来た。  
見ると、さっきまでの「不機嫌」光線が弱まり心ここにあらず、な状態になっている。  
 
(変なの…)  
「じゃ、これ借りるからね?聞いてる?」  
 
呆けている杉くんに向けてリモコンをかざして軽く振ってみる。  
反応がない杉くんを置いてけぼりにして私はベッドの上に戻った。  
 
(え〜と、この時間は確か…)  
 
お目当ての番組を探してチャンネルを次々と変えていく。  
見つけた!と思った瞬間、リモコンが私の手から消えた。  
 
「え?」  
 
驚いた私が上を見上げるのと、部屋の中から音が消えるのが同時だった。  
私からリモコンを奪った杉くんがテレビの電源を切ったのだ、と気付いたときには  
リモコンはテーブルの上に置かれていた。  
コトン、という無機質な音が静かな部屋に妙に響いた。  
振り返った私に降り注がれたのは杉くんの冷たい視線だった。  
そのまま背中を向けられた。  
 
(え?嘘…。本気で怒ってる?)  
 
「な、何よ。怒ってんの?」  
 
間抜けな質問をしてしまう。誰が見たって杉くんが怒っているのは明らかなのに。  
私は慌ててベッドから飛び下りた。  
 
「ねぇってば…」  
 
突然振り返った杉くんに強い力で引き寄せられ、あっという間に抱きすくめられた。  
 
「杉くんっ…!?」  
 
最後まで言うことは出来なかった。  
強引に上を向かされ、私の唇は杉くんの唇に塞がれた。  
 
「んんっ!?」  
 
慌てて杉くんの胸を押し返そうとしたが杉くんの身体はビクともしなかった。  
さらに強く引き寄せられ、唇に唇を割り込ませるように乱暴にキスされた。  
頭の中が真っ白になる。何が何だか分からなくて私はただただ呆然とした。  
息苦しくなってわずかに開いた隙間から杉くんの舌がねじ込まれた。  
我に返った私はなんとか逃げようともがいた。  
そんな私をあざ笑うかのように杉くんの舌が私の口の中で泳いだ。  
強引に舌先を絡め取られ卑猥な水音が耳の奥で響いた。  
身体がカーッと熱くなるのが分かった。  
やっと唇が解放された。  
お互いの唇から糸が一筋伸び、ポタリと落ちた。  
杉くんの腕がわずかに緩んだ隙に私は杉くんの身体を思い切り突き飛ばした。  
 
「…最っっ低!」  
 
私はありったけの大声でそう叫んだ。  
さっきまでの激しいキスで息が上がっている。  
体中の血が頭に集まったような気がして頭がくらくらした。  
そのまま腰が抜けたように私は床にへたり込んだ。  
肩で息をする私を杉くんは黙って見下ろしていた。  
今すぐ、ごめん、と謝ってくれれば許してあげる。  
そんな祈りにも似た気持ちで私は彼を睨み付けた。  
が、杉くんは黙ったままだった。  
 
先に根を上げたのは私の方だった。  
こんな杉くん、私は知らない…。  
私が知っている杉くんは、バカやったり、笑い転げたり、たまにくだらないことで  
喧嘩したり、でもいつも一緒にいてくれた、「高校生」の杉くん。  
そして、今目の前にいて私を見下ろしている杉くんは紛れもなく「男の人」だった。  
私はその時になってやっと、自分が「女」で彼が「男」だという本当の意味を理解した。  
その瞬間、抱きしめられたときの腕や、押しつけられた広い胸、かすかに感じた香水の匂い、  
痛いくらいに熱く感じた唇なんかがまざまざと思い出され、身体が再び熱くなった。  
 
「あたし、帰る!」  
 
一刻も早くここから逃げ出したかった。杉くんが、途端に怖くなった。  
玄関に向かおうとする私の手を杉くんが掴んだ。そのまま強く引っ張られる。  
ただでさえ足下のおぼつかなかった私はあっさりと尻餅を付いた。  
そのまま床に組み敷かれる。  
 
「えぇっ!?ちょっ!…んむっ…」  
 
私の抗議の言葉を飲みこむように再び深く口付けられた。  
何とか逃れようと身体をよじるがすべての抵抗が無駄だった。  
元々杉くんと私では体格差がありすぎるのだ。  
フワッと何かが緩められる感覚がした。  
杉くんの指に絡んだゴムを見て、私はポニーテールを解かれたのだ、と分かった。  
唇を開放した杉くんが耳元で  
 
「最低で結構」  
 
と囁いた。熱い吐息が耳に触れ、私は思わず身震いした。  
 
杉くんの熱い唇が耳元から首筋を伝い動いた。  
 
「ん…!」  
 
首筋にチリっとした痛みを感じた。  
すぐに熱く濡れた舌が慰めるようにその部分を撫でた。  
ぞくぞくとした感覚が背中を伝う。  
ツーっとそのまま舌が動く。動きは胸元で止まった。  
 
「バッ、バカッ!やめろケダモノぉっ」  
 
「そのケダモノの部屋でのんびりくつろぐほうがどうかしてるぜ」  
 
動きを止めることなく杉くんが答える。  
何とかして動きを止めようと私は無駄な抵抗をし続けた。  
しかし、私の力では杉くんを退かせるどころか、腕一本押さえることが出来なかった。  
やがて、杉くんの手がスカートの中に入り込み、太股に触れた。  
唇や舌に比べるとその手はとても冷たくて私は思わず声を上げる。  
そのままゆっくりと上に上がっていく手の動きが私の恐怖心を煽った。  
 
「ねぇっ、や…っ…」  
 
私の訴えを無視した杉くんは空いた方の手でシャツのボタンを外しにかかった。  
1つ、2つ、とボタンが外されていくのがまるでスローモーションのように感じられた。  
杉くんの腕を掴んでいた両手をのろのろと外し、私はゆっくりと顔を覆った。  
すっかり視界が隠れてしまうと、涙がどっとあふれ出た。  
こんなのはイヤ。こんなのはイヤだよ、杉くん…。  
杉くんの動きが止まった。  
名前を呼ばれたが私の声は喉に絡まり音にならなかった。  
 
 
「ごめん…」  
 
かすれた声がした。  
 
「…許すかバカ…」  
 
やっとの思いで声を絞り出した。身体の上から杉くんの重みが消えた。  
私は顔を覆った姿勢のまま、動けずにいた。  
何だかひどく疲れてしまっていた。  
ただ、涙だけが飽きもせずに流れつづけた。  
重い沈黙がどれくらい続いただろう。  
 
「…でもよ、言っとくけど俺は何もいじわるでこんなことやってんじゃないんだぜ?」  
 
低い低い声で杉くんがそう呟く。  
 
(じゃぁ、どんなつもりだっていうのよ!)  
 
普段の私だったらそう言い返していたかもしれない。  
でも、その時の私にはそんな気力が残っていなかった。  
顔を覆ったままの姿勢で黙っていると、杉くんが言葉を続けた。  
 
「…お前が好きだからだ。だから抱きたい」  
 
(…え!?)  
 
私は思わず顔を覆っている両手を離して目を開けた。  
杉くんは私に背を向ける形でうなだれていた。  
耳だけが、真っ赤に染まっているのが見て取れた。  
 
(今、好き、って言ったよね…?)  
 
杉くんの口から初めて聞いた「好きだ」という言葉が頭の中をぐるぐる回った。  
 
そりゃ、私たちがいわゆる「お付き合い」をするようになったのは杉くんが『告白』をしてくれたからだ。  
でもその『告白』はとても曖昧で要領の得ないものだった。  
「えーと…」とか「あ〜、くそっ!」とか、意味のない言葉を散々繰り返し、しまいには  
「お前は何でそんなに鈍いんだ!」と逆ギレされた。  
最後の最後に蚊の鳴くような声で  
「昔から俺はお前が気になってたんだよ…」  
と言われた。私は思わず「嘘!」と叫んだ。  
 
(え?どういうこと?それってつまり…。杉くんが私のこと好きってこと?!)  
 
そう思った瞬間、私はそのままの台詞を声に出して叫んでいた。  
 
「バカタレ!でかい声で言うんじゃねぇ!!」  
 
そして私は真っ赤な顔の杉くんに強烈なデコピンをくらわされた。  
その後も言葉の端々や態度で何となく気持ちは分かったつもりでいたけれけど、  
こう、誤解のしようのないストレートな言葉を言われたのは本当に初めてだった。  
 
(そっか…。ちゃんと杉くん、私のこと好きでいてくれてるんだ…)  
 
強ばっていた身体からゆるゆると緊張が解けてくるのが分かった。  
それと引換えにふつふつと怒りがこみ上げてきた。  
 
「…あたしだって…。  
 あたしだってこれでも一応女なんだからねっ!」  
 
気付けば私は怒鳴っていた。  
 
「そりゃ高級ホテルのスウィートで夜景を眺めながら、なんて贅沢は言わないけど!  
 あたしだってその…初めて…くらい、人並みの願望はあるんだからね!  
 それを何?こんな無理矢理…まるでゴーカンじゃんか!  
 好きならなおのこと順序ってもんがあるでしょーが!  
 前々からケダモノだとは思ってたけど、ホント、最っっっっ低!!」  
 
一気にまくし立てたので軽い酸欠状態になった。  
私は肩でゼーハー息をして何とか呼吸を整えようとした。  
大声に驚いたのか内容に驚いたのか、杉くんが唖然とした顔で私を見ていた。  
 
「…悪かったよ」  
 
私はプイッと顔をそむけた。  
再び長い、長〜い沈黙が訪れた。  
 
「…いいよ、しても」  
 
私はいつのまにかそう呟いていた。  
沈黙に負けたわけじゃない。断じてそうじゃない、と思う。  
ものすごく恥ずかしいのを我慢してやっとの思いでそう言った。  
なのに、なのに!!  
そんな乙女の一大決心はこの大バカ者には伝わらなかった。  
 
「のっ、のど渇かねーか?」」  
 
杉のバカはそんな調子外れのことをチューニングの外れた音程で言った。  
 
「…バッカじゃないの?」  
 
女の子がこんなに恥ずかしい思いをしているっていうのに!  
 
「バカ!サイテー!信じらんない!」  
 
私は手当たり次第にその辺にあったもの(主にクッションだけど)を杉のバカに  
投げつけた。  
リモコンを投げつけようと腕を振り上げたところを杉くんの手に押さえられた。  
パッと振り払って(今度はあっさりと手を離してくれた)そっぽを向く。  
不用意に触らないで。  
あんたは無意識かもしれないけど、私はそれだけで心臓が飛び出しそうになるんだから。  
(バカバカ、サイテー、鈍チン、ケダモノ、無神経…)  
思いつく限りの罵声を心の中で彼に浴びせる。  
 
「落ち着けって。謝るからさ…」  
 
フワッと後ろから抱きしめられた。  
杉くんは耳元でそう囁くと優しく髪を撫でた。  
指がそっと顎に触れて、導かれるままに上を向いた。  
柔らかくて温かいものに唇を塞がれた。  
 
「ん…ふぅ…」  
 
啄むように軽く何度も何度もキスを繰り返した。  
触れるだけのものから徐々に深くなっていくそれを受けとめた。  
唇を重ねたまま体の向きを変えられ杉くんの腕が背中に回された。  
さっきと違い、逃げようと思えばいくらでも振り払えるくらいの力。  
私は逃げる代わりに行き場の無くなった自分の腕を杉くんの背中に回した。  
杉くんの舌先が唇に触れた。私はおそるおそる彼の舌を受け入れた。  
思わず身体がピクンと跳ねた。  
そんな私を宥めるように杉くんの手が優しく私の背中をさする。  
私は何となく安心して行為に溺れて行った。  
気付くと杉くんの指がシャツのボタンに触れていた。  
 
「ねぇ、ちょ、ちょっと待ってよ!」  
 
慌てて杉くんの手を押さえる。  
 
「なんで?」  
 
「なんでって…」  
 
上手く言葉が出てこない。もじもじしている内に残っていたボタンを外された。  
 
「や、杉く…!」  
 
唇を塞がれ、その間にシャツも剥ぎ取られた。  
杉くんの手が背中に回り、ブラジャーのホックを探る。  
さっきはあんなに冷たかったのに、今の杉くんの手はとても温かかった。  
 
(不思議。さっきのも、今も同じ杉くんなのに…)  
 
そんなことを言えば重ねられた唇だって抱きしめてくる腕だって押し当てられた  
広い胸だって、さっきとは全然違って感じられる。  
変わらないのは、より強くなった香水の香りだけだ。  
 
(杉くん、なに付けてるんだろ…?いい匂い…)  
 
「ちょっとタンマ!ね、シャ、シャワー!シャワー貸して!」  
 
私の必死の訴えを彼は  
 
「今故障中」  
 
の一言であっさりと切り捨てた。  
 
「う、嘘つきぃ!」  
 
家を出てくる前にシャワーは浴びてきたけど、あれから少し汗かいちゃってるのに…。  
 
「ねぇ!」  
 
「…今度は何だよ!」  
 
少し呆れた声で杉くんが聞き返す。  
 
「…こんなとこじゃやなんだけど」  
 
ベッドがあるのに、なんで床の上に押し倒してるのよ。このケダモノ!  
 
「…ああ、そっか」  
 
杉くんは苦笑を浮かべて私の額に軽くキスした。  
あっという間に抱き上げられてすぐ横のベッドに下ろされた。  
 
「…いいだろ?」  
 
そう言うと杉くんは私に向かってにっこりと笑ってみせた。  
ずるい…。そんな風に笑われたら、抵抗できなくなるじゃん…。  
杉くんはメガネを外してテーブルの上に置き、Tシャツを脱ぎ捨てた。  
現役を離れて久しいとはいえ、適度に引き締まった上半身が顕わになる。  
見慣れていたはずなのに恥ずかしくって直視できない。  
ゆっくりと私の上に覆い被さる。  
素肌同士触れあうことがこんなに気持ちよいなんて、初めて知った。  
 
杉くんの唇が頬から耳、首筋へと滑っていく。  
くすぐったいような、それでいて何故か安心するような奇妙な感覚に気を取られている内に、  
大きな少しごつごつした手が私の胸を包んだ。  
 
「んっ…」  
 
手の平に触れた先端が動きに合わせて硬さを増して行くのが分かる。  
あっさり反応してしまう自分がひどくいやらしい女のような気がして恥ずかしい。  
 
「海老塚…」  
 
私の身体の反応に杉くんも気付いたのだろう。  
優しく、でも確実に彼の指先が私の先端を捉えた。  
これ以上淫らな女だと思われないよう、必死で声を殺した。  
正面から顔を見られるのが恥ずかしくて顔をそむけ目を堅く瞑った。  
ふ、と彼の舌先が私の剥き出しの耳たぶに触れた。  
 
「っ!?ひゃあっ…」  
 
「なんだよ、ここ弱いのか?」  
 
間抜けな声を上げてしまい、思わず私は目を開いた。  
イタズラが成功したことを喜んでいるような顔をした杉くんとばっちり目が合う。  
そのいかにも「面白がっている」感じが悔しくて私は手を振り上げた。  
振り上げた手をやすやすと受け止めて、杉くんの唇が耳たぶを捕らえる。  
からかうように唇で耳たぶを弄りながら、杉くんは忍び笑いを漏らした。  
完全に遊ばれてる。  
悔しい。  
杉くんだってそんなに慣れてないはずなのにどうしてこんなに余裕あるのよ?  
は!?もしかして初めてなのって私の方だけ?  
そんな考えに行きついて少なからず動揺していたら杉くんが顔を覗きこんできた。  
 
「大丈夫だって。な?」  
 
その普段あまり聞いたことのないような優しい声とこれまた滅多に見せてくれないような優しい表情に、私はとても素直に  
 
「…うん」  
 
と答えることが出来た。  
 
杉くんは少し照れくさそうに微笑むと唇でついばむような軽いキスをしてきた。  
再び大きな手の平が胸の膨らみを包むように動いた。  
触れ合っただけの唇から吐息が漏れる。  
杉くんが唇をずらした時には私の吐息には確実に甘いものが混じるようになっていた。  
 
「んっ…」  
 
舌先で敏感な部分を転がされ、私は身をよじった。  
イヤなわけじゃない。それは間違いないんだけど、どうしても身体が逃げてしまうのだ。  
そんな私の抵抗は杉くんの頑丈な腕によって無駄なものにされてしまうのだけど。  
 
杉くんの手がスカートの中へ滑りこんで来たのを察知して私は反射的に太股に力をこめた。  
 
「だっ、だめっ!」  
 
そ、その先に何をしようとしているのかくらい、私だって知ってるんだからね!  
 
納得いかない、といった表情で私を見下ろす杉くんに私はありったけの力で抵抗した。  
 
「あのなぁ、触らずにどうやってやれっつーんだよ」  
 
呆れ顔の杉くんの言っていることには重々承知だけど、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。  
 
しばらく押し問答が続いたが、先に根を上げたのは杉くんの方だった。  
 
「…じゃ、やめるか?」  
 
身体を起こし、ベッドの上であぐらをかくと杉くんは低い声で呟いた。  
いざ、「中止」という選択肢が出ると途端に「え?待ってよ」という気持ちになるのは何故だろう。  
そりゃぁ最初は杉くんの暴走だったけど、最後の方は私だってちょっとはその気だった訳だし…、  
かといって、やっぱり恥ずかしいのも確かだし、でも…。  
 
堂堂巡りだが、要するに、土壇場で私が怖気づいた、そういうことだ。  
実にシンプルだが、その結論はなかなか私にとって受け入れがたいものだった。  
敵(いつの間にか杉くんは「敵」になっている)を前に逃げ出すなんて…!  
そんなどこかずれた思考の結果、負けず嫌いの私は、つい、  
 
「やめない!」  
 
と口走っていた。  
勿論私は後になって自分のこの性格を深く呪うことになるんだけど。  
 
杉くんから、「自分でスカートを脱げ」と言われたときにはさすがに我が耳を疑った。  
しかし、ついさっき「止めない!」と宣言してしまった手前、拒絶できない。  
出来るだけ杉くんの視線から逃げるようにしてスカートを脱いだ。  
身体中のあちこちが熱を持っているみたいだった。  
 
杉くんの指が薄い布ごしに中心に押し当てられた。  
ダイレクトに指から伝わってくる熱で下着がもうなんの役にも立っていないことを悟る。  
軽く前後になで上げられ、私は思わず声を上げた。  
杉くんの肩にしがみ付いて波が過ぎるのをやり過ごす。  
荒い息をしている私の耳元で杉くんが  
 
「なんだ、しっかり濡れてるぞ?」  
 
と、囁きかける。意地悪な響きに身体が震えるのを感じた。  
 
吐息が嬌声にすりかわるのにさほど時間はかからなかった。  
杉くんの指の動きに合わせて卑猥な水音が響く。  
そのかすかな音を過敏になった私の耳が拾い、興奮を押し上げて行った。  
たったこれだけの薄い布がたまらなくもどかしい。  
 
ほとんど用を足さないただの布切れに成り下がったものに杉くんが指を引っ掛け  
ゆっくりと私から引き離して行く。  
私はほとんど無意識に身体をずらし杉くんの動きを補助していた。  
そのことに気付いた瞬間、ものすごい羞恥心が私を襲った。  
こんな、自分から積極的に裸になろうとしているなんて、私ってもしかして  
自分で思っているよりずっとHなんだろうか…。  
 
「み、見ないでってば!」  
 
ついに一糸纏わぬ姿にされ、思わず私は杉くんの胸を押しのけた。  
 
「まだ言うか。本当に往生際悪いな、おまえは。」  
 
呆れた声で杉くんが呟く。自分でも往生際が悪いとは思う。  
でも恥ずかしいものはやっぱり恥ずかしいんだってば!  
 
「そんなこと言ったって…電気消してよ…」  
 
今の明るさではとてもじゃないが耐えられそうにない。  
杉くんはかなり不満そうだったが、私が頑として譲らない空気を察したのか  
結局は折れてくれた。  
かすかな電子音と共に部屋の明るさが絞られる。  
少しだけホッとして至近距離の杉くんを改めて見上げる。  
薄明かりに照らされた杉くんはいつもと少し違って見えた。  
どうしても視線が杉くんの口元に行ってしまう。  
この唇が私のそれに重ねられ、私の胸に触れたのだ。  
そして、これからもっと色々なところに触れるのかもしれないのだ。  
それまでは恥ずかしさで一杯だったのに、急に違う種類のドキドキが溢れた。  
怖いのか、不安なのか、それとも何かを期待しているのか。  
 
「これでいいだろ」  
 
と、得意げに言う杉くんが恨めしくて私は反射的に言い返していた。  
 
「なんであたしだけ脱いでいるのよ!」  
 
言った途端に「しまった!」と思った。  
これでは暗に「脱げ」と言っているようなものではないか。  
あっという間に意地悪な笑みが杉くんの顔に浮かんだ。  
もう!私って女はどうしてこんなに迂闊なんだろう。  
 
「わかった、じゃあお前も手伝えよ?」  
 
さっきの「自分で脱げ」と言われたときよりも信じられない言葉が浴びせられた。  
聞き返そうと口を開いた私よりも杉くんの唇の方が早かった。  
舌を絡め取られ、私はゆるゆると自分が落ちていくのを感じた。  
さっきよりも少しは上手く応えることが出来ているのだろうか。  
かすかな水音を耳に感じながら私は杉くんの言葉を思い返していた。  
手伝え、ってことは、そういうことよね…。  
私はそっと杉くんの背中に回した腕を動かした。  
察した杉くんがお互いの間にわずかな隙間を作り、私はそこに手を滑り込ませた。  
指が震えているのが自分でも分かる。  
手探りでボタンの位置を見付けだし、1つづつ外していく。  
自分のでは容易いその行為がとてつもなく難しく感じた。  
1つ外れるごとに指先が裸の杉くんの胸に触れる。  
それがたまらなくドキドキした。  
 
ふ、と唇が開放され濡れた気配が首筋に押し当てられた。  
驚いて思わず手を引こうとしたが、杉くんに阻まれた。  
私の手に自分の手を重ねて胸に押し当てる。  
それまでは触れていただけの杉くんの胸を直に手の平に感じた。  
杉くんの体温とかすかに早い鼓動が伝わってきた。  
ドキドキしてるのは私だけじゃないんだ、と思うと少しホッとした。  
私がこれだけドキドキしてるのに杉くんが冷静だったら、不公平じゃない。  
 
ようやく全部のボタンを外し終わった。  
杉くんが私にさせたのはそこまでだった。  
私の首筋や鎖骨に舌を這わせながら杉くんは器用に身体をずらしシャツを脱いだ。  
直に触れる杉くんの体温と見なれたはずだった裸の胸に鼓動がいっそう早まる気がした。  
少し強めに私の首筋を吸うと、杉くんは身を起こしズボンに手をかけた。  
その動きにつられて杉くんの手元を見やる。  
杉くんは一気にズボンと同時に下着まで取り去った。  
その瞬間、露にされた「それ」は私を驚愕させるに十分だった。  
 
「しょーがねーだろ、こういう仕組みになってるんだよ!」  
 
そりゃ、「知識」としては分かってたけど、「実物」を見るのは初めてなのだ。  
これで驚くな、ってそれは無理な相談というものじゃない?  
 
「怖くなったか?」  
「そうじゃ…ないけど」  
 
嘘だった。怖くないわけない。あんなものが自分の中に入るなんて…!  
「初めて」が痛い、という理由が分かった気がした。  
 
私の嘘に気付いたのだろう、杉くんは私の目を覗きこむようにして  
 
「けど?」  
 
と、続きを促してきた。私は観念した。  
私が怖がっていることが杉くんを傷付けるんじゃないか。  
そんな考えがチラッと頭をよぎった。  
でも、私を見る杉くんがさっきまでの少し意地悪な表情とは違ってとても優しかったから。  
私は素直に  
 
「…ちょっとだけね」  
 
と答えることが出来た。  
 
 
「大丈夫だ、ゆっくりやるから。痛かったら言えよ?」  
 
「…うん」  
 
どうしてこの人はこんなときだけ泣きたくなるくらい優しい声を出すのだろう。  
 
 
軽く唇が押し当てられ、杉くんの指が太股に触れる。  
その動きの先は分かっていたけど、もう抵抗する気は起きなかった。  
請われるがままに恥ずかしい体勢を取る。  
そこに杉くんの指先が触れたとき、はっきりとくちゅ、という音がした。  
入り口の辺りで少しじらすような動きを経た後で、杉くんの指先が侵入してきた。  
ゆっくりと少しずつ、私の中から溢れてきたもので馴染ませながら  
杉くんの指先が奥へと奥へと差し入れられる。  
最初は少しきつくて正直痛みも感じていた。  
しかし次第に初めての感覚にどんどん包まれていく。  
痛いようなくすぐったいような、背中の辺りが痺れているような、変な感じ。  
自然と息遣いが荒くなる。  
 
「んんっ…あっ…ふぅ…」  
 
まるで自分の声じゃないみたいな甘えたような声が漏れてしまう。  
差し入れられた杉くんの指がゆっくりと動くたびに身体が軽く跳ねる。  
どうしよう…。恥ずかしくて仕方ないのに、どんどん声が押さえられなくなってしまう。  
ほとんどうわ言のように杉くんの名を呼ぶ。  
それに優しく答えてくれるけれど、杉くんの動きは止まらない。  
何度か呟いてしまった「やめて」という言葉が逆に誘っているようだった、  
なんてことに気付いたのはもっとずっと後になってからだ。  
 

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