それまでしていたシャワーの音が止んで、ユニットバスの扉が開く音がした。  
私は覚醒しきっていないぼんやりとした頭でここが何処なのかを考えていた。  
 
「まだそんな格好でいんのか。風邪引くぞ」  
 
そう言って投げつけられた毛布を私は蹴飛ばす。  
 
「やだー。暑い〜!」  
「まだ暑いってか? お前、自律神経に問題あるんじゃねぇの?」  
「誰かさんがあんなに頑張ってくれたせいでしょ? 女の子はねぇ、男と違って  
 波が引くのに時間がかかるんです」  
「が、頑張ったって・・・! 甘ったれた声で『もっとぉ〜』ってねだってきたのは  
 何処の誰だよ!!」  
「だからってあんなに頑張ることないでしょ? おかげでこっちはクタクタよ」  
「あぁ、そうかい! おかげでこっちはこれから徹夜決定だよ!  
 ・・・ったく。だから今日は来るなって言ったんだ・・・」  
 
杉くんはそうブツブツ呟きながらも、押入れから薄手のタオルケットを出して  
私に投げて寄越してくれた。  
なんだかんだ言って、彼はやはり優しい人なのだ。  
 
私はさっき投げつけられた毛布よりずっと薄手で肌触りの良いタオルケットを  
ぐるぐると巻きつけてベットから身体を起こした。  
 
「レポート、明日まで?」  
「そ。多分朝までかかるから先に寝てていいぞ」  
「ん」  
 
スタンドの明かりが目に突き刺さり何度か瞬きをする。  
(今、何時頃なんだろう・・・?)  
コンタクトを外しているので薄暗い部屋の壁掛時計は良く見えなかった。  
 
「ねぇ、今何時?」  
「んー? 1時を回った頃だな」  
「ふ〜ん・・・。結構長い間ヤッてたね」  
「お前は!本当にさっさと寝ろ!!」  
 
顔を真っ赤にした杉くんに怒鳴りつけられて私は慌ててベッドに戻る。  
そして、枕に顔を押し付けてクスクスと忍び笑いを漏らした。  
そして、今日も心の中でそっと安堵する。  
(良かった。イク時に巧くんの名前を呼ばなくて・・・)  
 
 
話はいたって簡単なのだ。 親友の彼氏を好きになってしまった。 ただ、それだけだ。  
彼が私のことを何とも思っていない上に、親友を捨てる勇気もなかった私は  
何も行動できず、勿論気持ちを伝えることもなく、そのまま卒業を迎えた。  
青臭い、独り善がりな恋愛は行き場をなくし、心の奥に沈めるしかなかった。  
 
テレビや新聞でのニュース、月に一度は会っているという保奈美、  
大きい大会で一緒だったという麻里ちゃん。  
それが、私にとって巧くんについて知ることの出来る全てだった。  
大きい大会に出れば会えるかもしれない、そう思って練習に励んだ時もあったけど、  
世の中と言うのはそういう邪な努力は報われないようになっているらしかった。  
 
ある日、保奈美からついに巧くんと結ばれた、という告白を受けた。  
私は自分の限界を悟った。  
これ以上こんなことを続けていては自分が壊れてしまうと思った。  
もう止めよう。 世の中には他にもっとイイ男が山ほどいるのだ。  
いつまでも高校生の頃の青臭い恋にしがみ付いてどうするんだ、と。  
 
そんなとき、不意に杉くんから告白された。  
どうしてこのタイミングなんだろう、と間の悪い彼を少し恨んだ。  
せめてもう少し後、私がもう少し巧くんのことを吹っ切った後なら良かったのに。  
そう思いながらも、私は首を縦に振っていた。  
私と同じように高校生の頃の青臭い恋を引きずり、  
それでも一歩を踏み出してくれた杉くんが私にはとてもまぶしく感じられた。  
 
付き合い始めてしばらくしてから、杉くんとそういう関係になった。  
自分が好きな人とじゃなくてもそういうことが出来る女なのだということを知った。  
 
当然のように4人で会う機会が増えた。  
親友同士が恋人、と言う出来すぎた状態を私以外の全員が違和感もなく受け入れた。  
おめでたい人達、と心の中で毒づいても私の気は晴れなかった。  
彼らは善良なだけなのだ。 私だけが歪んでいる。  
何度も杉くんと別れようと思ったが、杉くんの彼女というポジションを失えば  
もう巧くんとは会えなくなるんじゃないか、と思うと踏ん切りがつかなかった。  
 
保奈美の留学が決まったとき、自分の中で何かが弾ける音がした。  
飛行機を見送った次の日、私は半ば衝動的に東京へと向かっていた。  
保奈美のいなくなった今、巧くんに会ってどうしようというのか。  
答えのまとまらないまま、私は新幹線に飛び乗っていた。  
東京に着き、私はバッグから携帯電話を取り出した。  
不在着信に気付き、それが杉くんからのものだと分かった時、  
私は思わず苦笑いを漏らしていた。 この人はどこまでも間が悪い。  
 
 
突然部屋を訪れた私に杉くんは驚きを隠せないようだった。  
 
「なんか、急に会いたくなっちゃったんだよね」  
 
そう言った私を杉くんは黙って抱きしめてきた。  
抱きしめる直前の杉くんの顔がちょっと辛そうに見えて、思わず泣きそうになった。  
唇をかみ締めていると顎を掴まれて少し強引に上を向かせられた。  
背の高い杉くんと立ったままでするキスはすぐに息が上がってしまう。  
強い力で引き寄せられている身体を無理やり引き離して荒い呼吸を整えた。  
膝の裏に腕を差し入れられ、あっという間に抱き上げられた。  
杉くんは足でベッドの上の布団を荒々しくめくりあげたかと思うと  
打って変わった優しいしぐさで私の身体をベットに下ろした。  
少し目線をずらし、細いフレームのメガネを外した。  
さっきよりもさらに深いキスを受け止める。  
苦しくて少し開いた唇の隙間から舌がねじ込まれる。  
熱くて濡れた舌が生き物のように私の口内をまさぐった。  
大きな右手が髪を撫で上げ、耳の後ろを滑り肩へ流れた。  
二の腕を何度かさすり、指先が胸の先端に触れた。  
身体が軽く跳ね上がり、私はいつになく自分の身体が敏感になっていることを悟った。  
 
シャツをたくし上げ、裾から少しごつごつとした手の平が素肌に直接触れる。  
背中を軽く浮かせると慣れた手つきでブラジャーのホックを外した。  
膨らみを何度も包み込むように揉みしだかれ、手の平に触れる先端は硬度を増した。  
痛いくらいに堅く尖った先端を指先で強く摘まれて私は思わず声を上げた。  
 
「・・・ん。あ、ふぅ・・・」  
 
私の口内を犯していた唇と舌がねっとりと絡みつくように胸の頂きに纏わり付いた。  
先ほど与えられた少し強すぎる刺激とは違う、優しく甘い愛撫に下半身が疼くの感じた。  
無意識の内にすり合わせた膝の間を押し割るように杉くんは自分の片足を入れる。  
太股を膝の方から何度もさすり上げて肝心なところにはなかなか触れてくれない。  
 
「ん・・・」  
 
彼の指先がかすかに湿った下着をかすめるたびに羞恥とじれったさに身もだえする。  
やっと指が下着ごしに敏感な箇所に押し当てられたとき、奥の方から何かが溢れた。  
じっとりと湿り、肌にぴったりと張り付いた下着をさらに押しつけるように  
何度も何度もこすり上げる。  
下着をめくり上げ隙間から指が差し入れられた。  
クチュリ、という湿った水音がはっきりと耳に届いた。  
杉くんは指先で愛液を掬い上げると、すぐ上の肉芽にこすりつけた。  
ぬるぬると滑りの良くなった指でぷっくりと膨らんだ肉芽を執拗にすりあげた。  
 
その晩の杉くんはいつもの彼じゃないみたいだった。  
こんなに執拗な愛撫をされたことは今までになかった。  
私は意識が飛びそうになるのを必死でこらえた。  
彼と繋がりながら思わず巧くんのことを考えた。  
もし、杉くんからの着信に気付かず、巧くんと会っていたら。  
そしたら、今こうしている相手は杉くんじゃなかったかもしれない。  
そう思った瞬間、いつもと違う衝撃が自分の身体を駈け抜けていくのを感じた。  
いけない、と思ったときには遅く、私はキツク目を閉じることしか出来なかった。  
その日、私は初めて絶頂を迎えた。  
 
私の行為は杉くんに対して明らかな裏切り行為だった。  
オナニーの方が人を巻き込んでいないだけずっと健全だ。  
そう思いながらも夜になると押さえが利かなかった。  
幸い、杉くんは最中の口数が多い方ではない。  
私は目を閉じることによって簡単に快楽を手に入れた。  
それは後で襲ってくる激しい自己嫌悪と引き換えだったが。  
絶頂を迎える瞬間がいつも恐怖だった。  
巧くんの名前を口走るのが怖くて、自然と声を押し殺す癖がついた。  
逃げ場を失った快感はよりいっそう自分を高みへと押し上げて行った。  
 
行為が終わってまだ定まらない視界に杉くんを認識する。  
そこにいるのが杉くんだという安堵と巧くんではないという軽い失望感に  
思わず泣きそうになる。  
杉くんの広い胸に顔を押し当てると逞しい腕が背中に回り、優しく髪を撫でる。  
どれだけきつく目を閉じてもこの時に巧くんを思うのは無理だった。  
巧くんは、こんなに優しく私の髪を撫でてはくれないだろうと思えるから。  
 
「腹、減った・・・」  
そう杉くんが呟くのを合図に、  
「な〜に? 性欲が満たされたら今度は食欲? 本当にケダモノなんだから」  
と私は憎まれ口を叩く。 そして、いつもの自分に戻ることが出来る。  
「うっせーよ」  
そう言って杉くんは私の額に軽くキスをして起き上がり、台所へ向かう。  
今日のようにすぐシャワーに向かうこともあった。  
私はよく見えない目で机に向かった杉くんの背中を見つめた。  
そして考える。 自分のこと、巧くんのこと、保奈美のこと、そして杉くんのこと。  
高校生の頃は自分がこんなにどうしようもない女になっているなんて思わなかった。  
卑怯なことか大嫌いだった。 いつでも自分の気持ちに正直でありたいと思っていた。  
それが今はどうだ。  
好きな人に自分の気持ちを告げることも、信じてくれる親友に真実を告げることも出来ず、  
優しくしてくれる人に逃げ込み、結局は裏でその人のことを傷付けている。  
 
(何とかしなきゃ・・・)  
優しすぎるこの人をこれ以上傷付けないために。  
杉くんの背中を見つめながら私は睡魔におそわれつつあった。  
眠りこける直前、杉くんがこちらを振り返ったような気がした。  
 

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