それは、久々に女の子だけで袴田さんのアパートに集まった時のことだ。  
トイレに立った別所さんが戻ってくるなり顔を覆って床にへたり込んでしまったので  
私は慌てて駆け寄った。  
 
「どうしたの!? 大丈夫、別所さん?」  
「違うんです。ホッとしたら何だか力が抜けちゃって…。  
 ずっと遅れていたのがやっと来たから…」  
 
私は意味が一瞬理解できず、目をパチクリとさせた。  
呆然としている私の代わりに袴田さんが別所さんの肩を抱き立ち上がらせた。  
反対側に保奈美が付き添い、二人で別所さんをベッドの端に腰掛けさせる。  
まだしゃくりあげている別所さんの背中を袴田さんが優しげにさすった。  
 
「すみません。私取り乱してしまって…」  
 
涙をぬぐいながら恥ずかしそうに別所さんが笑う。  
 
「良かったわね。妊娠してたんじゃなくて」  
「本当に良かったですね! でも斉藤センパイさいてー!  
 女の子にこんな不安思いさせるなんて! ちゃんと怒っておいた方がいいですよ」  
「そうね、別所さんは現役の選手なんだからそういうことは気を付けないと」  
「違うんです。  
 浩司さん、いつもはちゃんと付けてくれるんですけど、その時はたまたま失敗しちゃって」  
「基礎体温付けてみたらいいわよ。体調管理にも役立つし。で、危険な日はさせない」  
「でも、仲安くん、麻理が基礎体温付けるようになったら安全な日を狙って迫ってきますよ。  
 で、絶対付けてくれないんです。も、さいてー!」  
「麻理ちゃん、生理周期ものすごく正確だもんね」  
「私は不順な方だから安全な日でも付けないのは不安だったなぁ」  
「近藤さんは? 粉川さん、ちゃんと気を付けてくれます?」  
「え? ううん。『出来ちゃったら結婚すればいいじゃん』って言ってくれてるから…」  
 
うっとりとした目でそう言う保奈美に呆れたように私達は笑った。  
私はみんなと笑いながら心の中で冷や汗をぬぐった。  
婚約中の袴田さん、本人から聞いていた保奈美、最近外泊が増えた別所さんはいいとして、  
まさか麻理ちゃんにまで先を越されているとは…!  
 
(これで、処女は私だけ、ってことね…)  
 
私はみんなに気付かれないようそっとため息をついた。  
 
 
「ん、どうした? 俺の顔になにか付いてるか?」  
「…。別に」  
「変なヤツだな」  
 
そう言って、彼、藤田恵は腹筋を再開した。  
こんな時間に女の子の部屋で黙々と腹筋してる君の方こそ何なのよ。  
 
私の部屋にこうして藤田くんが来るようになって半年近くになる。  
このことは親友の保奈美にすら言えないでいた。  
なにせ、藤田くんと保奈美の恋人である巧くんは犬猿の仲だ。  
微妙な時期に変な横槍が入るのが嫌でついつい言いそびれてしまった。  
だって、私達はまだキスしかしてない。  
いまだに『微妙な』関係のままなのだ。  
 
(私達ってこれで付き合っているって言えるのかなぁ…)  
 
私はテレビを見ているフリをしながら横目で藤田くんの様子を伺う。  
腹筋が終了し、次のメニューである腕立て伏せが始まっていた。  
軽く息を弾ませて腕立て伏せをする様子を見ながら、そう言えばあの時の  
男の子の動きは腕立て伏せに似ているって聞いたことがあるなぁ、  
なんてことを思い出してしまい、私は1人で赤くなってしまった。  
急に恥ずかしくなって私はわざと大きな声を出した。  
 
「なんかお腹空いたからコンビニ行って来るね!」  
 
腕立て伏せの中途半端な体勢のまま藤田くんが私を見る。  
 
「こんな時間にか。太るぞ」  
「うっさいなぁ、藤田くんは黙って腕立てしてればいいでしょ」  
「分かった、俺も行こう」  
「え、いいよ。1人で大丈夫」  
「また前みたいなことがないとも限らないからな」  
 
彼は身体を起こすといたずらっぽい笑みを浮かべて私の頭にポン、と手を置いた。  
運動した直後のせいかその手はいつもより少し熱かった。  
 
元々同じ県で縁浅からぬ彼と久々に再会したのは地元の繁華街だった。  
私はその時、3人組の男の子からしつこくナンパされている最中で、  
そこにたまたま藤田くんが通りかかったのだ。  
 
彼は3人組を追い払ってくれた後、私を睨み付けた。  
 
「君は馬鹿か。いくら身体能力に自信があるとはいえ、女性1人で男3人に  
 勝てるとでも思ったのか。浅はかにもほどがある」  
 
ムッとした私は「ありがとう」というのを忘れて言い返してしまった。  
 
「浅はかなら藤田くんもでしょ。  
 暴力沙汰で大会に出場辞退なんてことになったらどうするつもりだったのよ」  
 
言いながら可愛げのない自分にうんざりした。  
助けてくれた相手になんでこんな憎まれ口を叩かなきゃいけないんだろう。  
藤田くんもさぞや呆れているだろう、と思い恐る恐る彼を見上げた。  
意外なことに彼は怒ってはいなかった。  
 
「そうか。確かに俺も少し軽率だったな。今後気を付けることにしよう」  
 
素直に反省されて、私は却って慌ててしまった。  
 
「で、でもさぁ、彼らが藤田くんのこと知らなくて良かったよね。  
 まぁ、知ってたら元学生チャンピオンに喧嘩なんか売ってこないと思うけど」  
「柔道なんてマイナーなスポーツ、オリンピックで金メダルでも取らない限り、  
 一般への知名度なんてないようなものだからな。  
 まぁ、次のオリンピックの時には全国に藤田恵の名前を知らしめてやるつもりだが」  
 
そう言って彼は唇の端を少し上げて笑った。  
その自信に満ちた表情に私の視線は彼に釘付けになってしまった。  
私の視線に気付いた彼と目が合ってしまい、私は慌てて目をそらした。  
 
「海老塚さん、だったな。もう遅い。家まで送ろう。どっちの方向だ?」  
「あの…!」  
「何だ?」  
「助けてくれてありがとう…」  
 
藤田くんは驚いたように目を見開くと、すぐに少し照れたような表情を浮かべた。  
そんな表情をする彼を私はそのとき初めて見た。  
 
私の家まで送ってもらう間、ほとんど会話らしい会話はなかった。  
ただ、今はお互い東京に住んでいて、比較的住所が近い、ということが分かった。  
今日のお礼にご馳走させてほしい、と私が提案し、携帯とアドレスの交換をした。  
藤田くんのような人でもメールとかするんだ、と思うと少しおかしかった。  
 
ちょくちょくメールしたりご飯を食べに行ったりしている内に  
なんとなくアパートまで送ってもらうようになって、なんとなく部屋に入れた。  
特に何事もなく時間を過ごし、彼が帰るとき玄関でキスをした。  
 
それだけ、だ。  
今でも会えばキスくらいはするけどその先にはちっとも進まない。  
そもそもキス自体がものすごくあっさりしている。  
本当に唇を合わせるだけの軽いキスしかしたことがないのだ。  
だから私はキスだけで感じるという女の子の気持ちが理解できない。  
勿論ドキドキはするし幸せな気分にもなるけど。  
 
コンビニのレジに並んでいると目の前の大学生風のカップルのカゴに四角い箱が見えた。  
いくら経験がなくてもそれがなにか私だって知っている。  
チラッと隣りに立っている藤田くんの表情を盗み見てみたがなにも読み取ることは出来なかった。  
 
プリンやお菓子やアイスなんかを入れたビニール袋を下げて夜道を並んで歩く。  
元々藤田くんはあまり口数の多い方ではないので自然と私も無口になる。  
話さない分変な考え事ばかりが頭に浮かぶ。  
例えば、私は経験ないけど藤田くんにはあるんだよなぁ、とか。  
あまり詳しくは聞いたことないけど、学生時代に彼女がいたらしいのだ。  
彼くらいの選手になれば練習の忙しさは半端じゃなかっただろうに  
よくそんな時間あったよなぁ、とちょっと変に感心してしまう。  
保奈美と巧くんもデートの時間を捻り出すのにずいぶん苦労していたし。  
 
藤田くんはその彼女にどんな風に触れたんだろう、と思うと胸が苦しくなる。  
少し不器用に抱き寄せて、大きな手で頬に触れて、優しくキスしたんだろうか。  
いつも私にしているように。  
心臓が握り締められたように痛んだ。涙が浮かばないように強く唇をかみ締める。  
強くかみ締めすぎたせいか口の中にかすかに鉄の味がした。  
昔の彼女に嫉妬するなんて馬鹿みたい。  
 
部屋に着くと早速私はアイスの包み紙を破いた。ちょっとだけ唇にしみた。  
 
「食べる?」  
 
と藤田くんに差し出すと苦笑して首を横に振った。  
柔道を止めた私と違い、現役選手である彼がこんな時間に間食するわけがない。  
 
「甘くて美味しいよ。一口だけでも食べなよ」  
 
分かっているのになんとなくムキになって勧める。  
彼は少し困ったような表情を浮かべた。ハッとして私は視線を反らす。  
 
「何かあったのか? 今日のお前何か変だぞ」  
「何もないよ…」  
 
子供じみた自分が恥ずかしくなって黙ってアイスを食べた。  
最後の一口を口に入れたとき、藤田くんが  
 
「じゃ、一口だけもらう」  
 
と、言って唇を押し当ててきた。  
びっくりして思わず開いた唇の隙間から彼の舌が入りこんできた。  
口内を舌がまさぐる感覚に背中に電流のようなものが走った。  
 
「ん…。ふぅ…」  
 
息苦しくなってきて私は藤田くんの背中を叩いた。  
開放された唇から溢れた唾液の跡を藤田くんが舌で拭う。  
その感覚にまた電流が走った。  
 
「ホントだ。甘いな」  
 
そう言って藤田くんが笑う。  
私は微笑み返すどころじゃなくて彼の顔をじっと見つめた。  
顔が熱いのが自分でもわかる。  
風邪を引いて熱があるときみたいに視界がぼんやりとしていた。  
 
「そんな目で見るなよ。誘われてるみたいな気分になるだろ」  
「藤田くんの、意地悪…」  
「否定しないのか?」  
 
私はそれには答えずただ黙って藤田くんを見つめた。  
彼の顔から笑いが消え、少し戸惑ったような表情になる。  
 
「参ったな…」  
 
そう呟くと藤田くんはぐいと私を引き寄せた。  
 
「いったん手を出しちまうと止められなくなりそうだから我慢してたんだが…」  
「どういう意味?」  
「そのまんまの意味。お前が思ってるほど俺は自分の理性を信用してないんでな。  
 トレーニングに使う体力を全部こっちに取られるとまずいだろ、さすがに」  
 
まぁ、次の大会までにはまだ時間もあるし、と藤田くんがぶつぶつ呟く。  
私が腕の中から見上げるとばつが悪そうな顔で目を反らした。  
 
「我慢してたの?」  
「…少し黙ってろ」  
 
そう言って私のおでこを指で軽く弾くと藤田くんは唇を重ねてきた。  
いつもと違うキスに私は戸惑っていた。  
藤田くんの舌が生き物のように口内で蠢く。  
 
「ちょ、ちょっと待って!」  
 
私は思わず彼の胸を押し返した。  
 
「あのね、私。あの、引くかもしれないけど…」  
「初めて、だってことか?」  
「知ってたの?」  
「まぁ、なんとなくそうだろうな、ってくらいには」  
「あの、だから…」  
 
真っ赤な顔でくちごもる私に彼は柔らかく微笑んだ。  
 
「大丈夫だ。ゆっくりやるから。  
 俺はあんまり上手くないかもしれないけどちゃんと優しくしてやるから安心しろ」  
 
この土壇場でそんな優しい顔するなんてずるい…。  
 
優しく引き寄せられて私は目を閉じた。  
藤田くんの熱い舌が私の口の中で蠢く感触に身を任せる。  
恐る恐る彼の舌の動きに自分の舌を合わせる。  
よしよし、とでも言うように彼の大きな手が私の後頭部を撫ぜる。  
身体中が過敏になっているようでそんな些細な動きだけで身体が震えた。  
息苦しくなって少し顔を横にずらすと藤田くんの唇が頬、顎と伝い首筋へ触れた。  
熱く濡れた感触が首筋を下から上へと動く。耳たぶを甘噛みされて思わず声が漏れた。  
 
「ん…!」  
「ここ、弱いのか?」  
 
背中に回されていた手がゆっくりと動き、胸に触れた。  
優しく包み込むように彼の手が動く。  
Tシャツの裾から手を差し入れてブラジャーのホックが外される。  
そのままブラジャーごとTシャツも取り払われた。  
大きな彼の手の平にすっぽり納まってしまう自分のささやかな胸が少し申し訳なかった。  
 
「男がみんな巨乳好きだとでも思ってるのか?」  
「違うの…?」  
「少なくても俺は少し小ぶりな方が好きだがな。反応も良いし」  
 
そう言って固くなりかけていた頂きを軽く摘む。  
 
「や…! ん、馬鹿ぁ…」  
「な?」  
 
私は軽く彼を睨み付けた。  
いっぱいいっぱいの私の反応が楽しくて仕方ない、というのがありありの彼が憎たらしい。  
少し困らせてやろう、と思って私は胸を押さえて背中を向けた。  
 
「こっち向けよ」  
「知らない!」  
 
背中ごしに彼が少し笑ったのが分かった。  
裸の背中に濡れた感触がして身体が思わず弾んだ。  
藤田くんの舌が背骨を下から上に伝う。  
後ろから回された手が胸を押さえていた私の手に重ねられる。  
ゆっくりと引き離され私の手と藤田くんの手が入れ替わる。  
私の胸を包む藤田くんの大きな手の平に自分の手を重ねた。  
胸と手の両方で藤田くんの手の動きを感じる。  
それはひどくいやらしい動きで、私は藤田くんに背中を向けたことを少し後悔した。  
 
藤田くんの手の平の下で乳首がどんどん固さを増して立ち上がっていく。  
それに気付いているのかゆっくり、わざと手の平で擦り合わせるように藤田くんの手が動く。  
時々わざと手の平をずらして私に自分の胸の状態を見下ろさせた。  
固くつんと上を向いた乳首を私に見えるように指先で摘まむ。  
電気が走ったように身体が弾んだ。  
 
「ん…! あぁ、いやぁ…」  
 
どれぐらいの間、胸への愛撫を受けていたのか麻痺してきた頃、  
身体の向きを変えられ、押し倒された。  
私は抵抗することも出来ずそのままベッドに倒れこんだ。  
藤田くんは自分の着ていたTシャツを脱ぎ、私の上に身体を重ねた。  
少し汗の匂いの混じった、でも決して嫌いじゃない彼の匂いがより近く感じられた。  
彼の手がポニーテールのゴムを解く。  
ふわっとした開放感と共に髪がシーツに広がった。  
 
「普段のもいいが、下ろしているのもイイな」  
 
私はたまらず彼の首に回していた自分の腕に力をこめて彼を引き寄せた。  
そして、自分から彼の唇に自分のそれを押し当てる。  
 
「ちょ、待てって!」  
「待たない!」  
「待てってば。あのなぁ、これでも暴走しないよう必死で耐えてるんだぞ。  
 お前初めてだから、怖い思いさせたくないしな。  
 だからあんまり俺の理性を揺さぶるようなことしないでくれよ。  
 慣れてきたら、それはそれで嬉しいけどな」  
 
藤田くんはそう言って少し笑うと身体をずらし、乳首をそっと口に含んだ。  
 
「あぁ…!」  
 
唇で軽く挟まれたり、舌先で転がされたり時々強く吸われたりして、  
私は押さえきれずに絶え間なく甘い声を上げた。  
 
「いい声だな」  
 
含み笑いをして藤田くんは痛いくらいに固くなった乳首に軽く歯を立てた。  
 
「あぁぁぁ…!!」  
 
身体中が痺れるように緊張し、次の瞬間、放り出されたように力が抜けた。  
荒い息をしている私の耳元で  
 
「イッたのか? お前は、感じやすいんだな」  
 
と藤田くんが囁いた。そこに含まれた意地悪な響きがますます私の身体を熱くした。  
 
瞼に触れるだけのキスをしながら藤田くんの右手がスウェットの布地ごしに太股を撫ぜた。  
徐々に手を下にずり下げて行き、スウェットを脱がせる。  
少し汗ばんでいた肌が外気に晒されて私は軽く身震いする。  
藤田くんの手がゆっくりと伸びてきて薄っぺらな布越しに秘所に触れる。  
指先から彼の体温が直接伝わってきた。  
私の下着はすでに用を為さないただの濡れた布切れに成り下がっていた。  
 
「…すごいな」  
 
そう藤田くんが呟き、私は恥ずかしさのあまり彼から顔を背けた。  
 
「こっち向けよ」  
「…藤田くんって、いじわるだね。おまけにむっつり助平!」  
「お前に俺が責められるのか? 助平なのはお互い様だ」  
 
藤田くんの指先が強く亀裂をこすり上げた。  
 
「はぅ…! いや…だめぇ…」  
「だめじゃ、ないだろ」  
 
藤田くんは私の額に軽く口付け、瞼、頬、顎、首筋、鎖骨、と徐々に唇を移動させた。  
その間もゆっくりと亀裂をなぞる指の動きは止まらない。  
張り付いた布地ごと指先を奥に沈められ、背中がしなる。  
その衝撃のせいで気付くのが一瞬遅れた。  
我に返ったときには、藤田くんの身体は私の両足の間に入り込んでいた。  
慌てて足を閉じようと思ってももう遅い。  
身を捩って逃れようとする私の太股をやんわりと押さえ込み、彼は身を屈めた。  
指よりも熱く柔らかいものが押し当てられる。  
 
「ん…!」  
 
薄っぺらな布地では吸収し切れないほど奥から溢れて来るものと  
藤田くんから与えられる唾液で形状があからさまに見て取れそうなくらいに  
ぴったりと密着した下着の脇をめくり、熱い舌先が直接触れる。  
その強すぎる刺激に私は押さえきれず高い声を上げた。  
 
「ひゃぁ…! ちょ、ちょっと待って! だめ!」  
「しつこい。いい加減観念しろ」  
 
刺激の強さに腰が浮いた一瞬を見逃さず、藤田くんが私の下着を剥ぎ取る。  
勢いのまま身体を反転させられ、うつぶせにされた。  
藤田くんの手がお腹の下に差し入れられて私は軽く腰を浮かせる。  
四つんばいになったその姿勢がものすごくいやらしいものだということに気付いたのと、  
彼の舌先がむき出しの秘所を撫で上げるのはほとんど同時だった。  
 
「やぁぁぁ!」  
 
逃げようとしても彼にがっちり腰を掴まれているので思うように動けない。  
ぴちゃぴちゃという子猫がミルクを飲むような音がはっきりと耳に届いた。  
私は顔を枕に押し当てて声を必死で押さえ込んだ。  
気がおかしくなりそうだった。  
 
亀裂を舌で撫で上げながら、片手で膨らみきった肉芽をつままれる。  
腰を捕まえていた片手が離された今が逃げるチャンスだ、と頭では分かっているのに、  
私の身体は新しく与えられた刺激を甘受することを選んだ。  
 
仰向けの体勢に戻り、藤田くんの指が少しずつ奥へと埋め込まれる。  
痛さは感じなかった。ただ圧迫感に思わず呼吸をするのを忘れた。  
眉をひそめた私に藤田くんが声をかけた。  
 
「痛いか?」  
「…痛くないよ」  
「じゃ、気持ちいい?」  
「…ばか」  
 
くすっと笑った気配の後、藤田くんの舌が肉芽を捕らえた。  
 
「ひゃぁぁぁん!」  
 
そこは自分で慰めたことがないわけじゃなかった。  
でも指で与えられるものとは違う刺激は強烈過ぎて一瞬我を忘れて叫んでいた。  
 
指と舌による愛撫は私が根を上げるまで続けられた。  
いつのまにか指は3本に増えていた。  
猛々しく上向いた藤田くんの分身が押し当てられる。  
何度か先をすり合わせるようにして私が溢れさせたものを馴染ませる。  
 
「多分、痛いと思う。  
ゆっくり進めるよう努力はするが、俺も男だからここで引き返すのは無理だと思ってくれ」  
 
私は無言で頷いた。  
 
「うっ…!」  
 
想像以上に圧迫感のあるものが狭いところを押し入ってきた。  
藤田くんは宣言どおり私の反応を見ながらゆっくりと腰を進めてくれる。  
それは彼にとってもかなり辛い行為だったようだ。  
ようやくすべてを受け入れられたとき、私達は思わず同時にため息を漏らした。  
 
「平気か? 痛くないか?」  
 
私は頷く代わりに手を伸ばして彼の頬に触れ、引き寄せて唇を押し当てた。  
痛くないといえば嘘。でも、平気。  
今、彼とひとつになっているのだと思うと少しくらいの痛さは耐えられると思った。  
 
ゆっくりと唇を離すと驚いた顔の藤田くんと目が合った。  
私が微笑むと、つられたように表情を緩めた。  
 
「動いても、大丈夫だろうか?」  
「…うん」  
 
ゆっくりと彼が動き出す。  
最初は圧迫感と違和感、それに痛みしか感じられなかった下半身から  
甘い疼きのようなものが確実に沸きあがって来ていた。  
 
「ん…。ふぅ…」  
 
鼻にかかった甘ったるい声を漏らしながら私は藤田くんに身を任せる。  
徐々に早くなる動き。彼が動くたびに汗が私の胸元に落ちた。  
揺さぶられながら薄く目を開けると、キュッと眉間にしわを寄せ、  
今まで見たことのないほど切羽詰った表情を浮かべた藤田くんが見えた。  
私の視線に気付いたのか藤田くんが微かに笑う。  
 
「悪い…。正直、あまりもたなさそうだ」  
 
そう言うと藤田くんはさらに激しく動き出した。  
強く突き上げられ、痛みを凌駕する快感が溢れた。  
 
「んぁぁぁ…!!」  
 
一瞬の緊張の後、ゆっくりと藤田くんの動きが止まった。  
ドサッと私の上に覆い被さったまま、荒い息を吐く。  
私は手を伸ばして彼の頭を抱いた。  
少しして呼吸が整うと藤田くんは身を起こした。  
 
「すまない。普段はもう少しもつんだが」  
「…普段って?」  
「…!別に他の女性と、って意味じゃなくてだな。…いや、何でもない」  
 
くすくす笑う私とは対照的に藤田くんは少し憮然とした表情を浮かべる。  
あまりにも私がずっと笑っているので根負けしたのか彼も表情を緩めた。  
 
「ねぇ」  
「なんだ?」  
「明日も朝練あるんだよね?」  
「…。ここを6時半に出れば間に合うだろう」  
 
そう言って藤田くんは私を引き寄せる。  
私は彼の腕に抱かれながら、保奈美にいつこのことを話そうか考えていた。  
やっぱりもう少し後、大会が終わってからの方が、良いかもしれないなぁ…。  
 
 
−おしまい。−  
 

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