東京から送られてきていたビデオや情報の細かく書かれた資料を見ながら、他校の藤田を  
交え、浜高柔道部員たちが真剣な表情で話し合いをしている。藤田は今日行われた個人戦  
決勝で千駄ヶ谷の橘と対決し敗れてしまったのだが、その戦いで橘の弱点に気付いたらし  
く、明日の団体戦で千駄ヶ谷と戦うであろう浜高にその橘対抗策を話したいと申し出た。  
いまさらの自己紹介などを経て、桜子は藤田を皆のいる部屋まで案内し連れて来たのだが、  
自分は話に参加できるわけもなく、かといってさっさと帰るのも悪いような気がして、邪  
魔にならないように壁に背を預けて彼らの後ろ姿を眺めていた。犬猿の仲である三方ヶ原  
工業の藤田恵と、いつもなら罵り合いや取っ組み合いが始まってもおかしくない浜高柔道  
部の面々。目の前で真面目に語り合っている、むしろ信じあっている様な彼らが不思議に  
思えて仕方がないが、柔道バカ同士なんらかの絆があるのかしら、と桜子はぼんやりと考  
えたりしていた。  
「おれは、戻るが」  
桜子がぎゅっと目を瞑っておおきな欠伸をひとつするあいだに、先ほどまでソファーの向  
こう側で皆と会話をしていたはずの藤田が目の前に来ていた。声をかけられ桜子が顔をあ  
げると、彼は武道のたしなみの様な小さい会釈をして扉へと歩き出す。今日の試合で傷め  
た足を引き摺っているから、その足取りに大きな身体が少し揺れていた。  
「あ、まって、わたしも」  
ここに居ても今は邪魔なだけだろうし、と桜子はあわてて壁に凭れていた背筋を伸ばし  
藤田に続くように歩いた。藤田は扉を開くと身体でそれを大きく開いて抑える。  
桜子に対して、どうぞお先に、という大雑把な日本男児的レディーファーストを表したの  
であろう。桜子はその心遣いにすぐに気付き、どうも、と彼の身体を横切って外へ出た。  
藤田は彼女が出るとすぐに身体を立て直しドアのノブを引き扉を閉める動作に移る。  
すると「ちょいと失礼」と、桜子が藤田の扉へとのばしている腕の下から、ドアと彼の間  
に入り込み、まるで藤田が後ろから桜子を抱きしめているような状態になる。藤田が何事  
かと動きを止めると、彼の様子など気にする事もなく桜子はまだ閉まりきらないドアの隙  
間から中の柔道バカ共へきこえるように大きな声で呼びかけた。  
「あんたたち、はやく寝なさいよ〜オヤスミ!」  
そう言い終えると返事など待たずにすっきりとした気持ちで桜子は振り返る。  
と、間隔など無いに等しかったものだから桜子は藤田の胸におもいきり顔面を打ちつけた。  
すぐに桜子がごめん、と頭を引いたために今度はドアに勢いよく頭をぶつけて派手な音をたて、  
言葉にならない色気の無いうめき声をあげた。  
一連の桜子のコント的な挙動に藤田が呆れつつも、いつも元気だな、となんとなく穏やか  
な心持ちになり、橘との試合で敗れ落ち込んでいた心が少しだけ癒された様な心地になっ  
た。さて、この感覚は何と言う名前であろう。頬が緩むのを藤田はてのひらで隠していた。  
 
 

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