これは何かの罰ゲームなんだろうか―――。  
俺は1週間ぶりに帰宅した自分の安アパートで、途方に暮れて立ちすくんでいた。  
目の前には、俺のベッドを占領して眠りこける女がひとり。  
「おい、海老塚。」  
声をかけたが起きる気配もない。  
月の光が窓から差し込んで、海老塚の肌を淡く照らす。  
「参ったな…」  
据え膳、とでっかく書いてあるかのような彼女の姿を眺めながら、俺はとりあえずその場に座り込んだ。  
 
グループワークのため、俺がゼミの合宿に出かけたのがちょうど一週間前。  
2泊3日で無事終了するつもりが、厳しくていらっしゃる担当教授にレポートを付き返された。  
笑顔で「全然ダメ。」なんて言われてしまうものだから、まったく口答えもできず、  
結局グループワークのメンバーの家に泊まりこみ、合宿のやり直しをする破目になってしまった。  
酒でも飲みながらまったりと…なんてできるはずもなく、ひたすら調査と分析に明け暮れる日々を超え、  
俺は今ものすごく疲れ果てて帰ってきたというのに。  
 
(予定が延びたこと、言っておくべきだったかな―――)  
海老塚には合宿前「帰ってきて落ち着いたら連絡する」と伝えていたし、  
特に出かける約束もなかったから事後報告でもいいかと思っていたのだけれど、  
押しかけて来たということはつまり、こいつなりに俺を心配していたのだろう。  
 
(まあしかし、ずいぶん勝手だよなぁ海老塚も。)  
以前、こいつが俺に伝え忘れて合宿に赴いたことがあり、  
焦って心配した俺が近藤に連絡して事情を聞きだす、といった事件があったのだ。  
それがきっかけで、俺と海老塚が付き合っているのが浜高柔道部OB連中にバレてしまい、  
同窓会ではかなり気まずい思いをすることになった。  
特に俺が高校時代からかい続けた斉藤と巧には、半端ないやり込められ方をしたことは記憶に新しい。  
 
海老塚はまだ、俺の枕を抱きしめるようにして眠っている。  
月明かりに照らされたなめらかな肌とつややかな唇が、なんとも色っぽい。  
―――触りたいな。  
それくらいなら起こさずにすむだろう、と思って頬に指を伸ばす。  
すると、眠っているはずの海老塚が何かを呟いた。  
 
「…バカ。」  
「え?」  
思わぬ台詞に昔を思い出して、どきっとする。  
高校生活最後の日、俺が海老塚の本心をふいに聞いてしまった月夜のこと。  
「バカってお前…」  
疲れて帰ってきた日に、一体何であんなこと思い出さなきゃならないんだ。  
そう思ってため息をつくと、海老塚は涙ぐみながらまたも続ける。  
「杉清修の大バカ野郎…もー本当にバカ…」  
そのままこいつは俺の枕をぎゅーっと抱きしめた。  
 
「ぶっ…」  
思わず噴き出しながら、俺は自分の顔が真っ赤になっていくのを感じていた。  
悪いことしたな、という気持ちが半分。  
もう半分の気持ちは、勿論言うまでもない。  
このまま寝かせて明日の朝謝ろう、なんていう気持ちはすでに吹っ飛んでいて。  
俺は海老塚の隣にダイブすると、寝転がったまま後ろからぎゅーっと抱きしめた。  
 
ふにゃ、と間抜けな声をあげて海老塚が目を覚ます。  
「ぎゃっ!杉くんっ!」  
「ぎゃっ!じゃねーよ。」  
「もう、何する…」  
「桜子さん。申し訳ございませんでした。」  
先手必勝で謝ると、海老塚はぐーっとなって黙り込んだ。  
「教授が鬼でさ…ゼミの合宿が長引いた。連絡しなくて本当にごめん。」  
目を閉じてうなじに唇を落とすと、ややあって海老塚は口を開いた。  
「…そんなことだろうと思ってた。」  
「ああ。」  
「あたしだって、伝えないで合宿行ったことあるし?」  
「うん。」  
「でもさ…。」  
涙声で口ごもる海老塚を、さらにきつく後ろから抱きしめた。  
「これからはできるだけ、ちゃんと伝えます。」  
そう言うと、彼女は今日始めてこっちに向き直ってくれた。  
「バーカ。」  
涙目でつぶやいて、それから小さなキス。  
「本当にバカよね。杉くんは。」  
すねたような口ぶりでそう言うと、俺にぎゅっと抱きつく。  
俺は海老塚の背中に腕を回しながら、かろうじて残っていた理性にサヨナラを告げた…。  
 
かみつくように唇を奪うと、海老塚がぎこちないながらも応えてくるのがわかった。  
そのまま顎に手を添えて舌を絡め、角度をかえてくちづける。  
目じりに残っていた涙をぺろりと舐め取って目を合わせると、彼女は口をとがらせた。  
「この女泣かせ。」  
「バカ言え。」  
「バカはあんたでしょ?」  
そんな口答えまで可愛く感じるなんて、俺はこいつに関して完全にどうかしてるに違いない。  
「いくらでも言っていいぞ。」  
俺の答えが予想外だったのか、海老塚は頬を染めると小さな声で「ばーか」と囁いた。  
 
ノースリーブの白いブラウスのボタンに手をかけ、わざとゆっくり脱がせていく。  
うなじや鎖骨に唇を付けるたびに、ぴくんと身体が跳ねるのがいじらしい。  
上はブラだけの状態にして肩甲骨に舌を這わせると、海老塚は手で口元を押さえた。  
「どうかしたか?」  
わざとそう言って手をほどかせ、背中への愛撫を続ける。  
「やっ…だって、声出ちゃうっ…。」  
「いいじゃん。」  
「だって恥ずかしいじゃな…ひゃんっ!」  
可愛い声で啼く海老塚が、やたらと愛おしくて。  
「お前、背中弱いよなー。」  
「うるさっ…ああんっ」  
真っ赤に上気した顔で言われても、こっちは煽られるだけなのに。  
わかってねえなと口の中で呟いて、右手で俺の眼鏡を、左手で彼女のブラを外した。  
 
柔道のせいで女らしくなくなったと嘆く身体は、それでも男の俺に比べればはるかに柔らかい。  
それに、かなり感度がいい方なんじゃないかと思う。  
胸をやわやわと弄び先端を転がすと、彼女の声はいっそう高くなった。  
しばらく柔らかい感触を楽しんだ後、そのまま臍をたどって秘所に手を伸ばす。  
そこはもうしっとりと濡れ始めていた。  
「すご。」  
思わずそう漏らすと、海老塚は赤い顔できゅっとこっちを睨みつける。  
「このエロ坊主。」  
そんな可愛い顔で言われても、まったく逆効果なんですが。  
「何を今更。」  
冗談めかしてまぜっかえして、反論を聞く前に俺は濡れたそこに舌を伸ばした。  
突起を中心になぞると、あっという間に抗議めいた声は嬌声に変わる。  
「もうっ…やっ…だめだって…」  
ちっともダメじゃない反応なのに、どこまでも素直じゃない奴。  
「聞こえない。」  
「んっ…嘘吐き…」  
「どっちが。」  
きゅっと突起に吸い付くと、海老塚は高い声をあげて身体をしならせた。  
しばらく呆然としたまま、そこをひくつかせている。  
「素直に言ってくれた方が嬉しいんですけどね。桜子さん。」  
わざと怒らせるように名前で呼ぶと、力の入っていないパンチが飛んできた。  
「言えないってば…そんな恥ずかしっ…!」  
「お前は本当になあ…」  
こんなに感じやすい身体をしているくせに、言葉はいつも素直じゃない。  
でも、そこにどうしようもなく煽られているのが俺自身で。  
だから結局、海老塚だけをどうこう言うことなんてできないんだと思う。  
 
俺は海老塚の髪をくしゃっと撫でて、自分の準備にとりかかる。  
服を脱ぎ捨て避妊具を付けると、改めて覆いかぶさってキスを交わした。  
こういうとき、こいつはすごく柔らかい目をする。  
上手く言えないけれど、色っぽいのにどこか母性を感じさせるような眼差し。  
胸に愛しさがつまって、うまく言葉も出せなくなって、  
俺は早々に海老塚のそこに自分自身を押し進めた。  
 
「んあっ…」  
少しきつそうに眉根を寄せた表情が、何とも色っぽい。  
全てをおさめて抱きしめると、両腕を伸ばしてキスをねだってくる。  
「あ…あの、ね…清修…」  
名前を呼ぶだけで照れてしまうのに、そこはぎゅっと俺自身を締め付けてきていて。  
「会いたかった…」  
反則だろう、と叫びたくなるような顔でそう告げて、海老塚は俺の背中に腕を回した。  
「俺も。」  
そう言って性急に海老塚のそこを突きまくる。  
熱いそこからは絶えず水音が聞こえていて、気が遠くなりそうだ。  
「んあっ…はあっ…」  
彼女の嬌声がだんだん早く、大きくなる。  
「気持ちいいか?」  
そう尋ねるとこくこくと頷く海老塚が可愛くて、大事なのにめちゃめちゃにしてしまいたくて。  
あまりの良さにこっちも声が出てしまいそうなのを必死で堪えた。  
「あんっ…清修っ…あたしもう…」  
イきそうな顔で締め付けてくるから、俺自身の限界もすぐそこまで来ていて。  
キスを繰り返しながら激しく揺すると、海老塚の背中がひときわ大きくしなった。  
掠れかかった高い声で啼いて、ひくひく動くそこが俺自身を刺激する。  
もう我慢ができなくて一番奥を突くと、ゴム越しにすべてを吐き出した。  
 
背中を走る快感が、だんだん鎮まってくる。  
あーともうーとも付かない低い声をあげて海老塚から離れ後始末をすると、  
まだ波が引いていないらしい彼女を抱きしめた。  
吐息を漏らしてぴとっとひっついてくる海老塚がすごく可愛くて、つい口元が緩む。  
くつくつと声を殺して笑うと、少し落ち着いてきたらしい彼女がぷんとむくれた。  
「何よー、バカ。あたし結構怒ってたんだからね。」  
「だから悪かったって。もうしないから。」  
「謝ればすむと思ってるんじゃないの?このバカ杉!」  
バカ、ねえ…。  
「バカって言われるの、俺はそんなに嫌じゃないぞ。」  
そう漏らすと海老塚は怪訝な顔をした。  
「何?杉くんって隠れマゾ?」  
「バカいえ。」  
「じゃあ何なのよ。」  
「んー、まあ、こっちの話?」  
「…変な奴!」  
そう言って向こうをむいた海老塚を、再び腕の中に収めた。  
彼女は一瞬びっくりしたように身を引いたが、すぐに力を抜いて甘えてくる。  
「明日どっか行くか?」  
「んー、いいけど…明日雨降るって天気予報が。」  
そう言って俺の胸に頬をくっつける海老塚はやたらと可愛くて。  
「それは一日中いちゃついていてもいいって意思表示?」  
「だからどうしてそーゆー話になっ…!」  
すかさず唇を奪って額をくっつけた。  
「…バカ。」  
かわいいひとが赤い顔で拗ねるもんだから、やっぱりバカって言われるのは悪くないなと思った。  
 

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