ぴりっとした痛みが内腿を走る。  
「痛…。」  
「聞こえない。」  
低音でしれっと呟くと、杉くんは再びそこに唇を押し当てた。  
――見えないところなら痕をつけてもいいとは言ったけれど、  
だからってこんな、内腿の付け根近くを選ばなくてもいいじゃない。  
 
「…ぁ。」  
強く吸われて思わず声が出た。  
あたしは慌てて自分の人差し指をきゅっと噛む。  
彼は上目遣いであたしを見ると、もう一度そこを強く吸って頭を上げた。  
吸い付いていた場所には、くっきりとしたキスマーク。  
「当分取れないな。」  
そう言って微笑む彼は、なんだかすごく嬉しそうで。  
「こんなにくっきり付けて、バレたらどうするの…。」  
「こんな所、誰かと一緒に風呂に入ったって見えねーよ。」  
確かに、その通りだから許したのだけれど。  
「なんかやらしいよな、こういうの。」  
彼が痕を指でなぞるものだから、また声が出そうになって指を噛む。  
「なんだよ。」  
気付かれ、指を外されると彼が唇をなぞってきた。  
「…もしかして、感じてた?」  
わかってるくせに、なんて意地悪なのだろう。  
答える代わりにあたしは、杉くんの指をぱくりと咥えた。  
「お、い…」  
戸惑う彼にはおかまいなしに、指を舌で弄ぶ。  
ぺろぺろと舐めたり、吸ったり、舌でくるんでみたり。  
―――まるでさっき、彼のあれにしてあげたみたいなことを。  
 
しゃぶっていた指を解放すると、杉くんが上気した顔であたしを睨む。  
「オレを煽ってどうしたい?」  
「別に。」  
癪だから、さっきのお返しとは言わなかったけれど。  
でもすっかり発情してしまったあたしは、彼の肩口に顔をうずめた。  
そのまま耳元で「しよっか」と囁くと、彼はあたしをぎゅうっと抱きしめて笑う。  
「体力ありますねー海老塚さん。」  
「嫌なら…」  
やめるけど、という言葉はキスで奪われた。  
「残念ながら、こう見えてオレ全国優勝した柔道部の元主将なもんで。」  
「肩書き長っ!」  
「うるせー。」  
バカみたいな会話を繰り返して、あたしたちはベッドの上でもつれ合う。  
 
あたしは明後日から、柔道部の強化合宿の予定。  
杉くんもけっこう多忙だから、下手すると1ヶ月近く会えなくなる。  
だから今日は少しでも、彼とたくさん触れ合っておきたいのだ。  
 
あたしの太腿、付け根から10センチくらいの所に付けられたキスマーク。  
何かの拍子に目に入るたびに、あたしは彼のことを考えてしまうだろう。  
それってすごくやらしいなと思うと、あたしの中はまたとろりと溢れてしまった。  
 
おしまい  
 

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