「なぜヤツを生かして帰したのだ!」  
「そうだ、レオナール卿。あれは絶対に間違いだったッ!」  
会議室で、2人の男が騎士を責めていた。  
 
死を覚悟して婚約者と別れてから2ヶ月。騎士と公爵は若いゲリラ兵によって見事に救い出され、いまではウォルスタ解放軍を名乗って、かつての居城・アルモリカを取り戻していた。  
だが、彼らを救った若い姉弟は、とある事件をきっかけに解放軍を離れ、いまでは反乱軍としてアルモリカ城へ乗り込んでくるまでになっていた。  
 
その反乱軍を追い返したあと、騎士はその対応を責められていたのだった。  
「お言葉ですが、ロンウェー公爵」  
騎士は冷静に状況を説き始めた。  
「あそこで彼を殺したとしても、ウォルスタ人同士の殺し合いの噂が広まってしまいます」  
「ふむ」公爵は髭を撫でた。「・・・確かに、ライムが落ちている今、身内の争いは望ましくはない」  
「アイツの部隊にはアロセールもいることだしなぁ?」  
騎士の背後から若い男が口を挟んだ。  
「何の話だ、ヴァイス」と公爵。  
「レオナール卿の女のことですよ。ヤツらに寝取られて、反乱軍に加わってるんです」  
「・・・失礼な物言いはやめたまえ、ヴァイス君」  
「だが、事実だろ。アイツは自分の姉貴までコマすような男だ。しかも、いまや反乱部隊のボスに収まってる。自分の男に裏切られて寂しい身の若い女だ、数日一緒に寝起きすりゃ、身も心もーー」  
「やめろと言っている」  
騎士は振り向いた。若い男は歪んだ笑いを浮かべた。  
「バルマムッサで生き残り、アルモリカでも生き残り・・・さすがはアルモリカ一の弓使いってとこだよな」  
へへへ、と笑いながら、男は会議室を出て行った。  
「公爵、話を戻しますが」騎士は公爵の目を捉えようとした。  
「いまの話は事実か、レオナール」  
「私の恋人が反乱軍に加わったのは事実です」  
騎士はまっすぐに公爵を見たまま答えた。  
「・・・が、手加減するような真似はしません。それが必要なら、容赦なく殺します」  
公爵はうかがうような目で騎士を見ていた。  
「次に会ったら、どうする」  
「次に会うときは、噂の立ちにくい場所で・・・戦犯として捕らえるか、さもなくば・・・」  
 
「レオナールさん? あなたがここに・・・」  
わずか2か月あまり。  
反乱軍はガルガスタン人に勝利を収め、その戦力は公爵を脅かすほどになっていた。  
その若者が、ひとりきりで彼の元に乗り込んできていた。城門を守っていたアーバインはすでに戦死し、その部隊は降参している。残る兵力はほぼ同等だった。  
そして、騎士は公爵の元から遠ざけられていた。いま、公爵の腹心は騎士を追い落とした若者だった。  
「・・・二人だけで決着をつけよう」  
騎士は言ったが、そのとき城内に反乱軍がひとり、入ってきた。  
 
弓使いの女が。  
 
何も言わずにその仲間たちが続く。同胞もいれば寝返った敵兵もいた。人間でない者もいた。不死の魔物まで反乱軍に参加していた。それが、若者を囲むように息の合った動きで陣を作っていくのだった。  
「これは、僕らだけの戦いじゃない」  
「・・・確かにそのとおりだ」  
騎士はうなだれて弓使いから目を反らし、自分の味方を招き入れた。  
 
一本の矢で騎士は死に、コリタニ城は陥落した。  
 
その夜。弓使いは指揮官に呼び出されていた。  
城の一室。窓のそばに立った若い指揮官が、彼女に横顔を見せたまま言った。  
「アロセール」  
「はい」  
「君は以前、僕を狙ったことがあったね」  
「・・・そうね。兄の仇として」弓使いは肩から力を抜いた。「でも、あれはデマだった」  
若者は窓の外を見ていた。中庭で、投降した兵士の武装解除と編成が行なわれているのだ。  
「それが本当で、今日殺されたのが僕だったら」  
「・・・え?」  
「そのほうが楽だった」  
沈黙が降りた。  
 
窓の外から投降した兵士たちの話し合う声が聞こえてくる。かつては互いに友人や恋人だったのか、反乱軍の兵士と抱き合っている者もいた。  
「私たちは正しいことをした」弓使いは言った。「これが運命だったのだと、私は思っているわ」  
指揮官が弓使いに顔を向けた。  
「運命か。こうするしかなかったのか。これが僕たちの役目だというのか」  
「ああ、リーダー」弓使いは男に近づいた。「そんな顔をしないで」  
弓使いはいきなり指揮官を抱き寄せた。彼女より若いリーダーは震えていた。  
「私の部下にも、彼に家族を殺された者がいるわ。  
 私たちが彼を許しても、部下は許さない。殺された人たちも。  
 遅かれ早かれ、彼はイシュタルの裁きを受けて殺されたでしょう。なら、せめて少しでも、楽に・・・!」  
息を整えて、彼女は静かに言った。  
「・・・彼もわかってくれたはず。私はそう信じてるわ」  
「そうか」リーダーの声が涙で濡れた。「だから、君が・・・」  
「そう。だから、リーダー」  
弓使いは男をしっかり抱き寄せた。突然、その美しい目から涙がこぼれた。  
「そんな顔をしないで。あの人のような顔を」  
「・・・婚約していたと聞いたよ。本当に・・・すまなかった・・・」  
「もう・・・!」弓使いの声が上ずった。「もうあの人はいないのよ! 思い出させないで!」  
激しく言うと、男の身体にしがみついて泣き始める。  
初めて人前で泣いた彼女を、若い男は戸惑いながら抱き締めた。  
やがて弓使いの声が静かになり、代わりに互いの息使いが大きく聞こえ始めた。相手の汗の匂いが鼻をくすぐり、若い男女の熱い肌の気配がそれぞれに伝わって、ふたりの心臓の音が重なった。  
 
「・・・私を」弓使いが囁いた。「リーダー、私を・・・」  
「ん?」  
弓使いは指揮官の首飾りを彼の首から抜き取って、テーブルに置いた。激情を鎮めると言われるイシュタルの魔法の首飾りを。  
「私を壊して」  
「アロセール?!」  
「あなたも興奮してる。ならいいでしょう、私をメチャクチャにして。あのときのように」  
弓使いは自分を止めようとする若い男の手を自分の手で迎えうち、しなやかな指で男の指をからめとった。  
「僕は・・・僕たちは敵として戦っただけだ。君を殴ったのは敵だったからだ」  
 
「いいの。もう一度、あのときのように私を倒して。あなたのものにして」  
腰を引こうとする若者の手を握り締めて、弓使いは自分の胸を、腰を、相手の身体に押し付けた。  
「彼女が気になるの? もうここにはいないのに」  
「バカを言うな。僕と姉さんはそんな関係じゃない!」  
挑発に乗った若者を、弓使いはさらに煽り立てた。  
「どうかしら。愛し合っているように見えたけど」  
男が彼女の胸当てに手をやった。固く結ばれた紐を引きちぎるような勢いで解き、それを剥ぎ取る。  
「言うなッ!」  
男は逆上して弓使いを引きずり倒した。どさっと乱暴に床に転がして、その上にのしかかる。  
「ああ」弓使いは喘いだ。「リーダー・・・この私を二度も倒すのね」  
男は彼女のベルトを剥ぎ取り、胴着をめくり上げた。返り血と汗で汚れた胴着の下に、しっとり濡れた白いタンクトップが現れた。胴着に合わせて少しめくれ上がり、娘の引き締まった肌と可愛らしいヘソが丸見えになる。「こんなとこ、あの人に見られたらどうするの?」  
男は床に仰向けになった女を睨んだ。そして、美しい顔が涙で濡れているのを見て、無言で彼女に覆いかぶさり、激しい動きで彼女の唇を奪った。「黙れ」  
弓使いは若者の唇に自分の唇を押しつけながら、相手が着ている黒い僧服の中に手を入れた。彼は、普段着の上にいつも神父のような黒いカズラを羽織っているのだった。その内側に手を入れると、熱い肌の感触が弓使いの手に伝わった。  
彼女はそのまま相手の身体を撫で回し、背中に手を回してしがみついた。  
「忘れさせて」耳元で喘ぐ声はかすれていた。「あなたも。メチャクチャにして」  
床の上に寝た彼女のズボンに男の手がかかった。震える手で紐を緩められたかと思うと下着ごと一気に引き下ろされて、ブーツまで奪い取られ、弓使いは下半身を剥き出しにされていた。女の匂いが広がった。  
「ああ・・・!」  
弓使いの手が若者の上着を剥ぎ取り、若者が弓使いのタンクトップをめくり上げて、それからふたりで若者の腰から邪魔なものをむしりとった。  
彼女の脚のあいだに若い身体が割り込んだ。獣のように息を弾ませて。  
ふだんは優しく甘えるような雰囲気の彼の瞳が、ギラギラと光りながら彼女の乳房を見ていた。  
「ああ」弓使いが裸の腰をくねらせる。「ああ、もう・・・はやく・・・!」  
 
若者の身体が、再び彼女の身体の上に押し付けられた。柔らかい太腿のあいだに熱く硬くなった若者のペニスが跳ね返って、弓使いは思わず自分の手を噛んだ。  
太腿が抱え込まれた。女らしく張りのあるヒップに指が食い込んだ。弓使いは裸の腰をぐいっと引き寄せられ、力の抜けた腕をだらりと頭の上に投げ出した。  
そして、若者の熱いものが彼女の中に入ってきた。まだ慣れていないのか、欲情のあまりか、体重をすべて彼女に乗せて全力で抱き締め、弓使いのバストを押しつぶして、悲鳴を上げさせた。  
もう、彼女の中は蜜でいっぱいだった。  
「喜んでるのか。望みどおり、メチャクチャにしてやるよ」  
そこを言葉どおりの勢いで若い肉体にかき回されて、弓使いは淫らな喘ぎを洩らした。肌が汗でびっしょりと濡れて、そこに若者の汗がしたたり落ちる。  
「ああ・・・ッ!」  
若い男のしなやかな身体にがっしりと捕まえられて、汗を滴らせながら、婚約者に死の矢を放った彼女の手が、相手にしっかりとしがみついた。  
窓の外では編成のすんだ兵士たちが持ち場へ移動を始めていた。  
コリタニ城は陥落したが、死んだ騎士の最後の言葉によれば、公爵は強大な敵・ロスローリアンに身売りして保身を図る計画らしかった。ここに長くとどまることはできない。数日もしないうちに新たな戦場に身を置くことになるのだ。  
ふたりは夢中で腰を動かし、固く抱き合って、互いの身体をむさぼった。  
がりがりと弓使いの爪が若者の背中を引っかき、若者が彼女の首にキスマークを刻んでいった。乳房が突き上げられるたびに瑞々しく弾み、男の汗を吸い取って妖しく輝いた。  
 
「はあ・・・はあ・・・くッ・・・!」  
若者が呻いて、彼女の腰に自分の腰をぶつけた。弓使いもとろけた顔をして男を抱き締め、目を閉じて最後の突き上げを迎え入れた。熱いものが彼女の中に流れ込んでいった。  
若者がぐったりと彼女の上に崩れ落ちた。彼女はそのうなじを抱いて、汗に濡れた首筋に優しくキスを降らせた。若者も熱い息を彼女の耳に吹き込んで、火照る女の身体を震えさせた。  
「アロセール・・・」若者が喘ぎながら言った。「君はもう、僕らの大切な仲間だ」  
「ありがとう。大丈夫。ずっとあなたの弓でいるわ」  
「最後まで、僕たちと一緒に戦ってくれ」  
「ええ。・・・あなた、中にしたのね」  
「ああ」  
「こんなことして、ごめんなさい」弓使いは喘いだ。「でも、限界だったの」  
「わかってる」  
彼女の中で、若者の肉体が再び勢いを取り戻した。  
ふたりは服を完全に脱ぎ捨て、互いに丸裸になって優しく抱き合った。  
「それでも、私は彼を・・・愛しているわ・・・」  
若い男は頷いて、しっかりと弓使いを抱いた。  
 
3日後、虐殺を計画した真の犯人であった公爵は腹心に裏切られ、暗殺されてこの世を去った。  
弓使いの復讐は終わったが、彼女は言葉どおり指揮官の弓であり続けたという。  
 
(完)  
 

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