扉を開けて聞いた声の主が入ってくる。  
「デニムッ、情報どおりだ。  
 ランスロットの野郎が現れたぜ」  
彼は僕の幼馴染のヴァイス。  
僕は椅子から敢然と立ち上がった。  
震えている?…武者震いというヤツだ。  
「わかった。  
 姉さん…いよいよだね」  
「…やっぱり、やめよう。…ね?  
 わたしたちに勝てるわけないわ」  
「何言ってるんだ、カチュア。  
 またとない絶好のチャンスなんだぜ!?」  
「だって…たったの3人で  
 あの暗黒騎士団に立ち向かうなんて…」  
「大丈夫だよ、姉さん。  
 やつらだって油断しているさ」  
「それとも怖気づいたのか、カチュア。  
 俺はひとりでもやるぞッ」  
ヴァイスはそういってあわただしく階段を上がる。  
「やめろよ、ヴァイス。言い過ぎだぞ。  
 いこうッ、姉さん」  
 
しばらくして市内の一角に僕たちはいた。  
「やっぱり上手くいくわけないわ。  
 それに彼らの命を奪って何になるっていうの?」  
「ランスロットは暗黒騎士団の団長だ。  
 そしてやつらはバクラムの力の源」  
「だからランスロットを暗殺することは  
 バクラムの力を一時的にでも弱めることになるんだよ」  
「そうすればヴァレリア全土を征服したがっている  
 ガルガスタンが動き出すに違いない…」  
「落ち着いたばかりなのに、  
 また戦争を起こそうっていうのね、あなたは」  
そう言って、気のないように遠い所を見ている。  
ヴァイスはあまりにも消極的な姉さんに詰めよった。  
「この状況の何処が落ち着いたっていうんだッ、カチュア!  
 俺たちウォルスタ人は虫ケラ同然に扱われているじゃないか。  
 そうさ、俺たちに死ねと命じているのさ」  
ようやく姉さんはヴァイスを見やる。  
「だからって…戦争なんか始めたって  
 私たちウォルスタは負けるだけよ」  
そのときだった。  
何か恐ろしいものが来る、  
そんな予感がしたのは…  
「…しッ!やつらが来た…」  
「挟み撃ちにするぞ。  
 デニム、後ろへ回ってくれ」  
「わかった」  
 
街路で僕たちは5人の男を挟み撃ちにしていた。  
「…おやおや、きみたちは何者でしょう?」  
紳士然とした男がおどけるように言った。  
「俺たちはウォルスタ解放軍の戦士だッ!  
 皆の仇をとらせてもらうッ!」  
「仇ですか…」  
不機嫌そうな顔をした有翼人がしゃしゃりでる。  
「ずいぶんと手荒な歓迎だな…  
 …なんだ、ガキじゃないか!?」  
「待ってください、我々を知っているんですか?  
 人違いじゃあないんですかねぇ?」  
「おまえはランスロットだろうがッ!  
 なら、確かに俺たちの仇だッ!」  
「いかにも私はランスロット…  
 我々は東の王国ゼノビアからやってきた者ですが。  
 何故、私の名を知っているんですか?」  
「…そんな嘘をつくなッ!  
 1年前にこの町を焼き払い、  
 人々を殺したのはおまえら暗黒騎士団だッ!」  
「…そういえば、暗黒騎士ランスロットは片目のはず。  
 あなたは違うわ…」  
「片目の暗黒騎士…  
 どうやら偽名を使ったせいで間違えられたようですねぇ」  
有翼人が仲裁に入る。  
「オレたちは傭兵の仕事を求めてこの島にやってきた」  
確かに観光に来たような感じではない。  
 
男たちは次々と自己紹介を始めだした。  
「実は私の本名はアプローズ。  
 旧ゼノビア王国の男爵だった者です」  
そういえば大陸では一年前に革命があったと聞いたことがある。  
亡命貴族ってやつかな。  
「オレはアーレス。”漆黒の”が二つ名さ。そっちのジジイは…」  
こいつは首に凄い傷跡がある。なんか顔色が悪いなあ。  
「…ワシは闇の予言者オミクロン。  
 …旧ホーライ王国の神官じゃよ」  
そういって僕や姉さんの身体をジロジロ見てくる。  
枯れてそうなジジイくせにまだお盛んなのか?氏ね。  
僕は心の中で毒づいた。  
さらに横にいた下っ端らしいふたりが挨拶する。  
「拙者は暗殺者プロキオン。  
 旧オファイス王国の”NINJA”でござる」  
「オレの名は蛮勇の士ウーサー。  
 同じく大昔はゼノビアの騎士だった、かなあ?  
 …そんなに怖い顔をするなよ」  
なんで横文字で疑問形なんだ?  
さすがに僕はこいつらを信用する気にはなれなかった、怪しすぎる。  
 
序盤で殺されるような狂戦士のなりをしたヒゲもじゃマッチョ、  
実は”オレ…が使えたんだ”みたいな、こんなこともあろうかと系のトンデモ忍者、  
研究の為に手段を選ばない、マッドサイエンティストくさい魔法使い。こっち見るな、バカ。  
そして漆黒もなにも肌白いじゃん、な有翼人。なんか臭いぞ、ちゃんと風呂入ってるのか?  
最後に極めつけにヤバイ雰囲気を持ったオジサンだ。  
一見ひ弱そうだけど、殺した数が30やそこらではきかないだろ、この人。  
物腰は柔らかい、だけど目がこの中で一番ヤバイ、いっちゃってる。  
それに魑魅魍魎の類が目に見えて分かるほどこの人の周りを飛び回ってるんですけど…  
恐怖の騎士ってこういう人か。  
少なくとも敵に回す気にはならない、僕はまだ死にたくない。  
「とにかく…謝ります。  
 男爵様、どうか私たちに力をお貸しください」  
「私たちもこの地は初めてなんでねぇ…  
 とりあえずあなた方のお名前を教えてもらいましょうか?」  
「…俺はヴァイス。  
 仇があんたたちじゃなくて残念だ」  
その言葉は口だけで、警戒心が解けていないのは明らかだ。  
「私はカチュア。僧侶です…そしてこっちは弟のデニムです」  
だけど姉さんはすっかり気を緩めて穏便に、ことを済まそうとしている。  
そんなんじゃダメだ、こいつらの正体だって本当かわからないのに。  
 
「姉さん、油断しちゃいけない。だまされているのかもしれない…」  
「年の割りに疑り深いヤツだな。おいッアプローズ、やっちまおうぜ」  
憤慨した有翼人がスピアを構える。  
疑われても無理はないのに、もう馬脚を現したようだ。  
血の気の多い…それにしても顔色悪いよなあ、コイツ。  
「やっぱりこいつら敵だッ。カチュア下がってろッ」  
ヴァイスが剣を抜く…でも戦って勝てるか?  
姉さんにいいとこ見せたいのはわかるけどさあ。  
男爵の取り巻きも臨戦態勢を取って命令を待っている。  
だが彼の取った行動は意外なものだった。  
彼は厳かな仕草で剣を、僕らに向けることなく、  
頭上の太陽にかざしてこう言ったのだ!  
「デニム君とヴァイス君と言いましたね…  
 私は貴族の名誉にかけて、この剣に誓います。  
 きみたちの敵とならないことをッ」  
ジャキーン!…そんな効果音が聞こえたかもしれない。  
 
剣に誓う、いい台詞だ。  
こんな人が言ってもなんかカッコいいな。  
「「「Foo!男爵カッコいいー!」」」  
彼の取り巻き立ちもそういってはやし立てる。  
「はっはっは。そうですか、そうですか」  
部下の誉め言葉に彼も気を良くした様で相好を崩す。  
僕もヴァイスもすっかり毒気を抜かれていた。  
どうやら彼らはそれほど悪い人ではないのかもしれない、  
そう僕は信じることにした。  
「あなたを信じましょう。失礼をお許しください。男爵様」  
男爵は鷹揚な態度で僕の謝罪を受け入れた。  
「お気になさる必要はありません。  
 …ムカつき…いえ驚きはしましたけれど」  
「今日は暑いのに、ここだけ何故か寒気がします。  
 私たちの隠れ家へ行きましょう。  
 たいしたもてなしはできませんけど」  
この場をこうやって収めたのを僕らはすぐに後悔する羽目になった。  
 

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