「はあ、は……ああ、んッ」  
カチュアはシーツをきつく握り、何かに耐えているように見えた。  
恍惚とした表情をしているので、痛みではなさそうだ。  
ならば気持ちよくなってるんだ、と考え、そっと彼女の下半身に掌を滑らせる。  
「ふ……ッ」  
その秘所はすでにしっとり湿っていた。  
指に、熱い空気がまとわりつくような感覚を覚える。  
茂みの奥の秘裂をなぞると、濡れた音がいやらしく鳴った。  
「カチュア……すげ、濡れてる」  
「やあ、ばかッ……あ、そんなこと、言わないでよ……」  
カチュアは赤みがかった頬をさらに赤く染めて、泣きそうにか細い声で抗議する。  
べつにそんなつもりはなかったのだが、羞恥に悶える彼女には男心をそそるものがあった。  
「悪い」と反射的に謝りながらも、その姿に欲情して何度もそこをなぞると、呼応するように  
甘い声が返ってくる。  
窪みに当てた人差し指の動きを止めて、ヴァイスは口を開いた。  
「カチュア、……指、入れるぞ」  
カチュアが頷いたのを目で確認してから、指を入れてみる。  
中は驚くほど熱く、ぬめっていた。  
ここに自分の昂ぶりが入っていくのだ。想像するだけで興奮する。  
だが、それを挿し入れるには、この道は少々狭すぎるような気もした。  
「力、抜けよ。力んでると痛いぜ、……たぶん」  
「……わか……てる、けどッ……」  
 
勝手に入ってしまう力を緩めるというのは、言うほど簡単な作業ではない。  
顔をしかめるカチュアの苦痛を、どうにかして和らげなければ。  
ヴァイスは少し考えてから、彼女の穴の上、充血してぷっくりと膨れた突起を指の腹でこすった。  
「ひああ!」  
悲鳴じみた嬌声が響いた。熱い壁がうごめき、蜜が溢れ出す。  
この動きに乗じて、ヴァイスは中を解すように指を押し進めたり掻き混ぜたりしてやった。  
そのたびに素直に声を上げ、身を震わせる彼女が可愛らしい。  
淫らな声を聞き、悩ましい姿を眺めているうちに、いよいよもって  
ヴァイスは下半身の疼きを堪えきれなくなった。  
「やべ……カチュア、俺、もう我慢できねえ」  
大きく膨れ上がったヴァイスの雄からは、すでに先走りがこぼれている。  
カチュアはちらりとそちらに目をやって、少し恥ずかしそうに息を漏らしたが、  
やがて小さく頷いてヴァイスの首に腕を絡めた。  
「ん、来て」  
ひしと抱きしめ合い、啄ばむようにキスを交わす。  
それからヴァイスは自身を、ひくひくと震えるそこにあてがった。  
女性ははじめての場合、激しい痛みを感じるものだそうだ。  
どこで誰に聞いたかは忘れたが、そんな知識が脳裏をよぎる。  
「い、行くぞ」  
「うん」  
「あの、痛かったら、ちゃんと痛いって言えよ」  
「う……うん」  
 
一瞬、カチュアの表情が不安にかげる。  
ヴァイスは彼女の頬を撫でて、力を抜けよともう一度忠告してから、慎重に己を挿し入れた。  
「いッ……!」  
甘く響いていた彼女の声が一変した。  
眉根にしわが寄り、身体は強張っている。  
呼吸をするのも苦しそうな、そんな印象を受けた。  
「痛いか?」  
「痛い……わよ、そりゃ……ッ」  
あっさりと素直に答えるカチュア。  
当たり前でしょ、と憎まれ口を叩くのは、本当は彼女なりの優しさなのかもしれない。  
変に「痛くない」と頑固に言い張られるより、余計な心配をせずにいられる。  
もちろん、まったく心配しないわけではないのだが。  
「でも、平気……大丈夫だから」  
強がりに、ヴァイスはあえて何も言わずに頷いた。  
そのまま、少しづつ埋めていく。  
く、と声が漏れた。  
歯を食いしばるカチュアには悪いが、どうしようもなく気持ちがいい。  
「か、カチュア……」  
「んッ……あ、ううッ……」  
女のカチュアが感じている痛みがどういうものなのか、男のヴァイスには想像もつかない。  
ただ、無理やり押し進めてはいけないと思ったヴァイスはのろのろと、時には  
動きを止めるくらいのスローペースで自身を押し込んでいく。  
ゆっくり、ゆっくりと――と。  
びくん、とカチュアの身体が大きくわなないた。  
 
「…………ッ!!」  
破瓜の瞬間を迎え、声にならない声を上げるカチュア。  
見開いた目を、次にぎゅっとつぶる。  
それを見てようやく彼女の身に起こったことに気づき、ヴァイスは痛みに歪む顔を覗き込んだ。  
「お、おいッ」  
「だいじょ、ぶ……、だってば……お願い、続けて……」  
きっと叫びたいくらい痛いはずなのに、なぜかカチュアは笑顔を作っていた。  
「カチュア?」  
「……ふふ……これで、ほんとに私、あなたのもの……ね」  
俺のものにしたい、という自分の言葉。  
あなたのものにして、という彼女の言葉。  
自分で言い出しておきながらすっかり忘れていたやり取りを思い出して、ヴァイスは苦笑した。  
「……ああ」  
汗で湿ったカチュアの前髪を払いのけ、表れた額に口づけを落とす。  
涙目で、しかし痛みを堪えながらくすぐったそうに頬を緩ませるカチュアも、  
キスをねだるようにヴァイスの頬に手を伸ばした。  
今度は唇を重ね合わせる。  
触れたカチュアの唇は、少し震えていた。  
「カチュア、……好きだ」  
「ありがと……私も、愛してる……」  
愛を囁き合い、笑い合って。  
続けるぞ、というヴァイスの声にカチュアが頷いたのが合図となって、ふたりは再び  
甘い情事に溺れていった。  
 
腰を動かしながら、ヴァイスは己の昂ぶりを深く沈めていく。  
カチュアは呻き声をこらえているようだったが、次第にその顔に少しずつ恍惚の色が戻ってきた。  
わずかに開いた唇からも艶っぽい声が漏れ始めている。  
つらそうな表情を見た後だけに、ほっとした。  
「カチュア」  
「ん……、なに」  
すべて収まったところで、一旦動きを止める。  
かすかに震える細い体を抱きしめると、彼女もしがみつくように抱き返してきた。  
「動かすから、な」  
「……うん」  
カチュアを抱きとめたまま少しずつ、ゆっくり腰を動かす。  
ああ、と漏らされた高い声は悲鳴にも歓喜のため息にも聞こえたが、狭い道の奥からは  
潤滑液がとめどなく流れ出てくる。  
今まで味わったことのない最高の快楽の前に、ヴァイスの体はぞくぞくと打ち震えた。  
ベッドの軋む音と、いやらしく湿った音を伴いながら、いきり立った雄が何度もそこを往復する。  
「ふ……あ、はあッ、や……」  
背中の、カチュアの手がまわされた辺りに痛みが走ったような気がした。  
が、そんなことはどうでもいい。  
「くうッ……あ、カチュアッ」  
抽送が、ヴァイスに確実な快感をもたらしてくれる。  
律動は徐々に勢いづき、速くなっていった。  
官能の大波に追い立てられ、一心不乱に腰の動きを繰り返す。  
もはや、カチュアを気遣う余裕も波の向こうへ消えかけている。  
 
「あ、ヴァイスッ! ああ、ふあああ……ッ」  
ただ、縋るように名を呼ぶ声が、ぎりぎりのところで彼の理性を繋ぎとめていた。  
彼女にまた何か異変が起これば、残った自制心を総動員させて動きを止めなければ。  
実際、この快感に前に即座に抗うことができるかは今ひとつ自信がないが、それでも一応  
心構えだけはしておこうと思う。  
もっとも、それは杞憂に終わるようだったが。  
「んああッ……も、だめえッ」  
まるで泣くような声音で、カチュアが限界を訴える。  
最後のときが近づいているのはヴァイスも同じだ。  
その瞬間に向かって、求めるようによりいっそう強く、激しく突き上げる。  
「やあ、あああああッ!」  
先に果てたのはカチュアだった。  
全身を強張らせ、ひときわ甲高い声を上げる。  
その瞬間に一段と強い締めつけに襲われ、ヴァイスも己の限界を感じた。  
「く……カチュア、俺も、もうッ」  
慌てて腰を引こうとする。  
が、カチュアがそれを引き留めた。  
緩みかけた抱擁を解こうとせず、いやいやと首を振る。  
「い、いいのッ、中に……お願い、中に出して……」  
「――ッ!」  
華奢な腕を振り払う余裕もなかった。  
何かが弾けたように、頭が真っ白になって。  
彼女の言葉通り、ヴァイスは己の欲望すべてを、カチュアの中に注ぎ込んだのだった。  
 
■  
 
外は、いつの間にか雨が降っていた。雨粒が絶えず窓のガラスを打ち続けている。  
そんなことにも気づかないほど、彼女に夢中になっていたようだ。  
「…………」  
ヴァイスは小さく息を吐いた。  
隣にぴったりとくっついているカチュアの髪を、指先でさらりと梳く。  
と、閉じられていた瞼が、ゆっくりと開いた。  
「あ、悪い。起こしちまったか」  
「ううん、寝てなかったから」  
とろんとした目がこちらに向けられる。  
眠ってはいなかったが、事後の余韻に浸ってうつらうつらしていたようだ。  
穏やかな笑みでまっすぐに見られ、なんだか気恥ずかしくて、話題を探しながら頬を掻く。  
「あー……えーと。中に、出しちまったな」  
「そうね。責任、とってね」  
重い言葉があっさりと、しかし悪戯っぽく飛んできた。  
何かを期待しているような眼差しを感じる。  
ヴァイスは目を合わせずに、わざとらしくため息をついた。  
「あーあ。俺に務まるかなァ、鬼嫁の旦那」  
「ちょっと、またそんなこと言うのッ?」  
言われた彼女が目角を立てて枕を振り上げる。  
こもった音を立てて、その枕がヴァイスの顔面に直撃した。  
いってえ、と鼻を抑えると、隣のカチュアがきゃきゃっと笑う。  
一時は険悪な敵対関係さえ築いたふたりが、こんなふうに戯れあう日が来ることを誰が予想できただろう。  
 
「デニム、帰ってきたら何て言うかしら?」  
「さあ」  
あの親友は、ヴァイスの秘めた想いなどまるで気がついていないように見えた。  
いや、案外すべてお見通しでいて、「こうなると思ってたよ」なんて涼しい顔をして言うかもしれない。  
腹の立つ奴だと、自分で勝手に想像しておきながら苦笑する。  
その苦笑いを疑問に思ったのか、カチュアの両目が不思議そうに丸くなった。  
「俺、威張る」  
「え?」  
「俺はお前の義兄貴(あにき)になるんだって。お前より目上なんだよ、ってデカい顔してやる」  
真面目な顔で宣言すると、カチュアが吹き出した。  
笑うなよ、と文句を言ってもまるで効果はない。  
何がそこまでおかしいのかと呆れるくらい笑いつづける彼女を見ているうち、なぜか自分まで  
おかしくなって、ヴァイスも我知らず頬を緩めた。  
些細なやり取りがこんなに楽しいのは、きっと一緒になって笑い合えることが幸せだからだろう。  
一緒に――そうだ。今度はひとりでなく、ふたりで一緒に屋上へ登ってみようか。  
見える景色も感じる風も、どこか違うかもしれないと、ふと思った。  
 
 

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