今からでもやめてもらいたい、そう思いながら一方で奉仕という言葉が連想させる妖しさにどうしようもなく
惹かれてもいる。品定めをするようなシビュラの視線に晒され続けながら、俺の中でそんな葛藤が
渦巻いていた。
それにしても、俺に注がれるこの眼差しの鋭さはまるで心の奥底まで見通すかのようだ。彼女の目に
俺はどんな男として映っているのだろうか?彼女は今、頭の中で自分を抱いた幾多の男たちと比べて
俺の価値を推し量っているのかもしれない。だいたい、いくら訓練の上でとは言え、俺は彼女の奉仕を
受けるに足るほどの男なのか…?そんなことの一つ一つが気になりだすと、今度は不安ばかりが高まって
きてしまう。
耐えきれなくなって顔を盗み見るようにしてしまった俺の臆病な視線を、シビュラは意外なほどに穏やかな表情で
受けとめてくれた。月光のような微笑みはどこか別人のようで、単純な柔和さよりもむしろ、王侯貴族に
かしずく者のような不思議な恭しさを感じさせている。
その変化が始まりの合図だった、慇懃な動作でゆっくりと腰を屈めると、シビュラはまるで宝物に触れるかのような
慎重さで俺の脚の付け根辺りにそっと手を置いた。普段の俺に対するのとは明らかに違う態度、そして何気ない
動作に漂う気品と優雅さ。改めて、俺がまだ知らなかったシビュラの姿を見せられた思いがする。彼女は任務の
ため、数知れぬ男にその身体を捧げてきた密偵だ。男が望みさえすれば、王者に仕える召使いのように振舞う
ことくらい、造作もなくできるのだろう。いや、相手が望むのならば令嬢のように慎ましやかにだって、あるいは
女王のように誇り高く振舞うことだってできるに違いない。
「…!」
やがて置かれた指先がそこを軽く撫で回すように動き始めた。触れるか触れないかの強さできわどい位置に
走る微妙な感覚に、俺は思わず音を立てて唾を飲み込んでしまう。ただ、それだけの動きでしかないのに、
取り立てて何かをされているわけではないというのに、俺の全神経がそこに向けられたかのように
感じさせられていく。くすぐられているのとは確かに違う、もっと深いところが疼くようなこの感覚…!
ずっとこれを続けられるだけで、俺は気が変になってしまうかもしれない。そう思い始めたとき、彼女の手が
下穿きのベルトに移り、金具が解かれ始めた。そして、それが終わると間髪入れずボタンも外されていく。
淀みのない見事な一挙一動に、俺は自分のされていることを忘れ、しばし他人事のように見入ってしまっていた。
この匂い立つような美貌と、長年仕えてきた従者のような熟練した動作の妙。恭しさの中にもどこか魔性を
感じさせるこの物腰。彼女の正体を知らない男であれば、たちまち虜にされてしまうに違いない。
やがて彼女の手が腰周りを緩める段階になって、ようやく自分が何をされているかを自覚する。俺は今…
下半身を裸にされているところなんじゃないか!
「シビュラ…、服くらい自分で!」
こんなところを他人の手で暴かれてしまう。心の準備が完全にできていない今、それは奉仕どころか
拷問でしかなかった。彼女に全てを任せることを承諾した以上、抵抗するなんて今更許されないけれど、
やはり恥ずかしさには勝てなくなって、俺は両手で下穿きを掴み、必死に腰を浮かせまいとしていた。
そんな俺のなりふり構わない姿にシビュラはやれやれといった様子の軽いため息をつき、手を止めていた。
「…うわっ、ま、待って!」
あきらめてくれたのかな、と力を抜いた次の瞬間、まるで聞きわけのない子供に対する母親のような
容赦のなさ…!彼女は下穿きの腰回りを掴むと一気に引き上げるようにして、俺の腰を浮かせていた。
緩められていた下穿きは、するりと足首の辺りまで下げられてしまう。そして晒されたのは、天幕のように
膨らんで張り裂けそうになっている下着。下穿きの生地の厚さが、かろうじて抑えつけていた、俺の本性……。
「…」
見られて、しまった。俺の頭の中はエレを失った悲しみでいっぱいだったはずなのに…。さっきまで
何もかもが虚しいなんて顔をしていたくせに…、嫌がるようなことだって言ったくせに…。それと裏腹に、
ここはこんなにも大きく膨れ上がってしまっていた。そうだ…。シビュラを抱くことができる、シビュラが
俺に奉仕してくれる、そう思ったとき確かに俺の身体は浅ましい欲望に支配され始めていたんだ…。
こんなことをしておいて、顔色も変えずに平然としているシビュラが少し憎らしかった。こうなっていることくらい、
彼女には先刻お見通しだったのだろう。続けざまに彼女は下着を剥ぎ取ろうとして再び腰を浮かせに
きたけれど、隠しておきたかった欲情の証を明らかにされてしまった以上、抵抗する意味もなく、
その力も湧いてはこなかった。
仰向けのまま膝が身体につくほどに曲げられたその姿勢は、さながらおむつ替えを思わせる。そんな格好を
させらされたことに今更ながら強い屈辱を感じずにはいられないけれど、時すでに遅し…。するすると
剥くようにされ、尻の肌が少しずつ冷たさを感じさせられていく。滅多なことでは外気に晒されないこの部分が、
何にも守られていないというこの頼りなさ…。続いて裂け目、そして穴さえも露わになっていく。尻を突き出したような
この姿勢だから、まるで尻の穴を彼女に捧げているようで、なんとも情けない…。
「え…!?」
どういう気紛れだろうか…?そこまで下着を捲っておきながら、シビュラは突如として手を止めてしまう。そこは
俺の男の証が見えるか見えないかの、ぎりぎりの位置と言ってよかった。その結果、俺は尻の穴だけを
強調して彼女に見せつけるような、この上なく無様な姿勢を維持し続けることになってしまった。
「そ、そんな…」
シビュラ、どうしてそんなことをするんだ…?これは、さっき俺が余計な抵抗をしたことへのお仕置きだとでも
いうのか?だからって、何もそんなところだけを晒しものにしなくたっていいじゃないか…。シビュラの視線
がこんな汚いところだけに注がれているのかと思うと、膨らんだ下着を暴かれたときとはまた違った
炎が俺の顔を焼き始める。ああ…、こんなことなら、もういっそのこと一気に脱がせてくれ!
そんな俺の奇妙な願いが通じたのか、シビュラは下着を下ろすのを再開し始める。だからと言って
それも素直には喜べない。今度は少しずつ少しずつ、下着を膨らませていたものの正体が明らかに
されていく。そしてついに全貌を暴かれた俺が男である証は、本人の気持ちなんか完全に無視して
はちきれんばかりに血管を浮き出させ、力強く自己主張しているのだった。
「なかなかのものだな…」
表情も変えずに彼女は評する。こんなものなんか褒められたって……。情けなくて、惨めで、
どうにかなってしまいそうだ…。いっそ、大袈裟に泣き真似をするときのように、両手で顔を覆って
しまいたいくらいだった。
そんな、どうしようもなくなってしまった俺を尻目に、シビュラは手袋を脱いでいた。『教皇の刻印』を隠すために
彼女が常に纏っている丈の長い白の手袋。それが今、両手ともに下ろされた。現れたのは、俺もほとんど
見たことのないすらりとした指先。普段纏っているものを脱いだその手は滅多に姿を現さない臆病な小動物
のようでもあり、白磁のような肌の色や姿の美しさを考えると、捕らえられて裸に剥かれた妖精とでも言うような
独特の妖しさも感じさせていた。そして、まさに妖精が舞う優雅さで、彼女の手が俺の身体の上に伸ばされていく。
「だめだ!シビュラ、そんなもの…触っちゃ!」
物の道理を理解できていない赤子が刃物に触ようとするのを止めるかのような切実さで、俺は叫んでいた。
その声も空しく、シビュラの手は屹立した俺のそこを躊躇いもなく握ってしまった。文字通りの男の
急所を握られた瞬間、俺の身体は無意識のうちに腰を引くように動く。だが、そんなことをしたところで
逃れられるどころか、ベッドに身体を押し付ける結果になったに過ぎない。そのまま俺は動くに動けず、
磔にされたように固まってしまう。弱みを握られた、まさにその言葉通りだった。
「…!」
身体は金縛りにあったように凍り付いているというのに、握られた場所は萎縮してしまうどころか、
彼女の暖かい手の中でますます力強く脈打っている。そうだ…。シビュラの手、確かに暖かい。
透き通るような白さから勝手に冷たそうな手だと先入観を抱いていた俺は、彼女の掌がそれを
裏切るかのようのような暖かさを持つことに驚かされていた。考えてみれば、俺は今までシビュラの手を
直に触ったことなんてなかったんだ。それなのに、いきなりこんなところを握られてしまったなんて…。
こんなところで、シビュラの手の暖かさを知ることになるなんて…。
「では、始めるか…」
「…―――っ!」
触れるか触れないかの力で握られた掌が、ゆっくりと上下に動き始める。これ………は!?こんなことくらい
自分でも時々しているじゃないか…。それなのになんだ、このいつもとはあまりに違う感覚は…?
動きのやわらかさ、そして巧みさ。彼女の掌は俺の感じるところや弱いところを外すことなく、正確に刺激していく。
いや、それどころか俺の知らない俺の弱点さえ、明らかにされていくみたいで……。ほんの数回ゆっくりと
擦られた程度で、俺はもう実感させられていた。シビュラは俺自身なんかよりも、遥かにこれのことを
知り抜いているのだと。
「くぅ……あ!」
女好きな先輩騎士たちの話では、責められて悶えるのは女の方と相場が決まっていた。けれど今、顔を歪め
堪えきれなくなって女の子のような声を上げたのは、まさしく俺の方だった。
「どうだ、アルフォンス?」
「…っ、いいよ、こんなこと…。やめてくれよ…」
まるで、べそをかいた幼子だ。虚しい結末に終わったとはいえ、過酷だったオウィス島での戦い。その戦いで
得た男としての自信と誇りが今、根こそぎ奪われていく感じがしていた。そして、思い知らされていた。
一人前の男どころか、俺は未だ年上の女からいいように弄ばれるただのガキでしかないと…。
「どうした?もっと素直に感じていいのだぞ…」
シビュラは手を止めると、訝しげに俺の顔を覗き込んでくる。俺は思い通りにされる悔しさのあまり、
不貞腐れたようにして彼女から顔を背けていた。
「そうか…、では素直にさせてやろう」
次の刹那、俺のそこに暖かい風が吹きつけられる。驚いて振り向くと、それはなんとシビュラの吐息だった。
そこをやわらかく握ったままシビュラは顔を、いやもっと正確に言えば口を近づけている。一体、何をしようと
しているんだ?まさか……?