深更、とある宿にて。  
「アイーシャ、何を?!」  
「ディスティン、側に来て欲しい…」  
 薄絹一枚で、そっとディスティンの胸にすがるアイーシャ。  
「ダメだ、俺はキミを抱くなんて出来ない…」  
「どうして? 私を女として見てくれないの?」  
「そうじゃないんだ。俺には…、できない」  
「?」  
「今、キミを傷つけるような事はしたくないんだ…その、好きだから、さ」  
「ディスティン…、なら…」  
 言下に首を振るディスティン。  
「…今、キミと一夜をともにしたら、俺は戦士としての誇りを失ってしまいそうなんだ…。だから、今はこれで許してくれ」  
「あっ、デスティン…」  
 アイーシャをそっと抱きしめるディスティン。  
「ごめんな、今の俺にはこれぐらいしかしてやれない。許してくれ、アイーシャ」  
 そういって、アイーシャの長い金の髪を優しく撫でる。  
「いえ、私の方こそ、ごめんなさい。我儘を言って…」  
「いいさ。さ、もういいだろう?」  
「…もう少し、このままでいたい」  
 苦笑するディスティン。  
「ヤレヤレ、もう少しだけ、だぞ?」  
「…ええ」  
 窓から降り注ぐ蒼き月の光に照らされ、二人の影がゆらりと揺れた。  
 

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