カチュアはタルタロスの話を聞いた後、すぐにデニムの下へ向かった。
暗黒騎士団の面々は突然走り出したカチュアを追うことはしなかった。
事実を突きつけられたカチュアの行動はデニムには受け入れられないものだと判断したからだ。
深夜遅く、慌てた様子でずぶ濡れのまま戻ってきたカチュアは誰にも止められなかった。
袂を別けたとはいえ実の姉弟だと思われているカチュアがデニムと会うことは不自然なことではない。
騎士団の中でも「弟に手を出したら殺す」という視線を女性陣に向けていたとが、姉であることには変わりない。
プランシー神父の生死がわからない今、騎士団の団長であるデニムにとってカチュアはたった一人の肉親であると思われていた。
カチュアがデニムの寝室に着くと荒い息を整え、音を立てないよう気をつけながらドアを開く。
ギィィと木が軋む音はしたが日々戦いに追われているからかデニムが起きることはなかった。
カチュアが恐る恐る近づくと青い月明かりに照らされたデニムの顔が儚げに見える。
ほんの数時間だというのに、こんなにも愛しく思えたのは実の弟ではなかったという事実が判明したからだ。
今まではゴリアテの英雄と呼ばれ、皆の旗となっているデニムを慕う女性たちに殺気を送ることしか出来なかったが、タルタロスのおかげで行動しても問題ないことがわかった。
カチュアにとってはとても大きいことだった。
家族以上に愛してしまった。
それが今、報われる時がきたから。
他の女に文句を言われても血が繋がっていない事実を公表してしまえばこっちのものだ。
母親も他の女から父を盗ろうとしたようだし、自分が実践しても問題ない。
そう自分に言い聞かせてデニムの顔をじっと見つめていた。
「……デニム………」
雨に濡れたからか、走り疲れたからか、身体が震えてしまう。
そこで自分の格好に気付いた。
雨に濡れたせいで服は下着が透けている。
余裕があるはずのズボンも足に張り付いている。
スラッとした綺麗な足を強調するように見え、淫靡な雰囲気が自然と漂っていた。
カチュアに気付かずにすぅすぅと寝息を立てているデニムはまだ気が付いていない。
それだけカチュアと喧嘩したことを気に掛け精神的に弱っていたのかもしれない。