「まさかローディスの騎士が仲間になるとは……」  
 
オズマの加入に、解放軍の兵士は困惑していた。  
無理もない。バクラム兵士ならまだしも、  
あの暗黒騎士団のコマンドが唐突に加入したのだ。  
 
もちろん、オズマの前歴など気にしない者もいた。  
ギルダスもそういう人種であり、生死を共にする仲間として受け入れていた。  
 
「ま、国は対立してるが、俺たちは同じ軍の仲間だ。仲良くしようぜ」  
 
デニムから、オズマの加入と共にハボリムの前歴も聞かされ  
ギルダスの方から、気楽に声をかけた。  
 
 
その日、ギルダスは、同室のミルディンと語る。  
 
「まさかローディスの騎士が仲間になるなんてな。  
 最低な道化師や筋肉バカとは違って、まともな奴もいたんだな」  
「そうみたいですね。コマンドクラスが仲間となれば、頼もしい戦力ですね」  
「だな。俺はライムで奴らの実力を実際に目にしたからな」  
 
ギルダスは思い出した。  
あの日、ライムにて、マルティムと対峙した。  
 
(悔しいが……ローディスの連中は強い。ゼノビアでも勝てるかどうか)  
 
ギルダスは本国でそれなりの実力者ではあったが  
ロスローリアンのコマンドには敗れた。  
 
「あーあ。やっぱ俺じゃあコマンドクラスには勝てないかな」  
「らしくないですね。貴方だったら、何度でも挑戦するとか言う筈じゃないですか?」  
「まあ、そうだけどよ。サシで戦ったあの時は、命の危険を感じたぜ」  
 
ギルダスは怖気づいた訳では無い。マルティムとの再戦を願っていた。  
 
「奴らと互角に戦うには、もっと鍛えないとダメか」  
「そうですね。とりあえず、あのオズマさんと互角な戦力ならば  
 その道化師とも良い線いくんじゃないですか?」  
「だな……」  
 
ギルダスは考えた。  
 
(そうか、オズマなら参考になるかも)  
 
善は急げ。それをモットーとしているギルダスは、足早にその場を立ち去った。  
 
「俺は出かけてくるぜ」  
「まさか、今からオズマさんの所へ……?」  
「ああ。トレーニングを頼んでくる」  
「気を付けて下さい。女性と言えど、実力は本物ですよ」  
「だからこそ、訓練になるのさ」  
 
ギルダスは装備を整えると、オズマの部屋へと向かった。  
 
「ちょっと、いいか?ゼノビアのギルダスだ」  
 
突然の訪問者に、オズマは無愛想な態度で構えた。  
 
(何…?ゼノビアとローディスの外交話でもする気?)  
 
「………私にどんな御用?ゼノビアの騎士様」  
「ハハハ…。やっぱり、俺はゼノビアの人間としか見られてないか」  
「私は祖国を裏切った訳ではないの。  
 潜在的な敵国の人間に、どんな御用なのかしら?」  
 
オズマは挑発的に語る。  
 
「いや、その……ゼノビアの人間としてっていうのもあるが…  
 1人の騎士として、頼みたい事があってな」  
「何?」  
「いきなりで悪いんだが……トレーニングに付き合ってくれないか?」  
 
(こいつにはゼノビアの任務がある……何か裏があるはずだ)  
オズマは黙ったまま考える。  
 
「いや、深い理由はないんだ。  
 ライムで会った道化師との再戦の為に鍛え直したくてな。  
 君に勝てれば、アイツにも勝てると思ってな」  
 
オズマは事情を呑み込めた。  
マルティムがゼノビアの騎士を倒したと自慢してたので、ライムでの事は知っていた。  
 
(なるほど……コイツか。マルティムに命乞いした髭の騎士。話の内容通りね。  
 私に勝てれば希望があるという計算か。あの口だけの男と同格とは、私も安く見られたな)  
 
オズマは心の中ではギルダスを見下しながら、応える。  
 
「分かった。トレーニングに応じてやろう」  
「本当か!?ありがとうな!!」  
 
(マルティムなんかがどうやって勝ったかは知らないけど。  
 本当のロスローリアンの実力を教えてあげるのもいいか)  
 
「私はローディスの誇り高き騎士。  
 騎士として、誠意を持って対応しよう」  
「ありがとう!それじゃあ、早速頼む。本気で戦って欲しい」  
 
オズマは装備を整えると、ギルダスと共に外へ向かった。  
 
(どうしてやるかな。魔法戦士としての実力を見せつけてやるか。  
 剣術だけで実力差を思い知らせてやるか。それとも、アレで……)  
 
オズマは、既にギルダスに勝つことを前提にしていた。  
 
「どちらかが降参するまで戦うというルールでいいか?」  
 
ルールを確認するギルダス。  
 
「ええ。それでいいわ。全力でいかせてもらう」  
 
やや震えながら、呼吸を整えるギルダス。  
演習として落ち着いてるオズマとは違い、実戦前の感覚そのものだった。  
 
(コマンドクラスとの真剣勝負だ。普段の戦闘よりも、緊張するぜ)  
 
「それじゃあ……いくぜ。宜しくたのむ」  
 
ギルダスは剣を取ると、構える。オズマも鞭を取る。  
間合いを確認しながら近づくギルダス。  
 
(とりあえず攻撃させて、剣を払ってやるか。  
 私に何度も剣を防がれるのは屈辱だからな)  
 
既に鞭の射程圏内だったが、オズマは何もしなかった。  
剣の届く位置まで近づき、振りおろすギルダス。  
 
当たらない。その柔軟な動きをする鞭に、ギルダスの剣は払われた。  
何度攻撃しても、結果は同じ。  
 
(こうやって少しづつ追いつめるか)  
 
オズマは隙を見ては、ギルダスに鞭を振い、離れる。  
そして遠くから魔法を射つ。  
 
「くっ………流石に…強いな」  
 
攻撃魔法を習得していないギルダスにとって  
その攻撃は厄介であった。  
 
(さて……実戦と同じようにさせてもらうか)  
 
オズマの表情が変わった。  
 
「ねえ、本気の勝負よね?」  
「相手が距離をとって魔法を射ったら、何もしないの?」  
「ゼノビアの騎士は戦術を習わないのかしら?」  
 
魔法の詠唱をやめたオズマからは、変わった攻撃が飛んだ。  
 
「はぁ…はぁ…俺は魔法なんて使わない」  
 
接近戦での勝負を得意とするギルダスにとって、オズマの戦術は苦手だった。  
 
「だとしたら、遠距離に対応できない剣一本なんて、脳筋と言われても仕方ないわね。  
 マルティムがバカにするのもうなずけるわ」  
「バルバスを弱くしただけの筋肉バカ。  
 自らを盾として仲間を庇うだけの、やられ役ね。ライムでの行動がまさにそれだわ」  
「捨て駒となって地にひれ伏す生き方は、騎士としていいのかしら?」  
 
嘲笑を浮かべながら、かつ緩急をつけ核心を強調し語るオズマ。  
ギルダスにはオズマの言葉が突き刺さる。  
 
「なんだと……!」  
「無事に生還してこそ、騎士じゃないかしら?  
 いつまでも噛みついて地に伏すのは、三流にもなれない獣よ」  
「私はそんな醜態は晒さないわ。  
 ライムでの噂は、貴方もマルティムもどっちもバカとしか思えないわよ」  
「命令を無視して好き勝手暴れる男と、いつまでも使命を守り好き勝手される男。  
 どちらも同じ頭ね。良いコンビだわ」  
 
ギルダスの心は怒りと苦しみで一杯だった。  
彼の感覚では、いくら戦闘中とはいえ、失礼としか感じられなかった。  
 
「黙っていれば好き勝手言いやがって!!!」  
 
頭に血が上ると同時に、自らの恥を突かれ胃が痛くなる。  
 
「それを理解できる頭はあるようね。見くびってたわ、脳筋さん」  
「剣一本しか闘う術が無いなんて、力しか信じていないのね」  
「もっと頭を使って、この場でどうやって勝つか考えてみたらどうなの?」  
 
オズマの口からは、次々と責めの言葉が飛ぶ。  
ギルダスには強烈だった。  
彼がそれを戦術と考えられる筈もなく、ギルダスのストレスは頂点に達していた。  
 
「やめろ………余計な事は言うな…頼むから」  
「ふうん。そうやって命乞いね。本当にマルティムの噂通りだわ」  
「騎士として相手をする必要なんてなかったわね。  
 貴方はただの暴漢と同じ。戦いたいから戦う。  
 こんなのが騎士を語るとは呆れるわね」  
 
大剣での接近戦のみを得意とする戦術、ライムでの無謀な戦闘。  
ギルダスは痛い所を強烈に突かれ、気がめいっていた。  
 
「私には暴漢なんて興味ないから。もう、中止にしない?」  
「これ以上戦っても貴方に無駄な傷を負わせる事くらい、貴方でも分かるわよね」  
 
オズマは高飛車な口調で語った。  
ギルダスの肉体のダメージはそれなりにあったが、  
精神的なダメージが遥かに大きく、判断力を失っていた。  
 
「俺は負けねえぜ……」  
 
ストレスにより注意力が散ったギルダスは、無謀にもオズマに突進していく。  
オズマにとって、ギルダスは隙だらけであった。  
 
(仕方ない。最後まで戦うか)  
 
オズマの鞭が、特殊な動きをしながらギルダスに放たれる。  
ギルダスは完全に正気を失った。  
 
恍惚の表情で、オズマの足元にひざまずいた。  
オズマに回復アイテムを使い、つま先に頭をこすりつける。  
 
「オズマ様……お怪我はありませんか?」  
 
必殺技により、ギルダスは心を奪われたのだ。  
 
(ああ……敵がいない状態でこうなると、私への奉仕に走るのだったな)  
 
オズマはギルダスを踏みつけて語る。  
 
「怪我などする筈もないだろう」  
「武器をしまえ。鎧も脱ぎ、武装を解け」  
 
悩殺状態のギルダスにとって、オズマの言葉は絶対的なものだった。  
 
(真剣勝負だ。徹底的に、実力差を感じさせてやろう)  
 
武装を解き私服だけになったギルダス。  
騎士として、完全な投降であった。  
 
「上着を脱げ。そして、そこに今の気持ちを書け」  
 
オズマはギルダスに携帯していた筆を渡した。  
言われるままに上着を脱ぐと、ギルダスは筆を動かした。  
 
「オズマ様……好きです…踏んで下さい………」  
 
ギルダスは涎を垂らしながら、自身の服にそのままの言葉を書いた。  
 
「止めろ。次は、名前と年齢、あと私にどうして欲しいのか書け」  
「オズマ様……私はギルダスです…もっと鞭で叩いて…踏んで下さい……」  
 
卑猥な言葉を自身の服に書くギルダス。  
それを見て、上半身裸のギルダスに鞭を振るうオズマ。  
ギルダスの体は真っ赤に腫れあがった。  
 
(そろそろだな。最後の仕上げにかかるか)  
 
「よし。そんなに私が好きなら、性を解放したらどうだ?」  
「宜しいのでしょうか……」  
「ああ。ここで、ズボンを脱ぎ、自らの欲を見たせ」  
 
興奮したギルダスは、ズボンを下ろすと、股間をしごいた。  
射精しパンツが濡れる。  
 
「見ていてやるから、そのまま続けていろ」  
「あ……あ…オズマ様…気持ち良いです……」  
 
声をあげながら股間をしごくギルダス。  
もはや騎士ではなく、人間の誇りすら失った状態であった。  
 
「ああ…オズマ様……オズマ様………ん?オズマ様……?あれ…?」  
 
ギルダスはそのままの状態で正気に戻った。  
 
「勝負あったようね」  
「あれ?俺はいったい?確か妙な動きをする鞭を見て…その後の記憶がない」  
 
ギルダスは自身の異様な姿に気付いた。  
真剣勝負をしていたのに、パンツ姿で、股間をいじっていたのだ。  
 
「な、なんだこれは?俺は何をしている!?」  
「やっと正気に戻ったようね。貴方は、技を受けて精神をやられてたわ」  
 
現状が信じられないギルダスに、  
オズマはギルダスの手で卑猥な言葉が綴られた服を見せる。  
 
「これ、貴方の字よね」  
「な、なんだこれは?俺はどうしてこうなった!!」  
「安心して。技によって正気を失ってただけ。その前までは、真剣に戦ってたわ」  
「俺がこんな事を書いた……戦闘中に…?こんな姿で………」  
 
あまりの恥ずかしさで青ざめるギルダス。  
反対に、オズマは勝ち誇った表情でいた。  
 
「貴方はロスローリアンの実力を知りたかったのよね。  
 これがそうよ。満足できたかしら?」  
「そんな……俺がこんな事になるとは…………」  
 
射精により濡れたパンツ一枚姿で、自身が書いた衣服の卑猥な文章を眺めつつ、  
オズマにより事の経緯を聞かされ、恥ずかしさで倒れそうになるギルダス。  
 
「俺は…負けた……こんな醜態を晒して……俺は………」  
「これがロスローリアンの実力よ」  
「そんな……嘘だろ…真剣勝負中に…俺はこんな事をしていたなんて……」  
 
負けた事よりも、あまりの恥ずかしい負け方をした事に対し  
涙を流して落ちこむギルダス。  
 
勝負に負けた事は今までも何度もあったが、あくまでも真剣に戦った結果であり  
今回のような、人間としての誇りすら失った様な負け方は初めてであった。  
 
「俺は……騎士失格だ………勝負中にこんなことをしていたとは…」  
 
自らの騎士としての誇りを失った感覚で、涙を流して泣く。  
そんなギルダスを見て、呆れた感じでオズマは語る。  
 
「だから途中で聞いたじゃない。もう降参した方がいいって。  
 引き際も大切なのよ。敵を見て、己の力量と照らし合わせないと、命すら失うわ」  
「でも、これは私の技による結果だから。  
 貴方が自分の欲望でなった訳ではないわ。途中までは真剣に戦ってた」  
「真剣勝負だったから。私もそのつもりで対応しただけ。気にする事はないわ」  
 
大の男が、涙を流して落ちこむ姿を見て、フォローに走るオズマ。  
 
「うう…俺は……こんな負け方をしたのは初めてだ」  
「そうでしょうね。ロスローリアンの実力は大陸一だから。  
 相手をよく考えて挑まないと、こういう目に遭うわ」  
「俺は……ローディスの騎士には…あの道化師にも勝てないのか………」  
 
オズマの丁寧な説明により、恥については納得できてきたギルダス。  
しかし、ローディスの騎士への執着心は、強く残っている。  
 
座ったまま落ちこんでいるギルダスを見て、  
オズマはギルダスの肩に手を置くと、優しく語った。  
 
「でもね。貴方が再戦したいのは、  
 コマンドを名乗ってるだけのただの反逆者でしょう。  
 本物のロスローリアンには勝てないけど、  
 あの口だけの小悪党になら勝てる実力よ」  
「………!?」  
「あんな奴よりは、よっぽど優れた太刀打ちだわ。  
 向上心もあるし、戦術さえ工夫すれば勝てる見込みがあるわ、ゼノビアの騎士殿」  
 
誠意を持ってそう言うと、オズマは去って行った。  
 
 
夜、自室にて、ギルダスは物思いにふける。  
「オズマか…ロスローリアンの力は本物だった…」  
「強い……本当に強かった…ローディスのオズマ………」  
「ダメですよ、ハボリムさんに悪いですよ」  
 
ミルディンはギルダスの様子を見て、半分本気で語った。  
負けて騒ぐのではなく、考え込んでいるギルダスを見て、異変を感じたのだ。  
 
「そうじゃねえ!技の後遺症だ。  
 ああ…ローディスの騎士か……本物の騎士だな」  
「強いし……あんな思いをしたのは、初めてだ。  
 強烈だったぜ…あんな技は初めてだ。すげえぜ、本当に」  
「そうですか。まあ、トレーニングなら、  
 ライフではなくハートが奪われるだけなので、良しとしますか」  
「だから違うって!!技の後遺症なんだよ……」  
 
ギルダスは立ち上がると、トイレへ向かった。  
(そう言って、もう何度トイレへ向かったのですか。全く……)  
 
 
「あーーーーあーーーーもっと……痛いです………あーーーーー!!!!!!」  
 
体中に残る鞭の赤い傷を見て、自慰にふけるギルダス。  
まだ触ると痛みを感じ、それで興奮しては何度も射精していた。  
 
(やれやれ……オズマさんか。色んな意味で恐ろしい人ですね)  
ミルディンは溜息をつく。  
 
 
翌日。ギルダスはデニムに呼ばれた。  
「何だ、用っていうのは?」  
「ギルダスさん……見損ないました。残念です」  
「何が?」  
 
周囲にいる、カノープス、ミルディン、デネブ、カチュア、ハボリムなどは  
心底軽蔑するような視線をしている。  
 
「よ!変態マッチョ野郎!!!」  
「もう言い逃れできませんね。ハボリムさんに悪いですよ」  
「サイテーの男ね。もう知らない」  
「これはちょっと……風紀を乱すので会議で扱う必要があります」  
「彼女に悪いので控えてはもらえないか……?」  
 
ギルダスは状況を理解できなかった。  
目の前に、一枚の上着が突きだされる。  
 
「!?」  
「今朝、見つけたのですが。嫌がらせではないですよね。  
 オズマさんの目についたら悪いので、自重して下さい」  
 
あのまま、卑猥な語句が書いてある上着を外に置き忘れていたのだ。  
 
「いや……違うんだ…これは………」  
 
ギルダスは、再度、オズマの騎士としての実力と、  
女性としての恐ろしさを感じると、もう絶対に越えられない最凶クラスとして認識した。  
 
(オズマ……お前には本当に勝てない。完敗した。マイッタよ………心まで完全にやられた……)  
 
<完>  
 
 

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