闇竜の月十五日、王都ハイムは大変な賑わいを見せていた。  
街は色とりどりの花の飾りや風にはためく国旗に彩られ、人々は歓喜の言葉を口にし合う。  
そんな輝かしい大通りをゆっくりと通り抜ける騎馬隊と馬車の列は、  
若き君主の生誕二十二周年を祝うパレード。  
雨期だというのに雲ひとつなく晴れたこの日は、女王ベルサリア・オヴェリスの誕生日だった。  
 
「たくさんの人々が未だ苦しい思いをしているのです。  
 そんなときに、なにも大々的に私を祝っていただかなくても」  
 
当の本人は開催に難色を示していたが、この華やかな行事はヴァレリア全土に住む民衆の  
結束を高めるため、また戦乱からの復興を諸外国に印象づけるためにうってつけなのだと  
側近たちに説き伏せられた。  
そのため、当日の午前中には式典、日中はパレード、そして夜は城内でパーティーが催され、  
女王が公の場から解放されたのは夜更けのことだった。  
 
「長い一日だったわ……なんだか、自分の誕生日じゃないみたい」  
 
疲労を引きずりながらも、ようやく訪れた静かな時間にため息をつく。  
その様子に苦笑しているのは、よく見知った顔だ。  
 
「これも政の一種だろ。平和で何よりじゃねえか」  
「そうね。楽しいことは楽しかったし、いいかな」  
 
戴冠式からかなりの日数が経つが、未だに忙殺される毎日が続いている。  
加えて、今日のための衣装合わせだの段取りの確認だの、準備にずいぶんと手間取った。  
それでも、人々が自分の姿を見て活気づき、元気を出してくれるのならば安いものだ。  
そういう立場であることを自覚しているから、今日はとりわけ、民衆の憧れる女王の姿を  
しっかり演じきった。  
しかし、ここは自室。  
ナイトドレスの上にガウンを羽織ったプライベートな格好の彼女を見ているのは、  
幼馴染の青年ただひとり。  
演じる必要も、気を張る理由もない。  
彼女がベルサリア・オヴェリスからカチュア・パウエルに戻れる、心地よい空間だった。  
 
「ともかく、お疲れさん。飲み直そうぜ」  
 
差し出されたグラスに赤いワインが注がれるのを見ながら、カチュアは頷いた。  
つまみに、と幼馴染が用意した皿には、薄切りの肉と付け合せ程度の野菜が載っている。  
 
「美味しそう。いただくわ」  
「羊肉のローストだよ」  
「へえ、羊のお肉」  
「そう。今日の肉は腐ってねえから安心していいぜ」  
 
そういえば、少し前にもそんな思い出話をした覚えがある。  
彼がまたその話を持ち出したことが、なんとなく気になった。  
意外とくせの少ない柔らかな味を舌に感じながら、そっと尋ねる。  
 
「ヴァイス、もしかして未だにちょっと怒ってる?」  
「そういうつもりじゃないさ。お前が悪いんじゃないし、いつまでも根に持つほどのことじゃ……」  
 
言い淀んで、ただ、と台詞を繋げた。  
 
「ずっと引っかかってたんだ」  
「何が?」  
「あの日、さ。何の日だったか覚えてるか?」  
 
正面に座る彼に見つめられ、カチュアは首を傾げた。  
時期すら雨期の頃だったような、という曖昧な記憶しかないのに、日付までは思い出せない。  
 
「覚えてねえのかよ。お前の誕生日だっただろうが」  
「そう、だったかしら」  
 
呆れられたが、それでもカチュアにはぴんと来なかった。  
 
平和だった子どもの頃には、ささやかながらいつもより少々贅沢な肉や魚の夕食を囲んで、  
父と弟に誕生日を祝ってもらったものだ。  
しかし、十九のときはそれどころではなかった。  
祝ってもらう以前に、誕生日そのものの存在を忘れていたから。  
 
「ヴァイス……あなた、あんな状況だったのにそんなこと覚えてたの?」  
「一応、祝ってやろうと思ってたんだぜ」  
 
喜ばせるつもりだったんだ、とヴァイスは照れ臭そうにこぼした。  
弾圧され、町を焼かれ、家族を奪われて。  
悲しみと憎しみばかりが増えていく中で、少しでも明るい話題が欲しかった。  
 
「せめて誕生日くらい、ちゃんとしたモン食わせてやりてえな……なんてさ」  
 
あのとき、絶対に食料を持ち帰ると意地を張ったのはそのためだ。  
だが、思うような成果は得られなかった。  
やっとのことで手に入れたのは、バクラム軍の残飯であり、ところどころ黒く変色して  
蛆虫が湧いた羊肉。  
カチュアが言い放った「人間の食べるものじゃない」という言葉はもっともだったかもしれない。  
だからこそ、ヴァイスのプライドは傷ついた。  
今なら、カチュアにもそのヴァイスの気持ちがわかる。  
カチュアのために必死の思いで見つけてきた食べ物を、その本人に貶された少年の気持ちが。  
 
「そりゃ、誕生日に腐った肉なんかもらっても全然嬉しくねえっての。なあ」  
 
すっかり大人になった少年はけらけらと笑って、同意を求めてくる。  
けれど、カチュアは笑わない。笑えなかった。  
それどころか。  
 
「お、おい? カチュア、何泣いて」  
 
一滴の雫が白いテーブルクロスに染み込んでいく。  
泣くつもりはなかったのに。泣いても、かえって気を遣わせるだけなのに。  
慌てて涙を拭う。  
 
「ごめん、ね……私、酷いことしたよね」  
 
今になって思う。  
カチュアには周囲の人々ほどヴァイスを厭う気持ちはなかったが、それでも気がつけば  
弟を優先し、可愛がっていた。  
冷たく接したこともあったし、ときには辛辣な言葉さえぶつけた。  
ヴァイスにしてみれば面白くなかったはずだ。  
それでも、彼はずっとカチュアを見つめ続けてくれていた。  
肉親だと信じて疑わなかった弟を失うことが怖くて、そのうち弟にばかり構うようになって、  
自分に向けられる眼差しには気がつかなかった。  
気がつかず、酷いことを――  
 
「ごめんなさい」  
「いいってば。こうして笑って振り返れるようになったんだから、それでいいじゃねえか。な?」  
 
ヴァイスの口調が、少し焦っている。  
いつも強気に接していたせいか、泣かれると調子が狂うらしい。  
カチュアは目を伏せて俯いた。小さく呼吸を整える。  
 
「ほら、笑えって。泣くなよ」  
「……誰のせいよ」  
「だ、誰のせいって」  
 
がたがたと、木製の椅子を引きずる音が聞こえる。  
ヴァイスが席を立ったのだろう。  
戸惑い気味に肩に置かれた手の感触に、カチュアは上目遣いになってヴァイスを見た。  
 
「ヴァイスが泣かしたんじゃない。どうしてくれるの?」  
 
涙はもう引っ込んだが、瞳はまだ濡れている。  
その潤んだ双眸が、悪戯っぽく笑っていた。  
一瞬張りつめた雰囲気を解すことに成功したようだ。  
ヴァイスも安堵したように苦笑する。  
 
「どうしてほしいんだよ? 女王様は」  
「そうね……、慰めてちょうだい。うんと優しくしなさいよ」  
「はいはい。まったく、上から目線の嫌な女だな」  
「誰のことかしら、それ」  
「さあ? ラヴィニスのことかな?」  
「もう、ばかッ。その話は……」  
 
若さと青さが口走らせた本音を未だに揶揄されるとは、あのときには思ってもみなかった。  
蒸し返される恥ずかしさに抗議しかけたところを、くっと指先で顎を持ち上げられる。  
目を閉じれば、普段の勝ち気な彼とは少しイメージの違う、優しい口づけが降ってきた。  
しばらくは触れ合う唇の柔らかさに酔っていたが、そのうちに物足りなくなってくる。  
 
「ヴァイス」  
 
立ち上がって、ねだる代わりに囁いた。  
 
「好きよ」  
「俺だって……」  
 
その先が聞きたい。  
彼には素直でないところがある。  
甘い行為の最中や酒に酔っていない限り、普段は茶化すばかりでなかなか言ってくれない言葉。  
催促して、引き出した。  
 
「俺だって、何?」  
「……好き、だ」  
 
ぎゅうと強く抱きしめられる。  
 
「今日はお前の誕生日だったな。お前が生まれてきてくれて、よかった」  
「……ありがとう」  
 
しがみつくように、太い首へ手をまわして抱きしめ返した。  
言葉はなく、何度も交わされる深い口づけ。  
生き物のように蠢く舌が、カチュアの口腔を這い回る。  
応えるようにカチュアも舌を伸ばし、絡め合った。  
少しざらついた表面が触れ合うたびに、ぞくぞくと甘い痺れが背筋を駆けていく。  
 
「……ッん、はあ」  
 
唇がようやく離れ、カチュアは熱い息を吐く。  
獣欲に火のついたヴァイスの目が、ぎらついているように見えた。  
きっと、こちらの瞳も熱に浮かされたようにとろけているのだろう。  
その証拠に、体の芯でくすぶる疼きが一向に収まらない。  
 
「もっと」  
 
このままでは、おかしくなってしまいそうだ。  
足りない。  
もっと。  
 
「もっと……あなたが欲しい」  
「くれてやるよ、いくらでも。その代わり、俺もお前をもらうから」  
 
軽々と抱きかかえられてベッドに運ばれる。白いシーツは、火照った肌に程よく冷たかった。  
ヴァイスがテーブルに置かれたランプの火を消して、シャツを脱ぐ。  
灯りの消えた暗い部屋の中に現れた、筋肉のついた逞しい背中に目を奪われる。  
男らしいな、と思った。  
いつからそう感じるようになったのだろう。  
年下の少年はずっと、強いて言うならば弟同然の存在であり、男性ではなかった。  
服を脱ぎ捨て、デニムと一緒に泥だらけになって遊んでいた幼い姿。  
暑い時期には、ゴリアテに面した海で泳ぎまわっていた元気な姿。  
彼の背中などいくらでも見てきたはずなのに。  
無意識のうちに見つめていると、振り返ったヴァイスと目が合う。  
 
「もしかして、見とれてた? 女王様のすけべー」  
「……ばか」  
「見とれてたんだな。よし、俺にも見せろ」  
 
ヴァイスは滑らかな生地の肩紐に手をかけた。  
そのまま下着まですべて剥ぎ取られ、なんとなく心もとない感覚に襲われる。  
一糸まとわない華奢な体は月明かりの下で白く輝いており、  
カチュア本人の自覚を大きく超えるほど魅力的だった。  
憎まれ口を叩いていたヴァイスが無言になったことに気づいて、彼を見上げる。  
じっと見下ろしてくる熱い視線に、思わず頬を染めた。  
 
「そんなに見ないでよ」  
「無理言うな」  
「無理、って」  
 
カチュアの精一杯の抵抗をあっさりと却下し、覆いかぶさってくる。  
 
「だって、すげえ綺麗だから」  
「や……ッん」  
 
輪郭をなぞるように、指先で首筋から鎖骨、胸にかけてそっと撫でられた。  
それだけでも心地よくて、うっとりと目を細める。  
 
「柔らけえな」  
「あ……」  
 
恋人の胸の膨らみは、ヴァイスの手にちょうど収まりがいいらしい。  
両手の手つきは愛撫から、やがて優しく揉みしだく動きに変わり、カチュアは  
艶めかしい吐息を漏らした。  
官能を感じ始めたその表情を、ヴァイスが見ている。  
羞恥心に火がつき、逃げるように顔を背けた。  
 
「は……、うん」  
 
口が薄く開き、吐息に混じった恥ずかしい喘ぎ声が漏れていく。  
抑えようとして、きゅっと口を結んだところを見咎められた。  
 
「なに我慢してンだよ」  
「だって……恥ずかしいもの」  
「もう聞いてるよ、何度も」  
「やだ、言わないでよ」  
「俺は聞きたいんだ、何度でも」  
 
耳元で囁く誘惑。耳をなぶる吐息に、ぞくぞくと背中が震えた。  
自己主張を始めた先端を指先で擦られ、弾かれる。  
 
「あ、……んんんッ」  
「相変わらず敏感だな、ここ」  
「ヴァイスが……へ、変な触り方、するから」  
「変な触り方されるのが好きなんだろ? こんなに感じてさ」  
「なッ、そんな、ああッ!」  
 
言い残した言葉は甘い悲鳴に変わった。  
少しかさついた唇で柔らかく摘まれ、舌が踊るように舐め回していく。  
一度声を上げてしまえば、あとは引っ込めようがなかった。  
乳首を刺激されるたび、鼻にかかった喘ぎ声が勝手にこぼれ出てしまう。  
 
「そう、その声。我慢するな、可愛い声なんだから」  
 
力の抜けた両脚を、左右に割り開かれた。  
反射的に閉じようとするが、間にヴァイスの体が滑り込んでおり、抵抗は許されない。  
 
「隠すなよ。欲しくてたまンねえくせに」  
「あうんッ……そこ、ああ」  
 
ちゅぷ、と液体の音がした。  
濡れている自覚はあったが、相手に知られたと思うと恥ずかしくてたまらない。  
 
黄金のような色をした茂みをかき分けて、ヴァイスの指がぷっくりと膨らんだ大粒に辿り着く。  
 
「ああッ! ひ、だめえッ」  
 
触れるか触れないかという弱い刺激に焦らされ、かと思えば、痛みを感じない程度に摘まれ。  
繊細な性感帯を執拗になぶられ、腰が跳ねる。  
 
「やあ、あ、ヴァイス……!」  
 
彼の名を呼びながら、軽く達してしまった。  
弄られていた辺りが弛緩していく感覚と、そこから頭の先、つま先まで優しい電撃が  
広がっていくような感覚。  
目を閉じて余韻に浸りながら、肩で息をする。  
 
「イッた?」  
 
荒い呼吸に胸を上下させ、カチュアは小さく頷く。  
 
「……でも……、まだ……」  
 
体の奥は相変わらず昂っていて、もっと欲しいと貪欲に訴えてくる。  
ヴァイスは嬉しそうに口の端を歪め、震える割れ目に指を這わせた。  
 
「だよな。ここは物欲しそうにしてるもんな」  
「ふあッ、あああ」  
 
ひくひくと小さく収縮する入り口を通り越し、指がカチュアの中へ入っていく。  
これから入ってくるであろうものに比べればずいぶんと細い指にも、ぬめる壁は絡みつく。  
その壁をあちこち引っかかれ、カチュアは身悶えた。  
 
「あ、やだッ、はああんッ!」  
 
押し寄せる圧迫感と、物足りない快楽を求める切なさで、どうかなってしまいそうだ。  
力の行き場を探してシーツの上を彷徨う手の甲に、固いヴァイスの手が重ねられた。  
ためらうことなく手のひらを返し、指を絡めてきつく握る。  
 
と、カチュアに入っている指が抜かれた。  
 
「ん、ヴァイス……?」  
「……本当に、可愛いよ。カチュア」  
 
潤んだ瞳で見上げた彼の顔が降りてきて、口づけを交わす。  
絡み合う舌が熱い。  
唇が離れると、今度は太腿に当たる、熱く固い感触に気がついた。  
 
「俺も、そろそろ」  
「あ……」  
 
ちらりと下を見やると、大きくなった彼自身が顔を覗かせている。  
そういえば、今夜はしてもらってばかりだ。  
彼を気持ちよくしてあげたくて、おずおずと手を差し出す。  
が、触れそうなところでヴァイスが腰を引いた。  
 
「今日はいいよ。俺が優しくしてやるんだろ?」  
「でも」  
「いや、いいんだ」  
 
決まりが悪そうに苦笑する。  
天を向くヴァイスのそれはすでに凶悪に成長し、膨らんだ先端は湿り気を帯びていた。  
 
「今お前に触られると、その、アレだ。ヤバいかも」  
 
ここのところ、激務に睡眠時間さえも削られている。  
恋を楽しむ余裕も愛を確かめる暇も皆無に等しかった。  
そのぶんが、こういう形になって表れているのだろう。  
これはこれで、言葉以上に強く欲されている気がして嬉しい。  
彼の苦笑いにつられるように、カチュアもくすくすと笑った。  
 
「じゃ、触っちゃおうかな」  
「うわッ、やめ、やめろって」  
 
伸ばした右手を捕まれると、次の瞬間には簡単に両手首を拘束される。  
こうして男女の体格差と彼の逞しさを見せつけられるのは、悔しいけれど嫌いではなかった。  
ヴァイスがじっと見下ろしてくる。カチュアも黙って見上げ、見つめ合った。  
額が触れそうな距離まで近づく。  
 
「なあ。挿れて、いいだろ……?」  
 
興奮した荒い息に紛れて、掠れた低い声が許しを請う。  
囁きに呼応するように下腹部が甘く疼き、カチュアはゆっくりと頷いた。  
 
「愛してる、カチュア」  
「私もよ」  
 
そのまま、ちゅ、と音を立ててキスを交わす。  
触れるだけでよかった。  
長々と唇の感触を味わっていられるほど、ふたりとも理性が持ちそうにない。  
濡れきったカチュアのそこに、肉の塊が押しつけられる。  
久し振りだからだろうか、ずいぶんと彼のものが大きく、きつく感じた。  
 
「痛いか?」  
「だい、じょ……ッく、大丈夫だから……」  
 
正直なところ、えぐられるように痛かった。  
しかし、徐々に彼が侵入してくるにつれ、別の感覚が波のように押し寄せてくる。  
ひそめた眉は、最初こそ痛みの証拠で、今では快感の証拠にほかならない。  
求めるように、カチュアはヴァイスを抱き寄せた。  
 
「熱いな。お前の中」  
「ヴァイスのだって、熱い……」  
 
彼をすべて飲み込んだ穴が、まだ切なく震えているのがカチュア本人にもわかった。  
このまま放っておかれたら腰が勝手に揺れてしまいそうで、顔を真っ赤にして声を絞り出す。  
 
「お願い。動いて」  
「ああ、わかってる」  
 
汗のにじむ額にひとつ口づけを落とすと、ヴァイスはゆっくりと腰を打ちつけ始めた。  
欲深く女を貪ろうとするその動きが、蠕動運動のようにカチュアに伝わり、絶え間ない快楽を  
生み出していく。  
その快感は稲妻に貫かれたように鋭く、どんな砂糖菓子よりも甘い。  
 
「ふあ、ああッ! あん、ああんッ!」  
 
羞恥心など遥か彼方に消え失せる頃には、女の悲鳴に我慢の色はなく、  
男の動きは激しさを増していた。  
太い肉棒の根本が顔を出しては、また深く沈みこんでいく。  
それに合わせるように結合部の体液がかき回されて、ずちゅずちゅと卑猥な音を奏で続けた。  
強烈な刺激に、体も意識もどこかに飛んでいってしまいそうだ。  
白い腰をがっちりと掴む手が、そんなカチュアをヴァイスの傍に留まらせてくれる。  
 
「ああ、あああッ、い、気持ちい……ッ」  
「俺もッ、マジ、いい……カ、チュア」  
「ヴァイス、んん……もっと、もっとッ!」  
 
繋がった部分が、体が、心が、愛する人で満たされていくような感覚。  
熱くて、愛しくて、ただそれだけでいっぱいで。  
このまま溶け合って、本当にひとつになってしまいそうだった。  
 
「だめ、だめええッ! ヴァイス、きちゃうの、きちゃ、ああああッ!」  
 
限界を伝える言葉を必死で紡ぐ。  
ヴァイスの呻き声が聞こえた。  
彼も似たような状態らしく、獣のような腰使いにはもう遠慮がない。  
 
愛される悦びか、生理的なものか、あふれる涙でぼやけた視界ではその愛しい顔すら  
にじんでよく見えなくなる。  
広い背中と黒い髪に手を伸ばし、抱きしめた。  
応えるように、力強い二本の腕がカチュアの華奢な体を包み込む。  
 
「愛してる……ッ」  
 
どちらが叫んだのかはわからない。  
あるいは、ふたりして声を揃えていたのかもしれない。  
それくらいに何も考えられなくなって、ほぼ同時に達する。  
 
「は……あ、ああ……」  
 
体の奥に熱い精液が流れていくのを、カチュアは震えながら受け止めた。  
二度、三度と、刻み込むようにヴァイスの腰が動く。  
たっぷりと注ぎ込んで、ようやく、鍛え抜かれた肉体がカチュアの隣に落ちた。  
絶頂を迎えた余韻の中で、呼吸も荒いままに唇を重ねる。  
そうしてしばらく、寄り添って互いの体温を感じていた。  
 
「いけね」  
 
長い髪を梳くように撫でてくれる指の感触に陶然としていたカチュアは、  
小さな呟きを聞きつけてまぶたを開ける。  
 
「どうしたの」  
「一番肝心なこと、言うの忘れてた」  
「肝心なこと?」  
 
改まって、こちらを見るヴァイスの目。  
表情がどこかぎこちないのは、照れ臭さを押し殺そうとしている証だ。  
 
「カチュア。誕生日、おめでとう」  
 
言葉が出なかった。  
たしかに言われていない。言われていなかったが、今さらすぎる。  
 
「……おっそーい」  
「いやあ、タイミング逃してな。だけど、ほら、ぎりぎりセーフだろ」  
 
あと数分で、日付が変わろうかという時間帯。  
わざわざ言葉にしてくれた嬉しさを、カチュアはあえて隠した。  
代わりに、腕枕にしている彼の腕を指先でつねる。  
もうひとつ素直な言葉が欲しくて、ほんの少しだけ意地悪をしてみた。  
 
「いってえッ」  
「だーめ。遅すぎ。誠意が感じられません」  
「じゃあ何だよ……お誕生日おめでとうございます、遅れて申し訳ございません?」  
「なに、その疑問系」  
「ああもう、何て言えばいいんだよ」  
「わからないの?」  
 
眉根を寄せる彼を上目遣いに見て、微笑む。  
 
「まっすぐこっち向いて、私から目を逸らさないで、好きって言って」  
 
ヴァイスの頬が赤く染まるのを目撃できたのは、ほんの一瞬だけだった。  
強引に引き寄せられる。  
やはり、素面では口にできないらしい。  
厚い胸板に視界を覆われて何も見えないが、精神的に優位に立っているのは間違いなく  
こちらのほうなので、くすくすと笑った。  
 
「素直じゃないわね。さっきまで散々言ってたくせに」  
「……なら、もう充分聞いただろ」  
「もう一回、今、聞きたいの」  
「なんでだよ」  
「だって、好きなんだもの。ヴァイスのこと」  
 
少しの沈黙。  
そして、彼の顔は見えないままでも、短い言葉がしっかりと聞こえた。  
俺も好きだよ、と。  
 

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