「ああ、いい、いいッ!」  
白いシーツを握りしめて悶える女を見下ろし、熱い息を吐いた。  
暗さにすっかり目が慣れた今なら、艶めかしく蕩けた表情もよく見える。  
恥じらいの朱に染まった頬は、それ以上に情欲を色濃く浮かべていた。  
「もっと……おねが、い」  
ねだる彼女に応えようと、突き上げの速度を増す。  
こうしてもう幾夜、肌を合わせただろうか。  
その度に湧き上がる、劣情と、快感と、違和感。  
違和感の正体はわかっている。  
「くッ」  
「ふあ、あん、――……ッ」  
行為の最中に、名を呼んだことも、呼ばれたこともなかった。  
違う名前を呼んでしまいそうだから。  
二度と手に入ることのない愛を、求めてしまいそうだから。  
似た者同士だと自覚しながら、傷を舐め合うように、繰り返し交わった。  
「んん、そこ、あああッ!」  
「ぐ、う……ッ」  
記憶を振り払うかのごとく情事に耽る。  
滑稽、かもしれない。  
それでも構わない。それでいい。  
こうしていれば、いつかきっと忘れられる。  
痛みを。過去を。愛した人を。  
時間が忘れさせてくれるはずだ。  
その可能性に縋って、彼らは滑稽な夜に没頭し続けていた。  
 
未だ、朝は遠い。  
すべてを忘れてしまえる日は、それ以上に遠かった。  
 

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