「ん……」  
ハイム城内、高位文官が詰め仕事用に使う寝室で男女の影が合わさる。  
「ぷは……はぁっ……んむっ」  
唇をついばむようなキス、舌を絡める濃厚なキス。何度も何度も繰り返し、滴り落ちた唾液をすくう。  
先に息があがってしまうのはいつも彼女の方で、彼の胸に額をこつんと落としてギブアップを伝える。  
苦しそうに上下する肩を見て申し訳ないという気持ちと、真っ赤になった頬を見て可愛らしいと思う気持ち、  
謝罪と愛情が合わさったなんともいえない感情を込めて、彼女を抱きしめ、頭をなでた。  
 
「明日の出立の時間……何時ごろだったかしら」  
彼女がぽつりともらす。  
「ん? そうだな……昼前にはハイムを立つとして、挨拶回りもあるし、皆が勤務し始める時間から  
 バイアンたちと各部署を回ってそれからかな」  
「そう……今日はこの部屋に泊まる?」  
「システィーナさえよければ喜んでそうさせてもらうよ」  
「私がフォルカスを拒むなんて……そんなことするわけないわ」  
「そうか、そうだね。うれしいよ」  
「……」  
「……どうかしたのかい?」  
先程から彼女の言葉の歯切れが悪い。  
何かを言いあぐねているのだろうかと考えた彼は、それを促すように尋ねた。  
 
「あ、あ……あの、ね、フォルカス……。あの……」  
「うん」  
「その、今日は……い、いつもより……たくさん、抱いてほしい……なって……」  
言葉の最後は殆ど聞こえない程の小さな声になってしまっていたが、  
彼女の言わんとすることは彼に伝わった。  
意外だった。  
このように求愛の情を示す割合は彼の方がずっと多い。  
彼の愛を彼女が受け入れるか、場の雰囲気によってどちらからともなくか、  
大抵はそのいずれかで行為に及んでいたため、彼女から彼を求める状況とはここしばらく無縁だった。  
「だ……だめなら、いいの……」  
慣れないお願いに対する返事に間が置かれたせいか、彼女がそんな言葉をつけたす。  
「そ、そんなことないよ!」  
「きゃっ」  
慌てて肩を掴む手に力が入りすぎた。押し倒すわけでもあるまいし。  
「あ、す、すまない」  
「ううん……よかった、嫌われなくて」  
そう言って、微笑みを返す。  
「嫌うだなんて、それこそありえない。無用な心配だよ」  
女性から情欲のままに求めることが卑しいだなんて、純粋で、少し幼い思考だ。  
苦笑しつつ、しかしそんなところが魅力的なのだと彼は思った。  
育ちがよく、心清らかで……可愛らしく、愛しい人。そして自分を愛してくれる人。  
 
「……やはり、寂しい思いをさせてしまうんだね」  
彼女の頬を優しくなでながら呟く。  
彼女からのお願いは、意外だったとはいえ、その理由は察するに余りある。  
彼女の理想とする国家を一刻も早く実現するために、王都を離れると決めた。  
彼が彼女に贈る最大限の忠義であり、愛。  
しかし物理的に離れてしまうことが、気持ちに何の影響も及ぼさないなんて、そんなわけはなかった。  
彼自身も随分と葛藤した。何日も悩み続け、考え抜いた。  
それでも彼は、理想の国づくりのために尽力するという彼女への誓いを重んじた。  
 
「フォルカスが負い目を感じることはないわ。あなたには感謝しているし、すごく頼りにしているのよ」  
彼の手に自分の手を添え返して、彼女はそう告げた。  
「本当はね、言うのを迷っていたの……。私が寂しいなんて素振りを見せたら、  
 あなたの決心が鈍ってしまうのではないかって」  
「……」  
「でも……でもね、フォルカスは一度決めたことを曲げるような人じゃないって思い直して……。  
 それに……あなたにもっと触れてほしいという気持ちを押し殺したままではいられなくて……」  
「システィーナ……」  
「も、もっとしっかりしなきゃとは自分でも思うんだけど……」  
 
「そんなこと。きみは十分に確然としているよ」  
「そう……?」  
「僕だって寂しいのは一緒さ。できることならずっと君に触れていたい。  
 当たり前だよ、僕はきみのことを愛しているんだから」  
「うん……」  
「きみにもそう思ってもらえて、すごくうれしい」  
「私も……私もうれしいわ」  
「好きだよ、システィーナ。愛してる」  
そっと彼女の肩を押す。強引にでなく、合図を送るように。  
ゆっくりと彼女の体がベッドに横たわった。  
 
彼女のワンピースをまくり上げると、布に隠されていた白い肌があらわになった。  
すべすべとしたお腹やふとももをゆっくりとなでまわす。  
自分だけが、彼女のそこを見ることができ、自分だけが触れられる。  
ほんのわずかに息のあがった彼女の呼吸音が聴こえる。羞恥と期待が入り混じった表情が見える。  
「……」  
もっと。  
もっと自分だけが聴ける声が聴きたい、自分だけが見られる顔が見たい。  
彼の感情はみるみる高ぶっていった。  
「ん……っ」  
大きな手がふたつのふくらみをゆっくりと捕らえ、彼女が小さく声をあげる。  
手の動きに合わせて形を変えるそれらは、少しずつ確実に、彼女に快感を伝達していった。  
しばらくふにふにと感触を楽しむかのように動かしていた手を離し、覆っていた下着をずらし上げる。  
中央の頂は、すっかり充血してその様を主張していた。  
「ふぁ……っ!」  
固くなった突起を口に含み、吸い上げ、舌で転がし、右手は下腹部をなでながら下半身の方へ移動させる。  
彼女の声がひときわ甘くなった。  
「あ……んっ、あ、う……」  
胸への愛撫と同時にクレバスにそって布越しに指を前後させる。  
しばらくそれを続けていると、やがて指先にじわりと湿り気が伝わってきた。  
 
程よいところで彼女を生まれたままの姿へ返し、今度は直接刺激を加える。  
「ひぅ……っ!」  
つぷりと差し込まれた中指に、たまらず腰が跳ねた。  
「……痛い?」  
何度となく体を重ねていても、興奮した自分が彼女に負担をかけかねないという危惧を捨てられない  
優しい青年が、いたわりの言葉をささやく。  
「ううん、だ、大丈夫……」  
「そうか、よかった。じゃあ……動かすよ」  
こくん、と彼女の首が小さく縦に動いた。  
 
「あっ、や……んっ」  
くち、くちゅ、ちゅくっ。  
傷つけないように、それでいて気持ちよくなれるように細心の注意を払って指を上下させる。  
水音が彼女の羞恥心を煽り、羞恥心が快楽を増大させ、快楽が愛液のさらなる分泌を促した。  
あふれる雫を肉芽に塗りつけ、指の腹でくりくりと転がす。  
「あんっ、そこ、は……ああっ!」  
耐えるようにくぐもった喘ぎが、段々とそのトーンを上げて快楽のにじむ嬌声と化す。  
「そっ……なに、された、ら……っ、あっ、い、いっちゃ……!」  
親指で肉芽、中指で内側の弱点と、器用に二箇所を同時に攻められ、彼女が最初の臨界点を迎えようとしていた。  
「いいよ、気持ちよくなって。大丈夫、今日はたくさんしてあげるから」  
「で、でも……っあ! でも、フォルカ……ス、が……まだ、ぜんぜ……あんっ!」  
自分ひとりが快楽を与えられている状況に問題を感じているらしい。  
「いいんだ。僕がきみにしてあげたいんだから」  
少なからず興奮しているとはいえ、なるべく理性の残った状態で彼女を悦ばせることに  
彼は大きな充足を感じていた。  
自分の直接的利益に関係なく相手に尽くすこと、その精神的な満足感を味わえる状況に。  
「あっ、だめっ、だ……め、もうっ! あんっ! あっ……あ、ああああっ!!!」  
彼女の体が弓なりに跳ねた直後、肉壁が彼の指をぎっちりくわえ込んで、ひくひくとわなないた。  
 
「……可愛い」  
最愛の人が自分の手で快楽におぼれていく様子を目の当たりにし、彼の口からそんな一言が無意識にもれた。  
「……っ」  
激しい羞恥心が彼女を襲い、目をぎゅっとつぶった拍子に目尻にたまっていた涙が一滴こぼれ落ちた。  
「あっ、す、すまない、意地悪をするつもりではなく……」  
言葉で責めたような形になってしまったことに、思わず焦って声が上ずった。  
「ん……わかってる。ごめんなさい、あなたは謝らなくていいの」  
彼の手を取り、自分の頬へ寄せる。  
「あなたが私にわざと意地悪するわけないもの。  
 ……それにね、あなたに愛しいと思ってもらうのは、すごく、うれしいの。……だけど」  
「……だけど?」  
「こ、こういう風に、可愛い、って言われるのは、やっぱり恥ずかしくて……。  
 やめてほしいっていうわけじゃないけど、それよりもね」  
彼の手を握る力が、きゅっと強くなった。  
「『愛してる』って言ってほしい……の。わ、わがままかもしれないけど……」  
「システィーナ……」  
愛おしさが込み上げ、彼女に覆いかぶさるようにして重なり、その体を抱きすくめた。  
「わがままだなんて、とんでもない。僕もきみにたくさん伝えたいよ。  
 きみを愛している。愛しくてたまらない」  
耳元で、そうささやいた。  
 
「今夜はきみからのお願いがたくさん聞けてうれしいな。  
 気にせず、何でも言ってほしい。まだ僕にできることはあるかい?」  
「えっと……じゃあ、服……。肌を、重ねたいわ」  
「ああ、うん、それもそうだ」  
確かに、抱き合うなら肌と肌でお互いのぬくもりを感じたい。  
一旦、体を起こして手早く身に着けていた衣服を取り払った。  
「あっ」  
途端、彼女ががばっと身を起こす。  
「え?」  
「あ、ううん。せっかくなんだし、私が脱がせてあげればよかったかなと思って……」  
「い、いや、それはちょっと……。きみがそんなことをする必要はないよ」  
「でも……」  
与えられるばかりではいたたまれない、けれど積極的に攻められる程には成熟していない。  
そんな彼女のできる数少ない奉仕のチャンスだったのに。  
「その気持ちだけでうれしいよ。ほら、おいで」  
彼女を引き寄せ、向き合う格好で自分の膝上に座らせて、額にキスをした。  
しかし、いまいち納得のいっていない彼女の表情は変わらない。  
「うーん……じゃあ、明日の朝の着替えを手伝ってくれるかい?  
 戦が無関係な普通の登城のための正装は久々だし、きみに見てもらえると安心だ」  
苦笑を交えながら、提案をしてみた。  
彼女の顔がぱっと明るくなる。  
「ええ、もちろんいいわ。任せて」  
にこにことした顔で弾んだ返答をしてもらえた。  
 
本当に、自分の恋人はどうしてこんなにも可愛いのか。  
愛しい気持ちがあふれてきて、感情の赴くままに彼女を抱きしめ、唇を重ねる。  
「ん……んむ」  
舌を侵入させ、口腔内をねぶりまわす。  
おずおずと差し出される彼女の舌を絡め取って、くまなく愛撫を贈った。  
「んん……っ!」  
息苦しさに身じろぎする度、触れ合っている場所から快感が生まれる。  
彼の胸板に押されて形を変えられているふくらみの中央、  
彼の竿の上に乗るような形で押しつけられている花弁、  
それらから甘い痺れが全身に流れて彼女に伝わった。  
「は……っ」  
彼の方も、いつまでも余裕を持ってはいられない。  
媚肉の柔らかな感触、そこから伝わる熱、とろとろと自身の上に流れてくる蜜。  
それらが合わさって肉欲がくすぐられ、下腹部に血液が集まる。  
びくびくと猛っているのも、おそらく彼女に伝わっていることだろう。  
 
「システィーナ……」  
唇を離し、もう一度彼女の体を横たえる。  
「平気……かな?」  
彼女の秘所に自身の先端をくちゅりと当てがって尋ねた。  
「あ、う、うん、だいじょぶ……だけど……」  
「なんだい?」  
「あのね、もっと近くに来て……ぎゅって、して、ほしいの……」  
潤んだ瞳で懇願される。  
断る理由はなかった。  
「仰せのままに」  
ふっと微笑みを返し、体を彼女の上に重ね、片手を腰に回して抱きしめる。  
もう片方の手で彼女の手を取ると、健気に握り返してきた。  
あたたかなぬくもりが、お互いに心地よかった。  
 
「力は抜いていてくれ」  
耳元でそう告げると、ゆっくりと腰を押し進めた。  
「……っ」  
濡れて熱くなった肉襞が、歓迎するかのようにうごめきながら彼自身を包み込む。  
快感と繋がった実感とがひときわ強く感じられるこの瞬間がたまらない。  
「システィーナ……システィーナ、好きだ。愛してる。  
 僕の、可愛い人」  
もう何度目になるのか、どんなに伝えても伝えきれない愛しさが言葉となって口からこぼれた。  
「ん……っ、わ、たし……私、も……っ。んく、ぅあっ!」  
ずぶずぶと奥まで進入し、肉壁をこすりながら引き戻す。  
要所を刺激する度、嬌声があがり、肢体が跳ねた。  
「あ、あっ! ん、おく、奥ぅ……っ! や、あっ!」  
指では届かなかったところに待望の刺激が到来する。  
理性が飛びかけて文章になっていない彼女の言い方では、思わず出てしまった言葉なのか  
積極的なお願いなのかは判断しかねるものだったが、  
その場所が大きな快感を与えているということには変わりなく。  
彼女の腰をより一層自分の方へ引き寄せると、自身を最奥まで突き立ててそこを重点的に攻めたてた。  
 
「あんっ! ふぁ、あ、ああっ!」  
ずっ、ずちゅ、ぐちゅっ。  
かき回す度に結合部から淫らな水音が漏れて響きわたる。  
頭が白くとろけていく感覚。  
熱と快楽に支配され、体の全てが甘美な快感を享受するための器官になってしまうような錯覚。  
「あっ、フォルカス……っ、すき、なのっ……! んっ、あ、あっ! フォ、ルカ……スっ!!」  
気持ちいい。愛おしい。  
思考がただそのふたつだけに埋め尽くされる。  
彼の名を呼び、彼の手を固く握って、彼の律動に身を任せる。  
「んくっ、ぅ……あっ、あん! も……もぅっ、い、あっ! ふあ、ああんっ!」  
じゅぷっ、ぐしゅ、ずぷっ。  
突き上げる度に彼女の口からよがる声がこぼれ、瞳からあふれた涙が頬を伝った。  
それがさらに彼の情動を煽り、より激しい刺激となってふたりをさらなる熱情の世界へいざなう。  
「っ、シス、ティーナ……っ!」  
「フォル……ぅあっ、あ、はぁ、あっ! ……め、も……だめぇっ!  
 わた、し、また……っんあぁん! あん! あっ、あんっ!」  
共に悦楽の大波に飲み込まれ、絶頂への階段を駆けあがっていく。  
何かに突き動かされるかのように腰が躍動し、柔らかで窮屈な彼女の体内に  
何度も何度も打ちつける。より深く、激しく。  
「ああぁんっ! んっ、く、ぁ……っあああああああぁぁっ!!!」  
彼女の呼吸が一瞬止まり、直後に大きな叫び声と強烈な締めつけが彼を襲った。  
「…っ!!」  
極限までふくれあがっていた自身は、そこで限界を迎えた。  
咄嗟に腰を引いて、快楽の海と化した蜜壷を抜け出した刹那。  
全身を電撃のような刺激が貫き、硬直したかと思った直後、  
びくんと跳ねた自身の先端から灼熱の白濁液が吐き出され、一気に弛緩する。  
「あ……はぁ、あ……」  
絶頂の余韻に身を震わせる彼女の、桜色に染まった肌に白い情熱が降りそそいだ。  
 
「はぁっ、は……っ。……ふぅ」  
吐精後の虚脱感になんとか抗って呼吸を整え、身を起こす。  
繋いだ手を解いてベッド脇の装飾棚に備えられているハンカチーフを取り、  
彼女の隣に腰を下ろすと、  
「……」  
白い粘液を指ですくい取って、とろんとした表情でそれを見つめる彼女の姿があった。  
それがやけに艶やかに見えて、そして、愛おしいと彼には思えた。  
「いつか……」  
「えっ?」  
ぼんやりと見とれていた彼が、ふいにこぼれた彼女の言葉で意識を引き戻される。  
「いつか、私たちも赤ちゃんを授かる……よね?」  
「あ、ああ、そうだね。本当に全てが終わって、僕が帰ってきたら……」  
結婚して、家庭を持って、新しい命を育んでいくだろう。  
普通で、当たり前の……それは何物にも替えがたい幸せ。  
「その子は……この国を好きになってくれるかしら……?  
 この地に生まれてよかったって、そう思ってもらえるかしら……」  
「当然さ。そのために今、僕らが頑張っているのだろう?」  
穏やかに微笑んで、彼女の手を取った。  
「大丈夫だよ、システィーナ。きみの願った平和な未来はすぐそこまで来てる」  
その日まで、自らの子種はまだその役目を果たす時ではない。  
彼女の綺麗な指からそれを拭き取ると、彼は華奢な手の甲に口づけを贈った。  
「……ありがとう、フォルカス。私の隣にいてくれる人があなたでよかった」  
彼女が、はにかみと安堵の混じった笑顔を返す。  
「そう言ってもらえて光栄だ。  
 さ、ちょっとじっとしてて。汚してしまったところを拭いてあげるから」  
そう言って、胸からお腹にかけて布を滑らせる。  
くすぐったさからか、時折身じろぎする彼女の仕草がなんとも可愛らしかった。  
彼女に奉仕を続けながら思う。  
自分こそ、彼女が隣にいてくれて幸せだと。  
彼女のいる国に生まれてきてよかったと。  
そう、心から。  
 
 
 
「……こんなものかな」  
あらかた拭き取り終わったところで彼がそう呟くと、彼女が身を起こした。  
「それじゃ、今度は私に貸して」  
「……え?」  
一瞬、彼には彼女の言葉の意味するところがわからなかった。  
「え、って……あなたも拭かなきゃ、でしょ?」  
「え、あ、うん。……いや、そうではなくて」  
そこで彼は理解した。  
「き、きみがすることではないよ。汚れてしまう」  
「? きれいにするために拭くのよ?」  
きょとんとした顔で返される。  
正論だ。  
「し、しかしだな、きみに触れられたら僕は……」  
またきみを抱きたくなってしまう、と言いかけたところで口をつぐんだ。  
いつもと違って、今日はまだ続きがある。  
たくさん愛し合うことを約束したのだから。  
抱きたくなるも何も、元から抱く予定ではないか。  
「……じ、自分以外の人に触られるのって、そんなに痛いの……?」  
なんと言ったものかと逡巡する彼に、予想外の言葉が飛んできた。  
「なるべく優しくするつもりではいるんだけど……それでも?」  
「いや、そ、そういうことじゃないんだ。それは心配しなくていい。  
 そうじゃなくて、逆に、気持ちよく……なってしまうと思う、んだ」  
心優しき恋人にいらぬ心配をかけさせてしまったことを恥じ、  
できるだけ誠実に事実を告げる。  
これはこれで別な意味で恥ずかしいのだが。  
「そ、そう……なの?」  
そのつもりがなくても、男性自身に触れるということがどんなことなのか改めて知らされ、  
彼女の頬が赤く染まる。  
「で、でも、私がしたいのはきれいにしてあげたいということだけだし……」  
「い、いやいやいや! 気にしなくていいんだ、本当に!」  
それでも何かをしてあげたいと思った気持ちを振り切れないらしい彼女を慌てて制し、  
これ以上こじれる前にと自分でさっと拭き取ってしまった。  
 
役目を終えたハンカチーフをベッドサイドに置いて、彼女を抱き寄せる。  
「休息、そうだ、少し休息を入れよう、ね?  
 だから、そういうことはまたあとで考えればいいよ」  
「……フォルカス、疲れてしまったの?」  
彼女は本当に、どこまでも純粋で優しい。  
「まさか。そういうわけではないよ。  
 でもこうしてただ肌を合わせている時の心地よさってあるだろう?  
 それも味わっておかないと、勿体ないと思うんだ」  
それは、半分は誘導するための文言ではあったけれど、一方で本心でもある言葉だ。  
「それは……そうね、あなたの言う通りだわ」  
穏やかな笑みがこぼれ、彼女の体重が彼に預けられた。  
彼女の素直さにはほっとする。  
安堵という意味でも、癒されるという意味でも。  
「あ、でも……眠ってしまいそうになるのは、ちょっと困るかも」  
「そうかい?」  
それは仕方ないのだから無理せず眠ってしまっていいと思うが……  
と言いかけた言葉を彼は飲み込んだ。  
約束したではないか。相手に破棄する気がないのにそれを違えるわけにはいかない。  
「……じゃあ、キスをたくさんしてあげよう。  
 それなら大丈夫だよ」  
そう言って、彼女の額にひとつ、口づけを落とす。  
それからまぶた、そして頬。  
そうしてキスの雨を降らせるうち、それが愛撫となって  
再び互いの熱を交わらせはじめるまでに、そう時間はかからなかった。  
 

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル