こちらです、と彼女の姉に親切に案内され、マジクはようやく探し人を発見した。
トトカンタへ帰ってから、何週間か。すっかり伸びた髪を束ねて、身にまとった黒いマントは自らを黒魔術師だと認めている。
彼女とは何度か喋ったりはしたものの、わざわざ彼女の家に招待されたのは初めてであった。
彼女の家とはいっても、トトカンタにある、故エキントラ・エバーラスティンの屋敷だ。
しかし、彼女の母は何ヶ月か前に他界したらしく、姉と彼女、二人で住んでいるという事ではあった。
その屋敷にあるテラスに、優雅に紅茶でも啜りながら腰をかけているのは――
「…クリーオウ」
なによ?、となんでもないような顔をして、クリーオウがこちらに顔を向ける。
マジクはクリーオウの向かいにある椅子に座り、そてクリーオウの顔を見つめ返す。
「どうしたの?僕に用事でも――」
あるのか、といいかけるのを、彼女が遮る。
「オーフェンがね」
「・・・オーフェンさんがどうかしたの?」
「結婚するんだって」
「・・・・・え?」
いつに、と問い返す前に、クリーオウは言葉を続ける。彼女は何一つ、顔色をかえないでいる。
「来週にね、式挙げるんだって。アーバンラマでらしいわよ。マジクにも伝えておけって、オーフェンがね」
「・・・相手は?」
「しらない。手紙送って相手の事聞いたら…マジクに聞け、だってさ。あんた心当たりある?」
なんだそりゃ、としゃっくりに近いような声で叫ぶ。そんなマジクにクリーオウはぷ、と笑いを漏らす。
思い当たる人物はいくつか居たが、とりあえず考えを振り払う。
「ねぇクリーオウ」
「なによ」
「・・・・なんでもないよ。やっぱり、やめとく」
「変な子」
「なんだよそれ」
適当にいいつつ、マジクは先程までピンと延ばしていた姿勢を崩した。そのまま小綺麗なテーブルにつっぷす。
「マジク、私が傷ついたかどうかが聞きたかったんでしょ」
「え」
なんで分かるのか、と問いかける。声がいつものより、トーンが上がっているのに気付く。
「マジクってなんか、分かりやすいのよね。・・・別に、私傷ついてなんかないわよ。ある意味、オーフェンに寄せてた好意はなんか特別な物だったし――」
「特別なら、なおさらじゃないか」
のっそりと顔を上げ、クリーオウを見上げる。クリーオウは冷めてしまった紅茶に口をつけてから、
「・・・だから、そんなんじゃないってば。それに、私は――もう、踏ん切りついちゃったのよね。好きな人と結婚して、幸せなオーフェンを無理矢理不幸にしようだなんても思ってないし」
いや多分結婚してもあの人苦労しまくるよ、と言いかけたのを止める。否、言う前にクリーオウが先に口を出していたからだ。
「ねぇマジク。好き」
「――え」
ぴた。思考、動作、とりあえずほぼ全ての身体の動きが一瞬停止する(ように思えただけではあるが)――
「・・・って言ったらどうする?」
「ひ・・・ひっかけ!!?なんだよそれ!」
「期待したんだ」
「し、したよ!いきなり言うから!」
誤魔化すように――怒るような口調でマジクは叫ぶ。クリーオウは悪戯が成功した子供のようにべ、と舌を突き出す。
「も、もう帰ろうかな、僕。」
下がり過ぎた感ではあるお昼でも、少々冷たい風が目立つようになってきた。そろそろ帰ろうか、とマジクは重たい腰を上げた。
「あら。もう帰るの?用事でもあるわけ?」
クリーオウもつられて席を立つ。手に持っていたカップをテーブルに置くさい、力強く置いたのか少々大きな音がなる。
「ううん。用事はないんだけど。長居したら迷惑かなと思って」
「全然構わないわよ、どうせ私とお姉ちゃんしかいないし――あ、そうだ。ご飯食べていって。マジクのために腕ふるったげる」
クリーオウがぶん、と腕を振るって見せると、マジクは冷や汗を流す。嫌な思いでが頭の中をよぎり、マジクは微妙な心境で呻いた。
「・・・いや、遠慮しとくよ。でも、もう少しいいっていうんならもうちょっと居ようかな」
「だから、ご飯食べてきなって。お姉ちゃんと一緒に料理作るから」
と、めくった袖を戻しながら、クリーオウ。
それなら是非、とマジクは歓喜の声をあげた――が、クリーオウがなぜか凄い形相で睨んでいるのに気付き、押し黙る。
「すっごく生意気なんだから!せっかくちょっと可愛いなーと思ったのに!」
怒られる訳をしらないまま、マジクはとりあえず謝罪の言葉を述べる事になった。