いつも通りのはずだった。  
給料が出たと言って、それを極貧の俺に見せびらかしに来たコギーに飯をおごらせるのは  
(成功したりしなかったりだが)毎度のことだ。  
おごらせたついでに酒を飲むのも、まぁ毎度のことではないが、今までもあるにはあった。  
帰り道で酔っ払ってゲロするコギーを嫌々介抱してやったことも、あった気がする。  
けど、こんな状況は今までなかった。なかったよなぁ。  
こんな状況ってーのは、まあ要するになんだ、俺の腕を枕にしてコギーが寝ているって状況なんだが。  
どうしてこんなことになっちまったんだ…  
俺は、大して飲んでもいないのに痛む頭を抱え…たかったが、コギーがいるから抱えられずに小さく嘆息した。  
 
「お前明らかに飲みすぎだろ!」  
「なぁに言ってんのよぉぅ、これっくらいぜんぜん大丈夫なんだから!」  
バグアップの宿の近くにある、一軒の飯屋。その奥の席で管を巻いているのはコギーだった。  
頼んだメニューの取り合いを真剣にするだとか、残った米の一粒までさらって食べるオーフェンを見て  
哀れみの眼差しを向けたコギーが、自分の皿に残った玉ねぎの薄皮をそっとオーフェンの皿に分けてやって、  
そこから小汚い罵りあいが始まったりだとか、いつも通りのちょっと遅めの夕食風景だった。  
顔馴染みとなってきた店主も、以前はいちいち二人を止めに入っていたが  
今となっては迷惑そうな顔で遠巻きに眺めているだけである。  
そのうちに仕事の愚痴を吐き出しながら酒を飲み始めたコギーと、それを聞いてるようで実は  
店の備品のティッシュなんかをそっとポケットに突っ込むオーフェンがいたのだが。  
彼が気付いた時にはコギーは5杯の酒を飲み、顔を真っ赤にして爆笑しているところだった。  
さすがに、こいつ大丈夫かと心配になってきたオーフェンが彼女を担いで店を出たときには、  
返事はするもののまともに会話のできない状態になっていた。  
 
「うー、むのうむのうってみんな言うけろ、あたひだってがんばってんのよぅ」  
背負っているため、耳元で酒臭い息を吐きながら延々と自分は無能ではないと繰り返す彼女。  
こんな状態になって背負ってもらってる時点で、おめーは立派な無能だよ。しかも無用だ。  
そんな事を考えながら、でも今の彼女に通じそうもないので、オーフェンは無言で宿へと歩を進める。  
宿へ帰ればバグアップがいる。こいつ押し付けて早く寝よう。  
何せ明日は桃缶安売りの日なのだ。睡眠不足は死を招く。  
宿のドアを開け、バグアップを呼ぼうとした彼の目に入ったのは置き手紙だった。  
曰く、明日の夕方まで不在にする、と。客が来たら部屋に案内しておけ、と。  
「だぁぁあ、客に客の案内させるなんてなんて宿だ!!」  
「あんたお金はらってないんだから、客じゃないれしょお」  
ぐだぐだにも拘らず律儀に的確な突っ込みをしてくる彼女に、思わずいつものノリで裏拳を放った。  
とそれは綺麗なまでに彼女の左頬に命中し、コギーは黙った。というか言葉も出ないようだった。  
しかし、バグアップがいないとなると困る。俺の安眠はどうなる?!  
ここにこいつ放置しておいてもいいけど、死なれたら俺の経歴に傷がつく…もうつく所のないような経歴だけど。  
…俺は部屋で寝て、こいつは床にでも置いておけばいいか。もちろんベッドは俺が使うさ。  
そんなことを一瞬で考えて、オーフェンは自分のいつも使っている部屋へと続く階段を上り始めた。  
 
ふぅ、と息をつき床にコギーをおろす。  
力の入らない体は、くたりと床に広がった。  
のんきなもんだ。ここまで運んでやった運賃を明日請求しないと。  
忘れないように枕元のメモに「うんちん」と書き、オーフェンはベッドに倒れこんだ。  
なんだかんだで迷惑かけられたけれど、まともな飯を食ったのは至極久しぶりだったのだ。その点では感謝しないと。  
心地よい眠気に襲われながら、明日の桃缶に思いを馳せる。  
またしばらくは桃缶に継ぐ桃缶の日々…  
と、黙っていたはずのコギーがぎし、と床を軋ませて起き上がる気配を感じた。  
「吐くならトイレ行ってくれ」  
目をあけるのも億劫で、適当に言葉をかけながら、再び明日からの生活への夢想に耽ろうとした。  
と、次に感じたのは自分のベッドがぎしりと軋む感覚だった。  
「おいおいおいおい!ここは俺のベッド!お前は床で寝るの!!」  
寝床を取られる危機感に、オーフェンは思わず起き上がり抗議した。  
まだ酔いのさなかにいるのかコギーはとろんとした目つきで、オーフェンの言葉も聞こえなかったかのように  
布団の中に片足を突っ込んでいる。  
「いいれしょ?床かたいの…」  
 
なにか、こいつは俺に出て行けというのか?  
しかし、コギーは聞き入れられるような状態じゃないと言うことと、夕飯をおごらせているという負い目から  
オーフェンはため息をつきながらしぶしぶ布団から出ようとした。  
と、その服のはしをコギーはしっかりとつかんだのだ。  
「は?」  
「あったかいから、いてよ」  
「いや、いてよったって…自分が何言ってっか分かってんのかこいつ?」  
手と服を引き剥がそうと試みるも、未だかつてない力で頑張るコギー。  
牙の塔で戦闘訓練を受けたオーフェンですら、その手を引き剥がすことができなかった。  
もしかして、この力を普段から発揮していれば無能じゃない仕事っぷりを発揮できるのではなかろうか。  
ちょっとだけプライドを傷つけられて、オーフェンはしゅんとした。  
「あーもー分かったよ好きにしろよ」  
そう言って、少しだけ壁側へ寄ってコギーの分のスペースを空けてやる。  
コギーは満面の笑みを浮かべると、嬉しそうにそのスペースへと潜り込んでいった。  
 

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