「ノぉ〜ボルぅ〜」
と、台所に立つ昇にやたら間延びした声がかけられた。
あの大狐がこんな猫撫で声を出す時は、決まって何かしらのおねだりがある。
「なぁなぁ、何を作っているのだ」
案の定、今作っているものに興味津々らしい。
「あー、寒くなってきたからな。今日はビーフシチューだ。」
と、背を向けたまま答える。
「エー!俺はー!」
やはり夕食についてのおねだりのようだ。
「今日はー!」
正直な話、まだ肉と野菜を炒めたところなので
カレーやシチューへの変更ならルゥさえ買ってくれば何とか……
「ノボルが食べたいナー!」
そうかそうかノボルが食べたいか。
でも残念なことに材料が無いんd
「ッて!?」
と後ろを振り向くと、クーがこちらを興味深げに覗き込んでいた。
それだけなら何も問題は無いのだが、
強調された豊満な胸に細くくびれた腰。雪のように真っ白な肌。
この冬の真っ只中に透け透けのベビードールのワンピースを着用。
しかも・・・…下着を着けていない(!)らしくうっすらと胸や腰の辺りの白い地肌の色が見えて、
まことに目の毒な雰囲気を醸し出している。
「ちょ、待てクー!その格好は!?」
「ん?『べびーどーる』だが?」
「違う!そうじゃなくて!何でそんな格好してるんだよ!」
「いや〜、テレビで『すぎもとあや』が、男は 『すけすけ』に弱いと言っておったからな」
いや当たり前のように会話を進めてるるが、当然その間にもお前の透けた地肌の艶めかしい質感は目に入るわけで。
昇は自分の顔が真っ赤になっていくのがわかった。
「で、どうだ?ノボル。『ぐっときた』か?」
ドコでそんな言い回しを覚えてくるんだろうか?
「と、とにかく!早く、その、服!服を着ろよ!」
「着ているではないか」
そういうことじゃなくて!
「それに……どっちにしろ脱がなければお前を食べられないではないか?」
「そう!それだよ!いきなり何わけわかんないこと言い出s」
まふっ
と、気付いたときには、昇の頭はクーの胸に挟まれていた。
薄い生地越しに張りのある胸の弾力と、仄かな桃のような香りが伝わって来た。
(うわ……)
と一瞬で体が硬直する
「なぁ、昇、本音を言うとな?」
先ほどとはまるでトーンの違う、
まるで母親のような声でクーが語りかけてくる。
「俺はお前が心配なんだ」
と、頭を撫で抱えつつ言う
「お前は少し頑張りすぎだ」
クー自身の鼓動が、トクン、と少し早まっていくのがわかる
「美夜子が死んでしまった時、一番悲しい思いをしたのは、
大人だった春樹でもなく、小さすぎた透でもなく、そのとき既に物心がついていたお前だったものな」
クーの放つ一言一言が耳朶に優しく響く。
「だからな、昇」
耳のそばで、これ以上ないというくらいの慈愛に満ちた声で囁く。
「たまには、俺や守り女に甘えたって良いんだぞ?」
最後の一言で、何かが溶けていくような気がした。
ひょっとしたらまた何か怪しげな術でもかけられているのかもしれない。
そう思いつつ、けれど昇の目には涙が浮かんでいた。
この狐は、母が関わる話にだけは、絶対にそんないい加減なことはしないと思ったからだ。
「ふふ。落ち着いたか?」
こくん、と頷く
するとクーは頭を撫でる手を昇の細い顎に添えてに胸からゆっくり顔を引き離し
静かに艶やかな唇を昇の唇に重ねた。
昇は、そのゆっくりとした動きにも、ただクーのするように任せた。