いつまでも同棲生活は何だということで、つつましい婚礼の儀、
形ばかりの宴が身内だけで催された。
彼はソッと隣に鎮座する妻となったお嬢様を窺う。
着飾った彼女の頬はほんのり化粧紅が乗り、
結った頭にかんざしの飾りが揺れ澄ましているが
時折あくびをかみ殺した涙目をしている他、表情は読み取れない。
「じゃあ、家へ帰ろうか」(竪穴式だけど)
「わ、、」
「いくらなんでも、あそこでは何でしょ」
張親子が口を揃える。
「しばらく、こちらで居住なさって下さい」
「なんで、しばらく?」
「せっかく本日、正式に御夫婦となられたのですから、
一応整えた場所で二、三日ゆるりと。若」
香娥が苦笑を交え、ごにょごにょ言葉をにごす。
許夫妻が進み出て言う。
「どうぞ御遠慮なく我が客用の離れをお使い下さい。婿 殿(ハアト)」
「あ、は、はい」
主人と使用人という関係から突然、白に玉、自分が皇族と爆弾発表
されたあげく、急転直下の婿扱い。
うやうやしくされるのは今だに慣れない。
客間に案内・・と言っても勝手知ったる狭い家だ。ここの掃除も自分の仕事(※趣味)だったから。
スタスタと部屋へ籠り、長椅子に座ると柔らかな香の匂いが鼻をくすぐる。振り向くと
髪をほどいたお嬢様が小走りに駆け寄り、詢の横へピョコンと座り込む。
「ご両親に気を使って頂いたようですね」
「バカね〜私達今更〜新婚も何もないのに。」
「でも可愛いかったですよ。お嬢様。馬子にも衣装」
「若様……っ(怒」
にっこり笑いながら華奢な肩に手をやり、彼女をふところに抱き寄せる。
夜着に着替えた小柄な姿は、すっぽり腕の中へ埋まってしまう。