電話が鳴った。  
「ノリ子ちゃん、お願いがあるんだけど……」  
電話口のモモ子お姉ちゃんの声が掠れている。なるほど風邪みたい、辛そうだ。  
わたしは、今手がけていた研究のファイルを閉じ、出かける準備をする。これから、お兄ちゃんの所に行かなければならなくなった。  
 お兄ちゃんは、今この家から離れて、大学の近くに部屋を借りている。  
とりあえず進んだ高校だったけど、結局通ったのは半年ぐらいだけ。そのまんま大検をパスして大学に進んでしまった。  
お母さんは出来れば高校もきちんと卒業して欲しかったみたいだけれど、本人の決めたことだから強く反対はしなかった。  
「あら、ノリ子、どこへ行くの?」  
 店番をしているお母さん。年の瀬で結構忙しい時期だったけど、たまたま波が切れていたようだ。  
お母さんは相変わらずの笑顔だけど、最近はちょっぴり寂しそうな笑顔が多くなった。  
「モモ子お姉ちゃんが風邪引いちゃったみたいで、代わりにお兄ちゃんのお世話頼まれちゃった」  
 私のその言葉を聞いて、寂しさのない、昔の笑顔が戻った。  
「そう、だったら、夕べ作り置いたコロッケがあるから、持っていってあげなさい」  
 そういって台所からタッパーを持ってきてくれた。お母さんのコロッケはお兄ちゃん大好きだったから、きっと喜ぶ。そういってそれを受け取ると、我が家を後にした。  
 
 お兄ちゃんの住んでいる下宿まで、電車で6駅離れている。  
 土曜の朝、それなりに混んでいる車内で、窓の外を眺めながら考える。  
お父さんは、お兄ちゃんが進学すると言い出したとき、結構反対した。  
さっさと店を手伝って欲しい、と言うのが言い分だったけど、まあそれでも最終的にはお兄ちゃんの考えを尊重するつもりではあったようだ。  
実際、今の大学を紹介したのもお父さんだし、お父さんの知り合いの教授を紹介したりもした。  
 コースケはずいぶんと反対した。寂しいからだ。小学6年生になった今でも、寂しい、寂しいとこぼしている。  
3年前、それまでは3人一緒だった部屋を別々に分けたときは、まだお兄ちゃんが居たから良かったんだけれど、今は一人だ。それでもまだ慣れないらしい。  
まぁわたしも最初に一人になったときには、ずいぶんと不安だったけれど。  
 わたしは、……わたしは、もちろん寂しかったけど、賛成した。今のお父さんがそうであるように、学生時代の経験はきっと後の実りになる、と思うからだ。  
それに、お兄ちゃんは強情なところがあるから、決めたことは曲げないし、意地を張っちゃう。いつもはそれで大変な目を見るんだけれど、それが一番お兄ちゃんらしいと思ったから。  
 でも、本当はそれだけが理由じゃない。お兄ちゃんがこの家から、私から離れてしまうことを望んだのは、不安だったからだ。  
 そしてその不安は、実際にお兄ちゃんと離れて暮らすことで確信に変わった。  
 
 私は、お兄ちゃんが好きなんだ。  
 
 車内のアナウンスが、目的の駅に着いたことを告げる。  
 駅を降りてからはバス。電車を降りたときにちょうど目的のバスが発車した後だったけれど、大学行きのバスなので、しばらく待っただけで新しいバスが着いた。  
土曜のダイヤは平日に比べてかなり間隔が広くなってはいるものの、朝はそれほどの差はないようだ。  
(モモ子お姉ちゃんも、大変よねぇ。ほとんど毎日、これで通ってるんだから……)  
 モモ子お姉ちゃんはああいう人だから、違う高校になってしまったときはいろいろとあった。泣いたし、怒ったし、拗ねたし、落ち込んだ。  
そのたびにお兄ちゃんは慌ててたけど、まぁなんとか収まった。  
お兄ちゃんが進んだのは工業高校だったから、女の子が少なかったし、結局は隣の家であることに変わりがないわけだから、学校以外で会いに来ることが多くなった。  
お兄ちゃんが家を出てからは、2,3日おきに通っている。  
(そういえばアイお姉ちゃんだけはお兄ちゃんと同じ高校に進んだみたいだけど、やっぱりもう辞めてしまったみたい。今はどうしてるんだろ?)  
 ちょうど、大学の一つ手前が目的地。それなりに多い人をかき分けてバスを降りる。  
 
「……寝てるんだ、お兄ちゃん」  
 部屋について合鍵を使うと、お兄ちゃんの作った『万全セキュリティー君』が出迎えてくれたけれど、当の本人は出てこなかった。  
留守かとも思ったけれど、とりあえず靴がまだ脱ぎ捨てられたままだったし、なにより本人の物と思える鼾が奥から聞こえてきたからには、いるのだろう、この家の主が。  
『万全セキュリティー君』に通してもらって部屋に上がると、ガラクタ(本人に言うと、ものすごく怒る)の山の中で、お兄ちゃんが眠っていた。  
声をかけたり揺すったりしてしばらく起こそうとしたけれども、いっこうに起きる気配がない。こうなるといくらやっても無駄。  
たぶんまた徹夜で何か作っていたんだろう。いわゆる『寝モード』に入ったお兄ちゃんは、生半可なことでは起きない。  
 せっかく久しぶりに逢えたのに。  
 
 仕方がないから、先に部屋を片づけることにした。モモ子お姉ちゃんに頼まれていたことだ。  
他に洗濯、ご飯の支度もする。モモ子お姉ちゃんはしょっちゅうここに通ってこれをやる。  
それこそ同棲でもすればいいのだけれど、モモ子お姉ちゃんのお父さんが強く反対してそれが叶わなかった。  
例によってこの件でもモモ子お姉ちゃんは泣いて怒って拗ねて落ち込んだけど、一度立ち直ってしまえばポジティブな人だから、後はそれから今でも、この『通い妻』のような生活を続けている。  
今日は、ここにくる予定だったのを風邪で臥せたものだから、私にお鉢が回ってきた。  
それで、この有様。お兄ちゃんは自分の身の回りには無頓着だから、モモ子お姉ちゃんが世話を焼いてくれるままになって自分ではしようともしない。  
たった3日あけただけでも物凄いことになっている。辺りを見渡しただけで溜息が出てしまう。やっぱりモモ子お姉ちゃんはすごい。尊敬する。やっぱり、『好きこそ物の……』なんだろなぁ……。  
 でも、……だったらわたしも、……。  
 
 冬の陽は短い。掃除を終えた今でもう4時。外は陽が落ち始めている。夕日だ。  
 次は洗濯物を片づける。  
……とはいうものの、これはそれほど大変というわけではない。  
なぜならお兄ちゃんはあまり着替えをしないからだ(苦笑)。  
この間モモ子お姉ちゃんが来てから3日たっているにもかかわらず、洗濯カゴ(の周り)には、1回分の着替えた跡しかない。  
今の下着はいつ着替えたんだか気になるところだ。  
 洗濯カゴから洗濯機に洗濯物を放り込む。  
シャツを手にとって、だけど放り込む前にふと止まる。このシャツは、お兄ちゃんが着てたもの……、お兄ちゃんのにおい。  
「わたしって、…変態、かも」  
 そう思ったけど、止まらなかった。  
一緒の部屋に棲んでたときは当たり前で気づかなかった。  
でも、私が女の子になったときから部屋を分けられて、なくなって初めて気づいたにおい。  
シャツに鼻を近づけて吸い込むと、懐かしくて、なんだかどきどきする。  
これで勢いがついたみたいで、今度はとまどわずに、お兄ちゃんのパンツに鼻を寄せる。  
吸い込むと、肺にお兄ちゃんの空気が満ちる。ぞくぞくして、子宮の辺りが熱くなる。エッチな液が染み出していくのが分かる。  
こんなことで興奮しているんだ、私。  
「……変態だ、間違いなく私は変態だ」  
そんなことは分かり切っている。だいいち、自分の実の兄を想ってでしか自慰できない女の子が、マトモであるはずがない。  
「ふー、」  
 堪能、して一息つく。  
ちょっとした自嘲の気持もあるけれど、でもやっぱり嬉しい。ここが自分の部屋だったら、たぶんこのままシテただろう。  
…ていうか、やっぱりシたい。台所からビニール袋を持ってきてパンツを入れる。  
お兄ちゃんには悪いけど、これは貰って帰っちゃおう。自慰のおかずとしては極上だ。  
 
 シャツを洗濯機に放り込む。そのときに何かが落ちた。  
……ヘアピン?  
私のじゃない、だったらモモ子お姉ちゃんだ。  
こんなことは別になんでもない。部屋の掃除をしていて落ちちゃうことは良くあることだ。  
それがたまたま洗濯物の、お兄ちゃんのシャツに引っかかってただけで。  
でも分かる。モモ子お姉ちゃんはシたんだ、ここで、お兄ちゃんと。  
 
嫉妬、もちろんそれもある。羨望、当然だ。ケンタローお兄ちゃんはモモ子お姉ちゃんが好きで、私はお兄ちゃんの妹だ。どう足掻いたってモモ子お姉ちゃんのようになれるわけがない。  
なりたいけど、なれない。これが嫉妬や羨望でなければ何なんだろう。  
でもモモ子お姉ちゃんが嫌いな訳じゃない、むしろ好きだ。お兄ちゃんが結婚するとして、相手がモモ子お姉ちゃん以外だったら間違いなく私は反対する。  
モモ子お姉ちゃんだから許せるんだけど、だからってそれが嬉しい訳じゃない。…複雑だよね。  
ヘアピンをゴミ箱に捨てて、洗濯機のスイッチを入れる。これもお兄ちゃんが作った『洗濯屋ケンちゃん号マークU』だ。順調に堅実に動いている。  
実際うちの店でも安定して売れているんだから、すごいことだ。  
まぁ店で売っている物は普及機だから、ここのオリジナルみたいに腕を振り回したりしないけど。  
 
大学を出てしばらくしたら、お父さんは本格的にのれん分けするつもりみたいだ。  
そのためにまた都には内緒でピースオリジナル地下鉄を引く工事をしている。  
今のこの部屋へは公の地下鉄が邪魔する関係でうまく線が引けないらしく、でもその辺りをクリアした条件のピース電気2号店予定地へ向けて作業ロボットが頑張ってくれている。  
そうなれば、今とは違ってすぐにお兄ちゃんに会いに行ける。  
それは嬉しいんだけど、そのときはモモ子お姉ちゃんが私たちの新しい家族になってるはずだから。……複雑だよね。  
 
「おにいちゃん、起きてよ、おにいちゃん、おにいちゃんてば!」  
 全然ダメだ。間違いなくこれは私が来るまで徹夜を続けていたに違いない。  
寝かせてあげたいけど、せっかく来たのにこのままで帰るのも寂しい。  
だから身体を揺する。おにいちゃんの声が聞きたい。おにいちゃんの瞳が見たい。だから起きて欲しい。  
 あ。  
身体を揺すっていて気がつく。  
勃起、してる。  
ジャージの股間の部分をすごく大きく膨らませている。  
ああ、また出てきた。わたしの中のエッチな、変態のわたしが。  
そっ、とジャージに手をかける。さっきまで揺すっていてなんだけど、今度はしばらく起きないで、と願う。  
エッチな神様が居るんだったら、ここが祈るところ? わたしって勝手だ。でも変態だからいいもん。  
ドキドキと心臓が鳴る。緊張と、それと興奮で身体が震えるのが分かる。  
そのふるえる手で、ゆっくりとジャージをずらしていく。  
むわ、と蒸れた空気が解放される。それを吸い込んだだけで、さっきよりもすごく興奮していく。  
思った通り、そんなにパンツを替えていない。  
手を止めて堪能したあと、いよいよパンツをずらし始める。  
いよいよだ。興奮が期待を増長し、期待が興奮を高めていく。もうだめだ、いよいよわたしはだめだ。  
ようやく、まさにようやくわたしの目の前に現れたそれは、大きく、そして歪で、すごい臭気を放ち、わたしを圧倒した。  
でも、愛らしかった、愛おしかった。とにかく、『愛』だった。  
だってこれ、お兄ちゃんのだよ? お兄ちゃんの大事な場所、お兄ちゃんの陰茎、お兄ちゃんのペニス、お兄ちゃんが一人エッチするときとか、  
モモ子お姉ちゃんとエッチするときに大きくなる、お兄ちゃんのチンポ!  
 たぶん、これがこんなに大きくなってる所なんて、わたしとモモ子お姉ちゃんしか見たことないはず。  
ああ、これがモモ子お姉ちゃんのあそこに入ったんだ、こんな大きいのが。  
こないだ見たあのビデオみたいに、あそこの肉を押し広げて、ずぶずぶ、ずぶずぶって、根本まで入って、ずるずる、ずるずるってあそこの奥のエッチな液ごと掻き出されて。  
モモ子お姉ちゃん、こんなに大きなのを膣内に入れちゃったんだ。  
ああ、入るんだ、これが女の子の膣内に……。わたしの膣内にも……。  
 
はっ。  
気がついたら、握ってた。  
 

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