深夜12時。私・小林吹雪は恋人の部屋にいた。
部屋の主・小林健吾は深夜バイトでまだ帰らない。
通える距離とはいえ、自宅から大学まではバスと電車で1時間以上。
授業の準備で忙しい日などは、こうやって泊まらせてもらっている。
シャワーを借り汗を流すと、部屋に置いてある私の着替えを取りに向かう。
と、室内に干しっぱなしの白いシャツが目に入った。
悪戯心を出した私は、こっそり袖を通してみる。
(やっぱ、結構デカイな―――)
袖は余るし、裾は太腿の半ばまである。
洗ったばかりのものとはいえ、彼の気配はしっかりシャツに残っていて
まるで後ろから抱きしめられてるみたいだ、と思った。
ここ最近、私の授業が忙しくて彼にほとんど会えていない。
どうしても所属したいゼミの選考があるから仕方ない、とはいえ正直淋しい。
こうして彼の気配に包まれていると、そのことがつい思い出されて胸が詰まる。
―――ああ、もう。
彼に会いたい。正直触ってほしい。
めちゃくちゃに抱いてほしいし、思う存分イチャイチャしたい。
でも今日はダメ。彼の帰りを待ってコトに及んだら、1回2回じゃすみそうにない。
ただでさえ眠いのに、絶対明日起きられなくなるに決まってる。
ソファにごろんと横になって、手元のクッションを抱きしめる。
明日のプレゼンが終わったら覚悟しといてよ、などと思っているうちに
疲れていた私は眠りの底へと落ちていった―――。
深夜2時。バイト帰りのオレ・小林健吾は自室で途方に暮れていた。
目の前にはソファの上でぐっすり眠る彼女・小林吹雪の姿。
付き合いも長いし、寝顔だけで欲情するほどガキでもない。
問題なのは彼女の寝姿なのだ。
―――彼女はオレのシャツ1枚を着て眠っていた。
おそらく悪戯心を出して着てみて、そのまま眠ってしまったのだろう。
なんでも明日の授業で大事なプレゼンがあり、その出来次第でゼミの選考が決まるらしく
数週間前から、準備に余念がなかった彼女のことだ。
今日オレの家に泊まるのも、その準備で終バスを逃したせいだとメールで言っていた。
白いシャツの裾からは、すんなりとした足が伸びている。
(これはヤバイ―――)
なんせしばらく彼女を抱いていないのだ。
そんな20歳の男が、彼女のこんな扇情的な姿を見て冷静でいられるだろうか。
しかし、ここで煩悩に負けては男がすたるというもの。
なんせ明日は彼女にとって大切な日なのだ。
彼女にふさわしい男であるためには、ここで欲望に流されてはいけない。
(頑張れオレ!)
自分をなんとか励まし、ソファで眠る彼女をベッドまで運ぶべく抱き上げた。
いわゆるお姫様抱っこで、数メートル先のベッドに向かう。
ベッドにおろすと彼女が身じろぎをし、シャツがめくれた。
下着をつけていない、白い尻があらわになる。
「―――勘弁しろよ、オイ・・・。」
ぶっちゃけ触りたい。めちゃくちゃに抱きたい。思う存分イチャイチャしたい。
でも今日はダメだ。彼女の準備の成果を台無しにするわけにはいかない。
そもそも今コトに及んだら、1回や2回で終わるとは到底思えない。
もう神仏はドSだとしか思えないオレは、これ以上煩悩を刺激されずにすむよう
彼女に布団をかけると、客用の布団を引っ張り出して床に敷き横になった。
明日のプレゼンとやらが終わったら覚悟しとけよ、と心中で呟きながら―――。