小林健吾はデカい。
大きな体で抱きしめられると、すっぽりおおわれてしまう。
私だって決して小さいほうじゃないのに。
でも、小林健吾にぎゅって抱きしめられると、胸の中がきゅうってなって。
あったかくて、もっときつくきつく抱きしめて欲しくなって。
つい、「もっと・・」って言ってしまう。
とたんに、体が硬直してしまったかのように動かなくなる小林健吾。
「―? どしたの?」と尋ねると、はっとしたように私を放して
「いや、なんでもない」ってちょっとスネたように言う、それが小林健吾。
だ っ た の に ! ! ! ! !
「吹雪」
すっかり「い・・・小林」から「こ・・・ふ、吹雪」を通り越して、
今日も小林健吾はすんなり私の名前を呼ぶ。
「ん」
私が重い荷物を持ってるときに、ひったくるように奪い上げ・・持ってくれてたのに、
まず、大きな手のひらをこちらへ向け“かせ”と合図してくれる。
そうして重いエコバッグをひょいっと持つ。
「今日はナニ?」
エコバッグの中を見て夕飯を尋ねながら、反対の手で私の左手をぎゅっと握り締める。
あったかくて、ごつごつしてて、長い指の大きな手。
いつの間に、こんなにスマートにリードしてくれるようになったんだろう。
家について、靴を脱ぎ、「コレ、しまっとくぞ」エコバッグを持ったまま冷蔵庫に向かう。
週の半分は一緒にいるけれど、小林健吾は会うたびにオトナになっていってる気がする。
私を呼ぶ声も、抱きしめたときになでてくれる手のひらも。
そのひとつひとつが私を熱くさせるのに。
彼にとってはそんなことないのかな?
「吹雪」
ふと気づくと、食材をすっかり片付けてしまってローテーブルの前に座っている。
目が、“こっちへこい”って言ってる。
なんだか、急に寂しくなって、甘えたくなってしまった。
いつもはローテーブルの前にふたり並んで座る。
私が定位置に座ろうとしないのを見て、怪訝な顔をするのが見えた。
「―――て。」
声が掠れる。
「? なんだ?」胡坐をかいていた脚を立ち上がらせようとするのをあわてて止める。
「動かないで!」
ますます、ワケが分からない、って顔をする小林健吾を見て、
いつもぎゅって抱きしめられた時の、あの胸の中がきゅうってなって
もっともっと、って気持ちがあふれ出してきて。
「脚を、伸ばして。そのまま」
分からないながら私の願いを聞き入れようとしてくれている。
あぁ、早く触れたい。ぎゅってして欲しい。
脚を伸ばしきった健吾の腿の上を、驚いている彼の顔を見ながら跨いで座る。
スカートが擦り上がるけど気にならない。
腿の上に座って、健吾の首に自分の腕を巻きつける。
今日は暑い。
Tシャツの首筋から、健吾の匂いがする。
いつも健吾がしてくれるように、ぎゅうって抱きしめて、思い切り息を吸う。
少し汗ばんだ体。あったかい。ううん、すごく熱い。キモチイイ。
いつも私を抱きしめる腕が全く動く気配がないのに気づいて、健吾の顔を見上げると。
少し昔の、硬直したときの、あの顔をしていた。
でもこの次にきた行動は違っていた。
「健――、んんっっ」
名前も最後まで呼ばせてもらえない。
私は唇を塞がれて、ものすごい勢いで健吾の舌が私の舌を弄っている事に気づいたのは、
息が苦しくなってから。
「んっ、んはっ、ぅんん〜っっ」
散々水気のある音がした後、ちゅぴっと仕上げのような音がして、健吾は私を放した。
「はぁっ はぁっ はぁっ」息が上がっているのは私だけ。
力が抜けてしまった私は、健吾の肩にもたれて、
それでも突然の出来事を伺おうと目だけで健吾の表情を見た。
「なに?まだして欲しいの?それとも続きしようか?」
あの、スネた顔はもうない。
代わりに意地悪そうな目で問いかけられる。
え、なんで?何がどうなってまだ、とか続き、とかなってんの?
私が混乱しそうになってると、私を乗せてる下腹部を突き上げた。
「あっ」
勝手に声が出る。熱い。顔も。心臓も。なにもかも。
私だけが熱い。私だけ?
「オマエ、そーゆー顔、外でするなよ」ボソッと耳元でささやくと
スカートの中に手を入れる。
熱い手のひらが私の太ももをなでる。
あぁ、健吾も熱い。
徐々に私のナカを探る健吾の熱い指を感じながら、唇が勝手に動いた。
「はぁっ・・んっ・・もっと・・・・」
健吾の指がピタッと止まって、大きなため息が聞こえた。
「吹雪、エロすぎ。オマエの“もっと”って、どれだけオレを煽れば気が済むんだ?」
煽る?煽ってなんかない。ただ、健吾にもっともっと触って欲しいだけ。
相変わらず指は動かない。どうしてか、涙で視界が滲む。
「おねが・・・、触って・・・、もっと、奥まで・・・ひゃっ んぁぁあああっっっ」
―――健吾はたくさん触ってくれた。
私が望むだけ。低い声で私の名前を呼びながら。たくさんたくさん、からだじゅう。
すっかり遅くなってしまった夕飯を食べながら、誰に言うともなく言った。
「なんであんなことになったんだろう・・」
健吾がお茶をブッと吐き出す。「はぁ?」
「いや、あのさ? 最初は健吾に抱きつきたかっただけだったんだけど、
何がどうなってこう・・なったのかなって。ふとね。」
「オマエが誘ってきたんだろ。」
かぁっと顔が熱くなるのが分かった。
「誘ってないよ!あ、甘えたかっただけだもんっ!」
・・・・・。
2人の時間が止まった、ように思考停止。
「ふーん、吹雪はオレに甘えたかったのか。」
ますます熱くなる顔。私いま、絶対顔赤いわ。
「・・でも、その、明るいうちから、とか、オフロ入ってない、とか、急に、とか、いろいろ・・」
ぱちん。健吾が箸をおいた。
「あのさぁ・・・、吹雪にねだられると頭の中が真っ白になって、気づいたら絶対触っちまうから。
イヤなら今度から気をつけろよ。」
「ねだっ・・・」もうコトバが続かない。
健吾に言い負かされる?日が来るなんて。
「ねだると甘えるは同義語じゃないのか?」にやにやしながら追い討ちをかける。
「っ!! 広義ではそうだけど!」
「じゃあ、いいじゃん。イヤじゃないんだろ。」
あぁ、もうこの人にはかなわない。
「オレも―――」健吾が続ける。
「吹雪に甘えられると、気分いい。信頼されてる気がする。」
してるよ、信頼。
すっかり頼って、甘えて、ついでにめろめろですよーっだ!
悔しくなって腕に顔をうずめる。
「あんまり色っぽくなってオレの目の届かない所に行くなよ」
突然、不安げな声でボソッと言うから、驚いて健吾の表情を見ると。
あの、ちょっぴりスネた顔。
あぁ、健吾はやっぱり健吾だ。
すっかり安心した私がまた健吾に甘えると、また熱っぽい目で見てきちゃイケないから。
元・委員長として学習能力を高めなければ、と無駄な努力を決心した吹雪だった。
end