「ね〜。吹雪、オネガイ!!親友の一生の頼みなんだって〜!!」  
 
大学の近くのカフェ。  
だいぶ年上の、初恋の“カレ”と婚約中の彼女は、  
かわいく上目遣いに、私の「YES」という返事を待っている。  
 
正直、めんどくさい。  
でも行った事ないから行ってみたい。  
 
寄りかけた眉間のしわが深くなる前に、まぁ親友のためだし、と自分に言い訳して。  
 
「仕方ないなぁ・・いいよ。」  
「わぁい!だから吹雪スキ!!」  
 
 
―――――モンダイは、ヤツにどう伝えるか・・・だ。  
 
 
*****  
「プール?」  
オムライスをほおばりながらヤツ、小林健吾はソレがなんだと言わんばかりに答えた。  
「そう。この前できたアトラクション一体型の。あげはがね、行きたいんだって。」  
「行けばいいんじゃないのか?行きたいんだろ。」  
やっぱり、ソレがなんだ、だわ。  
「・・・じゃなくて、健吾も一緒に行ってもらいたいの。」  
「はぁ?お前ら2人で行くんじゃないのか?」  
「それがね〜・・」  
 
『先生がね、何にもしてくれないの!そ、そりゃあね、キスとかはあるのよ。  
でもその先が―――。だから!プールでナンパされて、  
私のカラダも魅力あるってところを見せたいのよ!!!!!』  
 
「・・・・・。ごめん、意味がよくわからないんだが。」  
 
ですよね〜。私も無謀だとは思うんだけど、でも、新しいプールは行ってみたいんだもの!!  
「つまりね、普通に街でナンパされても顔目当てが主じゃない?  
 プールだと、水着になるからカラダ目当ての率のほうが多い、  
 それでナンパされる所を燕先生に見せ付けてやりたいと。  
 でも燕先生の誘導役といざナンパから守ってくれる役目がいるでしょう?  
 ということで、あげはと燕先生、健吾と私でプールに行こうって話になるわけ。」  
 
私があげはの作戦を説明してる間、健吾はあっけに取られた顔からやがて  
ムスッと機嫌が悪い顔になっていった。  
「健吾、聞いてる?ねぇ、私もうOKしちゃったし、時間空けてよ。おねがい!!!」  
ローテーブルをはさんで向かい合わせに座っていた所から、  
赤ちゃんのハイハイみたいに健吾の横へ移動して、  
胡坐をかく健吾の膝に手を置いて軽くゆする。  
 
チラッと私を見下ろした健吾は口をパクパクさせて、  
あ〜とか、う〜とか言いながらやがて「・・・・・わかった。」とだけ答えた。  
 
「やたっ!水着は当日のお楽しみね!日にち決まったらまた言うからヨロシクね。」  
 
実はカフェの帰りにあげはと水着も買ってしまっていたのだ。  
健吾のOKをとった旨をあげはにメールで伝えると、速攻で日にち指定の連絡が入った。  
あの子も仕事が速いわ・・。  
あ〜〜〜〜〜新しいアトラクション、楽しみ!  
 
*****  
「スミマセンね、吹雪さん、健吾くん。」  
髭をそって、サングラスはないけど、燕先生は相変わらずあげはに振り回されていた。  
最近出来たアトラクション一体型のプール。  
水着を着たまま園内を自由に歩き回ってアトラクションにも乗れる、夏にぴったりのテーマパークだ。  
その入り口で待ち合わせた私たちは、さっそく更衣室へ男女で分かれた。  
 
 
「今のところ順調ね、吹雪。」  
思ったとおりにコトが運ばれていることに上機嫌のあげは。  
「そう?」Tシャツを脱ぎながら、あいまいに答える。  
まだ始まったばかりだと言うのに。ナンパだってそうそうウマくされるとは思えない。  
そんなことより実は、アトラクションの方が楽しみなのだ。  
 
「あ!いいじゃない、ソレ」  
私の水着を褒めてくれるあげはも先日買ったばかりの水着姿。  
低い身長を上手くカバーして、スタイルよく見せてくれている。  
やっぱり美少女はなにを着ても可愛いわ・・。  
髪を結い上げようとするあげはに思わず見とれる。  
「やってあげようか?」ヘアブラシを受け取って長いつややかなあげはの髪を掬い上げる。  
 
自分の髪の毛が結われるのを鏡越しに眺めながらあげはが言った。  
「ねぇ、吹雪はナンパされたらコバヤシ怒るかな?」  
「えぇ?怒んないでしょ。危ないことしかけたら怒られるけどね〜」  
 
器用にあげはの長い髪をまとめる鼻歌交じりの吹雪をみて  
「・・・そうかなぁ・・」あげははひとりごちた。  
 
「はい、出来たよ!結構待たせちゃってるかも。行こう!」  
「人の話聞いてないし!はいはい」  
あげはと連れ立って更衣室を出ると、やはり男2人はすでにいた。  
いたのだけど・・・  
「ねぇ〜、いつになったら彼女くんのぉ?ホントはナンパしに来たんじゃないのぉ?  
 ほらぁ、もぅ一緒に泳いじゃおうよ〜」  
限りなく分かりやすく、私たちよりも先に、ナンパされていた。  
 
布地の少ない三角ビキニにクルクルに巻かれた栗色の長い髪。  
腕や脚にもアクセサリーをたっぷりつけている女の子達。  
健吾と燕先生の腕を取って、しなだれかかろうとしている。  
隣のあげはが見る間にむくれ顔になる。  
「吹雪、行くよっ」  
「えぇっ」  
2人のほうにズンズン歩いていくあげは。  
 
「お・ま・た・せ♪」  
燕先生の腕を抱きしめるように両腕でぐいっと引っ張り、  
ナンパをしてきた女の子達を見向きもせずに先生に向かって極上スマイル。  
あげはの美少女っぷりにたじろぐ女の子達。  
「・・・ツレが来たから。ゴメンネ」  
腕をあげはに抱きつかせたままサラッと女の子達に告げ、燕先生は  
隣で固まってる(様にしか見えない)健吾と、あげはに出遅れた私に、  
さ、行きまショウと促して歩き始めた。  
「あ、ハイっ」先生につられて私と健吾もその場から歩き出す。  
 
・・・さっきの先生のあしらい方、ずいぶん慣れてたみたいだけど、あげは大丈夫かなぁ。  
っと前を歩く2人を見ていると、隣から視線が。  
「健吾?なに?」  
「・・・いや。・・・なんでも」  
 
・ ・・なんでもだとう?彼女の水着姿見てコメント無し?その割りに視線感じるな・・。  
 
「なぁによ。言いたいことあるなら言いなさいよ。」  
「・・・ほんとに。なんでもないから。」  
「ふーん」「吹雪〜!早く〜!!」  
 
私の腑に落ちない返答と重なって、先を行くあげはが私を呼んだ。  
「ハイハイ、どしたの」  
今度は私の腕に抱きついて声のトーンを落とした。  
「よく考えたら、先生と歩いててもナンパなんてされないわ」  
絡めていた腕を解いて、私の横を歩くあげは。  
前方の人たちが男女問わずあげはを見てあわてて視線を逸らすのが分かった。  
それにしても、そんなにみんながみんなあわてて目を逸らさなくてもいいのに。  
と思ったら。  
 
よく見ると視線をすぐに逸らすのは男の人ばかりで女の子達は私たちの後ろ、  
健吾と先生へ視線を向けて、そのまま見入っちゃってる。  
健吾はパーカーを、先生はシャツを羽織っているけど、  
2人とも前を留めてないからチラチラと肌が見えている。  
健吾の胸板なんて見慣れているはずなのに、さっき、ちょっとドキッとしたのは内緒だ。  
だから後ろの2人を見てる女の子の気持ちはすごくよく分かる。  
ちょっと妬いちゃうなぁ・・。  
 
波のプールで遊ぶときも、ウォータースライダーも、流れるプールも。  
あげはが先生とまわらず、常に私にくっついていたにも関わらず  
結局私たちはナンパされなかった。  
私はどのプールも楽しんでたけど。  
 
お昼には「かわいい教え子ですから」と先生が一人で買いに行ってくれた。  
やっぱ簡単にナンパしてもらおうなんて無理なんじゃないかな。  
「おい、コレ着とけよ。」健吾が自分のパーカーを差し出す。  
「あぁ、ありがと。」ほんとは自分でも持ってたけど  
健吾が差しだしてくれたのが嬉しくて素直に受け取って羽織る。  
まだ少し水が滴る健吾の黒髪が日差しに当たってキレイ。  
 
「らーぶらふデスネ。」あげはがぽそっとつぶやいた。  
思わずビクッと肩を揺らしてしまう。  
「2人して空気作っちゃってさ。」  
すねるあげはを慌てて2人であやす。  
「あ、あげは、ソフトクリーム買ってこようか?」  
「焼きそばより焼きうどんのほうが良かったか?今から変えて来るか?」  
あやすって表現おかしいんだけど、確かにあやしてる私たち。  
 
「・・・ナニやってんですか、君たちは」  
「「あ、先生」」  
あげはを囲んでおろおろしている私たちを見て、  
両手にたくさん食べ物を持った燕先生が、若干引き気味にやってきた。  
やっと帰ってきた!あげはをナントカしてぇ〜・・。  
「ほーら、あげはサン、2人にメイワクかけないの。フランクフルト食べるデショ。」  
先生からフランクフルトを両手で受け取ってぽそぽそ食べ始めるあげは。  
なんだかんだ言って、結局あげはの手綱を握ってるのは燕先生なのだ。  
 
「さ、食べましょう。」燕先生が買ってきてくれたものを見ると、スゴイ量。  
とても一人で持ってきたとは思えないけど、確かに一人で一度に持ってきていた。  
焼きそばに焼きうどん、イカ焼き・フランクフルトにどこで売ってたのか、野菜スティックなんかもある。  
あげははすっかり機嫌を直してフランクフルトを頬張ってるけど、けど!  
何て言うかエロい。なんてベタなことさせるの、先生!と心の中で思いながら、  
油でテカテカに光る唇で、フランクフルトを頬張るあげはをチラッと見て、  
健吾を見やると同じことを考えてるのがまる分かりの表情で、  
まだ手付かずのテーブルにあるフランクフルトを見つめていた。  
やらないから!私はソレ、やらないからねっ!!  
 
フランクフルトをスルーして、その隣の、イカ焼きに手を伸ばした。  
 
 
お昼ごはんも食べ終わり、午後はアミューズメントの方へ行った。  
水着のまままわれるだけあってコースターの水しぶきも容赦なくかかる。  
さすがに水につかるわけじゃないから、パーカーを羽織ってるけど、  
それも結構水をかぶって、せっかく乾いた髪もビシャビシャになってしまって、面白かった。  
あげはもナンパのことなんて忘れたようにはしゃいている。  
 
ひとしきり遊んで、少し休憩をとることになったオープンカフェに  
健吾と先生を残して2人で化粧室に来た。  
「んも〜!なんで?なんでナンパもされないの?」  
2人が近くにいないことに安心したせいか、やや大きな声であげはがキレた。  
「ちょ、あげはっ!声大きいよ。」  
「なによ、自分達だけ逆ナンされちゃってさ。私よりも色っぽいコに!」  
「やっぱ、私たちには無理なんじゃないかなぁ・・。もう諦めようよ。」  
「吹雪だって、健吾といちゃついちゃってさ。健吾のクセに吹雪ばっかり見て!」  
「いや、そんなに見てな・・「いーわよ。どーせ、やっぱり私なんて魅力ないんだも!」  
話してるうちに興奮してきたのか、  
うっすら赤くなった目に涙をためて唇を尖らせるあげはは、私から見ても凶悪にかわいい。  
「・・お化粧落ちちゃう。頭冷やしてから戻るから、先に戻ってて」  
一人で大丈夫だから、と化粧室から走りだしてしまい、あっというまにあげはを見失ってしまった。  
 
ヤバイ、さすがに一人でフラフラしてたらよくない気がする。  
私は慌ててカフェへ戻った。  
「先生、ごめん、どうしよう!あげは見失っちゃった!!」  
「えぇ!?吹雪さんにしては珍しいですね。とりあえず電話・・。」  
すぐにケータイを取り出して電話をする燕先生。  
ブーッ ブーッ ブーッ あげはのバッグの中から音がする。  
「・・・あンのバカっ!」先生らしからぬ発言のあと、  
「探してくるからキミたち好きに過ごしてて!」と駆け出した。  
 
「ちょ、私も探してくる!健吾荷物あるしココにいて。」  
一緒にいたのに、見失った私の責任だ。  
「いや、一人でどうやって探すんだよ。結構広いぞ。」  
「だけどさすがにあげは一人でいたらヤバイ人からも目つけられそうだし!」  
そうだ。あげははかわいいし、ヘタしたら誘拐なんてことも・・!  
行く、といってきかない私に健吾の目つきが極悪になっていく。  
「バカか!それはオマエにも言えるんだぞ!少しは自覚を持て!!」  
久しぶりに怒鳴られて、体が怯む。  
でも、あげはを探さなくちゃという思いのほうが強い。  
「なによ!私はナンパなんてされないもの。されるのは健吾でしょ!  
とにかく大丈夫だか・・「オレが行く。全員の荷物あるしここで待ってろ。」  
私の返事も聞かずに、ケータイだけを持って駆け出した。  
 
「・・・なぁによ、かっこつけちゃってさ」  
一人役立たずな気分でプラスチック製の椅子の上にかかとを乗せて背もたれに体を預けた。  
 
待ってる時間は長い。  
ほんとに、ヘンな人からナンパされてたらどうしよう。  
小さいからって誘拐なんてされないよね。  
あぁ、ほんとどうしよう!  
 
 
グラスの氷もすっかり解けてしまった頃、先生があげはを連れて戻ってきた。  
「スミマセン。見つけるのに少々時間がかかってしまって。ほら、吹雪サンに謝って」  
「・・・ゴメン、吹雪。」  
「ん、無事で安心したよ。良かった。」  
私の返事を聞いて、あげははほっとしたように微笑んだ。  
「ちょっと、ワタシたち先に失礼しようと思うんですが・・あれ、健吾クンは?」  
「あ〜・・、あげはを探しに・・大丈夫です!ケータイ持っていったんで、  
すぐに連絡しますから。だから先生たちは気にせず帰ってもらっても大丈夫ですよ。  
あげはも疲れただろうし。」  
 
2人は顔を見合わせて少し考えたあと、先生が「じゃあ」と言って  
あげはの荷物を持って去っていった。  
はぁ〜、遠くなる2人の後姿を見てため息が出てしまった。  
なんだか、どっと疲れちゃった・・とと、健吾に連絡しなきゃ。  
「はい」ワンコールもしないうちに健吾は電話に出た。  
「もしもし、あげは見つかったって。もう大丈夫だよ。」  
「了解、すぐ戻るから。」  
「うん、さっきのカフェにいるからね。」電話を切ってからまたため息をついた。  
やっぱり健吾が探しに行ってくれて、よかった、かもしれない。  
 
通話終了の画面を見ながら、うれしい、誇らしい気持ちになった。  
 
それから間もなく、ポンポン、と肩を叩かれた。  
帰ってきた!と振り向くとそこにいたのは健吾じゃなく、知らない男の子だった。  
「ねぇねぇ、さっきからずっと一人でいるよね。友達は?」  
・・・このタイミングで来るか。「カレシ待ってるの」ぶすっと答える。  
「え〜、でもオレずっと見てたけど一人だったよね。友達帰ってたじゃん。」  
友達は?って聞いたくせに、帰ったとこまで見てるんじゃない。  
「ねぇねぇ、ちょっとで良いからさ、遊ぼうよ。俺こんなかわいい子見たことない!」  
「いや、だからムリってば!」  
「まぁまぁまぁまぁ!いいじゃない、ちょっとだけ。ね!?」  
この人すごくしつこい。私の腕を掴んで立ち上がらせようとする。  
 
・・・ウザい!もう温厚になんてムリ!!  
「ちょ、ほんとにっ「どこへ?」  
私の腕を掴んでる、その腕をギリギリと掴んで、一番怖い声音が私たちの間に入ってきた。  
健吾だ・・。ホッとして抵抗しようとしていた私の腕から力が抜けた。  
「どこに連れて行くって?公衆の面前で殴られたいのか?」  
相手を殺しかねない勢いで威嚇しながら、私をぐっと抱き寄せる。  
「カレシいるんじゃん、安心したよ。よかったよかった!あはははは・・」  
あくまでイイヒトを装いながら、ナンパしてきた男の子は後ずさりして慌てるように走って逃げていった。  
 
「おい、オレ気をつけろって言ったよな。」  
言ったかな。気をつけろ、とは言ってない気もするけど。  
「・・・斉藤たちは?」ふと周りを見渡しながら健吾が尋ねる。  
「あ、先に帰っちゃっ「じゃあもういいな。帰るぞ。」  
「えぇっ!?」  
さっき掴まれた腕とは反対の腕を掴み、私の荷物をもってさっさと歩いていく。  
も〜、なんなのよ!?もっと遊びたかったのに〜!  
 
「そのままの格好で良いから着替え取って来いよ。」  
更衣室の前で掴んでいた腕を放して、そのまま自分の荷物を取りに男子更衣室へ入る。  
仕方なく私も更衣室へ入り、荷物を取る。  
そこで初めて気がついた。  
さっきナンパされたときに掴まれた右腕よりも、健吾に引っ張られた左腕の方が赤くなってる。  
もしかして・・健吾まだ怒ってるの??  
 
 
荷物を抱えて、更衣室を出ると、すでに健吾は待っていて「行くぞ」と駐車場へ向かった。  
車に乗り込んでからも健吾はずっと無口で、いつも無口なんだけど、  
今は特にオーラが怒ってる気がしてならない。  
「・・ね、ねぇ、こっちって家のほうじゃないよね?」  
「・・・」  
「・・ちょ、ねぇ、反省してるから!なんか言ってよ。」  
「・・・」  
何も言ってくれない健吾が余計に怖い。  
「反省、ねぇ。」ふいに健吾が低い声でつぶやいた。  
「してるのか?反省。なにに対して?」  
ずっと黙っていた健吾が口をきいてくれたことが嬉しくて、即時に答える。  
「してる!してるよ!不用意にあげはを探しに行こうとしたことでしょ!」  
 
―ガンっ!  
 
ハンドルを健吾が殴った。「―まえ全然分かってないな。」  
気づくと車はホテルの駐車場だった。  
「降りて。」冷たい空気をまとったまま、健吾が運転席から降りた。  
適当に部屋を選んで、さっさと歩く健吾の後を小走りになりながら追う。  
そうして入った部屋は、最上階の、天井がガラス張りになっている広い部屋だった。  
 
「吹雪。こっち。」呼ばれて立たされたのは洗面台の大きな鏡の前。  
後ろから健吾ががっちり腰をつかんで、鏡越しに私を見ている。  
「パーカー脱いで。」  
えぇ、こ、ここで?健吾に抑えられたまま?鏡を向いて??  
さっきから何を考えてるのかさっぱり分からない。  
いつもに増して表情がないのに、目だけがやけに強くて鋭い。  
「ほら。」  
私が動揺してなかなか動けないでいると、耳元に顔を寄せてもう一度言った。  
「・・・脱げよ。」  
耳元で低い声が響き、体の奥がゾクッとする、のに頭は冷静だ。  
怖い!怖いよ〜!!震える手でパーカーのジッパーに手を伸ばす。  
 
ジジジジ・・  
 
ゆっくりとジッパーをおろし、開いたパーカーの間から、水着が見える。  
ジッパー外したのを確認した健吾が私の肩に手を置き、  
スルッとパーカーを落として、穿いていたショートパンツのジッパーも下げ、  
するりと落としてしまった。  
水着だけしか身につけていない私の顎を左手で持ち、鏡と対面させる。  
 
「・・・この水着、どうしてコレにしたんだ?」  
「ひぁっ」  
私の顎を固定したまま耳元に唇を這わせ、  
開いた右手は喉元から鎖骨をなぞり、水着のふちにするすると指を這わせる。  
「それにココ・・」  
「んっ」  
ゆっくり、ゆっくりと水着のふちに沿って下降した指がスルリと谷間に入る。  
「こんなに開けて、誰に見せたかったんだ?」  
「っ!」  
谷間から指を抜き、水着をまたいで、  
手のひらで下から支えるように右胸を持ち上げるように撫でる。  
 
低く響く声が耳元から離れなくて、ゆっくりすぎるその動作が逆に焦れったくて、  
はやく気持ちいいところを触って欲しくて仕方ない気分にさせる。  
顎は固定されたままだけどあまりの恥ずかしさに、  
目線をそらし、私の胸元を這う健吾の手を見る。  
 
「・・・鏡見ろよ、吹雪。ホシイって顔してるぞ」  
 
そんな事言われても恥ずかしすぎる。自分のそーゆー顔なんて見れない。  
 
「見ろって」  
 
そう言って、それまでゆるゆると右胸を下から撫でていた健吾の右手が、  
もうすっかり立ち上がっていた両の胸の先を水着の上から押しつぶした。  
「ひゃあぁっ!!」  
その瞬間、つい、伏せていた目を開いてしまった。  
 
鏡に映る私と目が合う。  
真っ赤な顔で、だらしなく開けた口に、潤んだ目。  
手は力なく健吾の両腕を掴み、腿を合わせて、膝がカクカク震えている。  
「エッロい顔」  
かぁぁっと、赤くなった顔にますます熱が広がった。  
健吾の意地悪な目線が鏡の中の私を捉える。  
「こんなエロい水着で、こんなエロい表情で、襲ってくれって言ってんだろ?」  
「ち、ちがっ、んっ!、んやぁぁっ」  
私の否定の言葉をさえぎるように、  
もうずっと前から熱く潤っている場所に、水着の脇から指を伸ばしてきた。  
「やぁっ・・んっ、はぁっ、ひゃぁっ」  
言葉にならない私の高い声と、クチュクチュと水音が響く。  
ここは脱衣所なのに。こんな、立ったまま触られたことなんてないのに。  
 
ずっと私の顎を支えていた健吾の左腕が離れ、水着を外さずに両胸を出す。  
水着によって中央に寄った胸の、その真っ赤になっている先を片手でつぶすように弄る。  
 
ガクガクと力が抜けてきた膝になんとか力を入れなおそうとするけど、  
ちっとも思うように力が入らない。  
ついに力が抜けて、洗面台に両腕で倒れ、なんとか自分を支える。  
 
その間も健吾の右手は私の入り口を行ったり来たり、  
でも、一番感じやすい部分にも、ナカにも触れてくれない。  
「あぁぁっ、け、んご、お、ねが・・っ」  
 
なかなか触れてくれない健吾にねだっても、表情ひとつ変えずに冷たく言い返された。  
「さっきの答え、まだ聞いてない。襲って欲しかったの?ダレに?」  
「ちがっ、んぁっ、お、そ・・てほし・・の、ひゃっ、けん、ごだけ・・だもっ」  
もう、目も開けていられない。必死で、健吾だけって伝えたかった。  
私の高い声と混ざって聞き取りにくい言葉たちが健吾に届いたのかどうか。  
それを溶けたアタマで判断するより早く、健吾が私から離れた。  
 
届かなかった?  
 
それまで茹で上がっていた体温がすっと引いていくような気がして  
身を起こそうとした瞬間―――  
 
「んあぁぁぁぁぁぁっっぅ」  
 
健吾が水着を着たままのソコへ入り込んできた。  
肝心な部分に触れてもらえなかったのに、健吾を受け入れる態勢が万全なソコ。  
確かに水音はスゴかったような気もするけど、そんなに??  
混乱するのと同時に入り込んできた重圧のインパクトの余韻が過ぎても、  
健吾は一ミリも動いてはくれない。  
「なぁ、オレだけ、なのか?」  
またも伏せてしまった私の腰を掴み、自身も上半身を伏せて耳元でささやく。  
「オレだけに見せたいならどうして知らないヤツらにも見せた?」  
―ズンッ  
「すれ違うヤツらがこのカラダを見てたのに気づかなかったのか?」  
―ズンッ  
「オマエにこーゆーことシタイって想像するかと思わなかったのか?」  
―ズンッ  
「こんなエロいカラダ、こんなエロい表情、他のヤツらになんか見せられるかよ」  
一突きしては低い声でささやく。・・少し辛そうな声音で。  
 
「・・・オレだけだろ」  
つぶやくように言ったと思ったら、激しく突き上げてきた。  
脚が床から浮いて、腰がカラダの一番高いところにある不安定な体勢で、  
止まらない私の声とたまに聞こえてくる健吾の吐息。  
もうワケが分からない。分からないまま、頭の中が白く弾けた―――。  
 
 
 
気づいたら、浴室で、湯船の中にいた。  
健吾の方にもたれかかっていた頭を持ち上げると、  
健吾の困ったような、申し訳なさそうな瞳にぶつかった。  
「っ、スマン!ちょっとカッとしすぎて・・大丈夫か?」  
健吾が、本当に申し訳ないって顔をして、私の様子を伺う。  
ちょっと、かわいい。  
「私・・脱衣所で・・?」  
「そう、ぶっ飛んじまったんだよ。」  
「・・カッとなって、手が出るの、直したんじゃなかったの・・?」  
昔のことを思い出して、くすっと笑いながら言うと、  
悪いけど、と私の瞼にキスを落とし言った。  
「吹雪のことになると余裕がない」  
「ふふ、何年たってんの。健吾だから、なのに」  
 
「・・・・!まぁたオマエはそんなこと言いやがって」  
襲いたくなるからやめてくれ、と首筋にキスされた。  
 
ふと見ると、私はまだ水着を着ている。  
着てるけど・・。  
「ちょっと!なにコレ!????」  
 
水着では到底隠し切れないところに、赤い点、点、点。  
胸元にも、お臍の横にも、腰骨のところや腿の付け根まで。  
数え切れないくらいのキスマークがあった。  
気づいた私に健吾は視線を避けるように横目を向け、ボソッとつぶやいた。  
「これで、人前ではもう着れないだろ」  
この人、こんなに独占欲の強い人だったの?  
呆れて何も言えなくなったけど、あまり感情を表に出す人ではないし、  
たまには、いいかな。たまには!だけれど。  
「ヤキモチ、妬かせてごめんね」  
暖かくて嬉しい気持ちが胸に広がり、健吾の首に両腕を巻きつけ、頬にキスをした。  
 
その後ちゃんと体を洗ってお風呂から上がり、ベッドに移動したけど、  
今度は本当に何も身につけさせてもらえず、天井の鏡を見せられながら、  
恥ずかしいことを言われ、気を失ってはゆすり起こされて  
声が掠れるまで鳴かされてしまって、  
次に気がついたらチェックインギリギリの時間だった。  
もう、鏡の前ではゼッタイ油断しない!と密かに誓いながら慌てて準備をした。  
 
 
*****  
「ね〜。吹雪、ほんっとゴメンって!!」  
 
大学の近くのカフェ。  
だいぶ年上の、初恋の“カレ”と婚約中の彼女は、アマアマな顔で手のひらを合わせて、  
チラッとこちらを見る。  
 
絶対、悪かったと思ってないカオなんだけど。  
 
「・・それで?ウマくいったの?」  
「うんっ!それはもう、先生ね、すっごい剣幕で、怒ってくれてぇ、  
 ・・・ハジメテあんなにいちゃいちゃしたもの・・」  
 
満面の笑みを浮かべながら惚気るあげはの話を聞きながらぐったりした。  
こっちはどれだけ大変だったか・・!  
 
「でもぉ、もう二度とあんな水着人前で着ちゃいけません!って言われたの」  
・・・ウチと一緒なんだけど。  
てことは、あげは、ほんとに“シツコクオコラレタ”んじゃないの?  
 
「ちょっとくらいいいじゃない、ねぇ?」  
ちっとも懲りてなさそうなあげはを見て、  
あげはのウカツな誘いには二度と乗るまいと心に誓ったのデシタ。  
 
*fin.*  
 

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