『俺、逃がしてアゲルのはもうオシマイだって言ったよネ?
そろそろ諦めよっか♪
ーー吹雪チャン?』
ウン年ぶりに、こんな台詞を吐いて迫ってくるちーさんが夢に現れたので。
書き逃げ
ー ー ー
健吾と別れ、もう1年が過ぎた。
辛かった日々の記憶、胸の痛み‥‥‥
‥‥自分はもう二度と笑えないんじゃないかと思えた別れの痛みも薄まって、今は穏やかに毎日を過ごしている自分が少し誇らしい。
改札を抜けていつもと同じ家までの帰り道を歩き出す。
大通りを抜け、住宅街の一本道を進みながら、欠伸をひとつ。
(また恋が出来たりするのかな、なんて思えるとは‥‥。)
「あー、私も大人になったなぁ!」
些か大きい自分の独り言に苦笑しながら伸びをした。
その時ーーー。
ふと脳裏に浮かんだ顔は、無口な無骨な愛情と、別れの痛みを残した彼ではなく、
『俺はネ、吹雪チャン♪
吹雪チャンが幸せなら、健吾クンのことが好きで泣いていたって、他の男のモノになっていたって、
ーーー俺の側に居なくたって、それでも良いと思えるくらい、
吹雪チャンが好きだヨ‥‥。
だから吹雪チャン、笑って? 』
そう言ってフワリと、
とても綺麗に笑った千尋の顔だった。
(ああ、私はーーー
とっくに罠にはまってたんじゃないか)
時計を一瞥し、ため息をつく。
吹雪は諦めたように口元に笑みを浮かべ、駅に向かって走り出した。