旅の最中、大和丸達はとある村に立ち寄ることになった。
そこは良い温泉が沸くことで有名な村であり、大和丸達も旅の疲れを落とそうと一晩の宿を取るのだった。
「という訳で、女子の裸を覗こうと思う」
夜、女性人が温泉に浸かりにいった後のことである。
宿屋の一室で、旅立って以来の道連れである直実がそう提案した。
「本気かよ」
同郷の友人に、大和丸は呆れ顔を向ける。 冬夜はここにはいない。
「当然だ。 男として女の風呂を覗くぐらいのことはやらねば、大人になれん」
「一人で行けよ。 見つかっても知らないからな」
「そう言うな」
直実はにっこり笑い、大和丸の肩をポンと叩いた。
「お前の顔にも書いてある。 夏芽の裸を見たい、十郎太の裸を見たいと」
「書いてないっ!」
声を荒げて直実の手を振り払う大和丸だったが、十六の少年の脳裏には、未だ見ぬ母親以外の異性の裸体が悶々と浮かんでいた。
「やっぱりお前は朋友(ポンヨウ)だ! 心の友よ!」
「…うるさい」
結局、二人とも牡の欲求に従うこととなった。
忍者の様に真っ黒な衣装を纏った直実と大和丸は、気配を殺しながら温泉の方へと向かっていく。
「つーか、なんであんたも来てるんだ!?」
大和丸が振り向くと、袈裟を脱ぎ捨てた高麗が着いて来ている。 光る頭が覗きには邪魔だと自覚しているのか、黒の頭巾を被っていた。
「女体見物ですが何か?」
「あんた坊主だろ!」
「御仏は全てをお許しになられる。 男が望むがままに動くことも、御仏の望まれるところなのだ」
「わけわかんねえよ!」
そうこう言い合っている内に、三人は温泉の側まで来た。
「お、あそこだ」
直実が指す先を見ると、幾つか連なった岩の向こうに湯気が上がっている。 女の声も聞こえるようだ。
「そら、行くぞ」
「お、おい… やっぱりやめようぜ」
「御仏の試練と心得よ」
直実が先に進み、ビビり気味の大和丸の背中を高麗が押す。
岩の影からこっそりと顔を出した三人は、目の前に広がる光景に思わず声をあげそうになった。
そこに見えたのは、まさに男達にとってのぱらだいすだった。
旅を共にしてきたうら若き乙女達が、温泉につかりながら談笑している。 普段は衣服に覆われている彼女達の美しい素肌が、誰憚ることなく曝け出されていた。
(おお〜っ… すげえぞ、おい)
(御仏に感謝しませう)
小声で何か言っている直実と高麗に対し、大和丸は呆けた顔のまま女性達の裸体を凝視し続けてた。
まず夏芽を見た。 結ったままの髪。 湯で上気した顔。 いつもは着物の隙間からしか見えなかった、細い肩。 チラリチラリと見える未発達の薄い胸元と、鮮やかな色の突起。
次に十郎太を見た。 中性的な彼女の顔が、髪を解いただけで、一気に女の面に傾いてしまったように見える。 細く引き締まった剣士の筋肉は、女性の身体の美しさをなんら損なうものではない。
サラシを巻いただけで男装できてしまう胸には、夏芽より少し大きい程度の膨らみしかなかった。
さらに他の女に目を向ける。 同郷の八千穂、巫女のあかね、心強い旅の仲間である女性達。 気が緩みきっているのか、彼女達は影から覗き見る男達の気配に気付いていない。
湯気の中に広がる秘境に、純情なる少年の顔は真っ赤に染まり、その鼻から一筋の血が流れ落ちた。
(な、やっぱり来てよかっただろ)
(う、あ… いや… でも…)
正直に頷けず、しかし否とも言えず、返答に窮する大和丸。
(素直に喜ぶべし。 わたしの日頃の行いが良いから、御仏がこれだけの褒美を下さったのだ)
合掌し、彼の信ずる御仏とやらに祈る高麗。 反応は異なれど、男三人はそれぞれに女体観察を楽しんでいるのであった。
しかし突如として、夢の時間は終わりを告げた。
背後に人の気配を感じて振り向いた三人が見たのは、仁王立ちする冬夜の姿だった。 「げっ!」と声をあげる直実、凍り付く大和丸、祈りを止めない高麗。
「お前等… 夏芽の裸を覗いてたのか…」
低い、地の底から聞こえてくるような冬夜の声。
「い、いや、待て、冬夜…」
「こ、これは違うんだ! 直実が…」
直実と大和丸が弁解の言葉を吐こうとしたが、それよりも、冬夜の理性の糸が切れる方が早かった。
「ナズェミテルンディス!! オレハクサマラヲムッコロス!!」
冬夜は一瞬で顕祀烈士に姿を変え、絶大なパワーで大和丸達に襲いかかった。
結果、彼等の姿を隠していた岩は粉微塵に吹き飛び、四人まとめて女性達のいる温泉に落下することになる。
黄色い悲鳴、そして怒号。 逃げる女もいれば、男達を見てぽかんと呆けている女もいる。
それに、あとは怒る女がいた。
「大和丸… 兄さんまで… こんな趣味があったなんて…」
「…残念だ、大和丸。 女の裸体を隠れ見るような破廉恥な真似をする男だったとは、本当に残念だ」
静かなる怒りを湛えた夏芽と十郎太は、それぞれ緋と青の隠忍に化身していく。
「ま、待ってくれ夏芽! お兄ちゃんは、お前を助けようとして…!」
「こ、これは違うんだ! 直実が… って、直実いねーよ!」
「全ては御仏が導くままに」
それから暫くの間、煙の中でボカスカ殴られる漫画の古典的手法で、二人の男と一人の巻添えは鬼神の罰を受けることになった。
翌朝。 大和丸・冬夜・高麗の三人はまとめて簀巻きにされ、村の片隅に放置されていた。
大和丸と冬夜の口論は一晩中絶えることが無かったが、高麗だけは我関せずと安眠して夜を過ごしていたようだった。
しかしやがて、何処かへ逃げ延びていた直実が現れて「m9(^Д^)プギャー」と笑うと、三人の男は申し合わせたように彼に向かって唾を飛ばし始めた。