がふ、と喉に絡みついた血を吐いた。自分が倒れ伏しているという感覚さえ  
遠い。片手に刀は握られていない。弾き飛ばされたのだろうか。再び  
立ち上がって斬りかかっていく余力は、渾身から絞り集めても  
見当たらなかった。萎えていないのは意思のみだった。  
 諸国を渡り歩いてやっとまみえた仇だというのに。  
 全身を余さず貫く苦痛と屈辱の中、茜は紅い瞳に更なる憎悪の光を  
塗り固めた。だが、  
「おーいおい。まっさかこれで仕舞いなんていうんじゃねえだろうなあ?」  
 横合いから腹をしたたか蹴り上げられた。  
「お・・・が、はっ!」  
 茜の軽い体が床板の上を転がり、ごろりと仰向けになる。黒髪を一つに  
束ねていた髪留めが壊れ、長い髪がばさりと散った。  
「まだ遊び足りねえのよ俺は。もちっと気合入れて付き合ってくんねえと、なぁ!?」  
 硬い音が間近でした。鋼色の冷たい光が目の端に映った。茜の耳朶  
すれすれに突き立てられた刃の光だった。  
 動くことの敵わぬ体に歯噛みしつつ、せめて茜はその双眸で  
倣岸に見下ろす男を睨めつけた。  
「面汚しの、てめぇ、が、オレを・・・殺せるか・・・っ」  
 戦慄く喉で男を罵る。男、宗矩はつまらなさそうにごきりと首を鳴らし、  
次の瞬間突き立てていた刀の柄を握ると凄まじい勢いで斬り刎ねた。  
 くすんだ飴色に磨きぬかれたぶ厚い床板はささくれもなくざっくりと五尺にも  
渡って断ち切られ、茜の黒髪も幾房も宙に舞った。  
「減らず口叩けるんならさっさと立ちあがってこいよ小娘」  
 なあ、と茜の脇に片膝をつきその顔を近づける。先の闘いから変わらず、  
いや柳生の庄で血みどろの  
殺戮を繰り広げたあの日から、その口許ににやにやと蔑みきった  
笑いを浮かべたままで。  
 一振りの小太刀でもこの手にあったなら、と茜ははらわたが  
煮えくり返る思いで願った。この口で歯で手挟んで、こいつの喉首を掻っ切ってやるものを・・・!!  
「全くジジイに見せてえザマだな、おい」  
 
 片側だけ短くなった髪を掴まれ、無理やり宗矩の視線の高さまで  
引き起こされる。  
「せっかくご大層な十兵衛の名前を授けてやったってえのに、肝心要が  
これじゃあ、なあ?」  
 茜の唇からは血の筋が流れ、身につけた陣羽織も帯も破れて千切れ、  
茜自身の血で汚れていた。  
 その露出した白い肌にもいくつもの擦過傷や切り傷が刻まれ、小柄な茜は  
見るも無残な様で、目だけがぎらぎらと燃え立っている。  
 茜の髪を掴んでその全身を見下ろしていた宗矩は、何を思ったのか「へっ」と  
せせら笑い、  
「しゃーねえ、ガキは趣味じゃねえが折角の女十兵衛だ。  
別の楽しみ方させてもらうとするぜ」  
 嘯くなりぼろぼろになった茜の装束にその手をかけた。  
 耳障りな、力任せに布地を引き裂く音を聞き、茜の目が見開かれる。ただの  
切れ端になってしまった服の下からは、打撲による赤黒い痣と、  
日に焼けぬ白い素肌が現れた。  
 自分に起こっていることが信じられなかった。  
 凌辱という単語は、女でありながら戦いの中に身を投じる茜の意識からは  
縁遠いものだった。  
 男女の営みは剣士としての腕を求める茜にははなから無用のもので、  
何より茜自身が幼かった。  
 戦いに負けたら死ぬのみで、他には何もないのだと、1か0、それだけだと  
そう単純に思っていた。  
 まだ成長途中の薄い乳房を無造作に掴まれ、茜は「ぐぅっ」と  
呻き声を漏らした。無骨な手で乱雑に掴まれた乳房より、その下の痛んだ肋骨が軋んだ。  
「熟れるにゃ全然早え、まな板みてえな体だが・・・それはそれで  
楽しみようってもんがあるか」  
 男の手が茜の華奢な体をまさぐる。  
 その手は茜がこの世で最も憎む男の手で、茜は悪心のあまり全身を粟立てさせた。  
「は・・・なせ、この、糞野郎・・・っ!」  
 木偶人形のように、思うが侭にされている体を必死になって  
奮い立たせようとした茜の視界がぶれて  
ぐるんと揺れた。脳を揺さぶられたかのような強烈な吐き気が起こり、  
呼吸が途切れた。  
 殴られたのだと知ったのは、吐き気よりも大分遅れて頬に新たな痛みを  
感じてからだった。じんじんと痺れるような痛みと、口の中を切ったのか、  
また唇から血が溢れ出す。  
「うるせえ。未通娘に少しはいい目見させてやるつってんだ。  
てめえがくたばる前にな」  
 そう言うや、茜の桃色の乳首を親指でぐりぐりと捏ねる。  
 ともすれば漏れ出しそうになる苦痛の声を、茜は下唇に歯を立てて  
必死に噛み殺そうとした。  
 嗜虐癖のあるこの男に聞かれれば、かえって楽しませることに他ならず、  
なにより茜の剣士としての誇りが、喩え満身創痍のこの状況下においても  
無様な弱みを見せることを許さなかった。  
(こんな奴に、畜生、こんな奴に!!)  
 
 憎々しく睨みつけることしか出来ない自分の無力が悔しかった。  
 再び服が裂かれ、今度は下肢を覆っていた短い裾と、  
下穿きが剥ぎ取られる。直接肌に空気が触れ、無遠慮な視線がそこに注がれるのを感じた。  
「なんだ。まだ禄に生えてもいねえな」  
 茜の顔にカッと血が上った。  
 瑞々しく張り詰めた太腿を宗矩の手が撫で、その奥の翳りの中へ  
太い指が探りを入れる。  
 まだ濡れてもいない箇所を、宗矩の指が乱暴に弄る。  
 小さな襞を分けて膣穴を見つけ出すと、何の細工もなしに中へ  
差し込んだ。ヒッと茜が息を呑み、細い四肢が微かに戦慄いた。  
 まだ何者の進入も許していない茜の狭い入り口を、優しく解すでもなく、  
鉤状に曲げた指で玩ぶ。  
 無理に中を広げられ膣壁を擦られる感覚に耐えかね、茜は宗矩から逃れようと  
体をのたうたせた。  
「動くんじゃねえよ。今、いいところだろ?」  
「うああ!」  
 宗矩の片手が茜の頭を床に押さえつけた。木目の跡が茜のこめかみに残り、  
そのまま頭蓋を割るのかと思うほどぎりぎりと五指に力を加えて押さえ込み、  
その一方、もう片方の手で茜の膣内を掻き回す。  
 中に埋め込まれた指は二本に増えていた。  
「かっ・・・は・・・」  
 空気を求めて茜の口がぱくぱくと開く。その様を唇をゆがめて眺めていた宗矩は、  
指をずるりと引き抜き、次に奇抜な色合いの細袴から堅く天を仰いでいきり立った  
太い陰茎を取り出した。  
 内部から抜き出した宗矩の二本の指は分泌された透明な液で濡れていたが、  
それは到底外に溢れ出るほどの量ではなかった。  
 宗矩はちっと舌打ちを漏らし、  
「湿りがたりねえな」  
 自分の右手に唾を吐き、それを陰茎に塗りつけた。  
 茜の細い足首を掴み、大きく股を開かせる。その間に割り入った宗矩は、  
片手を添えて滾った陰茎を花芯の中央に押し当てた。  
 その感触に、茜の頭がのろのろと動き、今まさに自分の中へ押し入らんとする  
憎い男の姿を認めた。  
 そしてこのとき初めて茜は、剣士の誇りが蹂躙されていることの怒りよりも、  
女である自分が、男の圧倒的な暴力によって犯されようとしている恐怖を  
目に浮かばせた。  
 血の気の引いた顔にまざまざと怯えの色が刻まれる。  
 それは柳生流免許皆伝の剣士ではなく、年相応の、男を知らぬ無垢な少女が  
怯える姿だった。  
「や・・・やめ、止めろっ!やだ、じいちゃんっ、じいちゃぁん!アオ兄ぃ!!やだあ!!」  
 
 喉を引きつらせて喚く茜など意に介さず、宗矩は凶悪な陰茎を  
茜の中へと突き立てた。みちみちと、未熟な女の器官の肉を左右に掻き分け、  
深く深く呑み込ませる。  
 今までに受けたものとは異質の、体の内部を引き裂かれる痛みと恐れに、  
茜は我を忘れ、白い喉を反らせて叫んだ。  
 その悲鳴を、むしろ心地良いものに聞きながら、宗矩は更に茜の奥へと  
推し進めた。  
 小柄な少女である茜と、長身の宗矩である。茜の器ではどうやっても、  
宗矩の全部を受け入れきれるものではなかった。  
 それでもあらかた収まりきれる部分まで無理に呑み込ませ、宗矩は打ち込んだものが  
みっちりと肉襞に包み込まれる感触を楽しんだ。既に茜は声もなく、  
白い腹を荒く波打たせて堅く瞼を瞑っていた。  
 試しに宗矩が揺すってみると、ぎゅうぎゅうと陰茎を千切らんばかりに  
押し絡めてくる。  
 宗矩は軽く口笛を吹いた。  
「おっと、こりゃすげえ・・・締りだけはいっちょまえでいやがる」  
 思ったよりも楽しめそうだと自分の唇を舐め上げて、  
宗矩は茜の臀部を掴んだ。  
「う、あっ!ああ!!」  
 茜が悲鳴を上げる。呼吸も困難なほどの苦痛がまだ去る気配も見せていないのに、  
休む間もなく荒々しく中を掻き乱されたのだ。声を上げられないはずがなかった。  
「十兵衛ちゃんよ。剣の腕はお話にもならねえが、女陰の具合は及第くれてやるぜ」  
 茜の体を激しく突上げながら、宗矩が嘯く。細い茜はがくがくと  
良いように揺さぶられる。  
「ぐっ、うう・・・うあ!あぅっ!」  
「そうか、そんなに歓んでくれてんのか。じゃあもちっと気張るとするか、よっ!」  
 今迄で一番深く突かれる。黒髪を振り乱し、茜は絶叫した。  
 宗矩にはその声は美しい琴の妙なる調べだった。  
 やがて茜の体が無体な扱いから自分自身を守るため、摩擦を  
増していくたびに中が蜜で塗れてきた。  
 だが、その自己の防衛本能が抽送を滑らかにし、ますます苛烈な情交を  
煽り立てる結果となったのはまさしく皮肉だった。  
 ぐちゅぐちゅと濁った卑猥な水音が増し、それは苦痛に身悶える  
茜の耳にも届くほどになっていた。  
 思うが侭に抜き差しし、絡み付いてくる襞を存分に味わっていた宗矩は、  
ふと二人の結合部分に手を伸ばし、蜜に濡れてぷっくりと膨らんでいる紅い芽に触れた。  
「ひゃうっ!?」  
 茜の体が目に見えて反応した。弄り甲斐のある玩具を見つけたように、  
宗矩の口の端が釣り上がる。  
 宗矩は更に親指でその肉芽を強く押し潰した。  
 
「はあんっ!」  
 茜の内部が一際宗矩のものを締め付け、ついで中からじゅんと  
蜜が溢れ出して来た。  
「おいおい、濡れたぜ?感じちまったのか?“茜”ちゃん。  
ジジイが泣いちまうぞ?こんなインラン孫娘に十兵衛の名前を遣わしたのかってなあ!」  
 溢れた蜜を指に擦りつけ、それを茜の目の前で見せ付ける。茜は呆然と、  
信じられない・・・いや、信じたくないという顔でてらてらと濡れた  
宗矩の指を見た。  
 つい今しがたまで耐え難い苦痛に晒されていたというのに、  
それも苦痛に身を焼いたままであったならまだしも、よりにもよって父祖の、  
柳生一族の敵であるこの男の手によって、この体は浅ましく女の  
快楽を貪り甘受しようとしているというのか。  
 八年前のあの日から、誰よりも強い意志を秘めていた茜の澄んだ目に、  
皹が入る。  
 その表情に至極満足した宗矩は、破瓜の血の混じったそれを、  
震える茜の色褪せた唇に塗り付けた。  
 そして再び激しく腰を動かしだす。片足を脇に抱え込み、  
すっかり充血した肉芽を弄りながら茜の最奥に届くほど中を抉って突く。  
「あっ、ぁあ、ひゃん!あう、ああっ!」  
 さっきまでの声とは明らかに違う質の喘ぎにますます宗矩の動きは増し、  
茜の絶望は深まった。  
 そろそろだなと宗矩は見切りをつけた。なにやら惜しい気もしたが、  
いつまでもこの小娘にかかずりあっている訳にもいくまい。  
 気を緩めばすぐさま精を放ってしまいそうなほど、茜の中は充分に  
熱を帯びて収縮を繰り返し、宗矩のものにみっちりと絡み付いて引き離さない。  
全く大した器だぜと宗矩はほくそえんだ。大事な孫娘が  
不肖の息子によって辱められたと知れば、あの忌々しいジジイは  
どれほどの衝撃を受けるだろうか。  
 その面を是非拝んでみてえがな、と宗矩は思った。  
 朦朧と焦点のあわぬ目で息を切らす茜の片足を抱え上げる。  
「そら受け取れよ冥土の土産・・・たっぷりとなっ!」  
 ずるると入り口間際まで引き抜き、勢いよく突上げる。それとほぼ同時に  
陰茎の先端が膨らんで、茜の膣奥で白い欲望をぶちまけた。  
「ぁ・・・ああ・・・あ」  
 声にならない声で茜が呻く。  
 汚され、踏みにじられた。体ではなく、何より自分が大事にしていたものを。  
 子種を大量に流し込み、萎えた陰茎に纏わりついてひくひくと収斂する  
肉襞を充分に味わってから、宗矩は体を引き起こして立ち上がった。房事の  
疲労感はあったが心地のいいものだった。歪んだ征服心も満足できた。  
 身仕舞いを整え、ぴくりとも動かない茜を見下ろす。薄い胸は微かに上下していたが、  
その様はまるで壊れて地べたに放り出された人形のようだ。  
「さて」  
 宗矩は刀を抜いた。  
 冷ややかで非情な、宗矩が何よりも好もしく思っている刀の光が、隻眼を射抜く。  
「少しばかり遅れたがその命頂くとするか。なに、たった今新枕を交わした仲だ。  
その誼でご褒美もやるよ。苦しまずに三途の川を渡らせてやるぜ」  
 
 大上段に振り上げた刀を今まさに茜に振り下ろさんとしたとき、  
「ちぃっ!?」  
 咄嗟に宗矩はその場から飛び退った。間一髪、宗矩が立っていた位置を、  
巨大な刀身が唸りを上げて切り裂き、部屋の中央の円柱にガッと食い込んで  
突き刺さった。異形はその大きさのみならず、刀身の  
刃紋が花の散り浮かぶ流水を模しているというふざけた意匠の刀だ。  
 こんな得物の持ち主は、一人しかいない。  
「十兵衛!無事か!?」  
 踏み込んできた闖入者を、宗矩は面白くもなさそうな顔で見やった。  
「最後の締めで横槍ならぬ横太刀かよ」  
 抜き身の刀を、さてどうしたものかと無意味に振る。今ここでこの蒼鬼の相手を  
してやってもいいのだが、それにはなにかと今後に差し障りが出そうだった。  
(面倒だな・・・一旦退くか)  
 宗矩が胸中計算高く最も自分に都合のいい選択を計っていると、  
年若い蒼鬼は宗矩の足元に転がっている少女の姿を認め、その有様に  
顔色を変えた。  
「貴様ぁ・・・十兵衛になにをしたッ!!」  
 抑えきれぬ怒りに眦を上げ、背に負った刀を引き抜き宗矩を睨みつける。  
 その眼差しに茜と同種のものを見つけ、宗矩は無言で肩を竦めてみせた。  
 蒼鬼の闘気が瞬時に燃え立つ。こちらに突っ込んでくる距離と呼吸を見計らい、  
宗矩は抜く手も見せぬ早業で蒼鬼の目に二本の小柄を投げつけた。  
「小細工をっ!!」  
 蒼鬼が小柄の一本を弾き飛ばし、時間差で投げられたもう一本を  
左手で掴んだたそのときには、宗矩の姿は長方形に開け放たれた外界の、  
楼閣の下へと掻き消えていた。  
「くそ、逃がしたか!」  
 桟に手を掛け、もはや見えぬ宗矩の背中を眼下に一瞬捜し求めた秀康は、  
ハッと後ろを振り向いて倒れ伏した茜に駆け寄った。引き千切られて  
用を成さなくなった装束、頬は腫れて殆ど裸にされたうえに  
押し広げられた太腿の間からは白濁した液が伝っていた。一目見ただけで、  
なにごとが茜の身に起こったのか・・・秀康は察した。握り締めた拳が  
ぶるぶると震える。  
「あの・・・下衆め!」  
 どれだけ切り刻んでも足りないだろう。だがひとまず自分の怒りを置き、  
秀康は鎧の一部を脱いで、深紫の単を茜の体に巻きつけた。今から  
この楼閣を十重二十重に取り囲んだ幻魔の囲みを突破せねばならない。  
この状態の茜を抱えてとなるとかなり難しい脱出になるだろうが、  
秀康は茜を置き去りにしていこうなどとは考えもしなかった。ただ、  
これ以上絶対に、髪一筋も茜を傷つけまいと思った。  
 両腕で抱え上げると、酷く軽く、だらりと力なく腕が落ちる。  
(まだこいつはこんなにか細い少女だというのに・・・)  
 眉間に深く皺を刻み、青褪めた茜を傷ましい思いで秀康は見つめた。  
そのまろやかな頬には、一筋の涙が伝っていたが、茜が  
何ゆえの涙を流すのか――――――――悲しみに他ならないと、秀康は  
そっと涙を拭ってやった。  
 茜が抱えた絶望を知らぬがままに。  
 
 宗矩は払暁いまだ遠い深い暗闇の、辛うじて松明の光が届く瀬戸際に立ち、  
その隻眼で聳え立つ楼閣を見上げた。  
 その声には紛れもない愉悦が含まれていた。  
「俺を殺したいんなら、生き延びて這い上がって来い十兵衛」  
 ぱちぱちと火のはぜる音が聞こえる。先程宗矩が投げ込んだ  
いくつかの松明が、その火の手を大きくしている音だ。  
 間もなくこの楼閣は、巨大な炎に包まれ、夜の天蓋を焦がさんばかりの  
さながら一本の巨大な篝火と化してこの周囲一帯を赤々と照らすだろう。  
これも宗矩のお遊びの一つだった。  
 くるりと身を翻し、右手を虚空に突き出すと、ばさりと羽音を立てて  
闇に羽根を同化させた鴉がその腕に舞い降りた。  
 闇の中でも主の姿を探し出すとは、これまた鴉の姿を借りた  
異形の凶鳥だろうか。主の機嫌を伺うように、一声高く鴉が鳴いた。  
 あの二人の目に宿るのが、炎よりも激しく滾るものであれば、  
この程度の陥穽などものともせず踏み越えて、再び自分と  
対峙することになるだろう。宗矩はむしろそのときを望んだ。  
 くっくっく、と喉の奥で笑いながら、宗矩は更なる闇の中へと戻っていく。  
「そのときはまた―――――――――楽しませてもらうぜ」  
 
 
終  
 

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