比叡山延暦寺  
※本編で言うと蒼鬼、十兵衛、お初の3人がロベルトを救出し意識が回復するまで待っている2ヶ月の間のある日の話・・・。  
 
朝10時頃、蒼鬼はあくびをしながら床に寝っ転がる。  
「ふぁ〜あ!最近幻魔どもとの戦いばっかで体が疲れてしょうがねぇ・・・。  
まっ、ロベルトが回復するまでゆっくり休むかな。」  
目を閉じて眠ろうとした時、寺の外から元気な声が聞こえてくる。  
「アオ兄ィ〜!稽古してくれよ〜!」  
十兵衛がやってきた。蒼鬼は稽古が面倒くさいのか、寝たフリをする。  
「アオ兄?寝てるのか?起きろ!!」  
蒼鬼の体の上にまたがって勢い良く乗っかってきた。小さいなお尻がミゾに入り、ムセて苦しがった。  
「ぐはっ!ゴホッ!ゴホッ!じゅ、十兵衛!?」  
自分の体の上にまたがっているのを見て蒼鬼は違う事を考えてしまい顔が少し赤くなった。  
十兵衛は不思議そうに見てくる。  
「どうしたアオ兄ィ?熱でもあるのか?顔も赤いし、せきもしてるし。」  
「いや・・・。しばらく幻魔どもとの戦いが続いただろ?体が妙に重くて辛いんだ。ゆっくり寝かせてくれ。」  
体を横にして目を瞑る。十兵衛は蒼鬼の横であぐらをかいて頬を膨らませて座り込んだ。  
「ちぇ〜、アオ兄と稽古したかったのにぃ〜。」  
しばらく沈黙が続く。その時十兵衛は何か閃いたような顔をしてニヤける。  
「なぁアオ兄?疲れてるんだろ?俺がマッサージしてやるぜ!」  
 
蒼鬼はダルそうに転がって十兵衛の方を向く。  
「お前がぁ?骨の一本や二本軽く折られそうだぜ・・・。」  
「そんな訳あるかよ!まぁ黙ってオレに任せとけって!  
小さい頃は爺ちゃんの肩叩きとか腰を揉んであげてたんだぜ。爺ちゃんメチャクチャ笑顔でさぁ〜!  
すっげぇ気持ち良さそうだったぞぉ!」  
「本当かよ?まぁそこまで言うんだったらお願いするかな。まずは肩を揉んでくれないか?」  
「よしっ!やってやるぜ!」  
蒼鬼は半信半疑で体を起こしてあぐらをかく。十兵衛はやたら笑顔だった。  
後ろで立ち膝の状態になって蒼鬼のガッチリとした肩を掴んでゆっくり揉み始めた。  
意外と揉み方が上手だった。  
「おっ!意外とやるなぁ十兵衛!」  
「エヘヘッ!だろ〜!」  
しばらく肩を叩いたりもんだりした。  
「あぁ〜気持ちかったぜ!ついでに腰を押してくれ。」  
うつぶせになる。蒼鬼の背中にまたがって両手で腰をゆっくり押す。  
蒼鬼は気持ち良さそうな顔をする。十兵衛もその顔を見て笑みがこぼれる。  
突然蒼鬼が口を開く。  
「お前の爺ちゃん、本当に良い孫娘をもったなぁ。」  
「ん?」  
「性格と喋り方は男勝りでどうかと思うけど、お前は良い太刀筋してるし、マッサージは出来るし、  
あと時々見せる女っぽい反応が可愛いんだよなぁ〜、お前は。」  
腰を押すのを止めた。  
「・・・、十兵衛?」  
 
「アオ兄ィ!!」  
十兵衛は寝っ転がっている蒼鬼の背中の上で体制を寝かせて蒼鬼の首に後ろから腕を回して  
抱きしめて顔を蒼鬼の頭に擦り付ける。  
「アオ兄!オレ、やっぱりアオ兄の事、大好きだぞ!」  
蒼鬼は微笑んで目を瞑った。  
「フフッ、鬼武者って言っても喜び方は子供だなぁ〜。」  
十兵衛は我に返って顔を赤くして蒼鬼から離れた。  
「うっ!うるせぇやい!だって、本当に嬉しかったんだもん・・・。  
でも実際、オレまだ子供なんだから・・・、もう少しオマエに甘えてもいいだろ・・・?」  
蒼鬼は仰向けに寝返る。  
「まぁな。悪い気はしねぇから構わないぜ。」  
十兵衛は少し照れた顔をして笑い、寺を出て刀の素振りを始めた。  
やっと一人になりゆっくり眠れると思い目を閉じる。  
「モテる男は良いねぇ〜蒼鬼や!」  
いつの間に阿倫が後ろに立っていた。ビックリして起き上がった。  
「うわっ!・・・、何だ阿倫か。」  
「阿倫か・・・、じゃないよ全く!それより、最近だらけ過ぎなんじゃないかい?  
ロベルトが意識不明のまま一週間が経つけど、アンタ寝てばっかじゃないか!  
いくらここが結界が張られて安全っていっても、いつ幻魔が襲ってくるかわかりゃしないんだから!」  
長々としたお説教が続く。やはり阿倫は尼僧だから不真面目なところは注意せずにはいられないみたいだ。  
知らぬ間に蒼鬼は阿倫に正座をさせられていた。  
「わかったかい?ったく!最強最悪の鬼、人類の切り札がこんな怠け者とはねぇ・・・。」  
蒼鬼は言われ放題言われて黙って立ち上がった。  
「阿倫、お前はわかってない。生き方は他人に委ねるもんじゃない。自分の行き方は自分で決める。」  
阿倫はため息をついて首を横に振る。蒼鬼を寺の入り口に呼ぶ。  
 
そこから下で一生懸命素振りをして汗をかいている十兵衛の姿が見える。  
「アンタ、十兵衛とお初、どっちが好きなんだい?」  
いきなりの問いかけに動揺する。  
「えぇ!?ど、どっちか・・・?」  
「もちろん。本当に好きな相手は一人に決まってるでしょ?」  
真面目な顔をして腕を組み悩む。  
「・・・。今は・・・、十兵衛の方は一枚上手かもしれない。アイツとは一緒にいる時間が長かったからなぁ。  
アイツの魅力みたいなのを感じてきてるんだ。」  
「十兵衛もお初もお前さんの事が大好き、でも十兵衛の方がアンタの事を思ってるみたいだよ。」  
「十兵衛・・・。」  
「んじゃアタイは用があるから。」  
阿倫は鬼門を調べると言い、門の中に入っていった。蒼鬼は十兵衛の素振り姿を見て寺に戻りまた寝っ転がった。  
十兵衛は刀を納めて腕で額の汗を一拭きする。  
「ふぅ!今回はこの辺にしとくかなぁ〜。」  
その時お腹が鳴った。お腹を手で押さえる。  
「うぅ〜、腹減ったなぁ・・・。阿倫ちゃ〜ん!飯出来てるかぁ〜!?」  
返事が無い。いつもなら飯が出来たよ〜!っと言う返事が来るのに。寺に戻ってみる。  
蒼鬼は寝てて、阿倫は鬼門の調査に、ロベルトは意識を失ったままでお初はどこかに出かけてる。  
とても静かだった。棚に置いてある手ぬぐいを取って顔の汗を拭く。  
「あぁ〜暑い!腹減って死にそうだぜ・・・。体の汗が止まんねぇなぁ。」  
その場で今着ている羽織の上だけ脱いで上半身だけ裸になり体を拭き始める。  
ほんの少し膨らんでいる胸と綺麗な乳首が印象的である。  
 
裸のまま寺の入り口に立って太陽の光を浴びて大きく伸びる。  
「くぅ〜〜!気持ち良いなぁ〜〜!!」  
体を拭き終わり、相変わらず上半身裸のまま寺の中を歩きながら手ぬぐいをクルクル回す。  
蒼鬼の寝顔やロベルトの寝顔などを見る。  
「ほぉ〜、西洋人も寝顔はやっぱ人間なんだなぁ〜。」  
「ただいまでござブゥゥゥゥ〜〜!!」  
みの吉が天井からぶら下がり落ちてきた瞬間、十兵衛の上半身を見て急に鼻血を噴き出してしまった。  
「み!みのちゃん!!」  
急いでみの吉に近づいて手ぬぐいで鼻血を拭いてあげる。  
「おいしっかりしろよ!どうしたんだよ急に!?」  
「あぁ・・・、鼻血が逆流したでござ・・・る・・・。」  
しばらくしてみの吉はやっと落ち着きを見せる。しかし十兵衛の方を見ようとしない。  
「おいみのちゃん?何でこっち向かないんだよ?」  
「じゅ、十兵衛殿は・・・、自分の体見て気づかないのでござるかぁ!?」  
「あっ・・・、ワリィなみのちゃん!すっかり脱いでた事忘れてたぜ・・・。エヘヘッ!」  
急いで羽織を着た。みの吉もやっと十兵衛の方を向く。  
「そういやぁみのちゃんどこに行ってたんだ?」  
「みの一族の交流会があったでござる!色々お話を聞いたり美味しい物をたくさん食べたでござるよ!」  
「美味しい物・・・。」  
少しヨダレが出てしまう。その時また十兵衛のお腹が鳴った。  
「十兵衛殿はまだ昼飯を食べてないのでござろうか?」  
「あ、あぁ・・・。阿倫ちゃんもお初姉ェもいないから飯を作る人がいないんだ・・・。」  
「そうでござるかぁ・・・。それでは十兵衛殿が料理を作ってみては?」  
「えぇオレが!?」  
 
とてつもなく大きなリアクションを見せる十兵衛。  
「もしや料理を作った事は無いのでは・・・?」  
「ばっ!何言ってやがる!?オレが料理できないわけないだろ!女の子だぞ?」  
少しムキになった口調でみの吉を叱る。みの吉は白い目で十兵衛を見る。  
「どうにも料理の出来る女の子には見えないでござる・・・。まぁ論より証拠、実際に作ってみようでござる!」  
「うぅ・・・、やってやろうじゃねぇか!」  
寺の奥の部屋の調理場に行く。そこは阿倫が綺麗に並べた食器や器具が並んでいる。  
「何を作ればいいんだ?」  
「ん〜、それでは蒼鬼殿の大好物の里芋の味噌煮を作るでござる!」  
「そういやぁアオ兄、里芋の味噌煮が好物って言ってたなぁ〜。『1ヶ月それでも俺は食って生ける!』って言ってたし。」  
早速十兵衛は材料を並べて調理にかかる。包丁さばきなどを見ていると明らかに一度も包丁を握った事のない手つきであった。  
見ているみの吉がとてもハラハラしていた。  
「十兵衛殿・・・。指を切らないでくだされ・・・。」  
材料を切り終えた。非常に雑で見苦しい形になっていた。今度は味付けの作業に取り掛かる。  
「ん〜、(どんだけ調味料みたいなの入れればいいかわかんねぇなぁ・・・。)」  
「どうしたでござるか十兵衛殿?まさかわからないのでは・・・。」  
「うるさいなぁ!今からやるんだよ!」  
明らかに十兵衛は料理をした事がないのが丸わかりだ。  
「それ、入れすぎでござるよ?そんなに入れるとマズイんじゃないかと・・・。」  
「うるせぇ!」  
「ひぃ〜〜!(怖すぎる十兵衛殿・・・。無理に知ったかをしなくても良いでござろうに・・・。)」  
そして器に盛って十兵衛特製の里芋の味噌煮が完成した。  
 
「出来た!!さぁみのちゃん!食ってみろ!」  
みの吉の体が震えている。  
「な、何で拙者なんでござるか!?拙者はすでに美味しい物を食べてお腹空いてないでござる!」  
箸で摘んでみの吉の口に無理矢理突っ込む。  
「んぐぅ〜〜!!」  
「どうだ?おいしいか・・・?」  
みの吉の目がだんだん白になり、顔色が青くなっていく。  
「お、おいみのちゃん!?」  
「拙者のじ、人生・・・、終わりそうで・・、ござる・・・。」  
水を飲ませて少し時間をおいてみの吉の回復を待つ。みの吉はやっと喋れるようになった。  
「おぉ!みのちゃん大丈夫かよ?急に目が白くなって顔色が悪くなるんだもん。そんなにオレの料理が美味かったって訳だろ?」  
みの吉は泣きそうになったが必死でこらえる。  
「・・・。(十兵衛殿に殺されそうになったんでござろうが!) もっと十兵衛殿は料理の勉強が必要でござるな!」  
「そ、そうか・・・?」  
「そうでござる!そして蒼鬼殿に里芋の味噌煮を食べさせるでござるよ!そうすれば蒼鬼殿の心を掴んだも同然!  
お初殿には悪い気もするけど、十兵衛殿の勝利になる事間違いなし!」  
なぜかみの吉が燃えていた。それを見て十兵衛も燃え上がってきた。鬼の眼が少し輝いていた。  
「おぉ〜!!オレ、頑張るぜ!いろいろ教えてくれよみのちゃん!」  
「承知でござる!」  
そしてみの吉は里芋の味噌煮の作り方を一から十兵衛に叩き込んだ。  
30分後・・・。  
 
「出来た!!愛情たっぷり里芋の味噌煮完成!」  
「やったでござるな十兵衛殿〜!あっ!蒼鬼殿が起きたみたいでござる!拙者は一旦失礼するでござる。」  
蒼鬼はゆっくり起き上がった。  
「んぅ〜!よく寝たぜ・・・、ってもう昼かぁ・・。阿倫?飯は出来たのか〜?」  
「出来たぞぉ〜!」  
「えっ?十兵衛?」  
調理場から阿倫ではなく十兵衛が出てきた。里芋の味噌煮を器に持って歩いてきた。  
「よっアオ兄!やっと起きたか〜。遅せぇぞ!寝坊介さん!」  
「・・・、わりぃな・・・。って・・・、この匂い!!里芋の味噌煮!!」  
里芋の味噌煮を盛った器を蒼鬼の前に置いた。十兵衛に緊張が走った。  
「食えよ・・・、アオ兄・・・。飯作る人がいなかったから・・・、勉強して作ったんだ・・・。  
前に大好物って言ってたろ・・・?冷めないうちに・・・、早く!」  
「おぉ!!十兵衛!!良いところあるなぁ!それじゃ、頂きます!」  
箸で摘んで口に運んだ。蒼鬼は目を閉じてしっかり噛み締める。  
しばし沈黙が続き、十兵衛は唾を飲み込む。  
「ど・・・、どうだ・・・?」  
「うん!!味付けは少々濃いが十分合格点だぞ!偉いぞ十兵衛!!」  
大好評で十兵衛は顔を赤くして頭をかく。  
「エヘヘッ・・・。作ってよかった・・・。これ、オレの初めての料理なんだぜ。」  
「初めてでこの出来か!?お前は料理の才能があるぜ、きっと!」  
「ま、まぁな!エヘヘッ!料理もオレにかかれば楽勝ってもんよぉ!あっ、まだ熱いよな?  
大サービスでオレがフゥーフゥーしてやるよ!」  
 
箸で里芋を摘んだ。  
「フゥー、フゥー。」  
蒼鬼は困ったような顔をしてるが実は照れ隠しだった。  
「さ、さすがにそれは自分でやるからいいって!」  
「まぁ照れんなよアオ兄ィ!はい!あぁ〜ん!」  
「ん・・・、あぁ〜ん。」  
「よしよしっ!偉いぞ!」  
「何で俺が子供扱いされてんだよ!お前は自分の料理食ったのか?」  
「あっ・・・、食べてなかった・・・。味見とかしてなかったなぁ・・・。」  
今度は蒼鬼が箸で里芋を摘んでフゥーフゥーした。  
「な、何だよアオ兄・・・?」  
「ほれ、あぁ〜んしろよ。お前も初めての料理、食べた方が良いぜ?」  
「そ、そうか・・・?あぁ〜ん!」  
十兵衛は自分の料理にかなりの手応えを感じた。実際に自分で食べて美味しいと感じた。  
「うめぇ〜!オレ、こんな料理出来るんだぁ!!」  
天井辺りでぶらさがっているみの吉は十兵衛の笑顔を見て涙を流していた。  
「おぉ〜〜、十兵衛殿ぉぉ・・・。良かったでござるなぁ・・・。」  
2人はまるで新婚のように里芋の味噌煮を食べあった・・・。  
 
終  
 

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