みの吉の空間移動の力で【原の宿場町】に戻り移動していた蒼鬼と十兵衛だったが、一時的な空間の歪みのせいでみの吉の力が届かなくなり、比叡山の瑠璃堂へと戻れなくなってしまった。  
途方に暮れる蒼鬼と十兵衛だったが、日も暮れ辺りが闇に包まれ始める。  
仕方なく、たまたま見つけた無人の民家へと身を潜めることにした二人であった…。  
「腹へったなぁ…」  
十兵衛が我慢できないといった感じで言った。  
「嘆いたって飯は空から降ってこねぇよ。朝になれば歪みもマシになるかもしれねぇ。我慢しろよ。」  
「ちぇ…わかったよ…。」  
そんな時、ふと部屋の中に隙間風が吹き抜けた。夜になり、かなり冷え込みが激しくなっているせいもあり、十兵衛はたまらず身体を震わせた。  
「寒いか?ちょっと待ってろ…」  
寒がる十兵衛の様子を見た蒼鬼はふと立ち上がり空き家の中をあちこち探し、どこからか大きめの布を持ってきた。  
「ほら、これ着てろ。少しは暖かくなるだろ。」  
そう言いながら蒼鬼は十兵衛の肩に優しくその布をかけてやった。  
「(なんだかアオ兄…いつもより優しい…)」  
十兵衛はいつもより自分を気遣ってくれる蒼鬼に少し胸を高鳴らせた。  
 
「なぁ、アオ兄。アオ兄はお初姉のこと…どう思ってんだ?」  
「ん?なんだよ、急に」  
「べっ、別に…。ただ、どう思ってんのかなって」  
「どうもこうも…。お初は俺にとっては妹みたいな存在でもあるし、姉みたいな存在でもある…。ま、簡単に言やぁ、兄妹だな」  
「じゃあ、お初姉と結婚したいとか思った事とか、ないのか?そッ…その…接吻とか…」  
「おいおい!十兵衛!どうしちまったんだよ!」  
「別にどうもしねぇよ!ただ…昨日、阿倫ちゃんがいろいろ話してくれたんだ…。宗矩と秀吉を倒して、全てが終わったら、女として生きる道を考えてみるのもいいかもよって…」  
「…なるほどな」  
「なぁ…アオ兄、もし全部終わって平和になっても、オレと一緒にいてくれる?一緒に旅とかしてくれる?」  
「十兵衛、本当にどうしちまったんだ?」  
「オレ…ずっとアオ兄と一緒にいたいんだよ!平和になったら柳生の庄戻って爺ちゃんにも会わせたいし、一緒に京で買い物もしたいんだ!アオ兄…オレと一緒じゃ嫌か?」  
 
「いや、そんな事はねぇよ…。わかった…平和になったら、一緒に諸国を廻って美味いもんでも探しに旅するか!」  
「うん!アオ兄!約束だからな!」  
「あぁ…。約束だ。」  
「じゃあ…こうしないといけないんだよな…」  
「おい、なんだよ十兵衛!いきなり抱き着いたりして!」  
「だって…阿倫ちゃんが言ってたんだ。惚れた男にはこうして抱いてもらえって」  
「おい、ちょっと待てよ!俺はお前の事は…」  
「それ以上言わないでくれよ…。アオ兄…オレ、今はまだ無理だけど、アオ兄の好物の里芋の味噌煮込みも作れるようになるから…だから…だから…」  
「十兵衛…」  
「アオ兄…」  
「ンッ…」  
「いっ、今のは、オレの生まれて始めての接吻なんだからな!アオ兄、責任とれよ!」  
 
その時、空き家の屋根に二つの影がうごめいた。  
「阿倫殿、これで本当によかったでござるか?」  
「当たり前さね!みの吉のお陰で、十兵衛の秘めた想いも成就できたのさ!」  
「でもお初殿は蒼鬼殿を…」  
「お初は…きっと蒼鬼とは結ばれない。人には天命ってのがあるんだ…。」  
「どういう事でござるか?」  
「さぁね…ただそんな気がするのさ」  
 
 
「さて…明日の朝まで歪みは消えないようにしといたからね。二人きりにさせとこうか」  
「そうでござるな…」  
そして二つの影は音も無く消え、次の朝、蒼鬼と十兵衛は何事もなかったかのように、仲間の元へと帰り着いたのだった。  
 
 
完  
 

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