オレは、よく嘘を吐くようになった。何回も同じ嘘を吐いている。  
「これで泣くのは最後にだからな」  
同じ場所で、ずっと同じ嘘を。  
空っぽの墓、アオ兄ィの最後の頼みから、目印にしようと勝手にオレが立てた墓だ。勿論アオ兄ィが死んだなんて思っちゃいないけど、せめて目印になる物が欲しいと思って、オレが立てた。  
 
此処に来る度に、オレはアオ兄ィと約束する。もう泣かないって。これがいつも嘘になる。  
アオ兄ィと約束してるのに、アオ兄ィの為に何度も約束を破る。オレは逆に、よく泣くようになったかも知れない。  
 
 
「なぁ…みのちゃん」  
「ふぇ?」  
「今のオレ見たら…アオ兄ィ、なんて言うだろう?」  
「む〜」  
「怒るかな…」  
「…きっと、少しだけ怒ると思うでゴザル」  
「そっか…」  
「でも、その後は凄く優しくしてくれると思うのでゴザル!」  
「…アオ兄ィ、大人だったなぁ…」  
 
宗矩を探す旅はまだ続いてる。もう結構な距離を歩いてきたと思うけど、前の旅、秀吉と幻魔を倒す為の旅を思い出すのは、少なく無かった。  
みのちゃんには悪いと思うけど、アオ兄ィが居ないのはやっぱり淋しい。きっとオレは、一人での旅は出来なくなってると思う。  
アオ兄ィが居なくなってからオレは、弱くなる一方だ。  
「甘えてたな…オレ…」  
今じゃ旅の目的が時々解らなくなる。宗矩を探す旅なのか、アオ兄ィを思い出すだけの旅なのか。  
 
オレは…甘ったれだ。  
 
 
桜。どっちかって言うと良い思い出じゃあない。桜と言えば覚えてるのは秀吉が作ったのは紛い物の桜で、アオ兄ィとオレの別れの象徴の、アレだ。  
…なんでオレが起こされたのか。なんて思った。あの時は、本当ならお初姉ぇの出番で、きっとお初姉ぇなら上手くさよならが言えた筈だ。  
オレが起こされたから上手くさよならが言えなくて、いつまでもオレはもやもやしてる。  
…いや、今でもさよならを言う気にはなれない。オレはずっと、一生掛けてでもアオ兄ィを諦めたりはしない。  
 
「桜を見たら…俺を思い出してくれないか?」  
 
 
綺麗な夜桜だ。節約の為にオレは野宿をする事が多い。天井を見るより、夜空を見る方が落ち着く。それに何故か、桜の幹で眠ると安心した。  
「妙な時間に起きちまったな…」  
まだ朝は遠そうだ。でも、寝付けそうにも無い。  
「変だな…こんな時間に起きるなんて…」  
夢かとも思ったけど違うみたいだ。景色だけは、夢と言われても信じられるけど肌の寒さが本物みたいだった。  
「あ、あ…」  
「みのちゃん?」  
「茜殿ぉ!」  
「こ、この気はぁっ!」  
みのちゃんの震え方が普通じゃない。ほんの少し右目が痛む気がする。  
でも、やな気じゃない。懐かしい、オレが望んでた気だ。  
「早く確かめるでゴザル!」  
「確かめるって…まさか!」  
「あちらの方角でゴザル!」  
みのちゃんの指した方角へ、オレは走り出した。  
 
月明かりのおかげで、足元ははっきりした。此処は桜の林。あの日みたいに紫に近い月光と桜の花びらが目の前に散ってて、あの日みたいにオレは走り出している。  
あの日別れた、アイツに会う為だ。  
 
木と木の狭間、ほんの少し開けた場所があった。丘のような場所。月が真上にあるような明るみの中の人影を見て、  
足が止まった。  
 
最初に見たのは背中だった。アイツの性格らしくない、格好の着いた背中だ。  
二本の剣には見覚えがある。オレの横でよく振られた剣。オレを助けた事も何度もある、心強い武器だ。  
足は、何故かそこから動かない。先に、あっちから話し掛けて欲しかった。  
 
夜風が冷たい。これが夢じゃない証明であって欲しい。  
 
「…十兵衛」  
「…」  
「…久しぶり。で良いか?」  
「…ああ。オマエ、あんまり喋り方上手くないしな…」  
「ああ」  
「夢…じゃないよな。オレ、やだよ。夢なんて…」  
「ここは夢みてぇに綺麗だけどな」  
 
確かめたい。夢じゃないと。  
オレの足は、目の前の背中に向かって走り出した。  
アイツが振り向いた。あの時みたいに月の光を背景にして、心強い顔で。違うのは、別れか再会の違いだ。  
力いっぱい、ぶつかって腕を回してみた。  
暖かかった。男の体っぽく引き締まってて、でもどこか安心する力強さがあって、一気に泣きそうになった。  
 
「…今帰って来たんだ。夢じゃないさ」  
「だよな…流石に神様でもこんな悪夢は見せないだろうぜ…」  
「俺が帰って来たのが悪夢なのか?」  
「もし夢だったら…こんなに泣かせる夢だったら最低だと思うぜ…」  
「…そうだな」  
「…あと、オレの呼び方違うだろ?オレ覚えてるぜ。あの時」  
「そうだったな…茜」  
「…お帰り…」  
「ただいま…」  
 
オレはアオ兄ィの服をぐしゃぐしゃにした。涙と俺の握力で。アオ兄ィは何一つ怒らずに、抱きしめてくれていた。  
 
 
「拙者も抱きしめて欲しいでゴザル…」  
「みの吉!オマエ!」  
「蒼鬼殿ぉ!」  
 
次はみのちゃんの番だった。  
 

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