お業は夢を見ていた。  
「わたしはあなたよりも長く生きています。気にはなりませんか」  
 男は両手をお業の躰を挟むようにして付いて、やさしく睦む。お業の手は男の腕に  
蔦のようにして絡まって。  
「過された歳月をでしょうか」  
「言わせたいの?」  
「でしたら、言わないでくださいな。そう、なにも」  
「ごめんなさい。わたくしから、あなたの気をそぐようなことを言ったりして」  
 
「気などそがれはしませんでしたよ」  
「ほんとうですか」  
「ええ、もちろんですとも。あなたはわたしをずっとみていらっしゃったのでしょう」  
お業は男の瞳を見て、微笑で応える。お業は相翼院の天井から男をずっと見てきた。  
「はい」  
「わたしもずっと見ていたということです」  
 お業はその濃密な刻に、眦に朱をほんのりと刷く。  
 
「なっ、なにをするの」  
 男は両肩の傍に付いていた腕に絡みつく、お業の手をそっと振りほといて、腕を掴んで  
腰に持っていった。男の手は滑っていっておのずと、お業の手へと辿り着く。ふたりの  
躰はぴったりと重なる。  
「あぁああ……。あなたの鼓動がわたしの躰に流れて……」  
「流れて?」  
 
 男はお業の上に覆いかぶさって、ふたりは手を繋いだまま腰に下ろして真直ぐに躰を  
伸ばして切って行った。  
「あつい……あつい。とても、とても熱いのです。どこもかしこも」  
「苦しいですか」  
 お業は小さく顔を左右に振る。噛み締めるかのように瞼を閉じる。長い睫毛が美しい。  
 
そして橙黄色の瞳が男を見る。しばらくふたりは繋がったままでじっとして時を過した。  
男の掛かる重みが、お業の生だった。そして……「お業の翼を拡げる」と男が告げる。  
「わたくしの?」   
「あなたのつばさを」  
 男は軽く尻を振るった。  
「うっ、あ、あん」  
 
 男はゆっくりと、そして確実に、お業の女陰を滾る肉棒で突き、ふたりだけの手を  
取り合って天上へと導こうとする。手は律動に呼応して力強く握られながら翼のように  
拡がっていった。腰からやがて水平になり、そしてお業の頭上へと掲げられる。  
 
「それに……」  
「そっ、それに……?」  
「いくら、お業が経験豊富でも」  
男はやさしく微笑み返す。けれど、繰り出す抽送に愛しい人を見ていられない。  
「いじわ……あ、あっ、ああっ」  
「こうすれば……原初のふたりに……戻れます……等しく」  
 
「わたしは……あなただけ……あなたの……あっ、ああ……」  
「もう、なにも言わないで……お業」  
「ず、ずるいっ……んあぁあああッ!」  
 男の唇が、お業の脇の窪みに舌が這い、唇で吸い立てる。原初に還る交媾で、お業の  
告げようとしていた言葉が快美感の渦へと呑まれていった。  
(あなたは、わたしの初めての男。初めて知りました。愛する人の仔が欲しいと)  
 お業の夢は叶えられたが、はかなく崩れていった。お業も昔は人。人の見る夢は儚い  
ものと唇を噛む。  
 
 
「わたしを罰してください」  
 お業が木にしがみ付きながら、貌を捻った。ふたりは浜辺の木のところで交わっていた。  
 
 
(わたしはあなたを巻き込んでしまいました。あなたに累が及ぶやもしれません)  
 お業は腕を突っ張って、打ち付ける肉棒を貪婪に欲して尻を突き出そうとする。腕を  
ぴんと張っても、男の繰り出す抽送の旋律に狂わされてしまって腕が折れてしまう。  
お業は首を折って、砂地に貌を向ける。男に白く綺麗な細いうなじを見せる。腕を  
突っ張って、尻肉を打ち付けるあけすけな音に女陰が熱くなって長い髪を振り乱して砂を  
掃いていた。  
 
「お業……か、髪が……綺麗な髪が汚れてしまう」  
「掴んで」  
「掴む?」  
「そう、わたくしの髪を掴んで」  
お業の貌は下を向いたままで、男の抽送にぐらぐらと揺らされている。  
「どうしろと……?」  
男の責めが止まる。  
 
「ダメぇ!うごいてぇ!うごいてぇ!掴んで顔を引き上げてぇ!さあ、はやくうッ!」  
「だが……」  
 性愛に於ける攻撃性と愛でる心とは表裏。愛していても、おんなを支配したいという  
望み、攻撃性が必ずやある。愛しすぎた場合には、男は勃起しない。そのさじ加減が、  
お業の罰してという言葉によって、男の中で少しずつ壊れていく。  
 
 男は薄っすらと汗に濡れて煌めく、白い背に近づいて背骨に舌を這わせ、お業のうなじを吸う。  
おんなの命を抱き締めた手は脾腹に浮き出た肋骨を撫でて、お業の薄肉を  
引き上げながら脇に近づき乳房を探っていった。  
「はっ、あ、あっ!」  
「魂まで吸われそうだ」  
「はやく、はやくうぅぅぅッ!」  
 
「待っていろ、お業!すぐに、叶えてあげる!」  
垂れてゆっさゆっさとお業の乳房が抽送の快美の旋律をなぞっている。躰が密着した  
ことで、女陰への責めは緩慢になる。しかし、それは次への波の仕込みになっていた。  
男の肉棒の衝き上げがいくら緩慢といえど、お業の乳房は砂を詰めた袰(ほろ)の  
揺れみたいにして振れていた。乳房の縁に触れて男は、お業のやわらかさと儚さを  
手ざわりで知る。  
 
鷲掴もうとする熱情がふつふつと湧きあがる。下から手に抱えるようにして包み、尖る  
乳首を指で挟み、じんわりと搾った。あふれんばかりの白い乳房、男は見ていなくても  
実感する。乳房をやさしく抱えるように揉みしだくことで、男の中の残忍な性愛のかさねは、  
お業の膣内(なか)で肉棒が代わりに烈しく痙攣して掻き廻していた。  
 
「いっ、いゃああっ!あううっ!はあ、あぁああ……!」  
  髪を鷲掴みにされ腕に巻かれて貌を晒された、お業に赫い唇にほつれ毛が絡む。  
その幾つかはふうっと息により舞ってはいたが、大きく口を開けても息継ぎで、ほつれ毛を  
吐き出すどころか吸って呼び込んでしまっていた。  
「罰してぇ……」  
 乳房を揉みしだく男の手が強張る。男は驚いて、お業の貌を見た。歔くお業ではなかった。  
正に罪を詫びて泣くおんな貌。罪人を厳しく詮議しているような妖しい蠱惑に取り憑かれそうになる。  
愛しいおんなに、責めてみたいという願望、性愛の魔道に男がゆらいだ。  
 
「お業を……わたしが罰しなければ……ならないと?」  
 その先になにがあるのだろうと思った。罰してとお業が言った時は、戯れのひとつかとも感じたが、  
そうでないことがわかった。その裏で、お業を可愛いとも。  
「はっ、はい……。そっ、そうにござります」  
「じゃあ、罰すれば、お業の気が済むのですね」  
 裏か表か、男の中でないまぜになって、責めたいという気持ちが突き抜ける。  
 
「おっ、おねがいッ!」  
 切羽詰った声音が男を射抜いていた。  
「では、お業。両手を土へ」  
「土へ……?」  
「はやく!」  
「は、はい」  
 いつにない語気に、お業はビクンとする。樹に左手を付いて、右手を下ろす。交接したままでは  
指頭しか砂地に触れなかった。  
 
「さあ、はやく」  
 やさしい低声にもどっていたが、男はズッ、ズッと子壺を突いて、お業を歔かせていた。  
お業は樹から手を、指が離れそうになった時、肉棒の衝き上げに前のめりになりそうで  
慌てて左指を付く。不安定な自由の効かない体位に、躰が快美の嵐に呑まれそうだった。  
「脚も折ってはいけないからね。このままで逝こう」  
「んっ、んああっ、あうっ」  
 
 小さく何度も頭を縦に振る。お業の頭が小さく刻むように揺れ、男にはそれで  
十分だった。  
「髪は下ろすから、赦してくれ」  
 お業が頷くのを確認してから、腕に巻いた髪を手早く解いて右肩から流した。お業は  
首を折って抽送に備えた。躰を指だけで支え脚は膝をやや折り、これぐらいなら赦して  
貰えるだろうかと爪先立ちになって、脚を張って膣内に男を受容しようとする。  
 
  男はお業から躰をゆるりと起し、丸くなった背、脾腹に浮ぶ肋骨、乱れに淫れた髪の  
眺めに射精感が込み上げる。  
ひと息大きくついて尻の大殿筋に力を込めて、ゆっくりと尻を突き出してゆく。お業の  
垂れた長い髪が再び砂をザッ、ザッと掃き始めた。子宮を男によって小突かれて、お業は  
はばかりのない閨声を上げていた。  
 
 されども男は、傘を拡げ鈴口から子種をしぶかせはしなかった。気を遣ったのは、  
女ひとりだけ。  
 それでも死にたくないと、ぐらつく躰を顫える四肢で必死に支え堪えている業。  
だが、心の中では衝き上げられる度に、ゆるして、ゆるしてと息も絶え絶えに連呼  
していた、おんなの業。  
 
 地に堕ちそうな躰を男の手が腰を掴んで引き揚げる。躰がたまらなく重い。それでも  
心地よくてしかたがないと思った。  
「あっ、ああ……。いやぁあああッ!抜かないでぇぇぇ!」  
 お業は男が肉棒を女陰から抜去するしぐさを察知して心底慌てた。四肢で躰を  
支えている為にすることといえば菊座を窄めて、肉茎に縋るだけだった。量感はたっぷりと  
あって逞しい過ぎるほどなのに、あれほど逸物を締め付けたのに逝ってくれなかった男を怨んだ。  
 
「罰して欲しいと望んだのは、お業ですよ。しばらくそのままでいてください」  
「まっ、待って……。どこへ?どこに!おいていかないでぇ!」  
 なれば、態をほとき、縋ればいいだけなのに出来ない業。去る男を首折って拡げた両脚の  
あわいから見た。恥毛はそそけ蜜が朝露のように附着して、内腿も濡れていた。こんなにも  
感じていたという証に、今更ながら自分がおんなであったことの悦びを知る。  
 
「行かないでぇ!」  
「前を向いていなさい」  
 やさしい、いつもの声音だったが、何かがちがう。  
「えっ?」  
「羞かしくはないのですか」 「……」  
 頭を下げて股間の下に男を見ていたということもあったろうが、一気に貌に血が  
流れ込んできた。  
 
(あなたさまが……あなたが……あなたが、業をこうしたのに……あまりにも……ひどい)  
 「罰して」と言ったのは、お業。ふっと嫌になったかと思えば、おんなである己のことに  
また悦びを知る。はやく戻って来てと、ねがいながら、大きく息を吸い込んで瞼を閉じて  
樹のほうに顔を向けた。  
 どれぐらい待ったのだろう。短いようで、とてつもなく長いようでもある。天上の時に  
流されたような、でもそれは渇望だっただけにたまらない。焦がれる想いで口腔に  
溜まった唾液を、お業はコクリと喉を鳴らして嚥下した。荒い息と下腹の波うつうねりを  
どうすることもできないでもてあましていた。  
 
 その気持ちはやがて躰に、お業はガクガクと顫え、ヒュンと空を切る音が聞こえた。  
男はお業の双臀を鞭打ちする為の手頃な枝を探して見つけてきたのだった。  
「ひい――ッ!」  
 お業の一声を無視して、ピシッ、ピシッ!と小気味よく尻の柔肉を打ち据える音に  
空を切るピュッ!という音が切れ目なく続いた。  
「いっ、痛いっ、あっ、あ……あんまり……」  
「罰してと言ったのは、誰だい?」  
 男は尻打ちを止める。  
 
「はっ、はあ……。わ、わたくし……ああ……」  
「そうだね。お業だよ」  
 差し出された豊臀という生贄に、そこに描かれた無残な朱の刀疵のようなかさねに、  
逸物は痛いほどに膨らむ。血が流れ込む度に、ドクン、ドクンと波打って滾った。  
鈴口からは雫が滴って、張って煌めく錆朱の瘤に艶を加える。  
「は、はい……。お業が申しました。主さま」  
「さあ、なんとおねがいするんだったのかな?」  
「わ、わたくしを……」  
 ピュッと空を切る音がした。  
 
「ひっ」  
 枝の鞭はただ空を切っただけだったが、お業の四肢はガクガクと顫えた。  
「お、お業を……この、お業を……どうか罰してくださいまし……ああ……」  
「よく言えた。褒めてあげるよ」  
 男は赧く染まる尻をやさしく撫で廻した。  
「うっ」  
「気持ちいいかい?」  
 
「は、はい……と、とても」  
 臀部はただひりつくばかり。でも赫い華は男を欲して歔いている。すると男の手が女陰  
全体を包み込むようにあてて来た。  
「ああっ!」  
 男の手のぬくもりにおんなが顫え、何かが込み上げてくる予兆があった。核を中指の  
頭が捏ね、滑って唇の狭間の孔を掠めたとき、お業は尻をぶるんと震えさせていた。  
 
「つづきをしょう」  
「お、おねがいいたします」  
 ヒュンと枝が空を切って、お業の豊満な尻をビシッ!と打ち据えた。  
「んっ、ん、うっ!」  
「それっ!」  
「あっ、あ、はっ!」  
「気持ちいいか!」  
 
「は、はい……。あっ、痛い。あっ、いたッ……んっ、んんっ」  
 お業は痛みを口にしてはいたが、やがて下唇を強く噛んで堪え始めた。砂の下には  
ふたりで脱ぎ散らかした衣があった。お業の裸身はどんな物にも、景色にすら  
馴染まない。馴染むとすれば男との交媾で蛇のようにのたうつ白に溶け合う刻。  
そのお業の蒼白の尻に鮮やかな朱が幾重にも印されてゆく。  
 
 お業は痛みに貌を振り、快美感に歔く。不安定な体位が、自分の罪が、降りてくる羞恥が  
痛みとなるのだろうか。神といえど、ただのおんなだった。妖気を孕んだ鞭のように  
尻は枝を感じて、女陰をしとどに濡らして男とひとつになりたいと女体がまた啜り歔く。  
 男の手首が捻られ、肉棒を欲した女陰に打ち据えられた。お業の柳眉が吊り上がったが、  
唇を強く噛んで声を上げようとはしない。それが男を狂わせた。罪の仕打ちに女も狂う。  
三回、四回……七回!と声を張り上げ始めた、お業の女陰(ほと)を打ち、男の逸物は  
逞しくなって剛毛を越え天上を突いている……。  
 
「ひぃいいッ!ああッ!あ、あッ!」  
 つぶらな秘孔がひくつき拡がると、シャアアッ!と透明な湯張りが堰を切って迸って  
砂地をビタビタと叩いて窪みをつくる。男は枝を投げて膝をガクッと折って祈るように  
地に付くと、お業の顫える両太腿を崩れないように押え付け、湯張りを迸らせている  
女陰に口吻た。  
「あ、あっ、あうっ、ううぁぁぁッ!」  
お業は男のしたことに悲鳴を上げた。天界の掟に赦されることの無い、背徳の  
男女(おめ)の契りに端を発し、男と女の性愛の魔道に痺れる。烈しい眩暈が襲って来た。  
 
 お業は尻を振って抗おうとはしたが、がっしりと男に両太腿を抱えられ、喉を  
ゴクゴクと鳴らす音が聞こえてくるようで歓喜に咽んだ。突っ張った腕が折れそうなのに、  
お業の意思がそれを拒んでいた。気が消え入りそうなくらいに羞かしい。お業は指が、  
爪先が、総身を顫わして歔いた。お業は男が湯張りを、喉を鳴らして飲む様、飛び散って  
あふれて頤を濡らす様を見た気がした。  
 
男は太腿を抱えながら口を離し、手で水流を弄び、自分の下腹に誘う。湯張りを  
屹立が浴びて跳ね、いま一度、本流を砂地へと戻すと陽光に煌めき、奔流はおんなの  
淫絵図の弧を描ききってしまい、弱くなっていった。  
男は女陰に貌を戻して、舌先でつぶらな秘孔を責めた。すべてを出し切れと  
催促されているようで、気が遠のく。  
 
お業の芳香に、男は挿入してもいないのに子種を出してしまいそうになる。疲れた躰を  
樹に背をもたれかけさせ尻を砂地に落とす、お業。膝を立て、両太腿を拡げ爛れた女陰を  
お業は男に向って開いていた。仔猫が皿から乳を舐めるようにピチャピチャと音を奏でている。  
お業は頤を上げて赫い唇を開いて熱い息を洩らす。細い首筋には鎖骨に繋がる胸鎖筋が  
ふたつ綺麗に浮出ている。小鼻の孔が淫らに開く。眉間には縦皺がしっかりと刻まれていた。  
(ああ……。尻がひりついて、針で責められているみたい……)  
 
 お業は脚をゆるりと揺すり出し、男の貌を挟み込みはするが、快美感にまた華を咲かせる。  
妖しいまでに、おんなの赫い華、お業の匂い立つような赫き唇からは、透き通るような白い前歯を  
雫のようにこぼした。ピチャピチャと唾液で淫らな音を立てているのは、お業だった。貌があつい、  
躰も、そして女陰が別個の生き物になって蠢いていた。  
豊な乳房を快美感に喘ぎながら時折、樹から背を浮かせて胸を張って弓なりになる。  
肩も上下して鎖骨の窪みが深くなっていた。もうすこし、もうすこしだけ耐えようと、  
汗に纏わりついたほつれ毛を頬から払うように貌を左右に振る。  
 
それでもまだ、両腕は伸ばされたままで、その両手は豊臀によって組み敷かれている。  
ひりつく尻を庇っていた。  
先刻は四つん這いになった躰を、男の腕が抱きかかえ、背を樹に押し付けられた。  
仰け反って晒した首を口火に、男は上唇を擦り付けるように掛けて、乳房の谷を越え、  
臍の窪みも通り過ぎ下腹一点をめざして滑り、そして責められた。  
 
お業は跪いて女陰を貪る愛しい男の頭に両手を置いて、髪を掻き毟った。男はお業を  
仰ぐと、豊乳が両腕に挟まれてひしゃげた悶えるおんな艶絵図を見つけ、肉棒を  
ビクンビクンと烈しく痙攣させる。  
その昂揚がそのまま女陰の責めへと向った。男の責めについに、耐えられなく脚を  
顫わせ擦り堕ちてゆく。白い背は擦られて赧くなって。雫の術は使いたくなかった。  
痛みが悦楽へと、お業の躰の中で人知れず発酵してゆくのだから。  
 
 躰は喘ぎ切っていても、意識のお業は自分の股間で揺れる男の黒髪をぼんやりと  
見ていた。あのまま樹を抱かせてくれて、男根で突き立ててくれればよかったのに  
と思いながら。  
背を樹に付けたままで、太腿を抱かれて突いて欲しかった。後ろからなら、ひりつく  
尻を抱えられて、突かれて衝かれて、そのままお洩らしをしていたかもしれないのにと、  
お業は瞳に艶を湛えて。  
 
 気を失ってしまったことを悔いて唇をいつものように噛もうとしても、気力が湧かない。  
天上で眠りにつくような気分なのだ。だらしなく惚けた瞳と唇を力なく開き、唾液で頤を  
濡らして乳房の谷間に滴った。  
 もう、湯張りは清められてしまって味覚は感じないのだろうかと、お業は馬鹿なことを  
暫らく考えていた。たぶん、今は男の肉棒を欲するおんな蜜だけなのねと、尻の下の  
手を抜いて拡げた内腿に添える。  
 
 外側から腕を廻してお業のむっちりとした太腿を抱きかかえている男の手の甲に  
覆い被さった。無心に女陰を貪っていた男が、やさしく被さる、お業の手を感じてか、  
手を返し指を絡めようとする。そのふれあいが、お業にはたまらなく嬉しかった。  
態勢から無理に強く握らない、絡めあうだけの指の情交だった。  
 それから男の黒髪に、お業は手を置いた。爛れる女陰に男の唇を引き込むようにして  
前に引き摺り、撫で廻して指を髪に絡める。自分だけの悦楽から、男の耳朶にも触れて  
みる。そう、己の女陰を慰めるようにして。これも自分の為なのかと、女陰から蜜が  
あふれた。  
 
 耳を外から内へ指をそっとなぞって、親指と人差し指で耳の尖りを捏ねる。男の舌が、  
お業の核(さね)を舌先でそっと突く。足の指が内側に曲げられて、土踏まずに皺を  
つくっていた。  
「あぁ……、あ、はあ……」  
 濡れた切ない吐息が股間に蠢く男の頭に降り注いだ。  
 
「あ……。あなたさまは……わかっておられない」  
 お業の投げやりではなかったが、気だるい間延びしたよう声が男に掛けられた。男は  
蜜にべっとりと濡れた唇を晒し、その貌でお業を仰ぐ。  
「わかっているつもりです」  
 お業の指が男の唇をそっと這う。そして返し、手の甲で唇についた愛液を拭ってやる。  
「あなたさまは、天上人を愛したのですよ」  
 哀しい瞳。ただ、不安なだけならいいのだけれどと、それでもこのことは男に言わない  
わけにはいかなかった。  
 
「別れたいのですか!お業はわたしをうとましく思って……」  
 めずらしく声を荒げて、おんな心がゆれて遮った。  
「いいえ。別れたいなどとは思ってはいません」  
「本心ですか?」  
「はい。誓って偽ざる気持ちです」  
「でしたら、もういいではないですか。もう、よしましょう」  
「よくないのです。このままで済むと思うてはなりません。必ずや神々の刻の報復、  
火の粉が降り掛かるはずです」  
 
「刻の報復?」  
「わたしは天界に逆らったおんなです。天界の時は永劫の流れのなかに。きっとその  
報復があるでしょう」  
「火の粉ではすまないのですね」   
「……」   
 お業にはそれ以上、なにも答えられなかった。永劫の刻の、その神々の思慮、推し量ることは難しい。  
「たぶん、頭では判っているつもりでも、最期になってみなければ、それはわからないのでしょうね」  
 
 男の言葉だった。それは等しく、お業の気持ちでもあった。男は躰を起して、唇でお業の雫を吸う。  
「あなたを離すつもりはありませんから。ひとりで還られたなら、一生お恨みしますからね」  
「最期まで傍にいさせて。お傍にいさせてください」  
 開いた赫い唇に男の唇がやさしく被さる。蕩けるような感じがした。男の唇がこんなにもやわらかく、  
ぷりっとしているものなのかと、柳眉が切なく寄る。男の唇がゆっくりと離れた。自分の唇が弾力で  
元に戻り、離れる刹那に女陰が蜜で濡れる。  
 
「潮の味がしませなんだか?」  
 お業は唇に流れついた雫とばかり思っていたが、先刻の湯張りのことを浮かべ貌に朱を刷いた。  
「ばか……。いじわるなのですね」   
「ばかですか」  
 いくらかの間があったかもしれない。気まずいことなどなかった。むしろ、心地いいものと  
ふたりは感じ合っていた。  
 
「ゆるしてくださいね」  
 お業が先に口を開き、男は力強く心に届けと祈りを込めて言葉を発した。   
「お業、あなたを孕ませてみたい」  
 男は今の偽ざる気持ちを、お業へとぶつけた。それは、あまりにもあけすけな言葉なれど、  
お業の心に響いて何かを決めさせる。これからの道が静かに重なり合う。  
 
「そういうふうには言わないで……」  
 男の背を、肩甲骨を、肩を撫でていた手が頭を掻き抱いて、お業はもたれた背を樹から外し、  
脱いだ衣の上に裸身を横たえる……。  
「あっ、あっ」   
 男根が、お業の肉襞を引き摺っては、絡みつき、そして掻き廻し、淫に蕩け合う。  
閉じた瞼を開き、天上を見る。何度と躰を重ね合って、取った仕草だった。  
   
 男の言葉だった。それは等しく、お業の気持ちでもあった。男は躰を起して、唇でお業の雫を吸う。  
「あなたを離すつもりはありませんから。ひとりで還られたなら、一生お恨みしますからね」  
「最期まで傍にいさせて。お傍にいさせてください」  
 開いた赫い唇に男の唇がやさしく被さる。蕩けるような感じがした。男の唇がこんなにもやわらかく、  
ぷりっとしているものなのかと、柳眉が切なく寄る。男の唇がゆっくりと離れた。自分の唇が弾力で  
元に戻り、離れる刹那に女陰が蜜で濡れる。  
 
「潮の味がしませなんだか?」  
 お業は唇に流れついた雫とばかり思っていたが、先刻の湯張りのことを浮かべ貌に朱を刷いた。  
「ばか……。いじわるなのですね」   
「ばかですか」  
 いくらかの間があったかもしれない。気まずいことなどなかった。むしろ、心地いいものと  
ふたりは感じ合っていた。  
 
「ゆるしてくださいね」  
 お業が先に口を開き、男は力強く心に届けと祈りを込めて言葉を発した。   
「お業、あなたを孕ませてみたい」  
 男は今の偽ざる気持ちを、お業へとぶつけた。それは、あまりにもあけすけな言葉なれど、  
お業の心に響いて何かを決めさせる。これからの道が静かに重なり合う。  
 
「そういうふうには言わないで……」  
 男の背を、肩甲骨を、肩を撫でていた手が頭を掻き抱いて、お業はもたれた背を樹から外し、  
脱いだ衣の上に裸身を横たえる……。  
「あっ、あっ」   
 男根が、お業の肉襞を引き摺っては、絡みつき、そして掻き廻し、淫に蕩け合う。  
閉じた瞼を開き、天上を見る。何度と躰を重ね合って、取った仕草だった。  
 
「わたしはお業を孕ませる」   
 男の低声が花芯に響いてきた。お業の中が歓びにあふれる。男は膣内に力強く突き入れた。  
「ああ……ッ!」  
 歓喜の声を上げて、お業から烈しい口吻を仕掛け、閉じた瞼の眦から雫が伝い耳朶を  
濡らす、お業の夢の記憶。しかし、お業は夢に生きることは赦されなかった。  
 
 
 捨丸は白い腰布だけを巻いた姿になって、白い女の裸体を肩に担ぎ湖へと進んでゆく。  
捨丸は浅黒い肌をしていて担がれたお業の白さを、それだけで蹂躙する。相翼院からは  
女官たちが出てきていて、討伐隊が連れてきた男へと群がった。  
捨丸は振り返り、その異様な光景をチラッと見た。帝が相翼院に遣した女たちも神々が  
憑依したものだった。男の衣を剥ぎ取り、浅瀬にぐったりとした躰を引き摺るようにして連れ込む。  
 
首を折って貌を逸らしている男の頤を掴んで、唇を掠める。ある者は、手に巻かれた血の  
滲んだ布を取り、ケタケタと笑い出す者もいる。また白い手が伸びてきて、傷口に水を  
掛けると、火傷の痕は跡形もなく消えていた。そして、傷口を洗った女は唇を寄せて舌で  
舐め廻し始める。男は腕を痙攣させて、低く唸ると笑っていた女がまた声を上げた。  
しかし、異様といえば担いだ、お業の白い躰と長い髪に附着した血。既に乾ききって  
いて朱は錆朱へと変っていた。捨丸は垂れるお業の乳房を引き千切るようにして鷲掴む。  
その乳房も血に塗られて無残さを晒す。  
 
「んんっ……」  
 起さない程度で手を離し、仰向けに湖水に躰を浮べさせ、沖へと泳ぐ。透明な湖水に  
血の雲が妖しく拡がっていったが、お業の肌は元の蒼白の彩りを取り戻していた。  
そして、湖水にでも癒されたのか左の肩甲骨の大きな傷は小さな引っ掻き疵のように  
なってしまっていた。  
 捨丸はお業の唇に口吻をして、右手で、お業の右太腿を掴み、流れに身を任せている  
為なのか、いまだ正気を取り戻せずに、なんなく脚を拡げられ浮遊し、指を女陰に遣わし、  
水の中でぱっくりと鮮やかな柔肉の華が咲かされる。  
 
「んあっ……」  
お業は赫い唇を薄く開いて低く呻きを洩らす。冷たい湖水に浮遊し、躰は男と情を  
交わした日々の悦楽に浸っていた。そして、先刻の武者凌辱の残滓を、お業の  
秘所を弄びながら捨丸は掻き出している。  
「おい、そろそろ起きねぇか。起きろってんだ」  
 お業は瞼をゆっくりと開いた。水に浮んだ乳房が哀しみに揺れ喘いでいた。夢は  
終わったと涙した。だが、夫の瞳は覚えていても、血を流して悶える様は消えていた。  
 
「おめぇの愛しい人は生きている」  
「だから……」  
「鈍い奴だ。これから、この捨丸がつがいで愉しませてもらうのさ」  
「そう……」  
「捨て鉢になるのもいいがな、帝室ごっこのガキは生きているんだろ」  
「……」  
「生きて逢いてぇだろうよ」  
 
 お業は星々の煌めく天上を見ていた眼を捨丸へと向けた。躰を委ねているわけでは  
ないらしいが、四肢を流れにまかせ漂う裸身、漆黒の闇の中では見えはしなかったが、  
捨丸にはしっかりと焼き付いていた。  
「月が雲に翳ってるのが惜しいよな」  
「あんたらにゃ、見つけられないさ」 お業は、また瞼を閉じた。  
 
「まあいい、好きにしな」  
「……」  
「ひとつ、言っておく。みぎわの松明の掲げられているところを見てみな」  
 お業は緊張で躰を強張らせる。もうぼんやりと橙色の火しか見えなかった。  
大分、沖に来ている。相翼院の本院をめざしていた。  
「手当てをしているとはいえねえなぁ、ありゃ。おめぇに嫉妬してるんじゃねえか?」  
「なっ、なにをしたあぁぁぁッ!あのひとになにを!」 
 お業の記憶に乱れが生じていた。   
 お業は神として、女として見ても男に色恋の勝負では負け、ぞっこんだったかもしれない。  
しかし、天女であるということ、そして掛かる災厄を告げたことで、お業は皮肉にも勝てたの  
かもしれなかった。お業は今、張り裂けそうな想いで男を失いたくないと心で叫んでいた。  
 
「そのツラだ!お業、待ってたぜ!」  
 お業は無理やり躰を曳きつけられた。  
「はっ、離せぇ!」  
 開いた口に湖水がなだれ込んでむせた。それでも、お業は拒絶の叫びを上げて抵抗するも、  
ただ捨丸の呼び水になっていただけだった。捨丸は腰布を解きに掛かり、肉柱をお業の  
腰に擦りつけながらギラッと闇の中で瞳を狂気で光らせながら、お業の頭を沈める。  
 
「どうだ!死ぬ気なら殺ってやっても、いいんだぜ!」  
 捨丸はお業の頭を押さえつけて、湖水に沈める。お業の手が捨丸の腕に絡みつき、  
掻き毟るが、それすらも嗜虐の愉しみに昇華してゆく。  
「かはっ、はあっ、あ……」  
「生きて逢いたいだろ、え?返事をしろッ!」  
 ザブン!と、お業はまた沈められた。捨丸も潜って太腿を抱え、剛直を突き立てた。  
暴れ叫ぼうとするが、声は気泡となって水面へと上がっていくだけ。しかし、お業には声  
を出す余裕など実際はなかったかもしれない。  
 
 捨丸の肉柱が挿って来る嫌悪、大江山の血の出来事の記憶が蘇り、それに関わる  
さまざまな感情がないまぜとなって明滅しては浮き上がり沈んでいった。そして剛直が  
秘孔へと刺さってくる。口から臓腑を吐き出しそうな量感が女陰を襲う。  
 お業は捨丸と水の中で躰を繋がったまま、腰布で逃げられないように縛られひとつにされる。  
そして脚を掲げられて交差した状態で脚も括られてしまった。お業は既に、その頃には  
気を失っていた。捨丸は頃合と見るや、水面を目指して手で掻き、足を蹴った。  
 
 お業は捨丸に抱きかかえられてはいたが、泳ぎに逆らうように頭を仰け反らせ、腕も  
しがみつくことなく浮遊に任せ切っていた。それが僅かばかりの残された抵抗だったの  
かもしれない。  
 水面に上がると、相翼院の本院への橋の傍に辿り着いていて、捨丸は朱色の梁に  
両手を掛け、お業の女芯を突き始めた。松明のゆらぎに、お業の貌が照らされぐらつく  
中で水をとろりと吐き出し息を吹き返すも捨丸の余興としかならない。  
 
 捨丸は橋の朱の梁を掴みながら、お業の躰を裂いていた。人の感覚と憑依した神威の力で  
天女を嬲る喜悦のなかにあった。意識を取り戻しつつあることにも、捨丸に拍車を掛けていた。  
おんなの都合を考えず、しゃにむに衝きあげる。お業は律動でぐらつく貌を横にして、  
呑み込んでいた水を吐瀉する。  
 捨丸の腰布でひとつに縛られている躰から後ろに脚を組まされて足首を縛られている。  
その細く長い、人とはかけ離れた綺麗な足の指が微かに動き、内側へとクィッと曲げられる。  
お業の躰と心を裂くことに捨丸は執心する。  
 
「思い出せ!おれが、おまえになにをしたか!起きろ!起きろ!」  
 漆黒の波が吹く風で立っていたが、邪念で操られているようでもあった。  
「裂け!ほれ、叫んでみろ!おまえを裂いた捨丸だ!そいつは、いまなにしてる!見ろ!」  
 嬲っても、穢しても、その神々しさを失わない、お業に捨丸は憎悪にも似た感情を  
ぶつける。お業の足の指がまたピクッと動いていた。女陰の疼痛に目覚めようとしていた。  
 
 裂く!捨丸はそう叫んで濡れていない、お業の躰を刺し貫く。あらかじめ凌辱の残滓を  
掻き出しておいたのも、そういった意図からでたものだった。  
 お業の躰が擦り落ち、顔が下がってゆく。捨丸は頤を引き、お業のゆれる美貌を  
見詰める。しかし、抽送の手は緩めはしなかった。お業の長い睫毛がふるふると顫える。  
閉じられた瞼の下の眼球もぴくぴくっと痙攣していた。  
 捨丸は顔を横にして肩に頬を付けそうになっていた、お業の躰を引き揚げる。その美貌は  
闇にあっても、相翼院への橋のかがり火にゆらゆらと照らされ、その白い肌が目に  
焼き付くのだった。  
 
「んんっ、うっ、う……」  
 浅黒い肌に捻じ伏せられ、白い柔肌は蹂躙されても闇夜を裂いていた。捨丸は黒く  
染めることの出来ない自分に苦笑しながらも、嬉しくなってくるのがわかった。  
「ほれ、ほれ、起きろ!起きて、闇夜を裂け!裂いてみろ!お業!」  
 捨丸は梁から右手を離し、水面に揺れるお業の右の乳房に顔をよせて唇に含んだ。  
 
 歯をキッと立て引っ張り出した。お業の乳房の肉が捨丸の口に引っ張られ吊り上がって、  
離される。次には乳首にむしゃぶりつき舌で嬲り、甘咬みの流れを繰り返した。律動も  
小刻みなものへと変化していた。  
「はっ、あっ、ああ……」  
「いい貌してるぜ、惚れ惚れする」  
 お業の中にさまざまな感情が一気に雪崩込んできた。水面が跳ね、お業の右手が躍った。  
人差し指が捨丸の左目を突いていた。捨丸は子壺を思いっきり衝きあげた。  
「あぁあああッ!」  
 ドスン!という衝撃が秘奥を突き抜け、躰が壊れそうな疼痛に、お業は仰け反る。捨丸の顔、  
左目からは鮮血がパパッと飛び散ったが、お業の手を跳ねて湖水を手で掬って顔に  
もっていくと見る見るうちに回復していた。もう、容赦はしなかつた。お業は捨丸の剛直の  
責めにのたうった。  
 
「その娘は?」  
「この娘は我が子。そして、わたしの地位を継ぐ者です」  
 夕子は手を引いていた少女の目線に降りると、腕に抱きかかえる。  
(正しいことをやりたければ偉くなれ)  
 そう教えてくれた男のことを太照天・夕子は想って声を発する。傍に控えていた、  
お風が瞼を開いていた。彼女の見えない瞳が開いて、その場にいた神々を恫喝し、  
それが誰の子かという詮索を遮る。  
 大江山で起った惨劇は忌み嫌われるもの。人に対しては同情の念を持たない神でも、  
お業にした行為に関しては捨て置きがたいものがあったにちがいない。天界には女もいた。  
平たく言えばそういうことなのだ。  
 
「われとともに来ぬか」  
「戯れでわたくしを誘うのですか?」  
「たわむれ……か」  
 
 男の貌は変らない、穏やかなものだった。  
「わたしには立場があります」  
「そうよの。ゆうはよくやっている。良きことを成し遂げたければ、極めよと言った  
わたしの言葉を実践したまでだ」  
 夕子の顔はおんなになって俯いていた。氷ノ皇子の冷たい手が伸びて  
太照天・夕子の頤を手に取って上げさせる。しかし夕子の瞳は伏していた。  
「わ、わたくしは……どうすれば……どうしたら、いいのです……」  
 
「望みを捨てるな。さすれば開かれる」  
 あなたを取り戻したいと願っていれば、いつしか叶うのですかと問うてみたくなる。  
「わたしはあなたを失わねばならないのですか」  
「お風が力になってくれる」  
「そういうことではないのに……」  
「そういうことなのだ。ゆうが手にした力は万人が手に出来るものではないのだよ。  
やっとの思いで手に入れたのだろう。後悔するな。そして思い出せ。乙女の頃になにを  
願い、なにをしょうとしたかったのかを」  
 
「あなたがいたから、強くなろうと思ったのに」  
「なれたではないか」  
「わたしは、もう昔の乙女ではないのですか」  
「すまぬな、ゆう」  
「わたくしがあなたさまの、慰めの場とはなりませぬか」  
 氷ノ皇子の笑みが近づいて、夕子は瞼をそっと閉じる。男の触れてくる唇の冷気が  
夕子には痛かった。夕子が天上を束ね兼ねていたといっても、その意味ではまだまだ  
大きな力があったといえる。だが、夕子はこの現状を憂いていた。支えだった氷ノ皇子は  
天界の闘争に嫌気がさして夕子を置いて出奔したのだった。それでも夕子は  
立ち止まることを赦されない身。この大江山の出来事を利用して次の手に打って出た。  
「この娘の名は昼子。我が子、昼子」  
 昼子と呼ばれた娘は、夕子の顔を見下ろしていた。  
 
「うむ」と、お業は低く唸って白目を剥いた。お業の乳房はドスッ、ドスッと打ち付けられる  
苦悶で烈しく上下する。乳首を嬲られて、官能を無理やりに引き摺りだそうとしていた  
捨丸の、お業への恥戯は砕け散っていた。  
 お業の切れ長の瞳が白目を剥いたまま、数回まばたいた。柳眉がより吊りあがって、  
眉間に深い縦皺を刻み、また低声で喚く。お業の投げ出して揺れていた手が捨丸の  
首へと絡まって、逞しい背を撫で始める。  
 
 お業の貌は仰け反ったままで、薄い唇を開いて唾液を垂らしている。捨丸はお業を見て  
梁を掴んでいた手を強張らせ、湖水から繋がった躰を引き揚げ、土ぐものようにして橋を  
上がってゆく。欄干にまで上がったところで、白目を剥いていた、お業の橙黄色の瞳が  
戻って、ぐらつく頭を上げて微笑み捨丸の肩に貌を埋め、背に爪を立てながら首筋に歯を  
あてた。  
 捨丸は笑っていた。生温かい捨丸の血が乳房をひしゃげさせている隙間へとたらりと  
流れ込み、お業の肌をふたたび血で穢す。捨丸は欄干を跨いで橋の上に立った。  
 お業の腰のくびれに巻かれている捨丸の腰布も血に塗られていく。捨丸は摺り落ちる、  
お業の臀部を左手で支え、ぐぐっと躰に引き寄せる。お業は苦悶に貌を歪めて、  
咬む力が弛緩する。  
 
「どうした、お業?もっと咬んで、噛み千切って俺の肉を喰らえ!」  
 お業の口から完全に力が抜けてしまっていた。  
「なぜ、やめる、お業。憎くはないのか」  
 捨丸の右手が、お業の血に濡れた唇を晒す。髪を掴んで鬼女となっている、お業の貌を  
かがり火に晒した。お業は血を呑んでむせ返り、息継ぎを小さくした。  
「はあっ、はっ、はっ……」  
 捨丸の胸板に押し付けられていた豊な乳房があふれるように躍り出て、白から赧く  
染まってゆく。血に濡れた乳房を絞りたいという、総身の血が逆流しそうなまでの衝動を  
捻じ伏せ、捨丸はほっそりとした尖った頤に付いた血を舐め、口腔に舌を挿れる。  
お業に咬んでみろと挑発した。  
 
 みぎわでは、お業の夫を女たちが群がって淫楽に浸っていた。女官たちに憑依した神々と  
浮世に弄ばれ続けたおんなの想いが溶け合って嬲っていた。  
「ううっ……」  
「おや、意識を取り戻しそう」  
 ひとりの女が男の左肩を掴んで引き起こし腕を縛ろうとする。  
「縛れるかい?」  
 男には左手が無かった。言われた女はケタケタと笑い出す。それでも、無理やりに腕を引き付けて  
ぐるぐる巻きに縛った。そして、男の逸物をしやぶろうとしている女もいた。腿に両手を強張らせ、  
指を拡げて爪を立て内腿に潜って付根に向って引っ掻いていく。  
 
「ああっ」  
「ほら、お口がお留守だよ」  
 別の女が男の貌を跨ぐと、膝立ちになって濡れそぼる女陰で呻いた男の口を塞ぐ。  
「噛み切ったりしたら承知しないからね」  
 男の躰から力が抜けていった。  
「お業のことを思い出したかい。だったら舌をうごかしな。ほら、さっさとおしよ!」  
 男の貌に女はぐりぐりと股間を擦り付け、髪を振り乱して己の乳房を揉みしだきながら、  
首を捻って肉茎をしゃぶっている女に向って言葉を吐く。  
 
「噛み切るんじゃないよ、タコ」  
 おいしそうにしゃぶっていた女はむっとして股間の縫工筋に親指の爪を立てて掻き斬る  
ように押し込んだ。  
「んんっ」  
「こら、噛んでもしたらどうすんだよ、お墨!」  
 ふんという貌をして、女は肉茎を赫い唇から吐き出し、指を絡め秘孔にあてがって、  
ズッと呑み込んだ。  
「あんたの膣内は気持ちいいとさ」  
 肉柱を躰に沈めた女は、女陰を男の口に擦り付けている女の肩にすがる。  
 
お墨は臀部を左右に揺すって、後ろに立つ女を誘った。その女の躰付きは華奢で交媾を  
連想させるものからは、遥かに遠いところにいた、おぼこかと見まがうほどに愛らしい。  
その女に黒髪をおかっぱにした、清楚な黒い衣を着た女の影がぶれる。女は大きな瞳をし、  
黄金色に妖しく輝かせ右手には鬼の角より作られし、朱に塗られた相対張形の淫具を  
握っていた。  
 
 廻りを囲むのもおんな。それらが掲げる松明に照らされ、張形は血のようにぬめって  
いた。お墨は早く来いと、尻を上下させてから、もういちど左右に振ると下の男が呻いた。  
肉柱を模した淫具から垂れるのは無垢の白い紐。女は小振りな尻をやや落として細い  
拡げると、頤を引き己の細い指で露に濡れる華を開き、秘孔に尖端を埋め込んで両紐を  
のくびれに手早く巻いた。下から最後の紐が尻をくぐって腰の結び目に、しっかりと留め  
られる。そして、肌に無垢の白を馴染ませ――「んんっ、んはぁ……」――熱い吐息を  
洩らした。  
 
「紅子、はやく……愉しませて」  
「わかりました」  
「男の菊座はとっておくんだよ」  
お墨は紅子に尻を大げさに振って、男の口に女陰を擦り付けている、お涼の撫で肩に  
赫い爪を立てる。  
「はい、そのように」  
 
前にいた、お涼には膝立ちになった摩利が炎の肌を凍える肌に蕩けさせ、乳房と唇を  
重ね合っていた。お涼にはわかっていた。時期にお墨の爪が鋭く食い込み、背を掻き毟って  
悶えること――それが、お涼の愉悦。  
お墨の唇が、お涼の首筋を這い、紅子の咥えた朱色の張形がひくつく、お墨の紫苑の  
窄まりを押し拡げていった。首筋に絡まる赫い唇が咲いて――「あぁああ……」――お涼の  
氷の素肌に蕩け切った閨声が降り注いぐ。肩に刺さる赫い爪がぐぐっと、お涼の背に廻され、  
魔利を愛撫して蠢く肩甲骨の薄肉を掻き毟っていた。  
 
「昼子……?」  
 少女はそう呼ばれて不思議そうな貌をしていた。  
「わたしはイツ花」  
「人へと流れる花」  
 夕子は抱いた少女を見上げると、その娘はふるふると顔を左右に動かす。  
「わたしは、桔梗の五つ花弁の逸花なの」  
 イツ花はそう言ってから、自分を抱いている女性が桔梗の花の色と同じに、青紫の衣を  
纏っていることが印象付けられ、繋がりめいたものを感じていた。  
「蟻の火吹きのことかい?」  
「火吹き……?」  
「蟻が咬むと赤く変るからよ」 
「花が赤く変るの?」  
 イツ花の躰に、さむけが駆け抜けた。躰から血がドクドクと流れて力が抜けていく。  
 
「母さま……。母さまあぁああ……」  
 イツ花は太照天・夕子に抱かれながら哀しい声で呼び、あたりをせわしなく見廻す。いつもの  
付き人の顔とは違う人外の者までもいた。少女は急に心細くなっていった。その怯えた風のイツ花の  
手を夕子の手がやさしく包み込んだ。  
「わたしが、そなたの母となりましょう」  
「あなた……さまが、わたしの母さまですか?」  
 
「落花した花、いまいちど咲かせて、現世を照らしておくれ。白い華、淡い紅色でもいいから…  
…いまいちど、咲いて」  
「あなたさまでしたのね。花に語りかけると、いつもいつも答えてくれていたのは……」  
「咲いて散るだけが花ではないのです。いのちは紡がれるもの。昼子、あなたの華を咲かせて。  
わたくしに見せてちょうだい、おねがいだから」  
「……」  
「昼子、自分の華をいまいちど咲かせなさい。どんな小さな望みでもいい。自分にとっての  
大きな糧となるのなら、わたくしがその力となりましょう」  
 夕子は座の者たちにはっきりと聞こえるように、昼子に言って含み、少女は天上の逸花となる。  
 
「黄川人は……、夕子さま?キツトはどこに……」  
 イツ花があたりを見廻せども、弟の姿は見当たらない。  
「お業が守っているようです」  
 夕子の貌が曇りだすと傍に控えていた、お風も瞼をそっと閉じていた。  
「どうして、どうしていっしょに助けてくださらなかったの!」  
 
「これ、イツ花。おいたが過ぎるぞ」  
 お風のきゅっと噤んでいた、鴇色の唇が開く。夕暮れの朱に染まった野原が錆色に  
イツ花の中で変化していった。陽がみるみる落ちて、躰から精気がこぼれるように  
流れていくのがどうしょうもなかった恐怖と後悔。自分があまりにも非力であることを呪った。  
 絶えず書物の中で力とはなんなのかと自問していたのに、いざその場面に直面してみて、  
なにも守ることの出来ない力だったことをイツ花は知る瞳の色。  
「お風……」  
 夕子がやんわりと、お風を咎める。イツ花は夕子の腕に抱かれながらおとなしくなって  
うなだれ、ぎゅっと瞑った眦からは雫がこぼれた。  
 
「おきゃんなイツ花はどこに……強くなりたいのでしょう?」  
 イツ花はコクリと夕子に頷く。  
「いっしょに、黄川人をさがしましょう」  
 また、コクリと頷いて、震える躰からは嗚咽が洩れ始める。キツは桔梗のキツ。そして  
花開くの祈り。黄は黄色の花。川の流れに人の環に辿り着き、永久に魔物を払い人々に  
すこやかにと願った、お業の心根。それを踏みにじるのは誰。炎が生まれ少年の髪は  
からくれない色。  
 
「お風、あとは頼みましたよ」  
「かしこまりました。夕子さま」  
 事後の処置を早急にする必用があった。しかし、その件に夕子が関わらなかったのは  
黄川人の存在だった。第一級重要事項として望まねばならないことと考えていた。その  
意味では無残と思いながらも大江山のことは切り捨てていた。  
 

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