お輪の上の兄ふたりは妖魅との戦いでふたりとも命を落としている。  
「はい、父上」  
それゆえに、真の冬を知る寒い国からの新しい血をと、皆川の当主は遠縁の源太を呼び  
寄せていた。短命に駆けることなく、木に花を咲かせよと。  
「よい返事じゃ、源太」 (やすらへ……、源太)  
 その時、父は遠き瞳をして見ていたが、源太には気づくゆとりなどなかった。ましてや、  
その意味にも、まだ眠る五感は覚醒してはいなかった。  
 
「お輪、そこに隠れておるのだろう。来て、源太の手当てをしてやりなさい」  
「は、はい」  
 お輪が心配そうな貌を柱の陰から、おずおずと現した。源太の顔は困惑した相に変わっていた。  
それに気が付いて、気まずそうにお輪はしている。父は衣を着直していた。  
「なにを遠慮しておる。わしは、もうゆくからな」  
「お父さま……」  
「遠慮などいらん」  
 そう言い残して、笑いながら屋敷の中へと入っていく。お輪と源太との距離は縮まってはいなかった。  
くやしそうな源太を見るのは忍びない。かといって、手当てをしてやりたいという気持ちがはやる。  
お業の記憶……なのだろうかと、お輪は思った。  
 
「源太さま……」  
 源太はお輪に背を向けて、庭から去ろうとしていた。  
「近付くな。さすれば、お輪を嫌いになる」  
 皆川に着てから、なにかに取りつかれたかのように稽古に励んでいる源太を見ている。  
「お躰を痛めつけて、限界を超えようとしないで……」  
「お輪に……なにが分かる。わたしは、非力なんだ。ちからが欲しい。守る力が……もっと欲しいんだ」  
 吐いた言葉が突き刺さる。お輪は源太の背が顫えるのを見ていた。それは、危険な警告でもある。  
お輪も、お業の記憶に胸が痛んだ。すべての危険を孕んでいた。お輪の少女の唇がゆっくりと動いていた。  
「やすらへ、花よ」   
「お……りん」  
 
 お輪には、源太に言わなければならないことが、いまひとつあった。それは、源太の  
耐えうる自信となるもの。神と人とが交わって子を生すと、まれに、類稀な才能をもった  
子が生れるという。それもこれも過去からの連綿たる血の記憶の成せる技あってのこと。  
されど、このことを源太に言うことは多分、永遠に来ないだろうとお輪は思ってもいた。  
 源太の中の育っていた武人の心を絶つことになりかねない剣とみていた。お輪の心は曇る。  
しかし、源太は今、強い力が欲しいと切に願う。父に現在の自分を認めて欲しいというのが、  
戦う男の欲求に他ならない。非力であることが、どれほど辛いことかは、そこはかとなく  
心の奥底で知っていたから。源太はやさしい言葉を掛けてくれた、お輪を振り向くことなく  
小さな声で前世から愛していた女の名を呼んでいた。  
 
 それに、今振り向いてしまえば、涙があふれてしまいそうになる。されども、「ありがとう、お輪。  
でも……来ないで、待っていてくれないか。……すまない」と言って、衣に付いた砂を払って  
源太は去ろうとした。  
「源太さま……!」  
 お輪の声がうわずって、屋敷に向かう源太の歩みが止まっていた。  
「お慕いしております……」  
 風がやさしく、稽古で火照った源太の頬を撫でていた。  
「お輪に笑ってもらえるように、自分の技量を知って稽古に精進するよ。無茶をしないで」  
 源太は貌を向けて、お輪にそう答えていた。  
 
「源太さま……、ありがとうござります」  
 お輪の声も顫えている。何故、この戦いに人身御供のような役目で志願したのかが、  
その時わかったような気がした。武人の心を辱めてまで、声を掛けずにいられなかった  
自分に源太はありのままの貌を見せて答えてくれていた。妹、お業の犯した……過ちを  
正そうと自ら志願して輪廻したのは、定めの範疇だったのかと思わずにいられない。  
お業の時のように、ゆるりと愛を深めて、おなじ道を見て歳を重ねてみたい。好きな男の  
子供を宿して、ささやかな倖せを紡いで生きたい。それが……可能ならば……と。  
 
 
 
 数日前、天井を眺めながら、寝付けないでいたお輪に報せが届いた。  
「お輪。あなたに知らせがあります」  
 お輪は静けさのなかに忍んできた声に、高枕から頭を起そうとしていた。  
「夕子さま」  
 花の匂いだろうか、それとも香なのか。夕子のおだやかな香りが風に載せられて漂い始める。  
 
「そのままで結構です」  
 よくない報せなのだろうかと、お輪はすぐに思い至る。  
「でも……」  
「楽にして聞いていなさい。その方が、あなたのためでもあるのです」  
「それでは甘えさせていただきます、夕子さま」  
 お輪は躰を楽にして、開いていた瞼を、そっと閉じ合わせる。どのようなことを聞かされようとも、  
横になって聞いていればいくらか衝撃は和らぐという、夕子の心遣いに感謝した。  
 
「かねてよりの、魔封じの技を黄川人に仕掛けました」  
 夕子が言葉を発するまでの間が、魔とも言えなくもないくらいに恐ろしく、躰が緊張し手汗ばんでいた。  
「イツ花は……、いいえ、昼子さまは、ご無事でしょうか……?」  
 耐え切れずに、沈黙を破ったのはお輪のほうだった。闇の中で、灯火に照らされて、座する太照天・夕子の  
姿が朧に見えてくる。  
 
「わたしを守って、気丈にも闘ってくれました」「よかったぁ」  
 お輪の口から少女の声音で、母でもあるお業の気持ちが反射的にあふれるのだが……。  
「しかし、封印を仕掛けたことで、かえって黄川人の怒りを買ってしてしまったようです」  
 お輪は上体を起こそうとした。いくら、気づかいをしてくれていても、姿勢を正さねばと思った。  
「そのままで結構です」  
 切れ長の黄金色の瞳が、お輪をやさしく見ている。  
 
「しかし……、夕子さま」  
 だが、神々の感情はお業の仕出かしたことを、断罪し赦そうとはしなかった。  
それも、一時、赦したと見せかけておいて、ちがう動きをもってしてお業を貶めた。行き違いが  
あったにせよ、妹でもあり、半身のお業の記憶、肌に刻まれた痛みは忘れようとしても、  
忘れられるものではなかった。  
 あふれ出そうな、行き場のない烈しい感情、それ故に夕子に呼ばれるまで蟄居していた。  
お風と夕子に、そしてイツ花にお目通りを赦されるまで。  
「今回の顛末、魔封じを仕掛けた際に、黄川人は胸を裂いて内丹を放ち、内に巣食って  
いた鬼を解き放ちました。昼子が地上に落ちたのを見たそうです」と、事の仔細を  
聞かされる。神々が内と外から封印を掛けたことで、戦力のほとんどを失っていたことも。  
 
「それよりも……です。お輪」  
 怒りがお輪には内包されていることを誰よりも知っている。夕子の声が微かに震えていた。  
「なんでござりましょう」 「率直に申します」 「はい、夕子さま」  
「お輪の意志、かたじけなく思っています。ですが、お輪……」  
「我らに怨は……ないのでしょうか。真にありませんか?そのことが、気懸かりなのです」  
「心配ですか。わたしが夕子さまを裏切るとでもお思いでしょうか」  
「ちがうのです」  
 また、間が生じていた。お輪は一点だけを見つめていた。太照天の瞳。  
 
「いえ、確かに気懸かりとも言えるでしょう。されど、あなたは……、お輪は……苦しくはないのですか」  
「お業への悋気、わたしの中にあると思います。確かに、あるのです」   
「……そうですか」   
「神々への怨恨。無いと言えば嘘になりましょう。しかし、夕子さま。わたしは後戻りのできない  
環のなかに自分の意志で飛び込みました。それがどのような結果になろうとも、駆けて見せます」  
(夕子さま……わたしを癒してくれるのは……)  
 
「そうですか、わかりました。お輪、よろしく、おねがいいたします」  
「夕子さま……!」  
 お輪は起き上がって、頭を深く下げた。自分はそれほど、値打ちがあるのだろうかと思い、  
夕子が掛けてくれた言葉をお輪は噛み締める。希望には成り得ない理由がお輪にはあった。  
ほんとうにそんな時は来るのだろうかと、お輪は屋敷に向かう源太を見ながら、自分の中の  
女を彼の背に重ねていた。時は待ってはくれない。  
 
 お業の時とは違い、さらに複雑に絡み合った糸の中で生きねばならない二人だったから、  
源太はお輪にとって、お業以上の強い絆で結ばれていたという見方もできる。源太の気持ちが  
先走りをしていた。源太はお業を守り切れなかった、非力な人としての記憶を持っている。  
記憶は明瞭ではないにせよ、源太の確固たる行動原理となり、その疵を癒そうと稽古に励むあまり、  
剣に感情が籠り過ぎて、荒さが目立ち始めていた。  
「怒りの剣を振るうな。己を愛せ、源太」  
 決して、疵から解放されたいという思いに囚われず剣を磨けという父の諭し、お輪の言葉も  
源太は受け入れた。心の中は乱れて、哀しみと共に怒りが湧き起こらないでもない。  
だが、時はやさしくはない。  
 
 お輪はお業を裏切ったことになると迷いが生じていて、だからといって隙ができることだけは  
避けねばならなかった。天命としてではなく、源太を支えたいと心から思って。  
「やすらへ、花よ……」  
 お輪は瞳に涙を溜めて、太照天・夕子の去り際に賜った言葉を、青空を見上げてそっと呟いてみる。  
源太は己の非力という屈辱に塗れながらも、言葉を掛けてくれたお輪を振り返り、お輪の瞳に  
自分のあるべき姿を見た。お輪もまた天命として定められた役目だったとしても、振り向いてくれた  
源太のなかに女の夢を思い描いた。罪と知りつつも、時が凍えてしまえばいいとさえ思った。  
半身であるお業が、自分以上の烈しい悋気をもって挑んでくる様が見え、お輪は苦しんだ。  
 
「源太となら、怖くない。わたしは怖くない。怖くなどない」  
 自分に言い聞かせるように心に刻む言葉。お輪はお業が本気で報復に及び、源太を殺そうと  
臨んでくれば、刺し違える覚悟でもいた。ただ、源太がその時にどちらの生き方を、どちらの女を  
選んでくれるかがお輪には気懸かり。それが、この闘いの勝運を決することにもなりかねない  
大事。お輪は人の心の襞に、いまさらながらに惑う。  
 
『何故に、この闘いの鍵を人に委ねようとするのでしょうか……』  
 神でありながら、一時は卑しいと思った、妹の男への恋情。お業の気持ちが徐々に伝播するのが  
正直辛かった。蟄居して隠れたとて、そうそう遮断できるものではなく、半身である以上、お業の  
経験は常にお輪に幻視として絶えずもたらせられていた。  
 お業を禁忌を犯した痴れ者として罵り、女の悋気を打ち消すのに疲労するもお輪の二人で一つ。  
お業の心の贈物を通じて、打ち消す自分がいて、二人の日々の重ねにやすらいでいる自分もいた。  
 
『源太とお輪はなによりも、祖に近しいのです。その血を濃くすれば邪心を絶つことができましょう。  
それが、我らが策』 『邪にございますか……』 『さよう、邪心ぞ、お輪』  
 そんなさもしい自分に気が付いてしまい、また涙があふれ出てしまう。志願した気持ちが  
揺らぐわけではなかったが、その意味合いが根底から崩れてしまいそうな気がする。  
『禁忌を犯したのは、我が妹。その責めはわたしにもあります。しかし、それではあまりにも、  
あまりにも……辛ろうござりまする』  
 
『伏して頼む、お輪。転生したお業の夫、壬生川源太と契り、子を生してほしい』  
 神格上位の常夜見・お風がお輪に頭を下げていた。お輪はすぐににじり寄り、頭を上げる  
ようにと言う。しかし、その横で太照天・夕子は円座に鎮座したままで微動だにしない。  
お輪の肩が烈しく上下していた。  
『頼まれてくれるか、お輪』  
『ひ……、ひとつ、お願い申し上げたく存じます』  
 お輪は夕子のほうを見て言っていた。それを感じて、夕子の赫い唇がやっと動いた。  
 
『申してごらんなさい』   
『源太とわたしの間の子で、黄川人を滅した暁には、暁には』  
『ならん。そのようなことは、赦せようがない』   
『先ほどのお心とは思えませぬ、お風さま』  
 お風が先んじて言い放つが、お輪は言葉を続けた。  
『妹を、お業を赦してやってはいただけませんでしょうか!お願いにござります!なにとぞ、夕子さま!』  
 
『ならんと言うに、わからぬか』   
『でしたら……』  
『それも、まかりならん。お輪、らしくもない。見苦しいぞ』  
 なおもお風はお輪の嘆願を退けようとする。お輪はお風のほうに向き直る。  
『らしくないとは、いかがなことにございますか。わたしとお業でひとりの女にございます、お風さま』  
『お輪、そなたは……闘いに臨むのではないのか』  
 乱心しているのだというお風の言葉を夕子は手で遮った。  
『かまいません。赦すことにいたしましょう』   
 
『夕子さま』   
『お風、よいではないですか』  
『真で……ありましょうか』  
 出過ぎると思いつつも、訊かなければならない事情がお輪にはある。  
『お業を赦しましょう。そして、太照天・夕子の存念もあなたに隠さず話すことにいたしましょう』  
 なによりも怖いのは、すべての企てを知った時の源太の心。  
 
『しかし、夕子さま、それでは下々に示しがつきませぬ』  
 その……貌。お輪にはおそろしい。   
『感謝いたします、夕子さま』   
『過ぎるぞ、お輪』  
 話を収めてしまおうとするお輪に、苛立ったお風の膝上にあった、拳が床をドンと叩いてみせる。   
 
『しかし、それは真にござりますか、夕子さま!』  
 彼もまた、黄川人のように鬼となってしまうのだろうかと不安になる。  
『お輪!』  
『わたしは、夕子さまとお話をしているのです』  
 お業も鬼女となってしまうやも知れない。愛した花、人間へ殺戮の爪を  
下ろしかねない。  
 
『なんという奴よ』  
 お業を通しての大江山討伐の凄惨酸鼻を見てきたからこそ、お輪は夕子に訊かねば  
ならなかった。自分もお業のようになるというのなら、そう言い放ってほしい。それで、  
あきらめもつくし、子を抱くことで夢を見なくともすむ。子に名を付けず明日を託さずに。  
『夕子さま、お答えくださりませ!お業もあなたの言葉を一度は信じたのです!信じていたのです。  
女の倖せを夢見たのです……』  
 源太と契ってからの後々のことの確証を得たいわけではなかったが。お風がお輪の前に  
立ちはだかって見下ろす。しかし、夕子は動かない。お業に取り囲まれているとお輪は悟った。  
やさしい言葉が自分にもほしいのかと、お輪は思った。  
 
『くどい!』  
 闘いがすめば、子はきっと神々によって殺されてしまうだろう。そんな、予感がどうしてもする。  
『ど、どうか、お願いいたします、夕子さま』  
(わたしは、どうしてほしいのだ、お輪……、わたしは、何を欲している)   
 夕子に頭を下げる、お輪は千々に乱れて泣いていた。お業の源太を思う涙か、妹を思っての  
姉の涙だったのか。それともお輪の内から出る恋情か。いまだ生していない子の行く末を思う母の心か。   
『さがりゃあっ、お輪』  
『夕子さま!お願いに御座います。お答え下さりませ』   
 
 
 お輪は夢を見た。それで、寝付けないでいた。眼をひらいて思い出すのは、神々が  
黄川人へ闘いを挑む前の詮議のこと。常夜見の力が思うように発揮できない負い目に、  
苛立っているお風。黄川人との闘いが、今までの権力闘争とは甚だ格が違っていることに、  
思い詰めている夕子。  
『証拠がほしいのですね、お輪』  
 三者三様の悩みがそれぞれにあり、夕子のあかしという言葉にお風もまた心揺さぶられ、  
掛かる戦いに臨む決意を包み隠さずに、皆へ語ることの決心をさせた、あの日のこと。  
 
『は、はい、夕子さま……』  
(闘いに臨む為の……証がほしい。確約、依り代……。それは、わたしにとっては、  
源太の……源太のはずなのに、心の支柱をどこかで欲している。こわいから?)  
 すべてを知ってしまっても源太は、このわたしを抱き締めて、傍に置いてくれるのだろうかと  
お輪は頬を濡らす。妹の後釜に座って、迫る戦いの中でやすらいで、邪心を棲まわして  
いるのではと、責める迷いがあった。そして、子のゆくすえにも翳りが及ぶ。  
 
「わたしは……。ごめんなさい、お業……ゆるして」  
 これが運命だというのなら、無心になって力いっぱい駆けてみせようと心に誓ってみせる。  
花はいまだ蕾だというのに、悩み、怒り、落胆は咲かないままに愛すらも枯らしてしまいかねない。  
非情だが、隙とはそういうものだ。しかし、お輪は人としての良心に手を静かに合わせみる。  
そして、祈りを捧げる。  
 
「お業、誓います。源太もわたしも散華などいたしません。わたしは源太を信じて生きて生きて  
見せます。必ずや……そういたします」  
(何処までも駆けて行こう、源太といっしょに。さすれば、道は開けるだろうか。  
否、きっと開ける。ひらいて見せます、夕子さま)  
 お輪は贈られた花鎮めの言葉を黄川人の戦いに臨む前と後に、二度夕子の口から  
聞かされた。  
 
その言葉で、お輪はさだめを生きていけるだろうと、その想いをお業に伝え、和解の  
希望も手にしようとしていた。しかし、花鎮めの言葉が壬生川一族のすべてに掛かる  
言葉に、よもやなってしまっていたことを、お輪はいまだ知らず、夕子からの言葉を  
胸の中にしまいこんで、源太を追うようにして屋敷の中に入っていった。  
  お輪のみたゆめ……男が少女の手を取って掴まえると、少女の前に跪いてしまう。  
男の逞しい肩が少女の目線へと下りてくる。口にするのは、妻を守れなかった男の懺悔。  
少女の薄い胸に男の哀しみで衣を濡らし吐息が埋まる。  
(躰が熱い。きこえる、お業。灼ける……みたい)  
 惹きつけられる様にして、少女の細いしなやかな腕が、素直に男の首に絡み付いた。  
男の手が少女の華奢な躰に巻きついて、きつく抱き締められると、少女は濡れた顔を  
逞しい肩にそっと隠す。烈しい季節を力いっぱいに駆けて、いつしかゆるやかななかで  
深まってゆきたいと、明日を見据えることができるまでに少女はなっていた。  
 それをいつかは、自分の唇から男に伝えてみたいと少女は思う。だが、男との関係に  
おいて、その道のりがいつまで続くのか、少女は知らないでいた。お風は明日が  
見えないと言っていた。自分が男にしてやれる事は何なのだろうと、時の流れのなかで  
考えてみる。天上の星を仰いで、ゆっくりと考えてみると、子をあやすような不思議と  
母の気持ちになってやすらいでいた。  
 そう、ゆるりと二人でやすらいでゆきたい。源太と手をつないで、小径をゆっくりと、  
晴れた空の下を歩いてゆくみたいにして。少女はこれからも男から、たくさんの花束を  
もらって、感謝とともに笑顔で返してゆく。今はそれしかできないけれども、いつか  
きっと自分が女になった時に、源太に贈物をしようと、ひそかに夢を描いてみる。  
 だが、その夢はすでに黄川人の邪気によって少しずつ蝕まれ、取り囲まれて  
いたことをお輪は知らない。  
 
「物忌って、あんた……」  
 神々が魔封じの闘いに臨んだその夜、天上に駆け昇っていった光弾を見ていた  
者たちがいた。限られた者たちだけが、ふたつの光りを見ていた。  
「俺が居ない間は、家に籠って邪を払うんだ。いいな」  
「そ、そんなことしたら、変に思われちゃうよ」   
 
 

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