【一】
朱点によって、種絶の呪いと短命の呪いを掛けられた金色家。
神々は協議を重ねた結果、彼らに力を貸すことに相成った。
金色家の人間たちと交わり、子を残すことで彼らの力を強めてやるのである。
この話を聞き、私は若干の焦りを覚えた。
交わる。即ち、性交。
私は、これまでに女人と交わった経験は一度も無い。
聞けば、短命の呪いを掛けられた金色家の女達も殆ど性交の経験の無いまま此処に連れられるという。
女達を上手く抱いてやることが私に出来るのだろうか。不安である。
改めて金色家の遺された子供であった男と、お地母ノ木実と交わって出来たという少女の顔絵巻を見直した。
お地母ノ木実は気立ても良く、会合の際には何時も木の実を持ってきてくれる、愛らしい女神である。
彼女が件の当主と交わるところを考えるうちに、鼻が首をもたげてきた。
赤々とした鼻はぴんと立ち、先から雫が毀れかかる。
私は卑しい物事を考えると何時もこうだ。悪い癖である。
鼻を鎮めるため、私は鼻をそっと握り、扱き始めた。
【二】
天界の上層部から、通達が届く。
曰く三日後、金色家の弓使いである杏奈という少女が私の家にやってくるとのことだ。
ついにこの日が来てしまった。
取りあえず私は布団を干すことにした。
三日が経ち、杏奈がやってくる日となった。
布団の上に正座をして待っていると、襖が開いて少女が入ってくる。
深い緑の様な色の髪に、優しく儚げな瞳。どこか落ち着かない様子で私を見つめている。
「此方に来なさい」
私がそう言うと杏奈はびくりと身体を震わせ、恐る恐る私の目の前に正座した。
「ふ、ふつつかものですが…宜しくお願い致します」
深く頭を下げる彼女の髪をそっと撫でる。そして、顔を上げたところをそっと抱き寄せた。
「緊張せずとも、大丈夫だ。そなたは、初めてか?」
抱き寄せたその時、髪から桜の香がふわりと漂う。
こうも言っておきながら私の鼻は既に熱くたぎっている。彼女にこの熱さが伝わってしまってはいないだろうか。
「いいえ。」
ここまで緊張した様子でありながら、初めてではない。私の心は驚きに包まれた。
しかし初めてであるかどうかは関係ない。私は精一杯、杏奈に良い子を作って貰うべく尽力するのだ。
「そ、そうか。…我々が直接顔を合わせられる時間は少ない。だが、その少ない時間をも大切にしよう」
最早自分が何を言っているか半分判らないままの発言であった。
すると、杏奈は恥ずかしげに目を伏せ、そっと私に囁いたのである。
「初めてじゃないです。でも……優しく、してくださいね」
その言葉を皮切りに、私の鼻は最高潮に熱くなってしまった。
彼女を布団に押し倒すと、着物の合わせ目をはだけて胸をあらわにする。
「あ、嫌…っ」
杏奈はそう言って身じろぎするが、今の私にはその仕草も愛しい。
初めて触る女人の胸は柔らかく、舌を這わせると甘やかな味がした。
出来るだけ乱暴にしない様に気を使って触ったが、胸の先に付いた果実の部分はつい夢中になって歯を立ててしまった。
しかしその刺激は杏奈にとって快楽になったらしく、彼女は大きく身体を震わせて啼いた。
「はぁ、はぁ…っ…」
荒く息を吐き、目に大粒の涙を浮かべる杏奈。私が杏奈の顔に自分の顔を向けると、彼女は接吻を待つかのように目を閉じた。
私は接吻の為に唇を重ねようとすると、まず先に鼻が顔に当たってしまう。
その為、初めて接吻をする時には実践してみようと思っていた事を試してみることに致した。
「んんっっ!!!?」
「おぉ、此れは…」
即ち、鼻を口に挿入すること。女人は口唇への愛撫にも快楽を覚えるというし、きっと効果があると私は確信していたのである。
「んっ…んっっ、ゃぁっ…」
暫し顔を前後させ、口腔内を刺激してやる。杏奈の瞳から一筋の涙が毀れつつあるので、確かな快楽になっているらしい。
瞬間、私は右頬を張られてしまった。
「何するんですかっ!」
「い、否しかし…」
「いきなりこんな事するなんて、あんまりですっ!わ、私…」
先程以上に大粒の涙を零し続ける彼女を見て、私はこの遣り方が彼女を傷付けてしまう事に気付いた。
何度も謝罪の言葉を吐き、杏奈を抱き締めた。
暫く泣いていた杏奈も何とか平静を取り戻し、やがて私に問いかけてくる。
「あの…」
おずおずと私の目を見る杏奈に続きを促すと、彼女は言い辛そうに口を開く。
「そのお鼻で……私と、えっと………するんですか?」
「如何にも。この鼻でお相手つかまつる」
「…………」
黙り込んでしまった彼女に私は問いかけた。
「そなたが厭なら、止めても構わない。先程私はそなたを傷付けてしまったばかりだ」
「いいえっ!」
急に顔を上げた彼女に、今度は私が驚き、黙り込んでしまう。
「私はっ…金色家の使命を担って此処に来たんです。それに…岩鼻様は私に沢山良くしてくれました…。さっきのは、びっくりしただけなんです。だから…大丈夫です」
そう言って、杏奈は私の鼻をそっと持ち上げた。鼻の硬さが更に増してしまったが彼女は気にせずに顔を傾け、私の鼻の下に潜り込む。
柔らかい唇の感触が私の唇に当たる。
それが、私の初めての接吻になった。
長くも短くも取れる間の接吻を交わしたあと、彼女は自ら着物を脱いで布団に横たわった。
蕩けた女人の秘所が露わになる。つい恥ずかしさの余り、私は顔を背けてしまった。
杏奈の秘所は淡い桜色をしていて、これから私が鼻を挿入すべき部分から蜜が垂れている。私が其処に鼻を当てると、鼻の先の雫とその蜜が交じり合う感触がした。
「では、行くぞ…」
鼻を少しずつ入れて行くと、熱く柔らかい感触が私を包んだ。時折胎動の様な動きも起こり、私は即座に汁を放出してしまいそうになる。
そこを堪えて、私は鼻を杏奈の最奥まで挿入した。杏奈は顔を赤く染めて、手を口元に添えて息をしている。
「辛くは無いか?」
「はい…大丈夫…です……」
後は彼女の中で動き、子種の汁を送るのみである。私は夢中で顔を前後させた。
前後させる度に起こる鼻への締め付けの度、杏奈は獣の様に愛らしい啼き声を立てる。
最奥を刺激すると彼女の快楽になることが判った私は、時に小刻みに振動を送ってやった。
何度も何度も秘所の中を行き来する鼻が暴発の限界を超えようとしたとき、私は彼女に声を掛けた。
「おぉ…!行く…!行くぞ、杏奈…!」
「あぁっ…、あっ、あっあっあっ…!岩鼻さま…!きて、きてくださいっ…!」
杏奈の甘い啼き声を聴きながら、私は彼女の中に多量の汁を放出した。
白い子種が入った汁が確かに彼女の中で実を結ぶまで、私は何度も鼻を突き上げた。
そして何度かの振動の後、子供が宿ったことが判った私は鼻を秘所から抜いた。
暫く意識を失い、私の布団で眠っていた杏奈は、未だ幼さが残る寝顔を見せた。
私の子を宿したこの娘は、あと数ヶ月後には死を迎えることになる。
元は神と人間。命の長さの違いは必ず存在するものだが、彼女の命は、畜生の様に短い。
その遣る瀬無さを胸に秘めたまま、私は杏奈を人間界へ送り出した。
最後に、一度接吻をした。今度は私が自分で鼻を上げ、顔を傾けてした。
杏奈の息子の名前は、彼女が死を迎えた数ヶ月後に聞くことが出来た。
曰く、『岩雄』という名前らしい。
彼女が私の名から一字取って付けたのだとしたら。
そう思うと、私の心にあの時の彼女の香りが蘇るのであった。