女がある日、男を誘惑した。一晩だけ私を抱いて欲しいと。
想像以上に女は男を求めた。例え一度射精しても何度も要求し、
自分から積極的に男を愛撫し、昂らせ、果てしなく精を欲した。
男が絶頂に達すれば熟練した手管でいきり立たせ、口の粘膜で愛し、
豊かな乳房に挟み込み、「男」が萎えることなど決して許さなかった。
男が果て尽きてしまうのではないかと思うほど、その男は夜に溺れた。
いや、溺れていたのはその女だった。
夜明けが近づき、既に男の方が息が荒くなっている。
女は騎乗位で絶頂に達した。この夜、もう何十回と達した極みを
はるかに超えた快楽を味わいながら、ついに女も限界を迎えたのか、
性の快感に震えながら男の胸に崩れ落ちる。
一夜だけの営みを終え、男は再び旅立った。
その日、男は山賊に襲撃され、命からがら逃げ出したものの、
動くこともままならないような深手を負ってしまう。
このまま死ぬのかと思ったとき、どこからか昨夜の女が現れた。
黒ずくめの長衣に身を包み、頭から足首まで姿を隠している。
助けを請う男に、女はフードを取ってその美貌をさらしながら、
「昨夜は楽しんだだろう? 最高の夜だっただろう?」と尋ねる。
怪訝な顔でうなずく男の前で、その女は巨大な鎌を振りかざした。
「あたしは死神なんだ。お前が今日ここで死ぬのは分かっていた。
最後の夜くらい、あたしのカラダで満足させてあげたかったんだ。
死出の旅路の前に、いい思い出になったんじゃないか?」
目を見開いて男は恐怖した。美貌の死神が鎌を振り下ろすのが、
彼が最後に見た光景となった。死神の鎌が魂と肉体を寸断した。
何もなかったかのように、死体が一つ、森の中に転がっていた。
振り返ることもせずに、美しい女死神はその場を去っていく。
任務を果たした彼女の心を覆うのは、何故か悲しみばかりだった。
「人間とカラダなんか交えるもんじゃないね……情が移っちまったら、
大鎌の切れ味まで鈍っちまうよ……本当、あたしもバカな女だ……」
自嘲しながら女死神は自分が女であることを意識していた。
「あたしだって女なんだ。いい男が好きなんだよ……」
その頬を、一筋の涙が伝っていた。
切なげに――どこまでも切なげに。