冬、クリスマスや年末の大イベントを控えた十二月後半。  
 
「もしもし、母さん? 今からそっち帰るから、奈津美には言わないで、驚かせたいから、うん、じゃあ…」  
彼女を家まで見送った後、俺は携帯に実家の電話番号を呼び出して電話をした。  
案の定、二階建の家で常に下に居る母が出てきたので、軽く用件を伝えて電話を切る。  
「…奈津美が出たらえらいこっちゃだよ」  
今妹に俺が帰ること知られれば、パーティすら起こりかねない。  
二階の自分の部屋に居る妹はメンドくさがって電話相手を聞くことは疎か、下に降りることさえないだろう。  
「…まぁ、そんなことはどうでもいいけどさ…」  
見上げれば闇。パラパラと落ちて来る雪を追わず、何もしないでいればまるで、自分が空に上がっていくような錯覚に陥る。  
「………寒い………」  
吐く息は白く曇り、すぐに消え去る。  
妹の気持ちもこんな風に消えればな、と叶うはずの無い願望を胸に、俺は帰路についた。  
 
「ただいまー!」  
近づくと灯りが付く玄関に驚きつつ、俺は扉を開けて広い家全体に伝わるように声を出す。  
「…父さん帰ってきてないのか」  
玄関の靴の数を数えて人数を確認する。今は俺を含めて三人だ。  
『おかえり和樹〜』  
一人は母さん。リビングに続く扉が閉められていて、多少くぐもった様に声が聞こえる。  
声はしても出迎えに来ないということは、何か料理を作っているということだろう。  
前に母さんが原因でボヤを起こして以来、火の扱いをする時は必ず離れないようにしている。神経質すぎるっていうのも問題だろうけど。  
「あとは…」  
玄関の近くの階段を見上げると同時に、ドタドタと階段を乱暴に降りてくる。  
誰かはすぐ分かる。これはもう直感や反射の領域だろう。  
「お兄ちゃんお帰り〜!」  
「ただいま」  
妹、奈津美である。挨拶の元気がいいのは良い事だが、大声すぎるのは問題だ。  
「なに〜その紙袋? あ、ひょっとして私の誕生日プレゼントとか…」  
「…正解」  
「やたっ! …開けていい?」  
妹の誕生日は12月25日、誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントが重なるのは、なんとも皮肉である。  
そして、まぁ返事をする前な紙袋は奪い取られて、既に俺の目の前には可愛いヌイグルミが姿を現していた。  
「お〜……今時の女子高生にヌイグルミとは、お兄ちゃんらしい」  
「…いらないなら返せ、切り刻んで捨てるから」  
「い、いらないなんて言ってないよ! これはお兄ちゃんから貰った大切な『誕生日』プレゼントなんだから」  
やけに誕生日の部分を強調するのは、何か意味があってのことなんだろう。大方察しは付くのだが。  
「はいはい、俺金無いからそれで我慢してくれ」  
「それは、大丈夫っ!」  
「…なに?」  
妹は俺に近付き、瞳を閉じる。単純な行動なだけ意味はすぐに解る。キスだ。  
一瞬、鼓動が速くなるが、想像が出来ていただけにすぐに納まる。  
 
たとえ、一瞬でも妹に特別な感情を持ってしまった自分が恥ずかしい。これは一生忘れられないだろう。  
しかし、改めてみるとやはり妹は可愛い、矯正な顔立ち、そしてそれに施された薄めの化粧が、更に妹の可愛さを引き立たせる。  
妹と同年代の女子が化粧をとれば、月とスッポンという言葉似合うほど変貌する。その点を見れば妹は大したものだ、日頃の手入れを怠っていない賜物だろう。  
て、なに長々と妹のこと語ってんだよ俺、これじゃまるで妹のことが好きみたいじゃないか。  
まぁ、俺の彼女には適わないがな。  
言い訳っぽく聞こえる自分が嫌になる。  
「アホかっ」  
「痛っ!」  
頭にデコピンをかまし、俺は妹の横を通り過ぎてリビングの扉を開ける。  
開けた途端、そこはまるで別世界かの様に、室内は暑いほどに暖房を掛けられていた。  
冬の外から帰ってきたら、家は暑く感じると言うが、これは暑すぎないか?  
「普通だよ」  
通り過ぎた際に腕に巻き付いてきた妹に聞いてみたが、返答は俺の希望する物では無かった。そうか、普通か。  
「お帰り、和樹」  
「ただいま母さん」  
室内に入ってきた俺は、母さんともう一度挨拶を交わす。律儀なものだ。これが普通なのかも知れないけど。  
「今日は? 泊まるの」  
「ん〜…家帰るのメンドくさいし、泊まる」  
「やったー!」  
無邪気に喜ぶ妹だが、なぜか俺はそれを見て素直に喜べない。帰ったほうがいいぞ俺。  
「じゃあ、すぐにご飯の準備するから、そこで待ってて」  
「わかった、父さんは?」  
「遅くなるって、和樹の電話のすぐ後に来た。だからご飯は二人で食べて、父さん帰ってきたら一緒に食べるから」  
将来の目標は父さん達みたいな、家族を作ることが今決定した。ここまで両親が仲がいいと欝陶しさを越えて関心する。  
「にゃん、にゃんにゃんにゃん♪」  
「じゃれ付くな、テレビが見えん」  
猫の様にじゃれ付く妹を引き剥がしながら、テレビへと視線を向ける。ていうか猫だコイツ。  
「ニュースつまんない〜」  
「お前も大学進学するなら見とけよ」  
「ダイジョーブ、私頭良いからこんなの見なくてもヘッチャラ」  
「……母さん、本当?」  
「当たらずとも遠からず、てとこかしら…」  
意味不明だよ母さん、まぁ心配はないってことだろう。そう信じよう。  
「ご飯そろそろ出来るから」  
「奈津美、移動するから離れろ」  
「おんぶ」  
「は?」  
「おんぶして」  
「…はいはい」  
正直、今日はかなり腹が減っている。無駄な口論は避けたいので、俺は妹の要望を素直に受けとめ、食事をする席へと移る。  
しかし軽い、ダイエットでもしてるんだろうか。  
「…母さんちょっと、出掛けてくるね。すぐ帰るから」  
「どこいくの?」  
「松木さん家」  
「あぁ〜…」  
母さんとの会話で一人納得する妹。何かあったのか。  
「松木さんがどうしたんだ?」  
「この前苺貰ったの、だからそのお返しかなにかかな」  
母さんが出ていった後、俺は妹に疑問をぶつけた。  
半分予測がついていただけに、俺は返事は疎か、頷きもせず食事を続ける。  
 
「…ねぇお兄ちゃん」  
「なんだ?」  
妹が見計らった様に、俺に話し掛けてくる。こういう時のコイツの行動には、どうにも悪感を感じる。  
「食べさせてあげる!」  
「よし、じゃ〜あ〜ん」  
「あむ、じゃなくて私が…」  
「自分で料理出来る様になったらな」  
「……料理出来る様になったらいいの?」  
「いいぞ」  
「どんな料理でも?」  
「食えるものならな……あ…!」  
「ふっふっふ…」  
やってしまった、と思うがもう遅い。  
妹は冷蔵庫から卵を取り出すと、見せびらかす様に卵を俺に向けながら台所に入る。  
フライパンに油を敷き、卵を割り―――あぁ、負けたなこりゃ。  
「ほ〜ら、目玉焼き完成〜」  
「……一応味見を…」  
「無駄な抵抗を…」  
出来て数分もしないアツアツの目玉焼きを頬張り、負けを確信した。  
「…一口な」  
「なにいってるの、この皿の中全部終わるまで、だよ?」  
おもむろに俺の皿を取り上げ、中身を見せる。くそ、大好物なだけに少しづつ食ってたのが裏目に出たか。  
「ほら、あ〜ん♪」  
「…あ〜ん…」  
「あ〜…」  
「待て、まだ食ってる」  
「あ、母さん帰って来ても続けるから」  
「さぁ、さっさと寄越せ」  
完全に俺の考えはお見通しだ。こんな状況、家族に見られれば切腹ものだ。  
「あ〜ん♪」  
「あ〜ん」  
「……お兄ちゃん、可愛い」  
「死にてぇ…」  
今確実に赤面しているだろう。明らかに頬が熱い。  
妹の満面の笑みを見て更に恥ずかしくなる。  
「は〜いおしまい、お疲れさまです」  
「はぁ…、食った気しなかった…」  
『ただいま〜』  
「運がよかったね、お兄ちゃん」  
「あぁ、本当によかった」  
母さんが帰ってくると同時に俺は食事を終え、自分の部屋へと向かった。  
『奈津美、和樹なんかあったの? 顔めっちゃくちゃ赤かったけど」  
『別にぃ〜、外寒かった?』  
『そうでも無かったわよ』  
『へ〜、あっ、ご馳走様でした』  
『はい、御粗末さまでした。…凄いわね、ちゃんとご馳走様言えるなんて』  
『えっへっへ〜♪』  
 
俺は、もうベッドしかない自分の部屋に戻るや否や、ベッドにダイビングする。  
「あ〜!! 死にて〜!!」  
足をバタバタさせて、死にたいと叫んでみるが、どうせ自分には死ぬ勇気は無いだろう。それにそうは言ったものを、死ぬ気さえまずない。  
「あ゙〜〜〜…」  
ヒヤリとする布団に頬を当てて熱を取るが、断然頬が熱いために布団もすぐに熱くなる。  
その度に冷たい場所を捜し、頭を移動させていく。  
その行為を繰り返している途中、いきなりドンドンと扉が叩かれる。  
「……開いてる…」  
布団に顔を埋めながら、俺は喉が枯れた様な声を上げ、ノックの主人を招き入れる。  
「おじゃましま〜す、うわ、お兄ちゃんホント顔真っ赤」  
「……お前のせいだよ」  
「あはは…、氷枕とか持ってくる?」  
「いい、それより何のようだ?」  
目の前には俺が上げたヌイグルミを抱き抱えた妹の姿。気に入ったのか。  
「…あのさ」  
「ん…?」  
 
「このヌイグルミ、もしかしてお兄ちゃんが選んだ…?」  
妹の声のトーンが下がり、さっきまでの明るい印象とは打って変わって、言葉に重みを感じた。  
「………」  
「答えてよ」  
いきなり、シン、と静まり返った部屋。妹は真っすぐ俺の目を見つめ、真剣に語り掛ける。  
嘘は許されない。  
例え自分で選んだと言っても信じてもらえないだろう。実際、あのヌイグルミは彼女に選んでもらった。  
「…いや、彼女に、選んでもらった」  
「ふぅん…」  
反応は冷たい、さっきとは違う意味で心音が加速していく。  
「俺さ、そういうのよく分からなかったからさ…」  
「じゃあ…」  
「ん?」  
 
「じゃあ要らない、こんなの」  
 
そう言って妹は、ヌイグルミの腕を持ち下手で投げ捨てた。  
一瞬、中を舞ったヌイグルミは、そのまま壁にぶつかり地面に落ちた。  
〈妹さん、喜ぶといいね〉  
彼女の言葉がフラッシュバックする。  
「っお前ッ!」  
「怒る? 怒りたいのは私の方だよ、お兄ちゃん」  
「なにワケわかんねぇこと言ってんだよッ!!」  
突如湧いて出た怒りに身を任せ、俺は妹に掴みかかんだ。  
そして気付いた。―――泣いてる。  
 
「私、お兄ちゃんのことが好き、大好き…! …分かる? 好きな人の彼女にプレゼントを選ばれる気持ち…」  
「奈津美…」  
「わかんないよねぇ!? こんなの、こんなのヤダよ、こんな! …負け犬みたいな気持ち、嫌だよ!!」  
「奈津美…」  
自分でも、気付かぬ内に俺は、妹を抱き締めていた。  
思えば、いつから見なくなっだろうか、小学生までベタベタと俺に付いてくる妹、俺が欝陶しがるとすぐにビービーと泣いては俺を困らせていた。  
 
中学からだろうか、たしか、その頃から俺から離れて行っていた様な気がする。  
別にその時の俺は、ただ欝陶しい相手が居なくなったことを喜び、そして、どこか淋しさを覚えていた。  
「離してよ…、こんな、同情された感じで抱き締められても、…嬉しくない」  
「…あぁ、そうだな、たしかに俺はお前に同情してる」  
俺の言葉を引き金に、妹はあらん限りの力で俺を押し返し、敵意を含んだ眼差しで俺を睨んだ。  
「最ッ低……」  
「……そうだな、たしかに俺は最低な奴だ。けどな、俺は同情する前に、怒ってる」  
「…え…?」  
「ヌイグルミ、捨てただろ」  
「それがどうしたの…!?」  
さっきまでバクバクと鳴っていた心臓が、今は恐ろしいほど静まっている。  
妹の瞳を睨み返し、俺は続ける。  
「あれは、彼女がお前のために選んでくれた代物だ。  
純粋に喜んで欲しいから、ただそれだけの理由でアイツが一生懸命選んだ。一緒に居た俺には分かる」  
 
「だから…なに…?」  
「受け取って、大事にして欲しい」  
「ヤダ」  
「これはクリスマスプレゼントでも、誕生日プレゼントでも無い。俺の彼女からの贈り物だ」  
ここで俺は息を吐き出し、覚悟を決める。この先何を望まれようと受けとめると。  
 
「もし、あのヌイグルミを受け取ってくれるなら、俺はお前の言うことを何でも“2回”聞く」  
「ぁ……クリスマスと、誕生日…」  
「そうだ。キスして欲しいって言えばキスするし、抱いてほしいって言えば抱く」  
妹の瞳が揺らぐ、言ってはなんだが自分でも卑怯と思う。妹の気持ちを逆手に取って、自分の言うことを強制しようとしている。  
でも、俺が愛しているのは妹ではなく彼女だ。だから、彼女の気持ちを裏切られるのは見たくない。  
 
「………ス……して…」  
「えっ?」  
「…キス、して……?」  
今度は、妹から俺に抱きついてくる。力の限り精一杯の力を俺の背中に回している腕に入れられる。  
それを俺も受け入れて、妹の小さな背中に手を回す。  
「…軽く、じゃダメなんだからね」  
「わかってる…」  
妹の顎を上げ妹の潤んだ瞳を見つめる。妹の瞳が閉じ、その拍子に一筋の涙が流れた。  
 
「………お兄ちゃん、大好き………」  
妹の唇に唇を重ねる。  
重ねた妹の唇は見た目以上に柔らかく、病み付きになりそうなほどに心地良い。  
「ん」  
そのまま俺は舌を妹の口の中に入れ、力を込めながら唇を吸い始める。  
「ん……ん…っ!」  
音が立つほど強く唇を吸いながら妹の舌に自分の舌を絡めあわせ、妹の唾液を吸い上げ飲み込む。  
その際に妹の口元から唾液がこぼれ、それが首筋にまでゆっくりと垂れて流れていく。  
俺は両手で妹の頭と腰を支えながら、クチュクチュとイヤらしい水音をたてて歯の裏をなぞり、唾液を送り込む。  
「ぅ……ん……ふぁ…っ!」  
コクン、と唾液が妹の喉に落ちたのを確認すると俺は、ゆっくりと唇を離した。  
 
「…お…兄ちゃん…」  
互いの唇から混ざり合って出来た唾液の糸は、ツーと伸びながらやがて真ん中から下へと垂れるように落ち、やがて千切れた。  
「お兄ちゃん……」  
離れた時に見つめた妹の瞳はほやけて虚ろになり、口の端から垂れた妹のか俺のかもわからない唾液が、妙に卑猥に見えた。  
 
「……あと、一回だ」  
その言葉で妹の目は涙で溢れ、何か惜しむ様に表情が暗くなる。  
俺はその表情を気にしない素振りで、指でそっと妹の口元に垂れた唾液を拭ってやった。  
「次は、なんだ…?」  
妹は答えず頭を俯ける。このまま催促すれば、俺は妹を抱くことになる。俺はそれでも構わない。  
この前は妹が襲ってきて未遂で終わった。だが今回は、言われれば精一杯妹を一人の女として愛する。  
「早くしろ」  
自分が嫌になる。この行為が終わった後、俺は激しい自己嫌悪に苛まれるだろう。  
「う……ん」  
「なんだ?」  
 
* * *  
 
「電気消すぞ」  
「うん」  
妹の最後の願いは簡単なものだった。  
週に一回は帰ってくることと、その際には卑猥なことを抜きにして一緒に寝てほしいということだった。  
少し拍子抜けだったのか俺は、抱かなくていいのかと尋ねたが、妹は  
「キスはいいけど、抱いてもらうのは愛が無いとヤダ」  
と答えた。女心は兄弟でも解らないものだと思った。  
「お兄ちゃん」  
「ん?」  
窓から入った月明かりに照らされた妹の瞳が、暗くなった部屋の中で俺を真っすぐに見た。  
「腕枕…してほしいなぁ」  
「…はいはい」  
「ずっと、こういうふうにしてもらいたかったんだ」  
「いい加減に寝るぞ」  
ここまで素直な妹の言動は俺でも恥ずかしくなる。  
 
「うん、お兄ちゃん大好き♪」  
これから俺達はどうなっていくのだろうか、想像がつかない。  
ただ、今は眠い。これはまた明日考えよう。  
今は、妹の温かみを抱き、寝ることにしよう。  
 
また来週  
 

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