春、まだまだ冬の寒さが残る春前半、春か冬かたまに解らなくなる季節。
「はぁ…」
外は次第に暖かくなり、太陽はさんさんと輝く。
こんな日は外に出なければ損、と無意識に思うところであるが、俺はそんなとこじゃなかった。
「はぁ…」
枕に顔を埋め、俺はただただ溜め息を繰り返す。今回は妹のことでの溜め息ではない。
「ぅは〜…」
彼女がアメリカに語学留学に行くことになったのだ。期間は半年ほど。
前々から話は聞いていたが、いざ期日が近くになってくると体調が精神的に悪くなっていく。
酒は百薬の長、どんな嫌なことでも忘れさせてくれる。というのは嘘のようで、厄介にも彼女のこと以外考えれなくなった。
「一週間後かぁ〜」
行かないでくれ、とでも言うか。
「はぁ…」
言えるはずないけど。
となりを見れば机の上にビール缶、もう何本飲んだことやら、数が多すぎて数える気にもならない。
「眠い」
次第に重くなっていく目蓋に身を任せ目を閉じる、すぐに意識が途切れ、俺は深い夢の世界に落ちた。が、目覚めは五分もしない内にやってきた。
「ドンドンうっせ〜なぁ…」
ベッドから起き上がり、俺は玄関へと向かう。
寝起き独特の中毒性のある心地よさを、短い廊下の冷たさで吹き飛ばし、俺は鍵を解放して扉を開ける。
「あ、お兄ちゃん。て……酒くさ〜…」
「……言いたいことはそれだけか」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってよ! あ、だからドアしめちゃダメだって!!」
「………とにかく入るか?」
なにしに来たかなんて考えるのもめんどいので、俺は一先ず家の中へ妹を入れることにした。
「お邪魔しま〜す。うわ……部屋、ほんと酒臭いよお兄ちゃん。ファブリーズとか無いの?」
「…部屋の棚の上、すぐ分かる」
「こんなんじゃ、彼女さん来た時嫌われちゃうよ?」
「……嫌われちゃったほうが、お前にとったら都合がいいんじゃないのか?」
無意識にもそんな身勝手な台詞を吐かれてイラついたのか、俺はわざとトゲのある言い方で言葉を返した。これも酒の力か。
「………」
「俺、寝るから」
「あ、ちょっとお兄ちゃん!」
「…何?」
困ったように言う妹に少しイライラを感じながら、俺は枕に埋めた頭を上げる。
「お母さんが料理作りすぎちゃったから、コレ…」
タッパーに入れられた料理を寝たまま受け取り、俺はそのまま隣の机へと置く。
「それと、こんな良い天気なのに何朝から一杯やってるの」
「いいだろ別に、お前には関係ない」
「よくない! 私はお兄ちゃんの妹なんだから関係ある!」
「用は済んだろ。速く帰れ、眠い」
「もぉ、どうしたのお兄ちゃん? なんかあったの?」
隣へ座り、妹は俺の体をゆさゆさ揺さ振る。ウザい。
「お〜兄ちゃん! 私に聞けることがあったら聞くよ?」
俺は必死で枕に頭を埋め、妹の攻撃(?)が止むのを待つ。
「…早く、帰れ」
「む〜!」
なんか俺悪いことしたか?
さっきより揺さぶり激しくなる。なんなんだコイツは、そっとしといてくれ。
「お兄ちゃん! 起きて!」
「ほっとけ」
「ほっとけないよ!」
「じゃあ黙れ」
「お兄ちゃん!!」
「うるさい!!!」
俺は我慢の限界が来たのか、妹の腕と肩を掴み床へと押し倒す。
「ぉ、お兄…ちゃん?」