春、志望2位の大学に受かり、入学式が済んで大学も少し落ち着いてきた頃。  
 
いつもより早く、夕方ごろに俺は帰宅し、家のリビングでテレビを見てくつろいでいた。  
三度目になる時計を見る行為して無意識に呟く。  
「そろそろ七時か…」  
俺が心配性なのか、妹の帰りが遅いのをやたら気に掛けてしまう。  
「母さん、奈津美遅くないか?」  
「いつもこんな感じよ」  
となりで煎餅をかじる母に妹のことを尋ねてみるが、そっけなく帰されてしまう。  
躾云々はどこいったのやら、ウチはいつの間にか放任主義になってしまったようだ。  
話すこともなくなり、静かになったリビングに電話の音が鳴り響く。  
俺は立ち上がろうとすると母は、  
「いい、母さんがでるから」  
と言い足早に電話のほうへ向かう。  
しばらくの間、母の応答の声のみが静かな家を覆った。  
ガチャ、と電話を切る音がしたと思うと母はさっきと同じ位置に座り口を開く。  
「奈津美ちゃん、彼氏連れてくるんだって、もうそんな年頃なんだね」  
「ふ〜ん、奈津美も今年大学受験だし、この年なら2、3人と付き合っててもおかしくないんじゃない」  
ソファにねっころがりながら、答える。  
ふ〜ん、彼氏来るのか、どんな奴だろ?  
まぁ妹の兄として恥ずかしくない程度に接すればいいか。  
俺の心はまさに、ふ〜んだった。別にあの年頃なら驚くこともない。  
俺もつい先日、彼女を家に連れてきたばかりだ。  
 
そうこうしてる内に小一時間が経過した。  
「ただいま〜」  
玄関の扉が開く音と、妹のやや大きいめの声がいきなり聞こえる。  
「あ、あがってあがって」  
「…おじゃましま〜す」  
妹の声に続き男の声が響く。  
声からして少し、彼氏のほう緊張しているのが伺えた。  
リビングの扉が開き、妹が入ってくると、彼氏もまた遠慮がち入ってくる。  
どちらも制服、春でもまだ少し寒いので両方とも同じ柄のマフラーをしていた。  
彼氏の第一印象は、青年だった。  
髪はワックスで固めてフワっとした感じの最近流行な髪型、ピアスは開けておらず、ピアス嫌いな俺には好感が持てた。  
「おかえり、奈津美ちゃ」  
「お兄ちゃん、紹介するね、私の彼氏の勇輝君」  
「…ども」  
妹よ、紹介はいいが母を無視するな、台所でしょんぼりしてるではないか。  
 
「どうも、奈津美の兄の和樹です。よろしく」  
自分でこんなものかな、ぐらいの挨拶を済ませると、ちょうど料理が出来たらしく彼氏もいっしょに食べることにした。  
始めは遠慮した彼氏だが、途中腹の虫が鳴り、顔面真っ赤にして渋々了承した。  
食事も終わりに差し掛かった頃、ソファに置いてあった俺の携帯のバイブが鳴り、それに気付いた妹が手渡してくれた。  
ディスプレイを見ると彼女の名前、ここで出ると迷惑なので食事を終え、自分の部屋に向かう。  
「…おう、わかった。じゃあ明日駅前で…うん、じゃあな」  
電話を切って通話時間を見ると、50分ジャスト…いつも以上に長電話になってしまった。  
このままリビングに戻るのも何だし、部屋で本でも読むか  
と思い、ベットの下の棚を開け本を出そうとすると、がチャリと扉が開けられ、無言で妹が侵入してくる。  
「入る時は挨拶しろよ」  
「あ、ごめん」  
「それはまぁいいや、勇輝君は?」  
「帰った」  
「そうか」  
会話終了、なぜか妹は俺の机の椅子に座り、こちらを見続ける。  
兄妹の仲なのに空気は重く、付き合いはじめた頃の、間が持たない感じになる。  
息苦しさを感じながら漫画を読んでいると、妹は急に話し掛けてくる。  
「ねぇお兄ちゃん」  
「な、なんだ…?」  
思わず声が裏返りそうになる。  
「彼氏みてさ、何かおもった?」  
「別に、格好良いし、男の俺が言うのも何だけどかわいい所もあるし、しっかりしてるし、それくらい」  
「…そっか」  
妹は一瞬視線を下げると、なはは、と笑う。  
不思議に思いながらもそこはスルーした。  
「……さっきの電話、彼女さんからだよね」  
「そうだけど、なんで知ってんの?」  
「チラっ後ろの画面から見えた」  
「そうか」  
「この前さ、お兄ちゃん彼女連れてきたじゃん?」  
「ん、まぁ」  
「その時私さ…」  
「……」  
「…羨ましい、て思ったんだよ?」  
「そうか」  
妹の言いたいことは少しわかった、だから俺はあえて冷静を装った。  
また、沈黙。今度は間が持たないなど感じなかった。  
俺は妹をちゃんとした人間にさせる。  
妹を幸せにさせる。  
だから俺は拒絶する。  
「…あは、じゃ私部屋に戻るね」  
俺は無言で首を振ると、すぐに妹は部屋を出ていった。  
それを確認すると俺は机の棚に入れておいたタバコを一本吸う。  
胸にある可笑しな感情を消し去りたかったから、  
「……マズい……」  
 
 
 
夏、夏期長期休暇…いわゆる夏休みの真っ只中。  
 
―――…この状況はマズいんじゃないんだろうか。  
 
ベットで俺の上に妹が馬乗りになっている。  
 
昼まで寝ていた俺は、突然扉が開く音で目を覚まし、妹を確認して起き上がろうとした瞬間に押し倒された。  
寝覚めでまだ力の入らない俺の腕を太ももで抑え、四肢を拘束するように下腹部に妹が乗っている。  
寝覚めで霞んだ目でも妹の状態ははっきりわかる。  
多分、今から始まる話は無駄になるだろう。  
「どいてくんないかな、顔洗いに行きたいんだけど」  
「ダメ」  
「…じゃあせめて腕に乗せてる足、退かしてくれ。痛いんだけど」  
「ダメ」  
参った、逃げれない。  
妹の顔は風邪でもひいたかのように赤く、惚けた目は俺を直視している。  
息が詰まる、目を逸らすわけにも行かず、ほとんど睨めっこの状態だ。  
「………ねぇ、お兄ちゃん…しよ?」  
その中、妹はとんでもない事を口走った。  
胸を奥がキュっと収縮するような感覚が走る。  
「…は?」  
「生でもいいよ、私今日…大丈夫な日なんだ、お兄ちゃん」  
最初だけならまだしも、この言葉で妹が口にしたことの意味は確定する。  
「…なにいってんのお前、勇輝君はどうした?、こんなとこ見られでもしたら…、」  
「別れた」  
「あ、そう」  
スッパリ言われた、ほんとにどうしようもない。  
どこでどう間違ったのか、妹はもう、覚悟を決めた様子。  
「お兄ちゃん…」  
両手で妹は俺の頭を固定し、覗き込むような顔を近付けてくる。  
逃れようとしても頭は動かせず、腕は抑えられ、足は…論外だ。  
拒否権などあったもんじゃない。  
 
「ん」  
妹からの強引な口付け、やわらかい唇が押しつけられる。  
妹の舌が俺の唇を割り、口内に侵入しようとしてくる。  
だが俺は歯を閉じ、侵入を拒む、それが俺の最後とも言える抵抗。  
「ん…ふぁ、お兄ちゃんダメだよ」  
一旦顔を離し、妹は拒絶する俺を、まるで悪いことをしたかのように注意する。  
「ダメじゃなくてな、兄妹でこういうことをするのがダメなんだよ」  
「…今度は、そうはいかないんだから」  
聞く耳持たずとはこのことだろうか、妹は俺の言葉を完全に無視したかのように話しだす。  
妹は再度顔を近付けてくる。  
当然俺は口を堅く閉じ、舌の侵入を拒絶しようとする。  
だが今度は、吐息がかかる程度に近付くと  
妹は俺の鼻を片手でつまみ始める。  
妹の考えが手に取るようにわかる、もはやこれは俺の負けが決まった持久戦。  
一分ほどたったところで俺は息苦しさに耐えかね、口を開き息を吸おうとすり瞬間。  
妹は待ち構えていたかのように、高速で舌を俺の口の中に滑り込ませる。  
「ん…くふ、ふぁ…んう……んっ」  
妹の舌は口内を隅々まで貪り、俺の誘おうと舌で舌をつつく。  
「お……兄…ふゃん、おいふぃ……」  
俺が舌で舌を押し返そうとすると、妹はそれをどう受け取ったのか一層舌の動きが増す。  
荒々しいキスに、思考力が削れていく。  
いつのまにか、気付けば俺は逆に妹の口の中に侵入していた。  
「ん…んふっ…、ぅん…お……にぃ…ひゃ……ん…っ」  
そして、もう一つのことに気が付く。  
腕の圧力が無くなっていた。  
妹は腰を宙に浮かせ、俺とのキスに没頭している。なら…  
「ん…ひゃあっ!?」  
腕と腰に一気に力を加え、横に妹を押し退ける。  
妹はベットから滑り落ちそうになっているところを好機と見て、俺は直ぐ様立ち上がり扉までダッシュする。  
「はぁ…はぁ…、奈津美、お前ほんとにいい加減にしろよ」  
「………」  
ドアノブを掴み、いつでも逃げられる状態から妹に怒りの混じった注意をする。  
「兄妹でこういうことしちゃいけないって、世間一般じゃ常識だろ…?」  
「…関係ないよ」  
態勢を立て直し、ペタンとベットの上に座り込む。  
「お兄ちゃんのことが男の子として好きだから、だから関係ないっ!」  
キッと俺を睨み、妹は涙を流し始める。  
「屁理屈だから、それ」  
「私、絶対諦めないから」  
「はぁ…そうですか」  
そう言って俺は部屋を出ていった。  
 
 
 
秋、いままでコツコツと貯めていたバイト代を使って、一人暮らしを始めた。  
 
一人暮らしを始めた理由は二つ。  
一つは大学が遠かったから。もう一つは――――。  
「うわ、雨振ってる…」  
「ほい傘」  
「あ、ありがと」  
彼女と二人っきりで過ごす時間がもっと欲しかったから。  
もっとも、掃除も料理も洗濯も彼女が居ないとままならないのだが……。  
じゃあ一人暮らしするなよ俺、迷惑掛かりまくりじゃん。まぁ―――彼女曰くそれがいいとか。  
「気を付けて帰れよ」  
「大丈夫だよ。私は和樹みたいに鈍臭くないから」  
「言ったなぁ…?」  
「あはは、…きゃ!?」  
俺は彼女の腕を引っ張り額にキスをした。赤い顔して後ろを振り返る彼女は、すごく可愛かった。  
「また明日な」  
「うん……」  
ザーザーと降る雨の中、彼女は男性用の幅広の傘を差して路地へと消えていった。  
彼女を路地へ消えていくのを見届け、俺は扉に鍵を締めてチェーンを掛けた。  
「さて……20時か、」  
寝るには早いし、かといって暇つぶしにゲームなどすれば明日が大変なことになる。  
「久々に風呂沸かすか…」  
いつもシャワーばかりだったのでたまには風呂でもと思い洗面所に向かう。ちょっとした贅沢だ。  
シャワーで軽く風呂桶を水洗いして水を張る。今からなら30分ほどで出来るだろう。  
「テレビなんかやってかな…」  
部屋でテレビをつけて床に座り込もうとした途端、扉をノックする音が聞こえた。  
この部屋はチャイムが無いためにノックをしなければならない。しかし、誰だこんな時間に…。  
彼女が忘れ物でもしてったかな、と色々な思考を巡らしながら施錠を解放して扉を開ける。  
 
「ぁ、お兄ちゃ……」  
直ぐ様扉を閉める。  
(あれ、なんでアイツがここに居るんだ…? 俺の引っ越し先教えてないはずなのに…)  
扉にもたれ掛かって頭を抱えていると、さっきよりさらに強くドンドンと扉を叩かれる。  
観念して扉を開けると、上目使い気味に俺を見つめる妹が立っていた。  
「もぅ、お兄ちゃんなんで急にドア閉めるのっ!?」  
「あ、いやゴメン…」  
むぅっと頬を膨らませて怒る妹を見て、反射的に俺は謝った。  
「ん?」  
そこで、妹の服や髪がズブ濡れになっていたのに気付く。  
「お前…、傘はどうした?」  
「…あはは、友達と遊んでたらさ、いきなり降ってきちゃって」  
で、俺の家が近かったから寄ってきた。てところだろうか。  
それは置いといて、まず気になることがある。  
「それで………お前、なんでここ知ってるんだ」  
「…赤い糸?」  
「帰れ」  
ニコッと笑って狂言を言う妹を黙殺して、外開きの扉を閉める。  
「ちょ、お兄ちゃんヒドイっ!」  
が妹が扉に割り込み閉めるのを阻止される。  
だがなおも俺は閉めようと妹を間に挟みながらギュウギュウと締め付ける。  
「イタタっ、痛いってお兄ちゃん」  
「帰りなさい」  
「なっ、可愛い妹が雨にうたれてるんだよっ!?」  
「帰りなさい」  
「こんな肌寒い季節にこのまま家に帰ったら風邪引いちゃうよ!」  
「しかたない、タクシー代やるよ」  
「じゃなくてッ!!」  
今までになく大声で叫ぶ妹は、目の端に涙をためて頬を真っ赤にしていた。子供かお前は。  
「お家に…入れてください」  
「はぁ…」  
そんな顔をされて断れる奴がこの世に居るんだろうか。  
「…そんなところに居ると風邪引くぞ?」  
「あ……うんっ!」  
 
「……おじゃましま〜す」  
「お、挨拶出来るようになったんだな」  
「えへっ、誉めて誉めて」  
「お〜よしよし、奈津美は偉いなぁ」  
棒読みで妹の頭を撫でる。手の平に残る湿った感覚で、俺は妹がズブ濡れだったことを思い出す。  
「待ってろ、タオル持って来てやるから」  
「うん」  
ポンと軽く妹の頭を叩き、洗面所に向かう。  
タオルを取るついでに風呂の湯加減を見てから妹の所に戻る。  
「そら」  
「あ、ありがと」  
「それと風呂沸いてるから、髪拭いたら入れ」  
「準備いいね、もしかして私来ること知ってた?」  
「アホか、もともと俺が入るとこだったんだよ」  
「え〜それじゃ面白くな〜い。もっとさ、気の効いたこと言ってよ」  
「へー、なんて言えばよかったんだ」  
俺は片眉を釣り上げて腕を組む。  
妹は、ん〜と言いながら考える素振りを見せてから頭に電球を光らせる。  
「とうぜんだろ、俺とお前、体は離れても心は繋がってるんだから」(和樹声真似)  
「…あまりにセリフが臭すぎて、俺じゃ言えねえよ…」  
コイツの頭の中の俺が不憫でならない。  
「それでね、こ〜…私のことを抱き締めて…」  
「うわ、抱き付くなっ! 俺まで濡れるだろ!!」  
「…ちぇっ」  
プイっとすねるように顔を背ける妹にため息を吐き、早く風呂に入るように促す。  
 
「着替え、ココに何個か置いとくから、気に入ったの着ろ」  
『うーん、ありがとうお兄ちゃん』  
曇りガラス越しに妹の姿を確認してから、踵を返して洗面兼脱衣所から出ようとすると、妹が声を掛けてくる。  
『ね〜お兄ちゃん』  
「なんだ……、はぁ…お前なぁ、少しは抑えろよ」  
いくら曇りガラスでも、さすがに体を押し付けられるとその効果は薄まるわけで、  
その、妹の乳首や下半身も見えるわけなのだ。…明らかに俺を意識しての犯行だろう。  
『どぉ? 生で見たい?』  
「見たくない」  
『嘘だぁ、女の人の体に欲情しない男は居ないって本に書いてたぞ』  
「相手によって例外だってあるさ。今がまさにそう」  
近い将来、妹の行動にため息も比例していくのだろうと考えて、さらにため息が出る。  
『ちぇ〜つまんないの〜』  
「いいからさっさと風呂に入れ」  
『あ、そうだ』  
「今度はなんだ…」  
『お兄ちゃん一緒に入る?』  
近くにあったタオルをガラスに投げ付けて部屋へ戻った。  
「いつからあんな風になったんだか…」  
一人愚痴りながらテレビのチャンネルを変える。あの時、不覚にも動揺してしまった俺が情けない。  
 
「お兄ちゃ〜ん、あがったよ〜」  
部屋と脱衣所を隔てる壁越しに、妹が大きめに声を上げて俺に呼び掛ける。  
「そうかー、洗面台の近くにドライヤーあるから使えー」  
「あ、ありがと〜……あれ、どこだ…」  
「右の棚の奥だよ」  
「あ、あったあった」  
しばらくするとドライヤー独特の音が響き渡り、俺のテレビを妨害をする。  
 
「この音ってちょっと邪魔だよな…」  
「?、なにが?」  
いつの間に出てきたのか、妹は俺の独り言に返事をする。  
「あ、コタツだ。いいなぁ」  
「お前いつの間に……はぁ…」  
ほんとにため息が絶えない。  
妹は俺が出した着替えを無視して、洗濯に出して置いたYシャツを着て来ていた。  
「まぁ…あれだ、着替えてこい」  
「え〜、いいじゃん。コレすっごくお兄ちゃんの匂いするし」  
妹はシャツの袖をクンクンと匂いながら俺に歩みよってくる。しかし危うい。  
なにが危ういかと言うと、妹の股と、アイツにとって大きめのシャツがジャストフィットして、見事に座ってる俺にチラチラと内股を見せ付けてくる。  
「!」  
無意識に妹の内股に目をやっていると、ありえないものが見えてしまう。  
「お前…下着はどうした」  
「あ、見えた?」  
「死んでくれ、そこまでして俺を困らせたいのかお前は…」  
「だってパンツも濡れてたんだもん。そそる?」  
「そそらない、たしか出しといた服の中にスウェットの下があったはずだからはいてこい」  
ちょっと鼻がツーンした、だが鼻血は出てなかった。よかった。  
出てたら元も子もない。  
 
「しかたないなぁ」  
「なんだその私は嫌だけどお兄ちゃんが言うなら、みたいな目は…」  
俺も立ち上がり、妹の肩を掴んで無理矢理脱衣所に向かわせる。  
「……はいたか?」  
「はいた〜」  
「嘘ついてたら針千本な」  
「そんな飲めないよ」  
ガラッと扉を開けて出てくる妹はちゃんと下をはいていた。  
「よし」  
「誉めて誉めて」  
「よしよし、奈津美はいい子だなぁ」  
「えへへ」  
「奈津美なら、このままお家に一人でも帰れるよなぁ」  
「無理」  
「チッ」  
ナデナデしていた手をグリグリに変えて、再度問う。  
「か・え・れ・る・よ・な?」  
「と・め・て」  
「や・だ」  
「と・め・て・く・だ・さ・い」  
「か・え・れ」  
妹も譲らなければ俺も譲らない。  
「お願い泊めてっ!」  
「母さん心配するだろ」  
「大丈夫、ココ来る前に電話しといたから、お兄ちゃん家に泊まるって」  
「…母さんは淋しいと死んじまうんだぞ」  
「それはウサギだよ」  
そうこう口論してる間に時計は12時を回っていた。  
「あ〜…わかったよ。泊まってけ、その代わりさっさと寝るんだぞ」  
「え、あ、うん。なんかスッパリ決めたね」  
「こんなくだらないことで俺の睡眠時間削られたくないだけだ」  
 
*  
「電気消すぞ」  
「うん」  
「…あと、いっしょの布団で寝るからって変な気をおこすなよ」  
「それはこっちのセリフだよ」  
電気を決してベットに潜り込む。当然こっちを向いて寝る妹に背を向けて俺も寝る。  
「…こっち向いてよ」  
「グ〜…」  
「寝たフリしない、布団入って30秒で寝れる人なんて居ないんだから」  
「……変な気をおこすなって言っただろ」  
「そういうのじゃなくて、…いや少しあるかも」  
「………」  
「じゃなくて、ちょっと体が寒いんだ」  
「針千本な」  
「嘘じゃないって、触ってみてよ」  
「はぁ…」  
半信半疑で振り向いて触った額は、たしかに熱かった。  
今聞いてみると妹の声も少し鼻声になってるかもしれない。  
「風邪…かな」  
「多分な」  
「風邪薬とかない…?」  
「あいにく、俺は風邪を引いたことがない」  
「…そっか、じゃ〜…汗かくとか」  
「……今この状況でどうしろと」  
「やっぱり激しい運動?」  
「…想定の範囲内だから却下」  
妹の頭を一度見てみたいと思いながら、妹の背中に手を回す。  
「ぁ…」  
「…これでどうだ」  
「あったかいよ…」  
「そうか」  
「私も…抱き付いていいかな」  
「……今回だけな」  
妹も俺の背中に手を回して、俺の腰に足を巻き付ける。  
「…おい」  
「お兄ちゃん…まだ、寒いよ。もっと強く抱き締めて…」  
「…はぁ、わかったよ」  
この時、俺は断るべきだったのかも知れない。  
 
[省略されました]  
 
朝、適度な疲れがあったのか、俺は気持ち良く起きれた。  
その気持ち良さが、彼女への罪悪感を加速させた。  
「…お兄……ちゃん、大…好き…だよ…」  
 
 

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