真っ青。  
雲一つ無い空と言うのは、この事を指すのだと思う。  
「気持ち良い……。」  
空を見て気持ち良いという感想は自分でもおかしいと思うのだけれど、  
綺麗な物を見ていると自分の汚れた心が洗われる様な気がして気持ち良いのだ。  
こうしてると、時を忘れてしまう……………  
「……し。」  
後ろの奴に肩を叩かれる。  
「…つし。」  
邪魔だなー。  
「篤!!」  
「何!?」  
ムッとして答えてしまう。  
「怒られる筋合いは無いんだけどな。  
お前、先生に指名されてる。」  
「あ………。」  
忘れてた。  
今は数学の授業中だった。  
「中谷君、答えれるかな?」  
とりあえず立ってみるが、答えれるも何も問題が何かさえわからない。  
「中谷君?」  
先生が僕の顔をおかしそうに見る。  
「なんでしょうか?」  
「君は今、涙を流している様に見えるが。」  
涙?  
目の当たりを触ってみる。  
「あ………。」  
泣いてる。  
理由はすぐに解った。  
僕は綺麗なものを見ると感動して泣いてしまう。  
ドラマや映画など、人の手の加わった物では全然泣かないのに、  
綺麗な物にはトコトン弱い。  
しかし今、  
『あまりに空が綺麗で泣いてしまいました。』  
なんて言えば先生の怒りを買ってしまうだろう。  
そんな馬鹿正直に生きる程、僕は出来た人間では無い。  
「すみません。両親の事を考えてしまいまして………。」  
そう言って、下を向く。  
「そ、そうか……。その年でご両親を亡くして君も辛いだろうが、お姉さんと二人で力を合わせて頑張るんだよ。」  
「はい……。」  
よし、成功。  
「もう良いから、座りなさい。」  
「すみませんでした。」  
自分でも中々の演技だったと思う。  
十年以上、偽りの自分を演じてきた副産物だろうか。  
席につくと、周りの同情の目が痛い。  
嫌だな……  
なんて思ってると、チャイムが鳴って授業の終わりを告げる。  
助かった。  
終りの挨拶を済ませ、すぐにカバンを取り教室を出る。  
「重苦しかった…。」  
自分のせいなんだけど、あんな場所に長くはいれない。  
「さっさと帰ろう。」  
下駄箱を開ける。  
「ん?手紙?」  
可愛らしい模様の封筒に、包まれた手紙。  
読んでみると  
放課後、屋上に来て欲しいという内容だった。  
 
放課後、屋上、下駄箱に可愛らしい手紙。  
思い浮かぶのは一つ。  
愛の告白。  
「めんどくさ。」  
決まってる。  
どうせ、僕はまた断るだろう。  
今まで何回も告白されたが、全部断わってきた。  
「きっと、今回の女も勝てない。」  
僕は比べてしまう。  
告白してくれた女と、手の届かない女性を。  
その女性と比べてしまったら大抵の女は汚物に見えてしまう。  
少なくともこの学校には、その女性と張り合える女はいないだろう。  
「けど……。」  
もしかしたら………  
そう思い今日も屋上に歩を進める。  
これはチャンスだ、僕の病気を治す。  
屋上に出る鉄製の扉を開く。  
キキー。  
錆びた音。  
風がふきつけ、目を開けられない。  
少ししてやっと目を開けられる。  
瞬間、涙が溢れる。  
「綺麗………。」  
真っ青な空。  
それに同化した女性。  
白い透き通る様な肌が青色に溶け込んで、まるで雲の様に違和感が無い。  
風が長めの黒い髪をなびかせている。  
その隙間から覗く顔が美しくドキッとさせられる。  
何て綺麗なんだろう。  
毎日毎日見てるはずなのに、時々こうして心を奪われる。  
「馬鹿らし……。」  
いるのだろうか?  
この女性と比べても遜色の無い女が。  
いるわけが無いと思う。  
けど、いてもらわないと困る。  
「あっ………。」  
その女性が僕に気付き手を振る。  
「あっくーん。」  
「なに?」  
ぶっきらぼうに答える。  
「いや、あっくんだ、と思って……。」  
酷く悲しそうな顔をする。  
その顔は僕の胸をチクチクと痛める。  
「姉ちゃんの横に来ない?風が気持ち良いよ。」  
姉ちゃん。  
この人が姉でなければなんて思わない。  
姉でなければ、こんなにも好きにならなかった。  
だけど姉だから  
「いや、良い。待ち合わせしてるから。」  
好きになってはいけない。  
だから、僕は姉ちゃんを嫌いだと思い込む。  
「そっか………。」  
そうしないと、一緒にいれないから。  
 
   
『下駄箱の手紙は実は姉ちゃんが出しました〜。へへへへへへ。』  
って、おどけた感じで言える性格なら良かったのに……。  
あっくんの不機嫌そうな声を聞いたら怖じ気付いてしまった。  
あっくんの事が好き。  
ずっと、ずっと、ずっーと前から。  
それこそ、あっくんが生まれた瞬間からといっても大袈裟では無いと思う。  
それなのに、あっくんは私の事を邪険に扱う。  
そんなのは嫌。  
だから変えたかった。  
『あっくんの事が好きなの。』  
なんて、言ったら困るだろうな。  
実の姉が弟の事を好きだと言うのだから。  
けど、困らせてやりたかった。  
困らせて私の事を意識させてやりたかった。  
離れた所にいるあっくんを見る。  
「暑そう……。」  
心配になる。  
太陽がカンカン照りなのに、ひなたに立って  
日射病にならないかしら?  
「こんな事するんじゃなかった。」  
後悔する。  
「ごめんね…。」  
カバンの中から水筒を出し良く冷えた麦茶を注ぐ。  
「あっくん!!」  
風の音に消されない様に出来るだけ大声で呼ぶ。  
「なに?姉ちゃん。」  
顔だけをこちらに向けて不機嫌そうな声で答える。  
「こっちおいで!!」  
手をパタパタとこちらに誘導する。  
「なんで?」    
「良いから!!」  
渋々とこちらに向かってくる。  
「ここ座る!!」  
日陰になってる、私の横をバンバンと叩く。  
「何でなん〜。」  
口では文句を言いながらも座ってくれる。  
あっくんのかわいい所。  
「はい、お茶。」  
「のど渇いてない。」  
もー、かわいくないなー。  
けど、姉ちゃんはわかってんだよ。  
「お茶!!」  
「……ありがと。」  
少し強く言えば、従ってくれる事。  
あっくんがそれを一気に飲み干す。  
「おいし?」  
「……もう一杯いい?」  
上目使い。  
さっきいらないと言った手前、申し訳なさそうに私を見る。  
「プッ、ハハハハ。」  
思わず吹き出してしまう。  
「やっぱ、もう良い。」  
あっくんが立ち上がろうとするのを腕を掴んで止める。  
「嘘、嘘。」  
麦茶をコップに注ぐ。  
そういえば、あっくんを屋上に呼び出した目的。  
あっくんを困らせて、私を意識させる。  
実行しよう。  
コップに注いだ麦茶を私の口に流し込む。  
「うわっ最低だ……。」  
あっくんは騙されたと思って、不満をたらす。  
けど、騙しては無いんだな。  
あっくんの唇に私の唇をつける。  
「え?」  
あっくんは驚いているがお構いなしに麦茶を流し込んでやって  
「おいし?」  
 
ファーストキスだー!!  
私の中で小人が太鼓を打ち鳴らし、笛を吹き、万歳をする。  
「………………。」  
固まってるあっくんの頬をつつく。  
「あっくん?」  
あっくんがやっと、気を取り戻して怒りの目で私を睨む。  
「怒ってる?」  
「当たり前。」  
「ファーストキス?」  
に決まってる。  
「こんなのキスに入らない。」  
「じゃあ、良いじゃない。」  
「くっ……。」  
あっくんは何も言えない。  
勝った!!  
「へへへへへへ。」  
「あー、腹立つ。」  
立ち上がろうとするあっくんの腕を取る。  
「離してや!!」  
「日射病になるよ。」  
本気で睨む。  
本気で心配だから。  
「だって……。」  
「もうしないから。」  
あっくんが疑惑の目で私を見る。  
「しないから、待ってる人が来るまでここにいな。」  
待ち人は実は私なんだけどね。  
「……うん。」  
観念して、あっくんは腰を下ろす。  
「汗、かいてる。」  
「そりゃ、暑いからね。」  
カバンからハンカチを出して拭いてあげる。  
「良いよ、そんな事しなくても。」  
「誰も見てないから恥ずかしくない!!」  
「……ありがと。」  
カバンからうちわを出して風を送ってあげる。  
「大丈夫だから……。」  
 
「ん?私は自分を扇いでんだけど。」  
私を経由して、あっくんに風を送る。  
「……ありがと。」  
どうすれば、あっくんが素直に優しさを受け取ってくれるかはわかるのに、  
どうすれば、あっくんが私の事を好きになってくれるのかは、わからない。  
「ん?あっくん泣いてる?」  
いきなりキスはやり過ぎただろうか?  
「泣いてない。」  
嘘にもならない嘘を前を見つめて言う。  
なるほど。  
「綺麗だね。」  
空が真っ赤に染まってた。  
「うん。」  
私は、どんなドラマでも映画でも泣かないのに、ただの夕日で感動するあっくんが好き。  
ハンカチを差し出す。  
あっくんは黙って受け取って涙を拭ってハンカチを返す。  
会話は無いけど、その一連の動作がお互いの事を解り合えている様な気がして嬉しい。  
ここから夕日を見てるとフェンスが邪魔になる。  
立ち上がって、あっくんに手を差し出す。  
あっくんは私の手を掴んで立ち上がり、二人でフェンスの所まで小走りする。  
フェンスの網の隙間から真っ赤に染まった街を見下ろす。  
手を繋いだままで。  
少しして夕日が沈んで、辺りは薄暗くなる。  
「あっくん、帰ろ。」  
「うん。」  
繋いだ手はほどかれたけど。  
今日は良い日だったと思う。  
 
 
あたりは、真っ暗。  
そんな中、僕は公園のブランコに一人。  
いや、独り。  
「姉ちゃんのバカヤロー!!」  
近所迷惑にならない程度に叫ぶ。  
本当に腹がたつ。  
   
お風呂から出ると、姉ちゃんが携帯をいじっていた。  
それは普段でも良くある光景なんだけど、  
問題は………  
その携帯が僕のだったという事だ。  
「姉ちゃん?」  
とりあえず、僕の存在を確認させる。  
「ん?あっくん、もう出たの?夏だからってシャワーだけじゃ駄目だよ。ちゃんと湯船につからなきゃ。」  
ピコピコ  
僕が風呂から出てきた事を確認しても、携帯をいじり続ける。  
何だ?  
後ろめたい事をしてる訳では無い?  
「姉ちゃん、何してんの?」  
「ん?ああ、迷惑メール削除してあげてるの。」  
「迷惑メール?」  
そんなの自分で出来るって。  
「んっ、出来たよ。」  
姉ちゃんから、携帯を受け取る。  
「………………。」  
瞬間、言葉を失う。  
受信BOXには、姉ちゃんからのメールしか残ってなかった。  
「………………。」  
嫌な予感がして、アドレス帳を見る。  
残ってたのは  
自宅  
姉ちゃん  
だけ。  
しかも姉ちゃんがグループ分けで  
『妻』  
に登録されていた。  
「あわわわわ。」  
 
あわわわわ  
なんて、漫画かアニメの世界だけかと思っていた。  
けど、本当に驚いたりした時には言っちゃうんだ。  
「あわわわわ。」  
って。  
「あっくん?」  
問題は姉ちゃんに罪の意識が無い事だ。  
姉ちゃんが自分を、妻に登録したのは僕をからかう為だろう。  
屋上で僕にキスしたみたいに。  
いや、あれはキスでは無い。  
唇レイプだ  
唇は犯されても、心までは犯されないぞ!!  
僕は僕は僕は  
勝手に携帯を姉ちゃん直通専用にする様な  
「姉ちゃんが嫌いだ……。」  
そうだ嫌いなんだ  
こんな理不尽な姉を好きな訳無いじゃないか。  
血の繋がった姉を………  
パンッ!!  
「いたっ!!」  
頬をぶたれる。  
ん?  
ビンタ?  
なぜ?  
僕、悪くないよね?  
文句を言ってやらないと!!  
「なんで、ぶつんだよ!!姉ちゃんが勝手にアドレスもメールも消すのが悪いんだろ!!」  
「…………。」  
だんまりかよ。  
「何とか言えよ!!」  
「だって!!だって………。」  
あ、泣いてる………。  
胸がキシキシと痛む。  
「あっくんには、姉ちゃんだけで十分だもん。  
他は全部、迷惑なんだもん……んっく…」  
 
何で、縛りつけるんだよ!!  
僕が努力して、姉ちゃんの事嫌いになろうとしてんのに……。  
そうやって二人きりの世界を作ったら姉ちゃんの事、好きになっちゃうだろ!!  
姉ちゃんは僕の気持ちを分かってない!!  
言ってやらなきゃ……  
『僕を縛りつけるな!!』って………  
「姉ちゃん、泣くなよ。」  
なんて僕は情けないんだろう……………  
「じゃあ、あっくん姉ちゃんの事嫌いじゃない?」  
「…………嫌い……じゃない。」  
嫌いな訳ない。  
いつも、僕の事気遣ってくれて  
底無しに優しくて  
綺麗で  
良い匂いで……  
「ん?」  
良い匂い?  
「あっくん……。」  
姉ちゃんが僕の腰に、腕を回して僕を抱きしめている。  
「ちょっ、姉ちゃん。」  
「良かった、嫌われないで。嫌われたら姉ちゃん死んじゃうところだったよ。」  
179センチの僕より、少し背の低い姉ちゃんが顔を上に向けて言う。  
顔が近い!!  
唇が近い!!  
非常にマズイ!!  
「こんな事するから……。」  
「ん?なに?あっくん。」  
こんなに、姉ちゃんが不用意だから………。  
嫌いだと思わなきゃイケナイんじゃないか!!  
「姉ちゃんのバカー!!」  
僕はパジャマで家を飛び出した。  
 
「ドゥッ、ビー、ドゥ、ビー、ダ、ダ、ドゥー………」  
ブランコに腰掛け、歌を歌う。  
「何の歌だっけ?」  
ああ……  
「姉ちゃんの好きな歌だ。」  
…………けっ  
「情けな……。」  
もう、姉ちゃんが恋しい。  
まだ、家出して1時間もたってない。  
昔から同じだった。  
両親に叱られて家出してもこの公園。  
姉ちゃんと喧嘩して家出してもこの公園。  
家から時間で言えば30分位の距離の公園。  
小学生の頃なんかは、この公園でも家出として成立したと思う。  
けど、中学生になってもこの公園。  
そして、高1の今でもこの公園。  
最早、家出なんかでは無い。  
ジョギングだ。  
けど、この公園以外に行こうとは思わない。  
昔から同じだし。  
この先も、そうだろう。  
「ハァハァハァ。」  
荒い息遣いが聞こえる。  
「ハァ昔から…はぁ……おんなじ。」  
「今日は前より遅かった……。」  
「ヘヘヘヘ、ごめん、ごめん。姉ちゃんも歳だからね。」  
二つしか変わらない人が言う。  
「帰ろ。あっくん。」  
姉ちゃんが手を差し出す。  
「うん……。」  
姉ちゃんの手を握る。  
はい、これで仲直り。  
明日からは、いつも通りの姉弟。  
昔から同じ。  
の、はずなんだけど。  
 
姉ちゃんが手を握ったままで歩き出すから、  
これだけが昔とは違う  
「姉ちゃん……。」  
「ん?まさか………。」  
「おんぶ………。」  
すねている弟が姉に甘えるのはしょうがない。  
「あっくん、もう高校生……。」  
「僕は高1で、姉ちゃんは高3。僕がいくら成長したって姉ちゃんが姉ちゃんである事が永遠変わる事は無い。」  
「…………もう。」  
姉ちゃんが背を向けて、腰を下ろす。  
「ほら。」  
姉ちゃんが、僕を促す。  
「それでは、失礼します。」  
姉ちゃんの胸の上辺りに腕を回す。  
変な気持ちが起こる訳は無い。  
今は、ずっと昔からの何にも変わらない姉弟だから。  
「んしょっと。」  
姉ちゃんが立ち上がる。  
これで本当に昔から同じになった。  
「あっくん、やっぱり重たいよー。もう私より背高いんだよ。」  
文句を言いながらも歩を進めてくれる。  
「大丈夫だよ。姉ちゃんも女にしては背、高いから。」  
「そうじゃなくて!!」  
姉ちゃんの首筋に頬をすりつける。  
「昔から同じが良いから。」  
昔の様に姉ちゃんを姉として愛せれば良いのに。  
そうすれば、何にも問題なく姉ちゃんに甘えれるのに。  
「同じか……。」  
「うん、同じ。」  
「姉ちゃんが、おばあちゃんになっても?」  
「だって、姉ちゃんじゃん。」  
「ヘヘヘヘ、鍛えとかないとね。」  
「うん……。」  
落ち着く。  
今は、汚れた想いは全く無い。  
この気持ちが、ずっと続けば良いのに……。  
「あっくん、泣いてる?」  
「泣いてない。」  
「嘘だー。だって。」  
姉ちゃんが上を向く。  
「月がこんなに綺麗だし。背中冷たいもん。」  
ほんと、続けば良いのに。  
 
 
「……葉月……。」  
嫌!!!!  
私を名前で呼ばないで!!  
「……葉月さ…。」  
やめてよ………  
思い出すから。  
私を『葉月』と呼ぶ人は、もういないはずなのに  
私には『姉ちゃん』と呼んでくれる人だけで良いのに。  
「……葉月さん。」  
「やめて、やめて、やめて、やめて、やめてやめてよ!!!!!」  
名前で呼ばれたくないの!!!!!  
「中谷葉月さん?」  
「あ……。」  
そうか、今は選択授業中。  
授業中なのに寝ちゃったんだ。  
「中谷葉月さん、どうしました?」  
選択授業は他のクラスと合同で、中谷が別にもいるから、フルネームで呼ばれる。  
もう3年目なのに慣れない。  
「えーと……。」  
どうしよう。  
周りの目が痛い、特に女子の。  
まあ、いつもの事。  
「両親の事を考えてしまいまして。」  
言ってて腹がムカムカするけど、利用させてもらう。  
「そう……。いっぺんにご両親共に亡くして、悲しいわよね。」  
「はい。」  
幸せです!!!!  
笑いそうになる。  
「もう良いから、座りなさい。」  
「あ、はい。すみませんでした。」  
座ろうと思ったのだけど、女子のクスクスという感じの嫌な笑いが聞こえる。  
良い気味だとか  
生理がはじまったんじゃない?だとか  
ほんと吐き気がする。  
死ねば良いのに。  
男子は男子で私を好奇の目で見る。  
気持ち悪い。  
やっぱり死ねば良いのに。  
みんな、死ねば良いのに。  
そしたら、私とあっくんの二人だけの世界。  
それは幸せ。  
「ウフフ。」  
「中谷葉月さん?」  
しまった、余りの幸せに笑ってしまった。  
誰かわからないけど、女子が言う  
狂ってる。  
そんなの、ずっと前から私は知ってる。  
けど、あんた達も狂ってるよ。  
私への嫉妬に狂ってる。  
私の美に狂ってる。  
けど、どうでも良いのあっくん以外は。  
「先生、気分が悪いんで保健室に行っても良いですか?」  
「そう……。一人で大丈夫?」  
「はい。」  
一人が良いんです。  
どうでも良い奴らと、いるくらいなら一人が良い。  
 
「あっ!!」  
授業を抜けて屋上に来たら  
「あっくんだ。」  
あっくんがいた。  
自然に顔がほころんでいくのを感じる。  
「やっぱり一人は嫌。」  
あっくんと二人が良い。  
「あっくん!!」  
授業をサボってる事を叱ろうと思って、ドスドスと近寄って行く。  
「コ………。」  
コラ!!サボっちゃダメでしょっ!!  
って言うつもりだったけど………  
やーめた。  
だって  
「ヘヘヘへへ。」  
寝顔が可愛いから。  
「寝ちゃってるね。」  
横にいたネコに話しかける。  
「にゃ〜。」  
意味はわかって無いだろうけど返してくれた。  
「キミ、かわいいね。」  
けど、  
「あっくんの方が可愛い。」  
あっくんの頭を少し持ち上げ私は女座りをし、その膝の上にあっくんの頭を置く。  
完成!!膝枕!!  
「ヘヘヘへ、これこそ理想の姉弟の図。」  
嬉しくなる。  
普段は、甘えてくれないから。  
こういう時位、無理矢理にでも甘えさせてやる!!  
「安心な僕らは旅に出ようぜー、………。」  
幸せ。  
あっくんの髪を撫でながら歌う。  
子守唄のつもりだったんだけど  
「んっ……。」  
あっくんが身じろぎする。  
 
「起きちゃった?」  
「姉ちゃんの耳障りな歌が聞こえたからね。」  
「子守唄なのに?」  
「もう、寝てた。」  
苦笑しながら言う。  
「そっか起こしちゃったね、ごめんね。」  
「ううん、別に。」  
あっくんが起き上がろうとするのを止める。  
「まだ、このまま。」  
「何で?」  
「話したい事があるから。」  
あっくんは諦めて私に膝枕されたままでいてくれる。  
「体育の授業は?」  
「生理。」  
「そっか、じゃあ仕方無いね。」  
「……………ごめん、嘘。」  
「当たり前。」  
生理は私の方だ……。  
「入道雲が綺麗だったから。」  
私の頭の上を見る。  
「そっか、じゃあ仕方ないね。」  
「仕方ないの?」  
「ん?だって、雲が綺麗だったんでしょ?  
あっくん綺麗なもの好きじゃない。」  
「うん、まあ……。」  
あっくんは綺麗なものが好きなのに、  
私の事を好きになってくれない。  
私、綺麗なのに……。  
あっくんの為だけに綺麗なのに……。  
 
「姉ちゃんは?」  
「ん?」  
何?  
「授業は?」  
「ああ、選択授業。」  
「美術だっけ?」  
あっくんが嫌そうな顔をして言う。  
「そっ。」  
「姉ちゃんは父さんと母さんみたいに画家になりたいの?」  
「ならないよ。」  
なるわけない。  
あんな奴らと同じに。  
「絵を描くのは好きだけど、職業にするつもりは無いよ。」  
絵が好きなのは、あいつらの絵の影響だと思うけど授業で描くだけで満足。  
「そっか……。」  
あっくんの表情が柔らかくなる。  
「あっくんは、そんなに画家が嫌い?」  
「ていうか、父さんと母さんが嫌い。」  
私もだいっきらい。  
あっくんには言わないけど……。  
心配させたくないから。  
知られたくないから。  
だから言いたくない。  
 
「ていうか姉ちゃん?」  
「ん?」  
「何で、サボってんの?」  
「生理。」  
「そっか、じゃあ仕方ないね。」  
「ヘヘヘへへ。」  
「あはははは。」  
あっくんといれば、今が良ければ良いかって思える。  
昔がどんなに汚れてても。  
「ねえ、姉ちゃん。」  
「ん?なに?」  
「このまま、寝ても良い?」  
ほんとに私を幸せにしてくれる。  
「ヘヘヘへ、良いよ。姉ちゃんの膝をたーんと堪能し。」  
「ありがと。」  
あっくんが目を閉じる。  
「おやすみ、あっくん。」  
「おやすみ、姉ちゃん。」  
屋上には、あっくんと私だけ。  
二人きり。  
ここが世界の全てだったら良いのにって思う。  
そしたら私の想いを咎めるものなんて無いのに。  
「にゃー。」  
ネコが私にすり寄ってくる。  
「ああ、ごめんごめん、忘れてた。  
うーん、キミはいてもいいよ。」  
私達の世界に。  
「にゃー。」  
「ヘヘヘへへ。」  
あっくんと、私と、ネコ一匹。  
なんて素敵な世界だろう。  
「安心な僕らは旅に出ようぜ…………」  
思わず歌ってしまう。  
「姉ちゃん、子守唄はいい。」  
「ごめん、ごめん。もう歌わない。」  
今は少しでも長く、この世界が続けばと思う。  
「だから、眠って……。」  
 
 
うちの両親はソコソコ名の知られた画家だった。  
なんでも、赤色の使い方が絶妙だったらしい。  
「確かに……。」  
背景が真っ赤な一枚の絵。  
その中心に描かれた唇の赤が印象的な裸の女性。  
「綺麗……。」  
完璧に描かれている。  
この女性は、どう見ても  
「姉ちゃんだよね?」  
横を見れば  
「こっちも。」  
さっきのとは、絵のタッチが違うけど  
やっぱり、赤をふんだんに使われた背景。  
その中心には裸の姉ちゃん。  
「なんで?」  
訳がわからなくなる。  
裸で描かれた姉ちゃん。  
今、見た2枚だけではない。  
何枚も何枚も何枚も何枚も何枚も何枚も。  
「入るんじゃなかった。」  
辞書を借りようと思って入った。  
生きてる頃は、顔を合わせたくないから入った事のない部屋。  
両親の部屋。  
「クソッ、クソッ、クソッ、クソッ……。」  
完璧に描かれた姉ちゃんの裸に反応してしまってる、性器を殴る。  
けど、殴った所でどうしようも無い。  
姉ちゃんを意識して、初めて見た姉ちゃんの裸。  
絵であるけど、完璧すぎる。  
それだけで今まで押さえられていた欲望が、止まらなくなる。  
 
「ダメだダメだ……。」  
理性は必死に止めようとするのだけど  
身体は止まってはくれない。  
膨れかあがった性器を  
パンツの中から取り出し、  
手を添え  
上下させる。  
「あっくん?」  
なんて僕はベタなのだろう。  
すぐ出るつもりだったので開けたままだった入口に、パジャマ姿の姉ちゃんが立っている。  
「姉ちゃん……。」  
すぐに、性器をパンツの中に入れるが  
今更だ………。  
「やめて!!やめて!!見ないで!!見ないでよ!!この絵で、そんな事しないで!!!」  
姉ちゃんが、部屋中の絵を泣きながら壊していく。  
「……ごめん。」  
絵と同様に、僕らの姉弟の関係も壊れて行く様に感じる。  
「なんで?」  
なんでって………。  
もう無理だ。  
姉ちゃんとは一緒にいれない。  
だから………。  
「姉ちゃんに欲情してるから。」  
壊してしまうしかない。  
「え?」  
結局、無理だったんだよ。  
姉ちゃんといたいから、姉ちゃんを嫌いな弟を演じ続けてきた。  
姉ちゃんを好きな弟だと近すぎて我慢できないから。  
そんな無愛想な弟を姉ちゃんは愛してくれた。  
けどそれも、もう終わり。  
「姉ちゃんの大好きな弟は姉とSEXしたいと思う様な、狂った人間でした。」  
チャンチャン。  
「……………。」  
無言の姉ちゃん。  
それを答えと受け取り、僕はパジャマで家を飛び出した。  
 
「僕らのせいだろ、そのはずだろ………。」  
ブランコに腰掛け、歌を歌う。  
もちろん、姉ちゃんの好きな歌。  
「はー。」  
ため息。  
僕の芝居人生いつから始まったかは覚えてないが、ついさっき僕のNGで終わった。  
姉が嫌いな弟と、弟が好きな姉の片思いラブドラマ。  
いや、姉の『好き』は家族間のそれだからホームドラマか。  
「終わりが自慰なんて………。」  
情けなさすぎる。  
「結局、この公園だし………。」  
情けなさすぎる。  
「そりゃ、もしかしたらって思うよ。」  
けど……。  
「ハアハアハア。やっぱり、ここだ。」  
荒い息遣い。  
「帰ろ。あっくん。」  
姉ちゃんは手を差し出すが  
「ううん。」  
僕は差し出さない。  
「さっき言った通り、僕は狂ってるから。」  
帰れる訳無い。  
「狂ってるか………。ヘヘヘへヘ。」  
姉ちゃんが急に笑う。  
「姉ちゃん?」  
「横、座るね。」  
姉ちゃんが横のブランコに腰掛ける。  
「更生させようとしても無理だよ。」  
「更生なんて、しないよ。」  
更生しない?  
「じゃあ、何で追ってきたの?」  
「勘違いして、拗ねて家出した弟を連れ戻すのは姉ちゃんの役目だから。」  
 
何だよそれ……。  
いつもの家出とは全然違うし、  
「勘違いって?」  
「あっくんは、姉ちゃんとSEXしたいんだ?」  
傷をえぐられる。  
「実の姉とSEXしたいなんて狂ってるね。」  
「………自分でも、そう思う。」  
姉ちゃんは僕を傷つける為に追ってきたのだろうか?  
姉ちゃんは、そういう人では無いと思うけど。  
「けど、あっくんが狂ってるって言うなら。姉ちゃんは、きっと壊れてるね。ヘヘヘへ。」  
姉ちゃんが壊れてる?  
「それって、どういう意味?」  
「姉ちゃんSEXどころか、あっくんとね×××××したり×××を×××たり、×で×××したり×××××××……………って思ってたんだ。」  
僕の欲望の上をいく欲望。  
「…………………。」  
言葉を失う。  
「ね?姉ちゃん壊れてるでしょ?」  
信じれない。  
「嘘だ!!」  
「嘘じゃない。」  
だって、  
「じゃあ、なんで僕が姉ちゃんの絵で自慰してたの、あんな嫌そうに!?」  
普通、自分をネタに自慰をされるのは嫌だと思うけど、姉ちゃんのそれは尋常じゃ無かった。  
「あれは…………。」  
姉ちゃんが悲しい目をする。  
「家で教えてあげるから帰ろ。」  
姉ちゃんが手を差し出す。  
「…………うん。」  
迷ったけど、僕は姉ちゃんの手を握った。  
「おんぶしてあげようか?」  
「いや、今日は手繋いで帰ろ………。」  
そういう気分じゃないってのも、もちろんあるけど。  
握った、姉ちゃんの手が震えてたから……………。  
 
 
学校から帰ると、服を脱がされた。  
「綺麗だよ、葉月。」  
「綺麗よ、葉月。」  
両親は、私の絵を描いた。  
両親は私の全てを描いた。  
顔も、腕も、お腹も、背中も、足も、胸も、お尻も、性器も。  
幼い頃は何とも思わなかった。  
むしろ、両親に誉められる事が嬉しくもあった。  
小学校の中学年頃から両親に裸を見られるのが嫌になった。  
生理が始まった頃からは死にたくなった。  
それでも耐えれたのはあっくんがいたから。  
両親は私を絵のモデルとしか見ていなかった。  
学校では、女子からいじめられた。  
理由は『綺麗だから』  
男子は私を性的な目でしか見ない。  
それは、私にとって嫌悪でしか無かった。  
だから私には、あっくんしかいなかった。  
両親が私の絵を描かない時間。  
その時間だけが幸せだった。  
あっくんと話をする。  
あっくんと遊ぶ。  
あっくんと食事する。  
あっくんとお風呂に入る。  
あっくんと一緒に寝る。  
あっくんと……  
あっくんと……  
あっくんと……  
あっくんと……  
私の楽しい事の全てはあっくんだった。  
だから私の全ては、あっくんだった。  
そんな、あっくんが私に抱きついて泣いた。  
「お父さんと、お母さんは姉ちゃんしか愛してないんだ。僕の事は興味が無いんだ。」  
悲しくなった。  
そして、謝りたくなった。  
あんな最低な両親でも、あっくんにとっては大切な両親なのだ。  
あんな異常な状態とはいえ、私は両親を独占している。  
けど、私は両親を離さない。  
私には、あっくんしかいない。  
あっくんを愛してるから  
『最近、篤も綺麗になってきたと思わないか?』  
『ええ、そうね。描きたいわね。』  
こんな鬼畜な両親からは、私が守らないといけないと思った。  
あっくんには、私の様な想いをさせてはいけない。  
私は姉だから弟を守らないといけない。  
だから、私は両親の興味があっくんに向かない様に  
私は両親の目の前で服を脱ぎ続けた。  
 
 
長い間入る事のなかった姉ちゃんの部屋。  
好きな人の部屋。  
けど、それを堪能する余裕なんて無い。  
「こんな話するつもりは無かったんだけどね……。」  
こんな話………。  
姉ちゃんの過去。  
僕は、姉ちゃんと両親は仲が良いんだと思ってた。  
僕だけを両親は無視していたんだと思ってた。  
正直、姉ちゃんを羨ましく思ってた時もあった。  
けど、両親に無視されてた僕が幸せで、  
両親と仲が良いと思ってた姉ちゃんの方が不幸だった。  
「…………。」  
わからない。  
何て言えば良い?  
守ってくれて『ありがとう』?  
僕の為に不幸になって『ごめんなさい』?  
わからない………  
「姉ちゃん、汚いよね。」  
汚い?姉ちゃんが?  
「こんな話したら、あっくん姉ちゃんが可哀想で、姉ちゃんから離れられなっちゃうよね。」  
姉ちゃんは僕のせいで不幸になった。  
姉ちゃんには友達なんていなくて  
姉ちゃんには、『姉ちゃんに守られてきた僕』だけしかいない。  
「けど、姉ちゃんはね。あっくんが傍にいてくれる為なら、どんな汚い事だってしちゃうの。」  
「姉ちゃん、僕は傍にいるよ。」  
これは、罪滅ぼしだろうか?  
わからない……。  
けど、姉ちゃんに安心してもらいたくてそう言った。  
 
「じゃあ………。」  
ベッドに腰掛けてる僕を、後ろから抱き締めてる姉ちゃんの涙が首筋に落ちる。  
「姉ちゃん?」  
「今日みたいにいなくならないで………。」  
今日みたい  
家出の事。  
「あれは……僕、姉ちゃんの事を傷付けたくなかったから。」  
「傷付けたくないなら、いなくならないでよ!!今日のはいつもとは様子が違ったから、あの公園にいるか凄く心配だったんだから!!」  
姉ちゃんの顔が僕の髪に埋まる。  
髪を伝って水分が僕の肌につく。  
その冷たさで、少し冷静になる。  
「ねえ、姉ちゃん。」  
「ん?」  
「僕ねSEXしたいなんて言葉じゃなくてちゃんと言うね。」  
「え?」  
姉ちゃんの腕を離して、姉ちゃんの方を向く。  
「姉ちゃんの事が好き。」  
目を見て言う。  
「………ヘヘヘへ、嬉しい。」  
姉ちゃんが僕を抱きしめる。  
「姉ちゃんは?」  
「私には、あっくんしかいないんだよ。だから、好きになる人はあっくんしかいない。  
大好きよ、あっくん……。」  
姉ちゃんの唇が僕の唇につく。  
ただ、唇を重ねるだけのキス。  
「ははは。」  
「ヘヘヘ。」  
それが、凄く幸せにしてくれる。  
「姉ちゃん。」  
「ん?」  
「ずっと傍にいるよ。」  
「え?」  
姉ちゃんはキョトンとする。  
「だって、好き合って仲の良い姉弟が一緒にいるのは当然でしょ。」  
罪滅ぼしなんかで、姉ちゃんの傍にいるんじゃない。  
姉ちゃんが可哀想だから傍にいるんじゃない。  
姉ちゃんが好きだから傍にいるという、ごく普通の理由。  
「ヘヘヘへ、そうだね。」  
姉ちゃんが満面の笑顔で抱きつく。  
もう冷たいと感じる部分は無い。  
 
「まさか、姉ちゃんまで僕みたいに狂ってるって思わなかったな。」  
「私も、あっくんには好かれて無いと思ってた。」  
お互い、苦笑する。  
「ごめんね。今まで冷たくして。」  
「姉ちゃんの事が好きだから冷たくしてたんでしょ?真相を知った姉ちゃんは、そんな優しいあっくんがもっともっと好きになったよ。」  
姉ちゃんが頭を撫でる。  
「………ありがとう。」  
まずい、泣いてしまう。  
「あっくん?」  
姉ちゃんがそれに気付いて、心配する。  
「ずっと、こうしてもらいたかった……。  
本当は姉ちゃんに甘えたかったから……。」  
「そっか……。我慢してたんだね。けど、もう我慢しないで良いんだからね。」  
「うん。……ありがとう。」  
「ヘヘヘ、どういたしまして。」  
なんか、涙と一緒に色んな想いが口から出てくる。  
「守ってくれて、ありがとう。」  
謝罪では無いと思った。  
きっと、姉ちゃんは後悔してないから。  
「ヘヘヘ、だって姉ちゃんだもん。年上が年下を守るのは世の常でしょ。」  
ほら、いつもの笑顔。  
後悔してない。  
それが、凄く嬉しい。  
だから、余計に申し訳なくなった。  
「あの絵で自慰して、ごめんなさい……。」  
姉ちゃんの過去。  
姉ちゃんにとって辛い物で僕は自慰してしまった。  
「…………あっくん。」  
急に姉ちゃんの声のトーンが落ちる。  
「ごめん。」  
それだけ嫌な事だったんだ……。  
「何で、あの絵で自慰したの?」  
「えーと、姉ちゃんが綺麗なまま描かれてて。現実の姉ちゃんに凄く近い感じだったから我慢できなくて……。ごめんなさい。」  
正直に白状する。  
「あっくん、姉ちゃんの事綺麗だと思っててくれてたんだ?」  
「うん。」  
感動して泣いてしまった事がある位。  
「ヘヘヘへ、ありがと。けどね………。」  
「姉ちゃん?」  
姉ちゃんが震えている。 「けど、あの絵は本当の姉ちゃんじゃ無いんだ………。」  
「え?」  
けど、忠実に姉ちゃんが描かれてた………。  
「本当の姉ちゃん見たら、綺麗だと思えないかもしれないよ。」  
姉ちゃんがパジャマ代わりのTシャツを脱いでいく。  
「姉ちゃん!?」  
まさか、今から!?と思ったんだけど、それはすぐに消えた。  
「ね?綺麗じゃ無いでしょ?」  
姉ちゃんの涙が止まらない。  
「あ、あ、あ……。」  
僕の涙も止まらない。  
 
寝る前だったからか、下着をつけていない姉ちゃんの上半身裸の姿。  
見たいと望んでいたはずなのに。  
なんで、なんで!?  
喜べない………。  
「本当の姉ちゃんは、こんななんだ。だから美化されてる、あの絵で自慰してほしく無かった。」  
姉ちゃんの体には無数の痛々しい傷がついてた。  
「姉ちゃんの赤色は綺麗なんだってさ……。」  
姉ちゃんが一つの傷を撫でながら言う。  
「………そんな…。」  
両親の絵の赤は  
姉ちゃんの血????  
「姉ちゃんの事、綺麗だ綺麗だって言っときらがら、絵には本当の姉ちゃんを描かないんだよ………。嫌になっちゃうよね?」  
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい………。」  
何に?  
僕のせいで傷だらけになった事に?  
あの絵で自慰した事に?  
わからない……。  
けど、とにかく謝罪の気持ちしか無かった。  
「あっくん、謝らないでよ。謝って欲しくて見せたんじゃないんだから。」  
姉ちゃんが僕の涙を指で拭う。  
「だって!!だって………。」  
「こんな傷だらけにしたのは僕のせい?」  
姉ちゃんが僕の想いを言う。  
 
「………うん。」  
「姉ちゃんにとって、あっくんは自分自身より大切だってだけの事。」  
そんなの!!  
「僕だって、同じだよ!!僕にとっても姉ちゃんが一番大切だから!!だから………ごめんなさい…。」  
「悪いって思ってるんだ?」  
「うん。」  
「じゃあ、あっくんの良心を責めちゃう汚い姉ちゃんのお願い……。」  
姉ちゃんが震えてる。  
「こんな体だけどさ、姉ちゃんの事嫌いにならないで。あっくん、お願いだからさ……。」  
泣いてる姉ちゃんを抱きしめる。  
「嫌いになる訳無い。」  
「ほんと?」  
「こんなになってまで、僕の事を守ってくれてた姉ちゃんを嫌いになる訳無いよ。むしろ、好きで好きでたまらないんだから。」  
「ありがと。」  
姉ちゃんも腕を僕の背中に回す。  
すると、二つの柔らかい固まりが僕の胸に密着して気持ち良い。  
「あっくん…。」  
「姉ちゃん…。」  
姉ちゃんがおもむろに、目線を下にずらす。  
「姉ちゃん?」  
「こんな体なのに、大きくしてくれてる。ヘヘヘへ。」  
姉ちゃんが、僕のいつの間にか勃起している性器を見て言う。  
「ごめん。姉ちゃん綺麗だから……。」  
「謝らないでよ。姉ちゃん、嬉しいんだから。」  
姉ちゃんが満面の笑顔を見せてくれる。  
「姉ちゃんね、あっくんにもっと綺麗なもの見せたいな。」  
「もっと綺麗なものって?」  
姉ちゃんの裸より綺麗なものがあるだろうか?  
「姉ちゃんのね赤色。」  
それって……  
「嫌だよ!!僕、姉ちゃんに傷を付けたくない!!」  
「ううん。違うよ。」  
「違うって?」  
どういう事?  
「あっくんのこれをね。」  
姉ちゃんが僕の性器をなぞる。  
「姉ちゃんの膣に入れてくれるだけで良いんだ……。」  
 
   
「恐い?」  
近親相姦。  
それは、過ち。  
けど……。  
「ねえ、あっくん……。」  
うつむいているあっくんを抱きしめる。  
「姉ちゃん?」  
「私達には、誰もいない。お互いだけよね?」  
「うん。」  
あっくんが肯定してくれる事がうれしい。  
「私達がね、過ちを犯したとして、誰が悲しむ?誰が怒る?」  
誰も居ない。  
「私にとって意味のある物はあっくんだけなの。あっくんは?」  
「姉ちゃんだけ。」  
あっくんが私を強く強く抱きしめる。  
「ヘヘヘへ、それなら二人きりの世界だ。」  
私の望んだ世界。  
「二人きりの世界?」  
「だって、私達以外に意味は無いんだもの。  
他人が何人いようと興味を持たないし、意識しない。  
二人きりと同じ事よ。」  
「そうだね。」  
「少なくとも……。」  
部屋を見渡す。  
両親が残してくれた家。  
それだけは両親に感謝できる。  
だって…………  
「ここなら完全に二人きりの世界よ。」  
誰もいない。  
ここは、私とあっくんだけの世界。  
私達意外に誰も足を踏み入れない。  
「二人しか居ない世界だったら、お互いに意義のある事なら過ちは過ちで無くなるよ。」  
 
少し前まで、あっくんに抱かれたいという想いは、あっくんにとって嫌悪だと思ってた。  
だから、普通の姉弟として永遠に一緒に居れれば良いと思ってた。  
きっと、あっくんも同じ様に思ってたと思う。  
けど、違ってた。  
あっくんも私と同じだった。  
だから……  
「一緒に堕ちよ。」  
交差点に  
誰も居なくて  
車も走ってない  
だから  
信号無視する。  
それと同じ感覚で…………  
「姉ちゃん……。」  
うつ向いてた、あっくんが顔をあげ私を見る。  
「だって……。」  
あっくんの頭を抱き抱えて、キスをする。  
唇を離して、あっくんの顔を見る。  
「好きになっちゃったんだから仕方ないじゃない。」  
なんだかんだで、これ。  
好きだから抱かれたい。  
そんだけ。  
「ハハハハ」  
あっくんが笑う。  
「ヘヘヘへ」  
私も笑う。  
「僕も姉ちゃんの事、好きになっちゃったから。」  
あっくんから私にキスをしてくれる。  
「あ………。」 初めて、あっくんの方からしてくれた事が凄く嬉しい。  
「こんな事しても仕方ないよね。」  
私達は、これから堕ちていく…………  
 
「電気消すね。」  
姉ちゃんが一度ベッドから立つ。  
「あ、うん。」  
これから、行為に及ぶという事を思うと緊張してしまう。  
パチッ……  
部屋の明かりは落とされ、部屋には窓から差し込む月明かりだけになった。  
「緊張してるの?」  
ベッドに腰掛けている僕の目の前に姉ちゃんの顔がくる。  
「そりゃあね。」  
妄想した事が無いなんていわないけど、実際に姉ちゃんとこうなるなんて一生無いと思ってたから。  
「ヘヘヘへ、実は私も。」  
姉ちゃんも同じなんだ。  
「けど………。」  
「あ、うわ!!」  
姉ちゃんが僕を押し倒し、僕の腰辺りを跨ぐ様な形で僕に覆い被さる。  
「それ以上に、嬉しいから止まれないんだ。」  
そう言って、姉ちゃんは上から僕に唇を押し付け、この日何度目かのキスをする。  
けど、それまでのとは違って僕の唇の隙間から湿った物体が入り込んできた。  
「あっ、ひゃ。」  
驚いて思わず声を漏らしてしまう。  
「ん……。」  
姉ちゃんは、僕の閉じられた歯を舌でなぞる。  
姉ちゃんが大体の歯を舐め終わった所で、僕は歯を開き姉ちゃんの舌を誘う。  
「んっ、んっ……あっくん………。」  
僕の口内を異物が動く。  
僕の口内に味が広がる。  
姉ちゃんの味がする。  
その味をもっと味わいたくて、僕も舌を姉ちゃんの口内にもっていく。  
「んっ、ねえひゃん………。」  
姉ちゃんの口内は多くの水分で満たされていて、温かかった。  
その口内を、僕の舌が動くから隙間から唾液がこぼれ落ちる。  
「んっ!……」  
肌を唾液が伝わるのが気持ち悪かったのか姉ちゃんが一旦、唇を離す。  
姉ちゃんの唇の下に唾液の流れが出来ていて、それに吸い込まれる様に唇を当て舌でそれをすくいとる。  
「ヘヘヘへ、あっくん、おいしいの?」  
姉ちゃんは嬉しそうに僕の頭を両腕で包んで、聞く。  
「うん。」  
そう答えると。  
「じゃあ……。」  
姉ちゃんは、また僕に唇をつけ  
「ん………。」  
僕の口内に唾液を送り込んできた。  
そして、唇を離し  
「はい、おかわり。飲んで……。」  
僕の両頬を両手で包んで、優し言う。  
「うん。」  
コクンッ………。  
と、姉ちゃんの唾液を飲み込むと。  
「ヘヘヘへ。」  
姉ちゃんは、僕の口から喉、お腹を順に指でなぞり。  
「あっくんの中に、私の唾液が入っていってるんだね。」  
嬉しそうに言って、  
腹で止まっていた指はもっと下に降りて、性器に辿り着く。  
「そして、これが姉ちゃんの膣に入るんだね。」  
と、いたずらな笑みを浮かべた。  
 
 

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