始業迄の退屈な時間を、窓から外を眺めて過ごしていた。
夏独特の真っ青な空と、ダイナミックな雲が私の心を癒してくれた。
そんな心を癒す景色の中に、突然手を繋いだ二人が入ってきた。
いや、落ちてきた。
「え………………。」
当然、私は何が起こったのか知りたくて窓まで走る。
二人は、笑顔で手を繋いでいた。
それなのに結末は
「うわ……………。」
見るにも悲惨なものだった…………
「自殺したんだ。」
死ぬ瞬間まで笑顔でいられる程、二人は愛していたのだろう。
そんな二人が、何故自殺しなければいけなかったのか気になり
二人が飛び下りたであろう、屋上を窓から身を乗り出して見てみる。
「ん?」
真っ赤なハンカチが上から降ってきた。
ヒラヒラとゆっくりと降りてくるハンカチ。
「これって………」
今朝、私が准に持たせたハンカチ?
どういう事かと思い、もう一度、上を見る。
人がいる。
緑色のフェンスの向こう側に、確かに一人いる。
「准?………」
いくら、距離が離れていたって見間違うはずが無い。
10年以上、共に過ごしてきた家族なのだ。
「つっ!!!!」
嫌な予感がした。
もしかして、准は二人が飛び下りる瞬間を目の前で見たのでは無いだろうか?
そんなものを目の前で見るなんて………
なんて、辛い事だろうか。
「准!!!!!」
私は、准の事が心配になり、走った。
潰れた人間を見ようと、下に降りる沢山の野次馬の群れの間を縫って、私は階段を駆け上った。
そして、私は屋上に出る扉を勢いよく開ける。
「姉ちゃん?」
准は、後ろを振り向き私を見る。
「准…………」
准は震えていた。
そんな、取り乱した准は見た事が無かった。
いつもは余り、感情を出さないのに。
「姉ちゃん、姉ちゃん、姉ちゃん、姉ちゃん。」
やはり、二人が飛び下りた瞬間を見たのだろう。
准は酷く弱っていた。
私は、准を強く抱き締める。
「怖かったね。怖かったね。大丈夫、大丈夫。」
准を落ち着かせようと、背中を撫でてあげる。
「前田が………。」
「え……………。」
私は、余りな事実に背中を撫でている手が止まってしまう。
「姉ちゃん、姉ちゃん、僕、止めれなかった。」
私は、知ってる。
准は人付き合いが苦手で、准にとって、その人が唯一と言っていい友人である事を。
「琢磨君なの?」
「………うん。」
それは、あまりな事では無いだろうか?
准が何か悪いことをした?
いいや、准は、とっても優しい良い子だ。
人付き合いは苦手だけど、どんな他人にも優しく接する事の出来る。
「准!!!!!
准は悪く無い。
准は悪く無い。」
正直、私は、琢磨君の事を恨めしく思った。
なんで、私の大切な家族を傷付けるの?
どんな、事情があって傷付けたの?
「僕が、前田と純子先輩の関係を認める事が出来たら、二人は死ななかったかも………。」
「純子先輩って?」
いや、きっと私はその人を知っている。
けど、自殺した二人はお互いに愛していた。
地面に叩きつけられて、潰れているのに手を繋いだままでいる程。
だから、准の言う純子先輩が、私の思ってる人な訳が無いと思った。
「前田の姉ちゃん………。」
そんな思いとは裏腹に、准の言う純子先輩は私の思った通りの人間だった。
前田純子。
私の唯一と言っていい友人。
自殺した二人は純子と琢磨君?
「うそ…………。」
だって、二人は姉弟。
姉弟が愛し合ってたなんて、信じれる訳が無い。
「二人が、僕の目の前でキスをしたんだ。」
信じれないけど、そんな事を聞けば、信じない訳にはいかない。
「それを見た時、驚いて言葉も出なかった。
僕が二人の関係を笑顔で祝福出来れば…………。」
祝福出来れば?
そんなの、祝福出来る訳無いじゃない。
姉弟で愛し合うなんて、祝福出来る訳無いじゃない。
それを、分かってたから純子と琢磨君は自殺したんだろう。
だから
「准は悪く無いの!!准のせいじゃ無いんだから………。」
私は、准を落ち着かせる為に背中を撫でてあげるのを再開する。
「姉ちゃん………。」
准は、私の胸に顔をうずめる。
「大丈夫。大丈夫。大丈夫だからね………。」
私は、准の背中を撫でながら思った。
こんな風に、准が私を頼るのは随分久し振りだなと。
私は、それを嬉しく感じ
少しだけ……
ほんの少しだけ……
今日は『ハッピーデイだな』
なんて事を思った。