「ごめんね。」
眠ってる、准の頬を撫でる。
「寂しいよね。」
准に友人が出来ないのは、私のせいだ。
准は学校中の生徒から、『ヤリマンの弟』だと見られてるから。
もちろん『ヤリマン』とは、私の事だ。
けど、
「ハハッ……。」
笑けてしまう。
「私、処女なんですけど。」
処女のくせに『ヤリマン』なんて、ちゃんちゃらおかしい。
私が『ヤリマン』になった日。
その前日に、クラスメイトの男子に告白された。
私は、断った。
その事を友人に話した。
その翌日に、私は『ヤリマン』になっていた。
その日から私は無視された。
純子の話によれば、
告白された事を話した友人が、私に告白してくれた男子の事を好きだったらしい。
まあ、その友人は女の私から見ても可愛いし、男子からも女子からも好かれる様な娘だ。
そんな娘が、私の事を『ヤリマン』だ、と皆に言えば皆信じてしまうのだろう。
事実、弁解の余地なんて無かった。
あんまりで無い?
けど、もっと可哀想なのは准。
私の弟だってだけなのに。
「ごめんね、准。姉ちゃんのせいで……。」
准の髪を撫でる。
綺麗な髪だ。
指がひっかからない。
私の髪質は少し堅い位なのに、柔らかい准の髪が羨ましくなる。
「姉ちゃんのせいじゃないよ……。」
「えっ!?うわっ!?」
「いたっ!!」
驚いて、髪を撫でてた手が滑って、長めの爪で准の頬をひっかいてしまった。
「あ、ごめん。………ていうか、いつから起きてたの?」
「姉ちゃんが処女ってあたりから。」
准は、太ももの上で私を見上げながら、いたずらな笑みを浮かべる。
「なっ!!………。」
恥ずかしくて、言葉が出ない。
「どうせ、僕に友達がいないのは姉ちゃんのせいだと思ってんでしょ?」
だって………
「そうでしょ?」
「違うよ。例え、姉ちゃんが本当にヤリマンだとして。その弟だってだけで、近付いてこないような奴らと友達になるなんて、こっちから願い下げ。それに………。」
「それに?」
「姉ちゃんとこうしてる方が楽しいから、今は友達なんていいや。って思ってるかも………。」
そう言って、准は照れ隠しの笑みを浮かべる。
それが、准の本心だという事を証明している様で、それを見てると何かこみあげてくる物がある。
「ばーか。ばっかだね。准みたいな人間は、人生損ばっかりするよ。」
涙を見せたくなくて、おどけて見せる。
「姉ちゃん、泣くなよ。恥ずかしいから。」
それでも、泣いてしまっていた様で准は苦笑する。
「泣いてない。」
それでも、私は認めない。
弟の前で泣くなんて、情けなさすぎる。
「泣いてる。」
「泣いてない。」
「泣いてる。」
「泣いてない。」
これでは、きりがない。
「あっ……。」
さっき、ひっかいてしまった所がミミズばれになっていて、少し血がにじんでいる。
「姉ちゃん?」
「痛い?」
その傷に、唇を寄せていく。
「え!?」
驚いている、准を無視して。
「んっ………。」
准の頬に唇をつける。
「……何してんの、姉ちゃん?」
准にとっては、頬にキスなんて何でも無い様なので。
「んっと、チュパっ………。」
舐めてやる。
「え?あっ……うわっ………。」
「んしょっと、消毒完了。」
唇を離して、准の頬に両手を添えて、私を見る様に固定する。
「泣いてる?」
いたずらな笑みを浮かべてやる。
「………泣いてません。」
「ヘヘヘへ。わかればよろしい。」
姉としての面目は保たれた。
「本当に痛くない?ごめんね。」
ミミズばれになっている部分を撫でる。
「ん?ああ、大丈夫。痛くないよ。」
「そう、良かった。」
本当に痛くないようなので、安心する。
「姉ちゃん……もう、大丈夫だって。」
私が頬を撫でるのをやめないので、准は恥ずかしいのか顔が赤い。
「こうしてるとね。昔を思い出すんだ。」
「昔って?」
「准が小さい頃、母さんの帰りが遅くて、寂しがってる時によくこうしてあげてた。」
「膝枕のこと?」
「そう。」
嬉しかった。
准の寂しさを私が消してあげれる事が。
「姉ちゃんなんかで良ければ、傍にいるから。寂しい思いはさせないから。」
「ハハッ、無理はせんで。」
「無理なんかしない。」
だって……
「姉ちゃんも、准といるの楽しいから。」