「准、醤油」
目の前にある醤油差しを手に取り
「ん。」
姉ちゃんに渡す。
姉ちゃんは、それを受け取り目玉焼きに醤油を垂らす。
しかし、あまりにドバドバとかけるものだから
「美保、醤油かけすぎ。」
母さんが、それを注意する。
けど、姉ちゃんはそれを無視して
「あ!!今日、射手座1位だ。」
と、テレビの星占いを見て喜ぶ。
僕は、その隙に自分の皿に盛られたブロッコリーを姉ちゃんの皿に移す。
姉ちゃんは、テレビから皿に目を移し
「うおっ!!ブロッコリーが増えてる!!早速、良いことがあった!!ヘヘヘへ。」
と、喜んで好物のブロッコリーにマヨネーズをたっぷりかけ口に運ぶ。
姉ちゃんのブロッコリーの茎を噛む音に嫌悪してると
「准!!あんた、高校生にもなって好き嫌いなんてしんさんな!!」
と、怒りの矛先が姉ちゃんから僕にシフトする。
「母さんだって昨夜、人参食べんかったよね?」
母さんには僕の好き嫌いについて言う資格無いんだ!! という意味の事を言えば
「母さんは大人だから良いの。」
なんだそれ……。
「大人、汚い………。」
「汚くない!!」
母さんは自分の皿のブロッコリーを箸にとり、僕の口の前まで持ってきて
「准、あーん。」
と、高校生にもなった僕に子供じみた事をする。
「……………。」
2分程、無言の抵抗をしたのだけれど
「……………。」
母さんも、そのままフリーズしたままだったので
「あーん。」
と、観念して口を開けると
「あーん。」
母さんは、僕の口にブロッコリーを入れた。
モシャモシャと噛めば、草の様な味と茎の部分の歯ごたえが最低なハーモニーを奏でる。
「不味い……。」
と、感想を述べたら
「准も射手座なのにね。」
姉ちゃんは同情する。
「同情するなら……!!」
寒いギャグを言おうとしたんだけど
「あーん」
母さんが『ら』の部分で唇の隙間からブロッコリーを入れた。
「んっ!!」
口の中に、最低なハーモニーが広がり
「不味い……。」
と、感想を述べたら
「准も射手座なのにね。」
姉ちゃんは同情する。
「同情するなら……!!」
「あーん。」
以下略。
…………
「ごちそうさま。」
結局ブロッコリーを5個程食べ、朝食を終えた。
「准、美保。母さん、今日仕事で遅くなるかもしれないんだ。」
母さんが手を合わせて頭を下げる。
「ん、わかった。」
「晩御飯は私が作るね。」
いつもの事なのに
「ごめんなさいね。」
母さんはいつも申し訳なさそうに謝る。
謝る必要なんて無いのになと思ってると
「ううん。母さんには感謝してます。いつもいつも僕達の為に働いてくれてありがとう。」
知らず知らずの内に口から本音が出てしまっていた。
「准……。」
母さんが今にも泣きそうな目で、僕の所に寄ってきて
「ありがと。」
僕を抱きしめる。
最高に恥ずかしいのだけど
こんな母さんを剥がす訳にもいかず、そのままにしてると
一歩引いた所から見ていた姉ちゃんが
「やっぱり、今日は良い日だ。」
キシシシと、馬鹿にした様な笑みを浮かべて言うので
「姉ちゃんにも感謝してるよ。」
と、右手を広げれば
母さんは、左手を広げ
抱擁の輪に、姉ちゃんを促す。
「……………。」
姉ちゃんは、無言の抵抗をするのだけど。
「……………。」
「……………。」
母さんも僕も手を広げたままフリーズしているので
姉ちゃんは諦めて、ひょこひょこと寄ってくる。
それを、母さんと僕は、同時に抱き締める。
「二人ともいい子に育ってくれて、ありがとうね。」
母さんは、僕と姉ちゃんの顔を順に見て言う。
これを第三者が見ていたら、相当馬鹿な光景に見えるだろう。
けど、僕にとって、こんな馬鹿な日常が大好きで。
父親はいないけど、そんなのが苦にならないほど愛情に満ちている家族が大切だ。
なんて、最高にこっぱずかしい事を思ってしまう。